2022年9月5日(月)に、東京で開幕する新作ミュージカル『COLOR』に出演される成河さんと、プロデューサーの井川荃芬さんの対談、後編です。「下」では、成河さんが出演された井川さんの担当作品『スリル・ミー』のこと、ダブルキャストや広報チラシについて思うことを直接言えたのは井川さんが初めてだったというお話などについて伺った内容を無料部分で紹介します。有料部分では、『COLOR』の2チームが全員で作るという稀な方法で進めている稽古場のこと、その方法を採用した理由、本作を「坪倉さんのドキュメンタリーにしてはいけない」という想い、実在する方の物語を演劇が扱う難しさや「忖度」という問題のこと、高橋さんや小山さんが脚本や演出のことでも、役者やプロデューサーの意見に耳を傾けてくださっているというお話などを紹介します。
ーーキャスティングを考えたのは、いつ頃でしたか?
成河: 2020年の夏前には、オファーをいただいていたかと。
井川:“ぼく”役のお二人と同時に、お母さん役のお二人もその時点でイメージがあり、人数が少ない作品なので、お互いの化学反応がどうなるんだろうかと、きっと一番気になるところだろうなと思ったので、そこも踏まえて成河さんにオファーさせて頂きました。
成河:「実験台にするなら、こいつ!」みたいな感じで僕に!?
井川:とんでもないです! 原作本を読み終わった時には、自然と頭の中に今回ご一緒させて頂いている4名の皆さんがいらっしゃいました。
ーーすぐに、ピン!ときた感じだったのですね。
成河:ありがたいことに、井川さんとのお付き合いはもう古くてですね。『100万回生きたねこ』(2015年)から…? 懐かしいよね。
井川:そうですね!懐かしいです。『100万回生きたねこ』の再演時、ワークショップなどを行う準備期間だけ担当し、その時が「初めまして」でした。成河さんすごかったんですよ、その時から。
成河:そこから、『スリル・ミー』だよね。
井川:そうです。出ていただくと決まるかどうか、のタイミングで、直接お話させていただきました。
成河:俺、一番トゲトゲしていた頃かな(笑)。「何でもかんでもはやりませんよ!?」みたいなツラで行って…。
井川:率直に、疑問に思っていらっしゃるところを投げかけてくださって、とてもありがたかったです。
成河:「いい男たちがいる」みたいなのを前面に押し出した広報チラシは、僕、絶対無理ですからねって言った(笑)。ちょうど演出の栗山さんが、初演の感じに戻したいともおっしゃっていて。
井川:劇場を初演時に近い、作品のエネルギーを一番感じられるサイズに戻すタイミングだったんです。ですから、成河さんとどうしてもご一緒したくて。
成河:チラシのことだったり、ダブルキャストやトリプルキャストのことなど、僕が自分の思いを直接伝えたプロデューサーは、井川さんが初めてだったと思う。
ーーえ!? そうだったのですね。
成河:いろいろとモヤモヤしてはいましたし、飲み会の場でちょい出しすることはありましたが、仕事の場で、面と向かって言えたのは井川さんでしたね。
井川:ありがとうございます。
成河:お話した時も、すごく受け止めようとしてくださっていました。もちろん、栗山さんの想いに乗っからせていただいた部分もありますが、井川さんに話せてよかったな、通じたなという感触があって。もしも、あそこで「ペしゃん」とされていたら、僕は闇堕ちしていたかもしれない…(笑)。
井川:率直にお話頂き、その上でご一緒させて頂けることになりとても嬉しかったです。でも今回も、チーム制で固定ではありますが、ダブルキャストの中、ご出演くださって本当にありがとうございます。
成河:こういうことをちゃんとプロデューサーと言え合えるのって普通なことのようで難しかったりします。もちろん、付き合いが長いし、今までの関係性もあるから言えるところもありますが。
役者も、もっと言っていいと思いますよ。「複数バージョンある」というのは、はっきり言って、僕はまっぴら御免なんです。もっと言うと、ダブルキャストやトリプルキャストにすると、作品が絶対に薄くなってしまうんですよ。
「ダブルキャストなら、一つの作品を二つの方向から観ることができる」という考え方もありますが、それを実現するためには現状では稽古時間が圧倒的にたりない。本当にそう観えるところまでもっていくには、準備に半年は必要ですから。一か月の稽古期間でダブルキャストだと、実質の稽古は2週間しかない。トリプルだと10日くらい。
ーー稽古期間が、もっと必要になりますね。
成河:最善の方法は話し合わないと見つからないので、今回は、敢えて一緒に作ることにして、ぎゅっと圧縮して稽古しています。でも多分、健ちゃん(浦井さん)もそうだと思いますが、僕もいろいろな思いを抱えています。本当に、「一つの作品を二つの方向から見る」ように作るなら、ちゃんと分断して、お互いの稽古は見合わないで、台本すらもそれぞれ全く変えられるような環境が必要だと思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、『COLOR』の2チームが全員で作るという稀な方法で進めている稽古場のこと、その方法を採用した理由、本作を「坪倉さんのドキュメンタリーにしてはいけない」という想い、実在する方の物語を演劇が扱う難しさや「忖度」という問題のこと、高橋さんや小山さんが脚本や演出のことでも、役者やプロデューサーの意見に耳を傾けてくださっているというお話などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■井川:新作を2年で作るというのは、とてもタイトな制作期間。皆さんのお陰です
