ミュージカル『いつか~one fine day』2021が、2021年6月9日(水)から6月20日(日)まで東京・渋谷の CBGK シブゲキ!! で上演されます。この作品の脚本・演出を担当している板垣恭一さんにインタビューし、どのようにしてこの作品が生まれたのか、キャストについて、初演からの変更や、稽古の進め方などについて伺いました。インタビューは上下に分けて2日連続で掲載し、「下」では、2020年の「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」と2021年の「一般社団法人 未来の会議」の活動についても伺ったお話を紹介します。
――ミュージカル『いつか~one fine day』は、韓国映画「ワンデイ~悲しみが消えるまで」を原作として2019年に初演されました。この作品誕生の経緯を教えていただけますか?
プロデューサーの宋元燮さんが「この映画を芝居にしよう」と。でも僕は映画を見て「無理だな」って思ったんです。
――どうしてですか?
言葉が足りないなと思ったんです。映画はそれでもいいかもしれないけど、演劇にした場合はイメージだけでは逃げられない。そこで「台本を創っていいなら」って宋さんに伝えたところ、映画を創った人たちから改作のOKが出たんです。だから映画にはないキャラクターやエピソードを入れてスタートしました。
――演劇にすると言葉が足りないというのは?
演劇にするなら、観た人が「主人公の立場ならそうするかも」というところまでもう少していねいに描かないとと思ったんです。だから、「脚本を変えさせてほしい」「タイトルも変えたい」とお願いしたんです。
――ローカライズの要素もあるのでしょうか?
『One Day』という映画が扱っているのは普遍的な人間の生き死にの話だから、日本と韓国の違いは感じなかったです。そうではなく、作劇術的な手当を補強したいなって思ったんです。
――今回は再演で、初演に出演した藤岡正明さん(夏目テル役)と皆本麻帆さん(樋口エミ役)以外のキャストが初参加となることについては、いかがですか?
再演するとき、メンバーを残してやる方法と変える方法と2択があって、全員を変えようとは宋さんも僕もならなかったんです。この2人は、もう1回演ってもらいたいという流れでした。それと、作品自体を少し大人っぽくしたいという宋さんの意向があったので、それなら大胆に変えちゃいましょう、ということになりました。
――初演からの変更は?
微妙に変えています。一番はっきりと変わったのは、田亀トモヒコ役(西川大貴さん)で、1曲まるまる違う曲にしました。
――新曲を入れたんですね。
ええ。新しい詞を書いて、新しい曲をつけていただいて、キャラクターのとらえ方を少し変えました。タマキ豊(大薮丘さん)が喋る内容も変えているし、長門マドカ(松原凜子さん)というエミのお友達の抱えたエピソードもちょっと変えてます。初演の時、僕はわりと劇場に居たので、観ながら「再演やるならここを直そう」というところが結構あって、知り合いの同業のプロたちに言ってもらった感想をいろいろ書き留めていたので、それを使っています。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、板垣さんがどのようにして台本を書いているかや、稽古の進め方などについて詳しく話してくださった内容を紹介しています。6月8日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、2020年の「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」と2021年の「一般社団法人 未来の会議」の活動について伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。(この記事に有料会員限定のプレゼントはありませんが、有料会員の方はコメントを書くことができます)
<有料会員限定部分の小見出し>
■今まで書いてきた台本は基本的に当て書き。1回しか会ってない人でも当て書きしちゃう
■「どうしよう」って思ってることが解決するのは、だいたい家で朝シャワーの時
■座右の銘は「気がついた人がやれ」。やってくれないときに腹を立てる時間が勿体ない
■『いつか~one fine day』は「みんな大変だけど、明日はあるよー」というお芝居
<ミュージカル『いつか~one fine day』2021>
【東京公演】2021年6月9日(水)~6月20日(日) CBGK シブゲキ!!
