「稽古前に何度も読み合わせを」、『タージマハルの衛兵』亀田佳明インタビュー(上)

亀田佳明さん=撮影・NORI

新国立劇場2019/2020シーズンの「ことぜん」Vol.3、演劇『タージマハルの衛兵』が、2019年12月7日(土)~12月23日(月)(プレビュー公演は12月2日と12月3日)新国立劇場小劇場で上演されます。この作品に出演する亀田佳明さんにインタビューしました。2015年12月に上演された『バグダッド動物園のベンガルタイガー』の作家、ラジヴ・ジョセフが描く人間の普遍的な葛藤の物語。10月下旬に稽古が始まる前に、7月頃から何度も行なわれたという「読み合わせ」などについて伺いました。

亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

――『タージマハルの衛兵』日本初演です。

そうですね。この時期に小川絵梨子さん演出で成河さんが出られるお芝居があるんだけど、とオファーをいただきまして。小川さんとは『マリアの首―幻に長崎を想う曲―』(2017年)で一緒にやっていて、是非もう一度ご一緒したいと望んでたので、内容も全然知らずに、もうその時点で「もちろんやりたいです!」って返事して。で、二人芝居っていうのは、後日聞いたのかな? 数日後に、「実は二人芝居」だと。「えーっ!」ってなりました(笑)。

――これまでに二人芝居のご経験は?

二人芝居はないですね。でもこちらにしてみれば有り難いお話なので断る理由もないですし、嬉しかったですね。ただ、大丈夫かなと思って。僕、そんなにお客さん呼べないから、そっちが心配になっちゃって。でもそういうのもある意味の冒険として、僕をキャスティングしてくれたんだろうから、それはもう有り難くお受けします、と。すごく嬉しかったです。

――公式サイトの「ものがたり」では、『ゴドーを待ちながら』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の2作品に触れられていますが、やはり構造的に似ているのでしょうか?

2作品とはまた少し違って、こちらは完全に2人だけの芝居ですね。

――フマーユーンとバーブルの2人しか登場しないんですか?

そうです。一見対照的な考えを持っている2人の、親友同士の話ですね。それが時代の圧によって少しずつ関係が変わっていって、ちょっと悲劇的な方向に進むっていう、ざっくりとそういう話なんですけど。

――本当に濃密な2人芝居になりそうですね。上演時間はどのくらいになりそうですか?

今のところ、休憩なしで90分前後という感じですか。

――一気にみせてくださる感じですね。物語の時間軸は?

どういう風に見せるかはちょっとまだ未定なんですけど、最後のシーンだけは十年間経つんですよ。

――最後は一気に後日の話になるんですね。

そうなんです。その前までは、たぶん数日も経っていないんじゃないかな。すごく短い期間です。

――短いんですね。ワンシュチュエーションですか?

ワンシュチュエーションにはならないですね。

――二人が立つタージマハルの前だけではなく場面が変わるんですね。韓国で上演された『タージマハルの衛兵』のざっくりとしたあらすじを読んだのですが、作中に結構ギョッとするシーンがあって…。

そういうシーンは多いというか、ありますよ。かなり残酷な表現が入り込みます。けれどむしろそれを、敢えて逃げずに、こちらもある意志と、意図を持って、それを表現するという方向になっています。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、稽古が始まる前に何度も行われた読み合わせについて話してくださった内容など、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。11月29日(金)掲載予定のインタビュー「下」では、演出の小川絵梨子さんや共演する成河さんについて、そして亀田さんご自身について、ラジオでの声のお仕事の話なども含めて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■残酷なことを、少し抑えたり違う表現に転嫁したりせず、ストレートにお客さまに

■みんなで英語の原本を見ながら検証していく。1日4~5時間やって5ページぐらい

■この二人の関係も「個」を主張する側と「全」を主張する側で、離れていきます

■今の我々が生きてて重ね合う、勝手に重ねるところがボンボン出てくる

<演劇『タージマハルの衛兵』>
【プレビュー公演】2019年12月2日(月)~12月3日(火) 新国立劇場 小劇場
【東京公演】2019年12月7日(土)~12月23日(月) 新国立劇場 小劇場
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/play/guards_at_the_taj/

<関連リンク>
新国立劇場 演劇 公式 Twitter
https://twitter.com/nntt_engeki
新国立劇場 演劇 公式 FaceBook
https://www.facebook.com/nnttplay
文学座 亀田佳明
http://www.bungakuza.com/member/prof/kameda-yoshiaki.htm

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亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

※ここから有料会員限定部分です。

■残酷なことを、少し抑えたり違う表現に転嫁したりせず、ストレートにお客さまに

――ある意志、意図を持ってというのは?

言ってみれば、そういう、ちょっと残酷なことって、加減を考えれば少し抑えたり、なにか違う表現に転嫁したりということも出来るじゃないですか。でも、そういうことをせずに、ということですね。戯曲自体がとてもストレートに書かれているので、それをこちらも歪めずに、ストレートにお客さまに届けるということをやろうとしています。その結果、お客さまにとっては、すごい辛い表現に見えることもあるでしょうし、もしかしたら目を背けたくなる方も出てくるかもしれないですよね。

――では、ラジヴ・ジョセフさんの本をそのまま、ということですね。日本で上演するためにちょっとオブラートに包むような表現はせずに。

と、思います。いまのところ書かれてあることをそのまんま、できる限り具体的に表現するっていうことをしています。

亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

■みんなで英語の原本を見ながら検証していく。1日4~5時間やって5ページぐらい

――今回の作品では、皆さんで脚本の翻訳作業をされていると伺いました。

はい、そうです。10月下旬から稽古が始まったんですけど、そこにいたるまで、7月から5、6回ほど、絵梨子さん、翻訳の小田島創志さん、成河さん、僕、あと制作の方が入って、読み合わせをしながら、役を少しずつ検証していくというか、みんなで英語の原本を見ながら「ここは、この台詞はどういう意味なんだろうか?」「これだったら日本語はこっちの方がいいかも」「わたしはこう思う」「僕はこう思う」って言い合いながら、検証していく期間がありました。でもね、1日5ページぐらいしか進まない。4~5時間やって5ページとかだから、もうすっごい、一行、一行ですよね。検証していくっていう作業をやっていました。

――とても丁寧に、じっくりと皆さんで取り組まれたのですね。なかなかそういう機会は珍しいのでは?