■成河:井川さんの気持ちが伝わっているから「4人全員で2バージョンやろう!」と
■成河:面白さには毒も必要。「実在する方の現在進行形」の物語を演劇にする難しさ
■井川:坪倉さんご本人やご家族、担当編集の方が協力してくださり、演劇という形に
■成河:作る側が坪倉さんに忖度するのは、一番まずいこと。客席は自由に反応して
■井川:観て良かった、やって良かったと思っていただけるよう、絶対にいいものに
■成河:「うんうん」と聞いてくださるゆうなさん 井川:本当にありがとうございます
<新作ミュージカル『COLOR』>
【東京公演】2022年9月5日(月)~9月25日(日) 新国立劇場 小劇場
【大阪公演】2022年9月28日(水)~10月2日(日) サンケイホールブリーゼ
【愛知公演】2022年10月9日(日)~10月10日(月・祝) ウインクあいち
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/color2022/
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■井川:新作を2年で作るというのは、とてもタイトな制作期間。皆さんのお陰です
ーー2チームが、一緒に話し合いながら作っているというのは、珍しいなと思いました。
成河:別々に作るには、1ヵ月では無理だと判断しました。稽古しながら台本を作り、深めていくという進め方なので、作品作りの前の創作の段階もあるんです。そしてホリプロさんは今回、小劇場を選んでいるわけです。集客や、入場料収入などを考えると日本の演劇制作環境では工夫が必要だから、もちろんいろいろと考えられた上で、今回の形になっているのだと思います。だからこそ、井川さんみたいに、こっちはこっちで、言うべきことは言いながらも、一緒に「最善」を探せる相手が絶対に必要になるんです。正解や答えはないものだとは思いますが。
ーー言いたいことが言える、とても健全な場なのですね。
井川:みなさんには、苦しい思いをたくさんさせてしまっていると感じています。新作を2年で作るというのは、そもそもとてもタイトなことですから。本来なら、最低3〜4年かけられたらベストだと思うのですが、この制作期間でできる最善の道を辿りたいと思っているのですが、本当にありがとうございます。
■成河:井川さんの気持ちが伝わっているから「4人全員で2バージョンやろう!」と
成河:でも、その気持ちがみんなに伝わっているから、「じゃあ、4人全員で2バージョンやろう!」という流れに、自然になったのだと思います。現場は正論では動きませんし、エネルギーの消耗が激しくなるから、こういう作り方を選択するのは稀です。
知恵を合わせながら、僕が別チームの役にも意見を言って、健ちゃんも言う。僕と健治は仲がいいし、何でも喋れる間柄ですが、「もっと好きにやらせてあげたい」とお互い思っています。そういう思いを抱えながらの稽古場ですが、良くも悪くもこの作り方が、今回の作品の個性にはなりそうです。
■成河:面白さには毒も必要。「実在する方の現在進行形」の物語を演劇にする難しさ
ーーいろいろな思いが込められた挑戦作でもあり、普段ミュージカルや舞台を観ないというような方にも観ていただきたいですね。
成河:題材面でも、すごく難しいことをしています。「実在する方の現在進行形」って、演劇はあまり題材として選ばないんですよ。実在の現在進行形の人に対して、作品が毒を持つのは非常に困難です。一方で、毒のない作品はあまり面白くなくなる。この作品には、極端に毒々しいところがあるわけではないので、人間の表面だけではなく、より深く、いろいろなところをを感じてもらいたいです。「坪倉さんがこうでした」って伝えるのではなく。
■井川:坪倉さんご本人やご家族、担当編集の方が協力してくださり、演劇という形に
井川:そこが難しいと私も思っています。今回、ご本人やご家族、編集の方が、とても協力してくださっているんです。制作過程で色々とご相談をさせて頂きながら、ドキュメンタリーではなく演劇作品として描くべく、フィクションの要素も入っています。
■成河:作る側が坪倉さんに忖度するのは、一番まずいこと。客席は自由に反応して
成河:一方で坪倉さんの中での、「いい」「だめ」という基準は、全部はっきりわかるわけではないんですよ。そうなると何が起こるかというと、作る側が少しずつ坪倉さんに忖度してしまうんです。これが、一番まずいこと。でももちろん、傷つけるような表現をするのは、絶対に違う。だから忖度せずに実現できるところを、全員で探しています。特に脚本家は、一番大変だと思います。「私はやっぱり、ちょっと忖度して書いてしまいました」と、知伽江さんは正直におっしゃっていましたが。