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■今まで書いてきた台本は基本的に当て書き。1回しか会ってない人でも当て書きしちゃう
「トモを西川大貴くんが演るなら」って、変えたところもあります。
――当て書きで変えるということでしょうか。
はい。タマキを演るタカ(大藪丘さん)も、タカだったらこういうふうにした方がもっとボケてくれるかなとか、マドカ役の凜ちゃん(松原凛子さん)も。「この俳優だから」っていうところが大きいです。僕が今まで書いてきた台本って、基本的に当て書きなんです。極端な話、1回しか会ったことない人でも勘で当て書きしちゃいます。
――凄いですね。
そういうことにあまり影響されない役もあって、サオリというエミのお母さん役は、土居裕子さんに演ってもらいますが、変えないようにしてます。ただ稽古が始まって実際にご本人たちに読んでもらうと、これが見たいっていう要望も出てくるんです。例えばクサナギ役の藤重政孝さんが演じてるのを見て「こういう感じを出せますか?」って言っていることは、初演のときには思いもしなかったことだったり。
■「どうしよう」って思ってることが解決するのは、だいたい家で朝シャワーの時
――台詞を変える変えないの選択は、現場で即判断ですか? それとも持ち帰って熟考してですか?
両方です。「あれ? これ何かハマってないな。どうしよう」って思ってることが解決するのは、だいたい家で朝シャワーの時。寝て起きて、他のことに集中してるときに「あっ!」て。
現場で見ながら思いついたことについては、なぜそう思ったのかを自分で分析します。その理由を素早く探り当てられ、かつ有効なアイデアだと思ったら、その場で「これをこうしません?」って。だから、思いついたけど言わないこともたくさんあります。何でこれを言うのか?って自分の中で見えたら言う、みたいな感じ。
いろんなことを思いつきますが、僕が思った通りの演技をやってもらいたいわけじゃないんです。それって僕にとって、すごくつまらないこと。役者さんは書かれてる台詞をやんなきゃいけないし、決められてるメロディを歌わなきゃいけないけれど、どのように歌うか、どう台詞を喋るのかは、本来は俳優の領分だとぼくは思うわけです。
だから僕は、なるべく自分から「こうしよう」っていう話はしない。「こんなこと考えられますかねー」とか、「こういう人だったりして~」ということを言って、それで俳優さんが考えてきてくれて、全然違うことやってくれたりしてハマると嬉しいです。「全然、僕それ考えなかった、それ面白い!」って。
■座右の銘は「気がついた人がやれ」。やってくれないときに腹を立てる時間が勿体ない
僕の座右の銘は「気がついた人がやれ」です。これ本当にわかりやすい話なんですけど、稽古場にゴミが落ちていたとして「僕は演出家だから拾わない」って言うことは意味がない。「これ、私の仕事じゃありません」って僕も昔は線引きしがちでした。でも気づいてたんだったらやるなり指摘するなりすればよかったじゃないって。なので僕は、必要な仕事を誰もやってくれないんだったら、自分がやればいい、と思ってます。
違う言い方をすると “期待はするけど当てにしない” これがハッピーに生きるコツかなと思ってます。当てにするからみんな辛くなっちゃう。「やってくれるかな」って期待はしますけど、やってくれないときに腹を立てる時間のロスが大きい。「なんだよ!誰かやれよ!」って思う時間が勿体ないと思うんですよね。
■『いつか~one fine day』は「みんな大変だけど、明日はあるよー」というお芝居
――『いつか~one fine day』をご覧になるお客さまへのメッセージをお願いします。
現代日本を描きたかった。なぜなら、描くということはつまり「肯定すること」であると思っているからです。観に来ていただいたら、登場人物8人の中に、必ず自分を見つけることができると思うので、ちょっとそれを見にいらっしゃいませんか? 「ミュージカルって、どうなの?」と思ってる人にもみていただきたいです。「みんな大変だけど、明日はあるよー」というお芝居です。ぜひ遊びに来て欲しいです。
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