「おもちゃ花火」30万発以上打ち上げ、福井・高浜町で8月22日に約30分間

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「スターマイン」よりアイキャッチ

福井県の西、京都府との県境に面した福井県大飯郡高浜町で、毎年夏にユニークな花火イベントが開催されている。「櫓龍(やぐらドラゴン)」という玩具花火集団による創作花火イベントで、高浜町に住む20代~40代の男性有志約40名が、おもちゃ花火を駆使して繰り広げる珍しい花火エンターテインメント・ショーだ。おもちゃ花火と言っても、その打ち上げ本数は30万発以上。打上花火に噴出花火、ナイアガラ花火、空高く舞うとんぼ花火、連発花火など、それぞれの特徴を駆使して、これがおもちゃ花火?!と驚くほどの迫力と独創性を生み出している。皆で考え抜いたアイデアと豪快な演出で、単体では成し得ない仕掛け花火約20演目で魅了する。この約30分間のショーのために、彼らは10カ月かけて準備を行う。

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「スターマイン」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「スターマイン」より

「わえら(俺ら)の花火イベントは、全国の花火大会には規模ではかなわない。だけど、高浜の若者にしかできないことで地元を盛り上げたい。地元の若い衆が集まってイベントを起こしたら、小さな町の中で一体感が生まれる。地元が好きなアツい想いだけはどこにも負けん。人の気持ちが動くような夏まつりがしたい」。そう語るのは、昨年までの4年間「櫓龍」の会長としてメンバーを引っ張ってきた濱瀬満博さん(39)。

櫓龍は2004年、地元の若者有志により結成。その前年から始まった夏のキャンドルイベント「漁火想(いさりびそう)」の花火セレモニーとして始動し、創作キャンドルやライブ、水中花火などのイベントの一部として参加。初めは、前座的な役割だったが、そのユニークなアイデアと男衆の勢いで年々進化していき、8月22日(土)に開催される2015年のイベントでは、初めて大トリを任されることとなった。

そこにプロの花火師はいない。多種多様な職業に就く彼らに共通してあるのは、地元・高浜を自分たちの手で盛り上げたいという想いだけ。おもちゃ花火を使用するのに本来ならば資格は要らないが、安全面を考慮して煙火消費保安講習を受けている。また、各花火の火薬量や飛距離、設置場所から観客席までの保安距離などを事細かに書き込んだ図面を消防署に提出して許可を得て、本番当日も消防士に安全確認をしてもらう。自分たちで知恵を出し合って演出を決めていく中でも、転換時に飛び火しないように花火の着火場所やタイミング、人の配置を綿密に考え、繰り返しシミュレーションを行い、全員の意識統一を図る。

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「火文字」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「火文字」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「手筒」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「手筒」より

「地元では、県外からイベンターが来てイベントが行われているものもありますが、それはそれでありがたいけれど、その日限りで終わってしまうものが多い。地元民が主体となったら、地元の食材を使ったり、地元の店が出店する屋台をしたり、もっと地域に還元できるやり方ができる。地元民が協力して観光客をおもてなしする。それを若い世代が中心になって取り組む姿を見せることで盛り上げていきたい」と濱瀬さんは語る。

「櫓龍」の会長役は先輩から受け継ぎ、その志と共に4年間励んできた。今年からは後輩にその任務を引き継いだが、今もサポート役として関わっている。こんな本音も語る。「メンバーは皆、忙しい。普段の仕事があるし、家族のこともあるし、自治会や青年会の活動や、地域の付き合いもあるし、それにイベントを起こすには出費もかかる。そんな中でイベントをするのは正直、しんどい。メンバーと意見が合わずに喧嘩もするし、もうやめたいと思うこともあります。彼女と観客として観に行きたいから、と加入しない人もいますけど、それはとがめられません。その気持ちもわかるから(笑)。逆に言えば、大切な人と観に行きたいと思われるようなイベントということだから、士気が上がります。そんな中でぐっと誘惑をこらえて励んでいると、本番のわえらの姿を見て入りたいと言ってくれる後輩たちもいます。女の子にモテそうだと言って(笑)。何より自分たちで作った舞台で体張って花火のパフォーマンスをして、お客さんが喜んでくれる。あの生の空間での高揚感を味わうと、やっぱり次もやるぞと思えます」

都会に比べて田舎は、地域の人間関係が近いとよく言われるが、高浜町もそうだ。小さな町を歩けばすぐ知り合いに会うし、会話を交わす。小学校からの付き合いでそのまま大きくなり、互いの家族のこともよく知る関係という場合が多い。そんな近しい間柄だから、気取らず、遠慮なく意見をぶつけ合える。損得勘定抜きで、地元が好きだという根底の想いを共有できる間柄だからこそ、生み出せるものもあるのかもしれない。

おもちゃ花火という特徴の他に、もう一つの注目ポイントがある。それは、花火で人の姿がはっきりと見えること。花火といえば、離れたところから眺める場合が多いが、櫓龍の場合は、自動装置による遠隔操作ではなく、直接点火していく。機械に頼らず自分たちの手で一つひとつ火を点けることにこだわるのは、彼らの花火にかける心意気。そんな男衆の体を張ったパフォーマンスでも魅了する。中でも火の粉が飛び散る中、大人の上半身ほどもある手筒を抱え、夜空に向かって力強い火光を放つ演出は、圧巻だ。

