2021年8月28日(土)と8月29日(日)に日生劇場で上演される、日生劇場ファミリーフェスティヴァル2021 音楽劇『あらしのよるに』に、オオカミのガブ役で出演される渡部豪太さんのインタビュー後編です。ガブとメイの物語を通して、子どもたちに伝えたいメッセージや、「目に見えないもの」への思い、最近、日本舞踊の発表会にも出られた渡部さんにバレエや日本舞踊などの身体表現への思いについても伺いました。
ーー音楽劇『あらしのよるに』では、ガブとメイが互いに相手のことを「オオカミ」や「ヤギ」であることに気づかないところから友情が始まります。このように、物語の一つのテーマとして「先入観を取り払う」ということがあるのかもしれませんが、渡部さんご自身は、ガブとメイのような経験をされたことはございますか。
例えば、道ですれ違った人に「なんで、マスクしていないの?」ってふと思ってしまうこともあるじゃないですか。その人にはマスクをすることができない事情があるのかもしれないですよね。でも、我々は自分の正義感とか価値観を、相手になすりつける。そういうところが、人間の「業」であったり「弱さ」であったりするのかなと思います。
ーーガブやメイの姿を観ることで、子どもたちは業や弱さを自分の中から取り払うようになるんでしょうか?
いや、取り払わなくてもいいと思うんです。取り払えるものでもないと思うんです。そういうものを自分が持っているということに、気付けることが大事なんです。「あなたの心の中に、そういう雲があるよ」「君が持っているその雲は、そういう色をしていて、時々雨を降らせるんだよ」と。
気づくと苦しいと思うんですよね。でも、その雲はみんな持っているもので、決して君だけの苦しみじゃないんだよということ。この舞台を通して、降り注ぐ優しい雨のような作品として、子どもたちの柔らかい心に届けたいです。
ーー前回、子どもたちの反応はいかがでしたか。
彼らの真剣な息遣いを、演じながらすごく感じました。「次、何が起きるんだろう」っていうことを、なんの先入観もなく、ただ観ている空間。我々がしていることは、とても危険なことだとも感じました。半紙に墨汁を垂らすような…。もしも、悪意を持った人間が「演じる」ということをしたら、子どもの何人かは危険なものを持ち帰ってしまうかもしれないと思いました。
ーー「危険なもの」ですか。
この作品は、それくらい刺激の強いものだと思うので、どれだけ優しく渡せるかをいつも考えていました。毒と薬は、表裏一体。私たちは、彼らに「薬」としてこの作品を渡したいんです。そしていつか、自分に必要になったときに、いつでも引き出せるように心に持っておいて欲しいんですよ。この薬を。体験って、そういうものだと思うんです。目に見えないものを、我々役者は売り物にしているんです。
<取材協力>(衣装)
UNITUS:06-6948-6093
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※アイデアニュース有料会員限定部分には、「目に見えないもの」への思い、最近、日本舞踊の発表会にも出られた渡部さんにバレエや日本舞踊などの身体表現への思いについても伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■視覚的アプローチは大切ですが、目にみえるものだけでは人は他人を信じられない
■心に染み込むには、視覚より内実に沿ったものが必要。「本当にメイを思う」とか
■日本舞踊やバレエは「目に見えないもの」をお客さまに届けるための一つの武器
■『あらしのよるに』で、みんな心に雲を持っているという気付きをプレゼントしたい
<日生劇場ファミリーフェスティヴァル2021 音楽劇『あらしのよるに』>
【東京公演】2021年8月28日(土)~8月29日(日)(全4回公演) 日生劇場
公式サイト
https://famifes.nissaytheatre.or.jp/2021arashi/
<関連リンク>
渡部豪太オフィシャルサイト
http://www.spacecraft.co.jp/watabe_gota/
渡部豪太 Instagram
https://www.instagram.com/gotawatabe/
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■視覚的アプローチは大切ですが、目に見えるものだけでは人は他人を信じられない
ーーもう少し詳しく伺いたいです。
例えば、空気って目に見えないじゃないですか。言葉もそうですよね。「熱烈」とか「激情」とか「悲恋」とか。漢字の熟語は、目に見えないものをうまく表現していますが、この世界には目に見えないものの方が多いんだと思うんですよ。月も、太陽の光の反射を見ているだけでしょうし。
ーーこの世界には目に見えないものの方が多いというのは、いつから感じられていたのでしょうか?
