人間国宝・野村万作さん門下の若手狂言師による「第四回 狂言このあたり乃会」が、2021年8月7日(土)に東京・矢来能楽堂にて上演されます。「狂言このあたり乃会」同人の岡聡史さん、中村修一さん、内藤連さん、飯田豪さんに、番組についてたっぷりとお話頂いたインタビューの後半です。上演される3つの演目のうち、『文蔵』のお話の続きと、現代でいう「オレオレ詐欺・対面バージョン」で騙しにくる詐欺師が登場する『咲嘩(さっか)』について語ってくださった内容を紹介します。
飯田:『水汲』とは違って、『文蔵』は「語リ」の内容がわかったら、その方が面白いですよね。
岡:そうだね。
――『源平盛衰記』の戦場のシーンを語るわけですね。
内藤:石橋山の合戦という、源氏300人に対して平家は3,000人、「十分の一分なれども」という言葉も語リの中にあるんですが、昼の間は互角に戦い、宵戦では、それぞれ武将を選(え)って出すところで、源氏から出た真田与一義貞(さなだのよいちよしさだ)が、平氏の俣野五郎景久(またののごろうかげひさ)と戦います。それから長尾新五、新六が、後から駆けつけてくるんです。
飯田:それでみんなが一つに揃ってこれから戦うんだぜ!!!「……っていうあたりを食べたか?」っていう風になるわけです。
――緊迫感ある戦話で盛り上がったところで、ストンと落とす感じで。
飯田:そういうところがとても狂言らしい。
内藤:すごい振りがあって、そんなことかい! っていうところが面白い。
中村:去年から、演目を4コママンガで解説したものをInstagramに掲載しています。そちらもチェックして頂いて、合戦の場面は4コマの絵を思い出して観てもらうと、その情景が浮かんで面白いかなと思います。さっき内藤さんが仰ったように出で立ちの話も出てくるので、武将の姿を前知識として入れて頂くのにも、イラストでちょっと補足できればいいかなと思っております。
飯田:助かりますね、それは。
中村:当日のパンフレットにも挟み込めたらいいなと思ってるので、情景を思い浮かべながら観てもらいたいです。「語リ」の部分も、文字だけで追っていくと漢字の読み方が古典的で、漢字自体が浮かばないときが結構あるんです。そういうところもなんとなく絵で思い浮かべられたら楽しめるかなと思います。
――三曲目『咲嘩(さっか)』はどのようなお話でしょう?
中村:主人(演者:石田淡朗さん)と、太郎冠者(演者:中村修一さん)と咲嘩(演者:岡聡史さん)という3人が出てくる狂言で、連歌の話から始まります。連歌は、俳句より長く句を詠む、五・七・五・七・七、それに繋げてまた五・七・五と詠んで、七・七と詠んでというものです。その連歌の会を仲間内でやろうと、宗匠という会のマスターみたいな人をご近所の連歌仲間の中から選ぶことになったのですが、やっぱりもう少しちゃんとわかる人を宗匠に迎えたいと主人が思って、都の伯父さんはそういうのに詳しいから、「ちょっと伯父さんを連れてきてくれ」と太郎冠者が頼まれるわけです。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、現代の「オレオレ詐欺」の対面バージョンで騙しにくるものの人間ができている詐欺師が登場する『咲嘩』について語ってくださったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■中村:咲嘩は、現代で言う「オレオレ詐欺」の対面バージョンで騙しにくるわけです
■岡:万作先生に「ベテランがやる役なんだから、そういうところを」と言われるんですけど
■内藤:予備知識なしでワハハハと笑える曲が最後にあるのはバランスがいい
■飯田:中村さんも岡さんも素と逆みたいな配役なので、2人が苦しむ姿を楽しんで
<第四回 狂言このあたり乃会>
【東京公演】2021年8月7日(土) 矢来能楽堂
S席:3,000円
A席:2,500円
(全席指定・税込)
カンフェティで6月25日(金)10:00より一般販売開始
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=61502&
万作の会公式サイト
http://www.mansaku.co.jp/
<配信>
2021年8月14日 (土) ~2021年10月12日 (火)
視聴券:2,000円(税込)