井川:本当に考え抜いて脚本を創り上げてくださっています。
成河:知伽江さんは、「どうしましょう?」と、みんなに問題を開いてくださったので、役者だけでなく、井川さんも登場して、みんなで「ちょっとキツイことも言いますけどいいですか?」とか言いながら、一つずつ解決しています。実在の人を描くので、どうしても、観客側の「悪く言っちゃいけない」みたいな気持ちもわかるんですよ。日本人って特にそうだと思いますし。「これを悪く言ったら、俺が悪者になるんだろうな」みたいな。
そうなると、客席に対して、すごく不自由なことをさせることになるなと。でも、坪倉さんたちを守らなきゃいけないのは、間違いなく、僕たちの役割なんです。どんなことがあっても守ります。でも、お客さまには、それを超えた自由を与えたいです。ホリプロさんに、正直な感想を送っていただいたらいいのかな…井川さんは絶対に全部読むから。
■井川:観て良かった、やって良かったと思っていただけるよう、絶対にいいものに
井川:「○○を感じてください」と押し付けるようなものにしたくない、と思っています。何も感じないという方もいらっしゃると思いますし。同じ時代を生きている方を題材にさせて頂いているからこその難しさもありますが、一方で、演劇という形になることで、普遍的なものになるのでは、とも思っています。映像だと第三者の物語として見てしまうことも多いですが、演劇は、演じる方のエネルギーを生で感じることで、ご自身の物語として捉えていただけるかもしれない。自分が演劇の好きなところは、没入して、劇場空間でエネルギーと一体となり、作品が完成するところです。
成河:目指したいのは、今、井川さんがおっしゃったところなのですが、それはとても困難ですし、俳優にとっては、とても大きなチャレンジでもあります。一つの役をお客さまに見せるだけではなく、そこを超えていかねばなりませんから。つまり、作品が、「坪倉さんやご家族は、こういう人たちです」という情報になってしまうと、お客さまはそれを批判できなくなってしまいます。そこを超えるために、役者たちがそれを探しているのですが、ものすごく大冒険です。成功しなかったら、役者のせいだから!(笑)。プロデューサーは、そう思っていいんですよ。
井川:とんでもないです。いい作品、という表現は非常に難しいですが、とにかく今は、絶対にいい作品にしなくては、という責任を感じながら日々、稽古場で皆さんと一緒に創らせて頂いています。ミュージカル化を許諾してくださった坪倉さんやご家族、一緒に作品をやろう、と船に乗ってくださったカンパニーの皆さん、そして、観てくださるお客様にCOLORのために時間を割いて良かった、そう思っていただけるように頑張らねば。
■成河:「うんうん」と聞いてくださるゆうなさん 井川:本当にありがとうございます
成河:今回稽古場でも、役者とプロデューサーが「最後はこうなるといいね」って、今みたいに好き勝手しゃべっているけれど、これはすごいことだと思います。僕らの10倍も100倍も、ゆうなさん(小山さん)は考えていらっしゃるのに、こっちの言うことにも耳を傾けてくださって。普通は、演出家にとっては、そんなの「ペしゃん!」ですよ。でも、ゆうなさんは、「うんうん」って聞いてくださいます。本当にうるさい奴ばかりなのに…。
ーーゆうなさんの、度量の大きい環境だからこそなのですね。
成河:本当に大きい方です。今こうやってしゃべっていても、常に、ゆうなさんと一緒にしゃべっている気持ちでいられます。隠れてコソコソしなくてよくて、こっちはどんどん調子に乗るわけ!(笑)。どんと、胸を借りていきます。
井川:役者さんは、ご自身の身体を通して演じられるので対話は絶対的に必要だと思います。私は、外部人間なのに、横から色々と…。ゆうなさん、本当にありがとうございます!
※成河さんのサイン入りチェキを、有料会員1名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは10月4日(火)です(このプレゼントの募集は終了しました)。有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
成河さんの演劇への鋭い視線を感じられる対談で読み応えがありました!
そんな成河さんがいらっしゃるからこそ、COLORはあんなに素敵でリアルな感情が伝わってくるミュージカルになったのかもしれないなと読みながら感じました。
プロデューサーと役者が意見を出し合いながら、最善を模索するお稽古の現場が、創造的でとても興味深く思いました。2チームが話し合いながら詰めていったそうで、とても幸せな舞台だと感じました。初日に舞台を拝見しましたが、丁寧に練り上げられた舞台に、感動の強制ではなく、自分の生き方を肯定して日々感謝して生きたいという前向きな気持ちになり、優しい空気にまとわれているようでした。