俳優という仕事を通して獲得した考えです。この仕事では視覚的なアプローチがとても大切なのですが、それだけでは多分足りないんですよ。目に見えるものだけでは、人は他人の表現を信じられないんです。そこに信憑性を付加させてくれるのは、香りのような目に見えないものだなと思い始めたんですよね。見ていなくても、誰かがみかんをプシュってむいたら、みかんの香りがしてくるじゃないですか。あと、コーヒーの匂いも、目に見えないのに、あんなに気持ちを安らげてくれるなあと。味も目に見えない。
■心に染み込むには、視覚より内実に沿ったものが必要。「本当にメイを思う」とか
ーー確かに、目に見えないものでこの世界は溢れていますね。
舞台は、もちろん視覚で楽しむものではあるのですが、何かを持ち帰ってもらうなどの形で、心に染み込むものになるためには、「視覚」だけを追求すると足りないと思うんです。だから、そこを信じてもらうために、我々は視覚的なものに加えて、もっと内実に沿ったものを用意するんです。
ーー「内実に沿ったもの」とは、例えばどのようなものですか。
この『あらしのよるに』でいうと、「本当にメイを思う」とか。
ーー気持ちの部分で、「本当」になるということですね。
そう、そういうことです!芝居って、おっきな嘘じゃないですか。そもそも、俺はオオカミじゃないし、とか。例えばチェーホフの『かもめ』を日本人が演じたら、それも嘘ですよね。誰一人ロシア人は出てこない。でも、みんなそれを信じて観ているのではないでしょうか。気持ちの部分でそうやって、小さな本当を積み重ねていくと、大きな嘘も本当になるんじゃないかと思います。
ーーそのような思いで、ガブを演じていらっしゃるんですね。
多分、そうやって小さな本当を積み重ねていく結果、「ガブになっちゃった」ということが起こるんだと思います。2年前も、今年の夏も。
■日本舞踊やバレエは「目に見えないもの」をお客さまに届けるための一つの武器
ーー渡部さんは、最近、日本舞踊の発表会にも出られていましたが、身体表現については、いかがでしょうか。
ダンス、すごく好きです。日本舞踊は、まだ始めてから3年くらいですが、バレエは10年ほど習っています。続けるほどに、できないことに気づいていくんですよ。身体を動かす日本舞踊やバレエを修めるということは、「目に見えないもの」をお客さまに届けるための一つの武器なのだと思っています。「何か」に近づくための、遠回りなようで一番近いアプローチなんですよね。全ては「表現」のために。時間をかけて研ぎながら形にしていきたいです。今回の、ガブ役にも繋がってくると思います。
ーー拝見するのが楽しみです。
ずーっとクルクル回ってるかもしれないですね、ガブ。あのオオカミ、なんか変だなって(笑)。
■『あらしのよるに』で、みんな心に雲を持っているという気付きをプレゼントしたい
ーー『あらしのよるに』の前回の上演は2019年でした。社会情勢の変化に伴い、持って帰ってもらいたいこと、伝えられたいことなど、変わりそうな部分はございますか。
何を持って帰って欲しいかという思いは、時世にはあまり関係ないでしょうね。でも、実際に演じていると、多分みんなありがとう、という思いが勝手に熱になってくるとは思うんです。「こんな時でも来てくれてありがとう」という思い。そして。お客様の「幕が上がるのを待っていました。劇場で観たかった」という思い。お互いのこの、見えないハグがそこで生まれると思うんですよね。最近、『レ・ミゼラブル』を観劇したときに、それを感じたんです。
ーー観客の立場で、感じられたんですね。
お客さんも演じる側も、幕が開いたという喜びがあるんですよね。一縷も台本には書かれていないことですけれども、お互いにそれだけで感極まっちゃうという感覚は、この時世柄のものかもしれないですね。ただ、それは伝えたいこととはまた別で、この『あらしのよるに』に込められたメッセージは変わらないでしょう。子どもたちに、心に雲をみんな持っているんだという気付きを、言葉と音楽と身体表現に乗せてプレゼントしたいです。
ーーありがとうございました。
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