ピアノ所有率がトップクラスを誇るという奈良で開催される、ピアノが主役のコンサート『ならピ♪』。今回で6回目を迎えるこのコンサートは、5月26日(土)、27日(日)に「DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール」で開かれます。昨年『ならピ♪』に初参加し、今年も26日に出演する人気ピアニストの西村由紀江さんに、コンサートの魅力や、ルノワールの絵にインスピレーションを受けたという新曲、ピアノを被災地に届けるプロジェクト「スマイルピアノ500」などについてうかがいました。
■真剣な眼差しを感じる『ならピ♪』には、ほかにはない空気感があります
――昨年、初めて『ならピ♪』に出演されて、いかがでしたか。
すごく楽しかったですね。お客さまもピアノが好きな方が集まっているので、独特のほかにはない空気を感じました。出演者はもちろんのこと、ピアノを習っている子どもたちや、子どもに習わせているお母さんなど、皆がピアノに興味を持っていて愛している。愛いっぱいの空間というのをステージで感じました。すごく温かい時間でもあり、緊張感も伴いましたね。「この人、どんなピアノを弾いてくれるんだろう」という、真剣な眼差しを肌で感じて。「私も将来、ピアニストになりたい」という子どもたちもたくさんいたと思います。
――そういう独特の空気は、ステージの上からでも分かるものなのですね。
長年、コンサート活動をしていますので、舞台袖からステージに一歩踏み出した途端に、どんな感じのお客さまがいるのか、その空気は身体で分かります。一音目、どんなピアノの音が出るんだろうと、皆、固唾をのんで見守っているんです。すごく緊張しますね(笑)。でもその緊張感が私は嫌ではない。それだけ関心を持ってもらえるのは、アーティストとして幸せなことですね。客席には今からピアノの発表会に出るようなドレスを着てリボンを付けた、おめかししている女の子がいたんです。私も子どものころ、すごく緊張したけれどドレスを着られるのがうれしくてステージに立ったり、憧れの人のピアノのコンサートに行ったりしたことを思いだしました。
――西村さんのソロのコンサートとは客層が違うのですね。
私のコンサートは、どちらかというと、ピアノを習ってない方や、お仕事が疲れているときに癒やしとして聞いてくださる方が多いんです。癒やしとして聞いてくれる観客と、『ならピ!』のようにピアノの音色に集中して「盗むぞ」というぐらいの貪欲さがある観客は違いますね。ピアノの所有率が高い奈良で行われていることも大きいと思いますし、ピアノ教室の数も多いと聞いています。今まで、『ならピ!』以外にも奈良でコンサートをさせてもらっているんですが、習うということに対して、皆さん、強い意欲がありますね。客席に「ピアノをやっていますか?」と問いかけたら、多数の人が手を挙げていました。今回のコンサートもピアノを楽しんでもらうことが一番ですが、観客の中に、「最近練習がつらいなぁ」と壁にぶつかっている子どもたちがいると思うんですよ。そういう子どもたちが、「やっぱりピアノはええやん」「こんなふうになりたい」と思ってもらえるきっかけを私たち出演者がお届けできたらいいですね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、共演者の中国古筝の伍芳さんについて語ってくださったことなど、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。5月20日掲載予定のインタビュー「下」では、ルノワールの絵画のモデルとなったイレーヌの激動の人生や、西村さんがプロデュースを手掛けたアルバム、震災を経て生き残ったピアノのことなど、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■歴史がある奈良の街で、同じ東洋の中国の歴史ある楽器とコラボしたら面白いと
■録音された私のピアノの音に合わせて、私が生でピアノを弾く「一人連弾」も
■ルノワールの「少女がみたもの」は、オーケストラと「『ならピ♪』バージョン」で
<第6回『ならピ♪』Nara Piano Friends>
【奈良公演】Day1 2018年5月26日(土)午後4時開演 DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
出演:西村由紀江、伍芳(ウー・ファン)、小林愛実、大塚愛
【奈良公演】Day2 2018年5月27日(日)午後2時開演 DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
出演:アリス=紗良・オット
<公式サイト>
mbs公演ページ
http://www.mbs.jp/event/narapi/
mbs公演詳細ページ
http://www.mbs.jp/event/narapi/#day01_bgbg
<関連リンク>
キョードー大阪第6回『ならピ♪』Nara Piano Friends Day 1 のページ
http://www.kyodo-osaka.co.jp/schedule/E020045-1.html
- 「イレーヌは家族をホロコーストで亡くし…」、西村由紀江インタビュー(下) 2018年5月20日
- 「ピアノは弾く人によって音色が全く違う」、『ならピ♪』西村由紀江に聞く(上) 2018年5月19日
- インタビュー一覧(人物・団体) 2016年4月9日
※ここから有料会員限定部分です。
■歴史がある奈良の街で、同じ東洋の中国の歴史ある楽器とコラボしたら面白いと
――ほかのピアニストとの共演はいかがでしたか。
ピアノは見た目は同じでも、弾く人によって、一音目はもちろん、音色の柔らかさ、強さまで全く違うんですよね。歌を歌うときに、同じマイクでも歌う人が違えば歌声が違うのと同じくらいなんです。それがとても新鮮でした。また、同じピアノを、違う人が次々と弾くというコンサートはあまりないですよね。今回は私以外に、クラシックピアニストの小林愛実さんや、シンガーソングライターの大塚愛さんが出演され、それぞれ音楽のジャンルが違います。そこを楽しんでいただけるのではないかと思います。
――今回は西村さんのソロのピアノに加え、中国古筝の伍芳さんと共演されます。
歴史がある奈良の街で、同じ東洋の中国の歴史ある楽器とコラボしたら面白いと思いました。お琴も弦が張ってあって、ピアノと構造は同じなんです。グランドピアノの上の広がっている部分も、形としては、ハープを寝かせて立てたようなものですよね。ハープやお琴はある意味で、ピアノの仲間みたいなものですし、管楽器よりは、共通項のある楽器とやってみたいという思いがあるんです。
――伍芳さんとはもともと親交があるそうですね。
もう二十数年前からのお付き合いですね。伍芳さんが大学生だったころに、大阪で私が担当していたテレビ番組にゲストで来ていただいたのがきっかけです。
――何回も共演されていますし、息もピッタリでしょうね。
そうですね。今回は、ピアノと中国のお琴の共通点や違いなど、楽器紹介ができたらいいなと思っています。
――ピアノと古筝はお互いの個性を消さずに調和して演奏できるものなのでしょうか。
調和できる部分と、全然交わらない部分、闘う部分がありますので、そこが面白いと思います。
■録音された私のピアノの音に合わせて、私が生でピアノを弾く「一人連弾」も
――観客はそういう部分もよく聞いて楽しめますね。どんな曲を弾かれるのでしょうか。
日本の古くから伝わる作曲家・筝曲家の宮城道雄さんの「春の海」を弾く予定です。本当は日本のお琴で弾く曲なんですが、それをあえてピアノと中国の古筝でやってみます。山口淑子さんのヒット曲「夜来香」も披露します。ほかには、私のオリジナル曲も弾きますが、2年目なので違うことをやりたくて、会場で流れる録音された私のピアノの音に合わせて、私が生でピアノを弾く「一人連弾」をやります。自分のピアノのカラオケに合わせて、ピアノを弾くスタイルです。連弾の中に少しだけ、皆さんがなじみのある楽曲を盛り込む予定です。
――それは面白いですね。
また、最近、ルノワールの絵画「可愛いイレーヌ」からインスピレーションを受けて「少女がみたもの」という曲を書いたんです。その曲を、ならピ♪オーケストラの皆さんと一緒に演奏する予定です。
■ルノワールの「少女がみたもの」は、オーケストラと「『ならピ♪』バージョン」で
――今年2月から東京の国立新美術館に始まり、九州国立博物館(5月19日~7月16日まで)で開催される展覧会「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」で見られる作品ですね。西村さんはこの美術展とコラボレーションし、今年2月にリリースしたアルバム「至上の印象派~BEST SELECTION」をプロデュースされました。「少女がみたもの」は西村さんによる新曲ですね。
「少女がみたもの」はアルバムの中ではピアノとチェロだけで演奏した曲なのですが、今回はオーケストラと豪華に「『ならピ♪』バージョン」を披露する予定です。
――「可愛いイレーヌ」の実物も鑑賞したいのですが、何故か関西を通り抜けて(笑)、次は名古屋市美術館(7月28日~9月24日)に巡回します。
大阪では、印象派のようなぼやっとした絵は敬遠されるんでしょうか(笑)。
――もっとはっきりした絵を好むのですかね(笑)。でも、ルノワールやモネは関西でも人気がありますから、開催されないのは不思議ですね。
私もルノワールやモネは大好きなんです。展覧会では、美術に詳しくない人でも、「これ、教科書で見たことがある」と思うような絵がたくさんあります。「可愛いイレーヌ」の絵は私は子どものころから見ているんです。大阪の豊中市に住んでいるときに、近所のお金持ちの人のお家にレプリカがあって(笑)。豪華な絵で、少女の髪の毛が長くて美しくて、当時私の髪の毛は耳の上まで母親に切られていたので(笑)、彼女の髪は憧れでした。でも、少女の表情がやけに寂しそうで「何考えているんやろ」といつも子どもながらに思っていました。私自身もすごく人見知りだったので、少女の寂しさに共感していましたね。イレーヌの生涯については後から知ったんです。