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「手筒」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「手筒」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「ナイアガラ」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「ナイアガラ」より

そんな独創的な花火イベントを気に入り、次の夏も観たいからと1年後の宿の予約をとってかえる観光客もいる。また、「同じ日に有名な大きい花火大会があったんですが、こっちを選んで良かった、と思える素晴らしさでした。」とブログに感想を綴った人もいた。濱瀬さんは言う。「そんな観客の方々の反響を知ると、アツい気持ちが沸き上がってきます。本番当日に味わった高揚感は、日常に戻るとやがて薄らいでいきますが、夏が近づくとまた再燃します。まずはわえらの気持ちが動いて、観てくれる人の気持ちも動くようなイベントを続けていきたい。町おこしは人おこしですから」。

どの花火大会でもそうだが、花火が終わって観客が引き上げた後、会場にはゴミが散らかっている。メンバーたちは翌朝、浜辺に集まり、浜そうじを自主的に行っている。そこまでが自分たちの役割だと考えている。「地元の人たちは、人がゴミを捨てる姿も、拾う姿も見ていますから」。

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「スターマイン」より

櫓龍公式ウェブサイト、ギャラリー「スターマイン」より

地元への想いを花火にぶつける男衆の、等身大の勇姿。そこには、規模の大きさだけでは計れない、そこでしか味わえない熱気があり、それは観客一人ひとりの胸にも一夏の思い出として焼き付くことだろう。

町の人たちへ、観光客の方々へ、初代からずっと呼びかけ続けていることがある。シンプルなメッセージだが、これが彼らの一貫した想いだ。 「櫓龍は皆様の協賛、協力があってこそ成り立っています。今年も熱い櫓龍をお見せしますので、ぜひ会場に足を運んで下さい!」

—————————————

  • <若狭高浜町のキャンドルイベント「漁火想」2015>
  • 日時:2015年8月22日(土)櫓龍による花火パフォーマンスは20:30から
  • 場所:福井県大飯郡高浜町の若宮海水浴場
  • やぐらドラゴン公式ウェブサイト → http://yagura-dragon.com/
  • 漁火想公式ウェブサイト → http://www.isaribisou.com/

—————————————

<桝郷春美さんのアイデアニュース執筆記事一覧>

映画「with…若き女性美術作家の生涯」が生み出したもの(1) → https://ideanews.jp/backup/archives/6182

観客が上映日時を決めるシアター、「with…」が生み出したもの(2) → https://ideanews.jp/backup/archives/6451

家なき地に迫る豪雨と雪、ネパールの被災地は今 「with…」連載(3) →  https://ideanews.jp/backup/archives/7117

映画「抱擁」の坂口監督、「絶望のなかで出会うものにこそ豊かな学びがある」→ https://ideanews.jp/backup/archives/4800

—————————————

<アイデアニュース有料会員向け>

記事を書いた根っこにある想い(桝郷春美)

高校を卒業してからずっと、地元を離れている筆者から見れば、地元の密な人間関係の中で頑張る彼らの姿がとてもまぶしく映りました。近隣の小浜市出身の筆者にとって高浜町は、高校の同級生たちもいて、馴染みのあるところです。高浜町は、関西では海水浴場として知られていますが、関西以外では知らない人が多い。関西電力高浜発電所があるところ、というイメージを抱く人もいます。それも一つの大きな現実なのですが、ニュースで取り上げられる大きなものの陰に、地元本来の姿が埋もれてしまい、外からは見えづらくなってしまっているジレンマもここ数年感じていました。

そのことを特に感じたのは、2013年6月末。全国紙や全国ネットの番組では、フランスから関西電力高浜発電所へのMOX燃料輸送についてのニュースが、大々的に取り上げられていました。その頃、現地の高浜町では、7年に一度行われる「七年祭」がありました。地域の伝統を受け継ぎ、町全体が一体となって盛り上がっている本来の姿が、大きなニュースによってかき消されているようにも感じ、県外に住む私は悔しさを覚えました。どちらも現実ではあるのですが、そこに暮らす人の姿が見えないまま、大きな言葉だけがひとり歩きして日常とはかけ離れたイメージを作ってしまうということは、往々にして起こります。

2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、周辺に多くの原子力発電所を抱える地域に故郷がある私も他人事ではないと感じ、そんな中で演劇活動に取り組む福島県の女子高校生たちと縁ができ、これまでに何度も福島県沿岸部に足を運んできました。彼女たちと交流してきた中で、私がかみしめたことを一つ挙げるならば、それは先入観のやっかいさでした。「大変」「かわいそう」という県外の人たちが勝手に抱くイメージと、そればかりではない、女子高校生として元気に活動する日常だってあるという現実とのギャップ、そのはざまで自分たちにできることをしようとあがく姿がありました。

そんな経験の先に、今度は自分の足元、故郷を見つめたときに、状況は全く違いますが、地元を何とかしようと頑張る人たちの心意気が、とても鮮やかに映りました。センセーショナルなイメージの陰に埋もれて見えにくくなっている、個々の想いもたくさんあること、そのことにも目を向けるきっかけになればという願いが、今回の記事を書く根底にある想いでした。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA