「曲がらずに逃げずに、まっすぐ生きたいと思って」、『砂の城』池田純矢(下)

池田純矢さん=撮影・NORI

2022年10月15日(土)から10月30日(日)まで、東京・紀伊國屋ホールで、2022年11月3日(木・祝)から11月13日(日)まで、大阪・ABC ホールで上演される、エン*ゲキ#06即興音楽舞踏劇『砂の城』の作・演出・出演を務める池田純矢さんのインタビュー後編です。「下」では、『砂の城』は、ご自身のお話であるということ、池田さんが考える「芸術」のこと、30代を迎える節目に思うことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

――『砂の城』は「準備期間含めて、長い間あたためていた作品」だそうですね。

ストーリーはそうですね。物語にするつもりはなかったというか…。言うなれば自分自身の話なので。

――池田さんご自身のお話なのですね。

僕はファンタジーが好きで、エンターテインメントが好きで。これまでずっと、そういうものを作るのが好きだと思っていたんです。僕の中のトップオブトップは、クリストファー・ノーランで「ノーランのような作品を作りたい」というのが、僕自身のひとつの「核」なんです。『-4D-imetor』(2021年)は、やりたい方向をすごく突き詰めて書けたので「よく書けたかな」と自分ではひとつ納得だったんです。ただ、「その次に何をしよう」と思ったときに「簡単なもので挑むことができない」と思ったのと、自分のそのときのいろんな心境や環境の重なりもあって、すごく人生のどん底にあったんです。

そんなときに、「どん底の自分。どん底を経験した自分は、いま一番に何を現実として受け入れて、リアルとして描けるだろう」と思ったときに、やっぱり「負の感情」だったんですね。今まで僕は、それを板の上に乗せたり本にするのは、はばかられると思っていたし、自分自身の超個人的な痛みなので「人に見せるもんじゃない」とも思っていたんです。それを切り売りしている人のことを見て「ダセェ」とも思ってました。

――そうだったんですね。しかし『砂の城』という作品が産声をあげました。

なんか、考えが変わったんです(笑)。「長い間あたためていた」という言い方はちょっと違うのかもしれないですが、長い間ずっと、自分の中にくすぶっていたもの。もしかしたら、どこか心の奥底で描きたいと思っていたかもしれない自分の醜い部分。そういうものを表現として生み出したときに、「芸術」になるんじゃないかなと思ったんです。

僕は「芸術」という分野が大好きなんですが、今まで作っていた作品が、果たして「芸術的か?」と言われると、そうではないと思います。じゃあ「芸術とは何だ?」という話になってしまうと、話が長くなりすぎるので割愛しますけど、とにかく自分も「芸術に向き合うべきだよな」という気持ちがありました。多分きっと、もう二度と書かないし、二度と書けない。これを上回る自分自身の話は絶対にないと思えるほど、自分自身の塊のようなストーリーになりましたが、自分の中での「芸術」とは、やはりすごく個人的なものだったのかなと思うんです。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、池田さんが考える「芸術」のこと、30代を迎える節目に思うこと、お客さまへのメッセージについて伺った内容など、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■突き詰めたときの「己」というものの表現こそが、「芸術」たり得るんじゃないか

■今回の物語に、自分自身は「一秒たりとも出たくない」というのが本音だった(笑)

■これからは傷ついてもいいし、傷つけてもいいから、まっすぐ生きたいと思った

■偽物なんて1個もなく、「本当に上質な本物」だけの空間を、今作っている最中

<エン*ゲキ#06即興音楽舞踏劇『砂の城』>
【東京公演】2022年10月15日(土)〜10月30日(日) 紀伊國屋ホール
【大阪公演】2022年11月3日(木・祝)〜11月13日(日) ABC ホール
公式サイト
https://enxgeki.com

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池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

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■突き詰めたときの「己」というものの表現こそが、「芸術」たり得るんじゃないか

――「芸術」は個人的なもの、というのはどういうことですか?

大衆的なもの、共感的なものは「芸術」になり得ないというか、なりづらいと思うんです。例えば絵画にしても、音楽にしてもそうですし、やはり突き詰めたときの「己」というものの表現こそが「芸術」たり得る。「個」であればあるほど「全」に向く、というか。それが「芸術」なのかなと自分の中でなんとなく思っていて。だとするならば、本当に一字一句、一瞬たりとも作り物じゃない、偽物じゃない、想像でも妄想でもない「本当の自分のリアルを全てのせる」という、超個人的な話をみんなでやろう、というのがこの作品なんです(笑)。

――台本を読ませて頂いて、これまでの「エン*ゲキ」シリーズとは明らかに異なる印象を受けました。

ぜひ本番を見ていただきたいのですが、今までと違うのは、今回台本に「本当の言葉」はほとんど書いていないんですよ。

――そのように感じました。物語の中でサブテキストの占める割合が多いですね。

そうですね。全て裏側であったり横側であったり。台詞はあくまでもガイドとして表面的な部分だけをなぞっています。今までは多分、本で読んだときにも、普通に小説みたいに理解できるように書いていたんです。でも今回は、やっぱり本じゃなくて、リアルに生きているものだからこその表現たり得るものをしたくて。なので、台詞はすごく薄っぺらいですよね(笑)。

