『コーラスライン』の作詞家、エドワード・クレバンの自伝的ミュージカルである『クラス・アクト』の初の日本人キャストによる公演で、主人公、エド・クレバンを演じられる石井一彰さんと、翻訳・訳詞・演出の片島亜希子さんのインタビュー後半です。主に石井さんに、作品についてやテレビドラマ『科捜研の女』レギュラー出演について伺いました。
――『クラス・アクト』という作品と、『コーラスライン』の作詞家、エドワード・クレバン氏についてはご存知でしたか?
石井:いや、初めてです。
――『コーラスライン』で調べてみると、Wikipediaなどにも作詞家の名前は載っていなくて。
石井:そうなんです、載ってないんですよね。
片島:そこがまた、ドラマなんですよ。
石井:知名度も高くないんじゃないですか。
――実在した人物を演じられるということで、エド・クレバン役をどのようにとらえていらっしゃいますか?
石井:言葉で説明するとすごく難しいんですけど、ただ、ものすごく頭の中がグルグルグルグル回っている人っていうイメージがありますね。
――エドの人生、考え方に共感できるところや、感じるところはありますか?
石井:生き方に関して言うと、悲劇っていうと悲劇というか、才能があるのに才能を無駄にしてしまい、いろんなことがあって、タイミングがなかったり、自分の性格があったり、人間性とかそういうのもあるんですけど、友達がスポットライトを当ててくれてこの作品があるからこその「彼」ですけど、もしこの作品が無かったとしたら、やっぱり辛いですよね。
作曲やりたいっていう気持ちでやってて、結局、自分の中で譲れない何かがあって。なにか譲れないと生きていけないじゃないですか。だけども譲れない自分があって。後半の方で『コーラスライン』の作曲家と一緒に作業する中で、お互い譲らないシーンがあるんですね。それって端から見ると見ると、やっぱりちょっと「何だ?!」って思うじゃないですか。自分の意見はわかるけれども、作品を作る上でもうちょっと譲らなきゃいけない部分も絶対あるし、そんなの人生で譲る部分がないと生きていけないと思うんですよね、どの世界も一緒ですけれど。
でも譲れないっていうところは、なんかすごく、共感じゃないんですけど、ただそれをそのことを彼は才能があるからこそ、譲れないことに対して本当に彼の才能を見抜いている人たちはそれに対して嫌な思い、けんかしたりはしますけど、でも最終的には彼っていう人物を理解している。そういう人間性というか、そういうところがすごくいいなって思いますね。
――世間的には認められていないけれど、彼自身の才能を理解してくれる周りの人間が居る、ということですね。
石井:キャストは8人だけどみんな友人で、その友達たちが彼のことを語っていく訳ですから。そういう友人が居たっていうことは、すごく、やっぱり彼がすばらしい人間だったっていことなんじゃないかなって思います。
――エドに人間的な魅力があったればこその友人たちの存在、ですね。
石井:すごくあると思いますね、うん。
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■石井:(自身がピンチの時は?)「まぁ、いいんじゃない。やれば?」と
■石井:親が宝塚がすごく好きで、2歳とか3歳くらいから宝塚を観てたんです
■石井:『科捜研の女』にゲストでくる方たちの緊張感はハンパない。結果を残そうと
■石井:ドキドキ、観たこと無いものを観に来るっていう気持ちで観に来てほしい
<AKA Company『A CLASS ACT』>
【東京公演】2018年3月22日(木)~3月25日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
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- 「譲れない部分、対立、そして友が…」、石井一彰・片島亜希子対談(下) 2018年3月16日
- 「小劇場で濃密ミュージカル」、『クラス・アクト』石井一彰・片島亜希子対談(上) 2018年3月15日
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■石井:(自身がピンチの時は?)「まぁ、いいんじゃない。やれば?」と
――物語的にはなかなか自分の目指す方向に行けなかったり、理解してもらえなかったりで、自分の理想と現実のギャップに悶々として心が折れそうになるシーンもあるのかなと思いますが、そういうときはご自身のメンタルをどう保ちますか?