確かにこういうクリエイションを、ここまで時間かけてやれることは、そうそうないですね。やっぱり二人芝居というフットワークの軽さと、それを楽しんで作ってくれる新国立劇場の作り方は贅沢ですよね。成河さんも喜んでましたし、僕もそういうのはすごい好きなんで、とても贅沢でした。一度翻訳されたものを、また検証し直していくのが、まぁ面白いですよね。それに対して創志さんも、どんどん「じゃあ、こうでしょうか?」っていうことを提案してくれて。苦しかったとは思うんですけど、積極的に関わってくれました。いまだに稽古場でも…、もう立ち稽古入っているんですけど「ちょっとこの文言はアレかな」っていうことで、また少し変えたり、変えようとしたりという作業はしてますね。

――実際に立って動いてみると、また少し違う感覚が見つかったのでしょうか?

そうですね。その上で、やっぱりちょっとこの言葉だと少しニュアンスが変わっちゃうかな、とかっていうことで少し変えたりとか。ちょっとした事なんですけど、やっぱり大きくニュアンスが違うんですよね、なんか。すごいこだわってやってます。

亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

■この二人の関係も「個」を主張する側と「全」を主張する側で、離れていきます

――新国立劇場さんの今シーズンのテーマのひとつ、「ことぜん」(個と全)ですが、『タージマハルの衛兵』という作品については?

このテーマを代表するような作品じゃないかなと思うんです。舞台はタージマハルを造っている頃のインドなんですけど、やっぱりこの親友二人の…。今、稽古でも絵梨子さんが意識していることなんですけど、この二人の親友の関係の上に、タージマハル建造のことや、インドのちょっと息苦しい情勢など、大きなことが、常に強くのしかかってきているんですよね。この二人が楽しんで会話すればするほど、逆にこの大きなものが出てきてしまう。で、結局この「個と全」に行き着くんですけど、大きなものによって、個人の関係が変わってしまうっていう、個と全の間の距離感みたいなものがなんか常にあるという。この二人の関係も「個」を主張する側と「全」を主張する側で、やっぱり離れていきますし、常に対比で話が進んでいくんですよね。だからそういう意味ではすごく、テーマに添っているというか、バッチリハマる作品だと思いますね。

――二人が楽しんで会話すればするほど、逆に大きい巨大なものが見えてくる。

二人のたわいのない会話の後ろには、常になにか強大なものがある。だから、言葉として発せられるものだけが二人の気持ちの全てではない。むしろ、言葉になっていない部分や、裏腹に発せられた言葉などの奥にあるものを強く意識していないと、そもそもなんの話なんだか分かんなくなっちゃうんだと思うんです。そこを無くしてはいけないって稽古場ではずっと意識してます。出てくるのは二人だけですし、セットもシンプルなので、どういう状況で、なにを目的としてしゃべっているのかというのが明確にならないといけない。自分の存在意義は何なのか、など根っこにあるものを意識し続けなければいけないと思うんですよね。

――何をしゃべっているのかわからなくなる、というところが、『ゴドーを待ちながら』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の登場人物二人の、状況の本質には触れずに、ひたすらしゃべり続けるというところと重なるような…。

そうかもしれないですね。本人達の意志では動いていくこともあるんですけど、やっぱりそれだけではどうにもならないものに突き動かされてしまうとか、やらざるを得ない状況にどんどんどんなっていってしまうとか。そんな時に自分がどうするか、決断するのは自分なんですけど、抵抗できない状況みたいなものがたぶん強くあるんだと思います。

亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

■今の我々が生きてて重ね合う、勝手に重ねるところがボンボン出てくる

――お話を伺っていると、物語は17世紀インドですが、現代日本に生きる私たちにも、ひどく身近な感じがします。

観ていて、すっごい重なるところがいっぱいあると思いますよ。それこそ成河くんもよく言ってますけど「二人のやりとりの中で、今の我々が生きてて重ね合う、勝手に重ねるところがボンボン出てくるね」なんて話してます。それこそ、いまの政治状況と繋げたり、いまの自分たちのもっと日常的な友達関係、親子関係と繋げたりとか、繋がるところがすっごくいっぱい出てくる。で、そういうのを意識してラジヴさんも書いているんだろうなというところがものすごくいっぱいある。これこれ!こういうことだよ!っていうようなことを、ちょっとユニークな書き方で書いているところもいっぱいありますし。

――繋がるところがいっぱい出てくる。観ながら勝手に物語と自分の状況が重なって、さらに広がっていくような…。

と、思いますね。で、絵梨子さんもそれをすごく意識して、そっちに持って行こうとしていると思います。書かれていることは氷山の一角で、実はその奥にはもっとすごいものが広がっている。それが表現できれば、お客さまの想像も、すごく膨らんで羽をつけて飛んでいってくれるだろうなって気がすごいしますね。

亀田佳明さん=撮影・NORI

亀田佳明さん=撮影・NORI

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