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=62058&
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■中村:咲嘩は、現代で言う「オレオレ詐欺」の対面バージョンで騙しにくるわけです
中村:そこからは『仏師』や『末広かり』と同様、都に探しに行く。探すものは物であることが多いんですけど、この場合は伯父さんを探すんです。太郎冠者は伯父さんを全然見たことがなくて知らないので、「伯父さんいませんか? 伯父さんいませんか?」と呼びながら都を回るんです。そこに咲嘩という名前のすっぱ(詐欺師)が出てきて、「なんか怪しいやつがいるな。呼ばわってるな」と、現代で言う「オレオレ詐欺・対面バージョン」で騙しにくるわけです。「あぁ、伯父さん? 俺だよ」と言われて、太郎冠者はまんまと引っかかって「そう言われてみたら姿が主人に似てますね」と、咲嘩を連れて帰ってくる。「伯父さんを連れて帰ってきました」と主人に話すと、「伯父さんは付き人もたくさん居るはずだが何人ぐらい人を連れてきた?」と聞かれて「1人で来てますよ」と太郎冠者が答える。おかしいなと思って、主人が隠れて扇子越しに見ると、あれは「身乞の咲嘩」というとても有名な詐欺師だと判明する。
普通の盗人は、隠れて人目を忍んで、サッと盗っていきますが、咲嘩は、“見たものは乞うても盗る” 。「下さいよ、下さいよ」って言って、どうしても盗っていくような物凄い盗人だというんです。すごい詐欺師なので、無理に追い返してのちのち何か噂になっても困るから、いいようにあしらって帰そうということになり、屋敷の中に招き入れて会食みたいな感じになるわけです。なので最初に設定した連歌の話はもう後半全く関係なくなって、咲嘩をもてなすことになります。
まずは太郎冠者が咲嘩といろいろと話をする場面になるんですが、そこが太郎冠者のやりどころで、関係性を近くしながら少しフランクな感じで咲嘩と喋るんです。その様子を主人はちょっと遠く、橋掛り(はしがかり:能舞台の下手にある橋のような通路)の方から聞いていて、太郎冠者がとんちんかんなことを喋る度に「あんなこと話すもんじゃないよ。あれは内輪の話だよ」といろいろ主人にたしなめられてしまう。これじゃあ駄目だと結局主人が出て行って、3人で会話するんですが、そのとき「いわれぬ汝が才覚を止めて、身共が云うようするように」、つまり、自分の指示通りに動きなさいと主人から言われるんですが、太郎冠者は勘違いして、「さては御前の真似をや」と主人の行動をそのまま真似してしまって、とんちんかんな舞台になっていく、そんなお話です。
■岡:万作先生に「ベテランがやる役なんだから、そういうところを」と言われるんですけど
岡:咲嘩は詐欺師なんですが、この役は結構ベテランの人がやる役どころなので、ちょっと難しいんです。
中村:そうですね。わりと老齢な方がされますね。
岡:万作先生にも、「ベテランがやる役なんだから、そういうところをちょっと出しなさい」みたいなことを言われるんです。なのでそこを上手く…、そういうのってにじみ出るものなので、なかなか難しいんですが、何か少しでも、中村くんのシテが活きるように、ギャップを出せたらなと思います。
中村:今回僕は太郎冠者をやらせて頂きますが、実は僕、どの役もやったことがない曲なんです。今回この曲に初めて取り組みます。岡さんは主人をよく演じている印象があります。
岡:主人も咲嘩もやったことはありますが、相手役はいつも万作先生や自分より年上の方なので、そこまでベテラン感を要求されたことはありません。でも今回はシテも主人も僕より若いので、そういう部分でも何かいつもと違うところを出せたらと思っています。
中村:最初にお話ししましたが、曲ごとに課題があって、『咲嘩』の太郎冠者はくだけていて間抜けというか、ちょっと憎めない、本当に太郎冠者らしいキャラクターなんですが、そういうものを修一はあまり得意ではないというのを先生が見抜いて配役されたのかなと思っています。最初はただ都に探しに行って見つけてくるというだけなんですが、そこから本当にとんちんかんというか、ちょっと阿呆な、間抜けなキャラクターになっていくんですね。普通、舞台上で座るときは正座なんですが、今回は胡座(あぐら)をかいて座るんです。
――胡座は珍しいですね。
中村:珍しいです。安座(=胡坐)しながら咲嘩と対面して話してしまう、本当にくだけた関係性になっていくんです。そういうところが多分、舞台上で自分に欠けている部分かなと思うので。真面目に取り組みますけれども、どこまでくだけてやれるかというのが、自分のやりどころというか、課題と思っています。
岡:そうですね。
中村:それを真面目に語ってる時点でもう全然できてないんですけど(笑)。
岡:一緒にやってても、「マジメか!」って毎回思っちゃうんですよね(笑)。逆に僕は「やりすぎだ」と言われるので。
中村:そうですね。万作先生、萬斎先生のなさっている、くだけた『咲嘩』のシテのイメージも勿論あるんですが、僕としては、岡さんが舞台上でフランクに、くだけているイメージが結構あるんですよ。『咲嘩』以外の曲目でも。そういうのもちょっとイメージしながらやっていけたらいいかなと。
岡:『咲嘩』、今回の番組的にも結構重要だよね。『水汲』と『文蔵』はそんなに笑いが…。
中村:そうですね。本当に。
岡:他2曲は大きな笑いがある曲でもなく、『咲嘩』が唯一わかりやすく笑える曲。これは中村くんがね。
中村:プレッシャーかけるね。
――今回皆さん互いにプレッシャー掛けてらっしゃいますね(笑)。
中村:プレッシャーの掛け合い。
飯田:『咲嘩』も結構大変ですよね。大曲と言うか、少なくとも長い…。
岡:長いんですよ、これも。後半は『口真似』という曲と同じ展開になりますが、そこに入るまでが、ね。
中村:うん。
岡:どの曲もそうですけど、見どころまでいかに飽きさせずに舞台をもたせるか、というのも課題だと思います。パッとすぐわかるような曲ではないので。
■内藤:予備知識なしでワハハハと笑える曲が最後にあるのはバランスがいい
内藤:岡さんはキャラクター的に、太郎冠者をやるとわりとハマると思います。そういう、演者の人柄がにじみ出るような要素が多分強いんです、この太郎冠者って。そこを真面目すぎる人がやるとどうなるのかと言うところですね。根がクソ真面目な人間が、曲を崩さずに、どこまで柔らかく味わいを出せるかというところが、一番面白いところだと思います。さっき岡さんが言っていましたが、やはり『水汲』と『文蔵』は「謡」と「語リ」を見せるものですから、そこに重きを置いてしまうので、どうしても「ワハハハ」と笑うものにはならない。ですからそういう意味では『咲嘩』は本当にわかりやすい。逆に言えば『水汲』と『文蔵』は、ちょっと予備知識があった方がより楽しめますけど、『咲嘩』は何も知らずに観に来ても理解できる、楽しめる曲ですから、そういう意味で三曲目にこの曲があるというのは、バランスがすごくいいと思います。中村さんには、はっちゃけた姿を見せて頂きたいです。
■飯田:中村さんも岡さんも素と逆みたいな配役なので、2人が苦しむ姿を楽しんで
飯田:「身乞の咲嘩」は曲中でとんでもない詐欺師と言われますが、実際にはものすごく人間ができている人なんです。私はこの人を悪いと思ったことが一度もないんですよ。その場の空気を悪くせず、ちゃんと太郎冠者も主人も立てて、その場をうまくおさめようとするシーンしかなくて、曲中でこの人が詐欺を働くことはないんです。そういう優しさもあるので、ある程度老練がにじみ出る余裕というか、いろんなものが必要になってくるのかなと思います。なので、今回中村さんも岡さんも、お互いが逆だったら、もっとうまくできるのにと思っているかもしれない配役なので、2人が苦しむ姿を楽しんでください。
――最後に、上演時間はどのくらいになりますか?
内藤:途中休憩をはさみまして、2時間20分を予定しています。
――楽しいお話、ありがとうございました。
※岡聡史さん、中村修一さん、内藤連さん、飯田豪さんの写真1カットとサイン色紙を、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは8月5日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
みなさんの演じるにあたっての心構えや、その曲が選ばれた理由や、曲の特徴や丁寧な解説が語られていて、丁寧に文字起こししてあり、お人柄や関係性もうかがえ、すごく読み応えのある記事でした。当日拝見するのがますます楽しみになりました。