片島:上手くいかない時のメンタルの持ち方ですか?…上手いくまでとにかくやる!みたいな(笑)。
石井:うーん、そういう感じかもしれませんね。
片島:「上手くいかない」って、あんまりそういう考えになったことがないかもしれないです。だからといっていつも上手くいってるとも思ってないんですけど、なんだろう…「上手くいかないからどうしよう」っていうよりは「やんなきゃ、やんなきゃ」の連続というか。
――クサっている暇があったら、進もう!みたいな感じで?
片島:そこまで考えが至ってないのかもしれないです。とりあえず、上手くいかせる、それだけですね。上手くやる、最終的に。深く考えてないんですけど、上手くいかなかったときのことは基本的に頭にはなくて、とりあえず目の前のことをやり続けて、行きたいところに最終的に何が何でも行く!っていう感じ。
――迂回してでも。
片島:そうです。と言っても迂回していると認識するのは後からなんですけど。とりあえずもう、その時にはそれしかもう選択肢がない、と思ってやっていますね。個人的には。
――石井さんはいかがですか?
石井:そうですね。なんだろうな…神頼みかな(笑)。上手くいかない時、とりあえず。
――神頼み! これまでに「ピンチ!」と思われたことは?
石井:たくさんありますね。常にピンチですけど。なんだろうな、なんとかやってこれてるから、そのときどういう心情だったかちょっと覚えてないんですよ、正直言うと。すごい苦しかったと思うんですけど、その時はそれなりに生きてたっていうことだから。
片島:わかります、わかります。「死んでないから大丈夫」かなって。
――(笑)命まではとられない、的な。
石井:そうですね。あとなんだろう。結構僕の周りに居る人間も「まぁ、いいんじゃない。やれば?」みたいな感じの人が多いから。うちの両親とかもそうなんですけど。結構、家族とかが楽観的なので、それはすごく助かっています。
――周囲からさらに追い詰められることがないということですね。ご両親のお話がでましたけれど、ご経歴の学習院大から東宝ミュージカルアカデミーに入られたというのもかなり異色で、ご両親的には息子さんの進路変更はかなりインパクト大だったのでは?
石井:本当によく言われます。「どういう動機でこっちの世界に来たの?」って。でもなんか別に両親はなにも。「やれば?」って感じだったので。
■石井:親が宝塚がすごく好きで、2歳とか3歳くらいから宝塚を観てたんです
――演劇の世界に入ろうと思われたきっかけはなんだったのでしょう?
石井:それを聞かれるとすごく…(笑)。でも、うちの親が宝塚がすごく好きで、2歳とか3歳くらいから宝塚を観てたんですよ。
片島:すごい! 英才教育。
――宝塚を小さいときから! ご出身は東京でしたね。
石井:東京なんですけど、東京の宝塚も行くし、大阪も行くしって感じで。それでなんか小さいときに宝塚のものまねとかしてたんですよ。事務所の先輩の一路真輝さんがトップの時代で。その時に宝塚を観ててものまねとかよくしてて。
片島:見てみたいですね(笑)。
石井:一路さんが2番手か3番手だったときに、新人公演で一路さんと轟悠さんの2人でやった、作品名はわからないですけど戦争の話が結構面白くて歌もよくて、その真似をめちゃくちゃやってたんですよ、俺の原点かも。
――それは一路さんにもお話されたんですか?
石井:話してます。一路さんを観に行ってた、そういうのがきっかけっていうか、それはありますね。
――そうだったんですね! ご家族の中に芝居を観るという土壌があったんですね。
石井:親父も観てましたし、祖母も好きですし。ストレートプレイは観ないんですけど、宝塚は観てますね。小さい頃から観てはいましたけど、かといって自分が好きだったということではないんですよ。誰か好きな生徒さんがいたとかではなくて。それこそ小学生位の時です。中学入ったらもう全然(笑)。宝塚とは全く無縁の生活をしてて、って感じですね。
――宝塚以外の舞台を観ることは?
石井:全然無かったですね。
――では、中学生以降は舞台とは無縁で。
石井:大学まで観てないですね。
片島:えー!
――余計演劇の世界に入った動機は?ってお聞きしたくなります(笑)。
石井:いやぁ、わかんないですね。
片島:巡り合わせ?。
石井:ちょうど大学卒業するときに、東宝ミュージカルアカデミーができたんですよ。で、こんなのがあるんだ「受けてみようかな」って。で、受かって、それこそさっき話していた、岡村さんとか、池谷さんとか。
――東宝ミュージカルアカデミーの同期でいらっしゃいますね。
石井:彼女たちはやっぱり、養成所の時から歌も歌えるし、お芝居も出来るし、踊りも出来るっていうか、結構すごかったんですけど、僕は何も出来なかったです。
――今回のキャストは東宝ミュージカルアカデミーご出身の方が多いので、結構気心が知れたメンバーなのでは?
石井:そうです。知ってた人は多いですね。でも一緒にやった事があるのは中井くんと岡村さんだけかな。
片島:そこも狙ったんです、ありそうで無かった組み合わせを(笑)。
――なるほど! 石井さんのその、きっかけというのは東宝ミュージカルアカデミーの募集チラシを見たから、ということで?
石井:そうですね、チラシ見て。タイミングが合ったんですかね。
――偶然のなせる技というか。でも巡り合わせってそうなのかもしれません。
片島:そういうものかもしれませんね。
石井:地獄でしたけどね。養成所時代は?
片島:厳しかったんですか?
石井:厳しかったし、踊ったこともないし、芝居したこともないし、歌ったこともないって感じだから。
片島:そうだったんですね!
――当時は“地獄だ”と思われたのに、この世界を続けていらっしゃいます。
石井:そう、なんとか出来ましたね。…お芝居が好きになってきたのかもしれないですね、多分。そうだと思います。
■石井:『科捜研の女』にゲストでくる方たちの緊張感はハンパない。結果を残そうと
――ずっと舞台のお仕事をされていらして、2015年から『科捜研の女』のレギュラーとしてテレビドラマに活躍の場を広げられて、それから映像の方でお名前を聞く機会が多くなりましたが、今後は映像作品のお仕事を主にされるのでしょうか?
石井:全然そんなことはないです。『科捜研の女』の間に、去年も舞台はやっています。
――映像作品もやりつつ、今は舞台のお稽古中ですが、何かここが違うなぁという差があったりしますか?
石井:あー、どうですかねえ。
片島:それ、気になります。
石井:映像はNG出せるから、っていうのは(笑)。
――(笑)舞台は一発勝負ですから。
石井:そうそう。それが一番違うのかなっていうのもあるし。あと、やっぱりずっと舞台やっている人ってすごいな!っていう気はします。やっぱり正直に言うと、映像って編集でなんとかなったりするから、上手い下手とかってあんまり無い気がするんですよね。その人のキャラクターだと思うから。だからそう考えると、今回共演しててもそうですけど、舞台やっている人って、みんな歌えるしお芝居も出来るしっていう人が多いから、そういうのはやっぱり舞台やっている人はすごいなって思うんですけど。
――石井さんもずっと舞台で経験を積んでいらした方ですし、いま映像の現場で「舞台やっててよかった」と感じる瞬間があったりされますか?
石井:結構、監督に言って貰うことが多いです。「やっぱり舞台やってたからいいね」っていう風に。自分では分からないんですけど、よく言ってもらえるんで「あ、そうなのかな?」って思ったりして。
――蒲原刑事の活躍を見て「お芝居上手なのは舞台をやっていたからなのね!」っていう感想を読んだことがあります。
石井:そうなんですか? でも後ろで犯人睨んでいるだけなんですけどね(笑)。
――でもなかなか微妙な立場の役ですね、蒲原勇樹刑事。
石井:そうなんです。微妙な立場なんです。最初ちょっとヤな感じで入ってきて、どんどん打ち解けてくるっていう役所で。
――そういう意味ではとてもおいしい役で。
石井:おいしいですよ、すごく(笑)。
――その蒲原刑事を、もし卒業しなきゃならなくなったら「異動」ではなくて「殉職」したい、とお聞きしました。
石井:そのときはそういう風に思ったんですけど、まず何故その「卒業」の話になったかというと、やっぱり作品自体が18年続いているので、常に卒業っていうことを頭に入れていないと”馴れる”っていうことはあるんです。僕も2年やらせて貰って、“馴れて”きちゃう自分が居るんです。自分を律するために、やっぱりちょっと下手したら「卒業」っていうのを頭のどこかに置いておかないと、っていうのがあって。そういうことでプロデューサーと冗談で「終わるんだったら、死にてぇな。守って死にたい。」みたいな話をしたんです。
先日『科捜研~』の全体打ち上げがあったんですが、僕の上司役の内藤剛志さんが『科捜研~』にゲストでくる方たちの緊張感はハンパない。ここで結果を残して帰ろうとしているから、もうみんな死に物狂いで来ている、というお話をされていて、今の僕らの”馴れた”雰囲気にカツを入れて下さったんだと僕は思ったんです。ちょうどその日は大杉漣さんが亡くなられた翌日で、その流れで大杉さんの話にもなって、死ぬっていうことに関して話をされていたんです。役者って死ぬ役も出来る訳じゃないですか。
――そうですね。
石井:だからこそ、死ぬって軽々しく言っちゃいけないなって反省して。「殉職」したいって言ってる自分って、なんか駄目だなと思ったんですよ。だから、ストーリーとして「殉職」になるんだったらしょうがないけど、ずっとやれるんだったらやらしてもらって、って感じで。現場ひとつひとつにちゃんと必死で取り組まなきゃいけないなと思うんです。…とか言って朝までお酒飲んじゃったりするんですけど(笑)。
――(笑)真面目からのギャップがたまりませんね!。
片島:石井さんはすごく熱い方なんだなって再認識しました。熱いというか、芝居に対して誠実な方だとはもともと思ってましたけど。毎回稽古してて思うのは、私の想いや考えを正面から受け止めてすごく汲み取って下さるなと感じていて。いつもしっかりとお話しを聞いてくださるのでその姿勢はどこから?って思う瞬間があって。もちろんすごく感謝してるんですけど。
石井:ありがとうございます。
片島:それは単純に人柄が良いという話だけじゃなくて、何かがあるんだろうなってずっと思っていたところが今、一致したというか。石井さんの舞台道というか、こういう役者でありたい、みたいなところから、今、稽古場でそういう風に接して頂いているんだなというのを改めて具体的に認識して、やっぱり石井さんがエドで良かったなって思いました。
■石井:ドキドキ、観たこと無いものを観に来るっていう気持ちで観に来てほしい
――それでは最後にお客様に向けて一言お願いします。
石井:そうですね、「絶対に面白いと思うので期待してて下さい」って言うのが、僕はなんかすごく「んーっ」って感じがするんですよね。期待度を逆に下げちゃうというか。だから…なんでしょうね「不安を持って来て下さい」って訳じゃないんですけど。
片島:(笑)。
――不安(笑)…緊張感、みたいな?
石井:緊張感ですね。うん、いやほんと、ドキドキしながら観て貰いたいなっていう感じはあります。やっぱり日本人キャストで初めてやるし、稽古始まって間もないですけど、さっき片島さんのこの作品に対する想いとかも、今すごく受け取ったので、観に来て下さる方にはそれを届けつつ、ほんとドキドキ、観たこと無いものを観に来るっていう気持ちで観に来てほしいなって思います。
片島:うちでしか見せられないもの、うちだから見せられるミュージカルの面白さというのをずっと追求し続けて公演を重ねて来ました。今回の作品は、そこをより明確にお伝えできる作品、キャスト・スタッフだと思います。「ミュージカルってこういう面白さもあるんだ」っていう新たな発見がきっとある出会いになるんじゃないかなと思うので、是非ご覧いただきたいです。
※石井一彰さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは3月29日(木)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
とても興味深く読ませていただきました。ずっと楽しみにしていた観劇が更に楽しみになりました。お二人をはじめ、キャストのみなさんの熱い思いをたくさん感じたいです。
AKAカンパニーさんの舞台は2作品とも拝見していますが、あっという間に大ファンになりました。
そして、デビューの頃からファンの石井さんにも出演してほしいな~と願っていたら・・・すぐに現実になり、夢のようです。
記事を読み、運命に導かれたような出会いを感じました。
日本初演!オリジナルキャスト!
ドキドキ&ワクワクしながら、新たな発見を楽しみたいと思います。
上下とも読み応えがあるインタビューでした。
クラスアクト観劇がとても楽しみになりましたし、石井さんの事もさらに好きになりました。
とても深いところまで踏み込んだ読み応えのある記事でした。
この作品に対するお二人の思いを知ることができ、観劇するのがますます楽しみになりました!
石井さんの科捜研のお話に触れてくださったのも嬉しかったです。