――本番で、台詞がないときの空気感を含めて観ないと、本当のところは感じられないと思いました。

今回は、「本」として完成しているということよりも、余白があって、演出でどうとでもできるもの、演出込みの表現をするための「本」になっています。そういう意味では、僕は初めて「舞台の戯曲」というものを書いたのかもしれないです。

池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

■今回の物語に、自分自身は「一秒たりとも出たくない」というのが本音だった(笑)

――以前お話を伺った際に「エン*ゲキ」シリーズでは「自分が演ろうと思っている役はできないんです」と仰っていましたが、今回はいかがですか?

今回はキャスティングする段階で、自分が出演するとしたらと考えたときに、本当のところ、今回の物語はもう「一秒たりとも出たくない」というのが本音だったんですけど(笑)。

――ご自身のリアルを全てのせた作品なだけに…、ですね。

なので、どの役もやりたくはなかったんです。他のキャラクターは、もうほとんど全て自分の感情で書いていますが、「ゲルギオス」はそんなに自分を投影していないつもりで書きました。出番数であったり、ポジショニングなど、いろんな現実的なことを考えたときに、僕が「ゲルギオス」がいいだろうなと思っていたので、そのまま「ゲルギオス」をやるという感じでしたね。

池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

■これからは傷ついてもいいし、傷つけてもいいから、まっすぐ生きたいと思った

――『砂の城』の東京公演中に、30歳のお誕生日を迎えられます。20代最後の作品であり、30代最初の作品になりますね。

そうですね。でも20代最後にもピンとこないし、30代にもピンとこない。感慨とかは全く何もないです。でも、まっすぐ生きていたいと思います。僕は幼い頃から家庭環境も複雑で普通ではなかったので、そういう育ちがあって「まだ子供かよ」というぐらいの若いときに、東京に出てきて1人暮らしを始めて大人になりました。友達も居なくて学校にもろくに行っていない。でも生きていかなきゃいけない、というそんな中で、ねじ曲がってひん曲がって、ものすごく汚い生き方をしていたんです。そんな自分がずっと嫌いで嫌だったけれど、そこから抜け出せなくて。

でもあるとき、本当の意味でどん底というものを経験して、「これからは傷ついてもいいし、傷つけてもいいから、まっすぐ生きたい」と思ったんです。その1本目がこの『砂の城』だと僕は思っているんです。何も包み隠さず正直にというのは、めちゃくちゃ怖いですし、すごく恐ろしいことだと思っているんですけど、それでもいいから、曲がらずに逃げずに、まっすぐ生きてみようと思い立って、まだ本当に赤ちゃんぐらいなので、先のことはわからないですね(笑)。

――「まっすぐ生きたい」その1本目と仰る通り、今お話頂いた言葉の数々が、本当に『砂の城』の中に散りばめられていますね。

そうですね。

――昨年はドラマ『腐男子バーテンダーの嗜み』で監督デビューされました。今後映像のクリエイションも続けていかれるのでしょうか?

もちろんお話をいただければ、いつでもやるつもりです。テレビの脚本もやりますし、別にそこに垣根はないというのは昔から変わらずです。でもやるとなったら、ちゃんと勉強しますから、勉強することが増えるな、という感じです。

池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

■偽物なんて1個もなく、「本当に上質な本物」だけの空間を、今作っている最中

――お客さまへメッセージをお願いします。

今までは「観に来てください」とか「ハッピーを届けます」とか、わかりやすく言えたのですが、今回にいたっては、僕自身がまだお客さまのことを思えていないんです。多分きっと、初日が開く頃には、お客さまの方を向けるのだろうと思うんですが、まだガクガクブルブル震えながら必死に作って積み上げてと、そういった状態です。

ただ、嘘偽りのない本物だけ。偽物なんて1個もなく、本当に上質な本物だけの空間を作る。それしか方法はないと思って、今それを作っている最中です。幕が開く頃、きっと完成していて、ようやっと初日にお客さまの方を見て「こんなもん作りましたが、いかがですか?」とお伺いを立てられるのかなと思っています。

池田純矢さん=撮影・NORI
池田純矢さん=撮影・NORI

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“「曲がらずに逃げずに、まっすぐ生きたいと思って」、『砂の城』池田純矢(下)” への 1 件のフィードバック

  1. さく より:

    舞台砂の城観劇しました
    生々しいという印象を受けるほどに人間を感じる作品でした
    記事内にあるような己の表現、本物をという部分がこの生々しい人間らしいという印象に繋がるのでしょうかね
    出たくないと思うのはきっとそれほど内臓を見せてくれてるのでしょうね
    そんな作品を観ることが出来た出会うことが出来たことに感謝です

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