震災から5年の福島へ(上) 失われた命と今も待ちつづける命

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東日本大震災発生から丸5年となる2016年3月11日、福島へ2泊3日の旅に出ました。福島県二本松市に住む詩人、関久雄さんの案内で3月12日からスタディツアーがあり、それに参加することと、前日の11日に東京の祖師谷大蔵で行われていた写真展「のこされた動物たち~福島第一原発20キロ圏内の記録」に行くことが、旅の目的でした。記事の第1回は、写真展の報告になります。

2016年3月10日~13日 太田康介さんの写真展

2016年3月10日~13日 太田康介さんの写真展

フリーランスフォトグラファーの太田康介さんは、震災直後から今にいたるまで、福島第一原発20キロ圏内にいる猫のために、給餌活動や保護活動を続けておられます。私も2015年から2度、太田さんに同行して、楢葉町や浪江町、富岡町などを訪れました。その時の報告は、アイデアニュースの記事になっていますので、ぜひご覧ください。太田さん関連の記事一覧は ⇒ここをクリック

犬や猫のようなペットも、牛や馬、豚、鶏といった家畜たちも、人とともに生きてきた動物たちです。人間に餌をもらっていた動物たちが、震災と、それに続く原発事故で無人になってしまった町でいったいどうしているのか。太田さんはいてもたってもいられない思いで活動を始めます。震災から3年くらいは、ほぼ毎週のように福島に通い、「フォトグラファーとして出来ること」つまり写真を撮って、20キロ圏内でおきていることの記録を残すことに力を注いでこられました。今回の写真展でも、見るのが辛いような写真がいくつも展示されていました。

双葉町の道路で死んでいた猫の体を、わきに移動させると、残った猫の影

双葉町の道路で死んでいた猫の体を、わきに移動させると、残った猫の影。この子が生きていた証しのようです=撮影・松中みどり

太田さんは、2011年に「のこされた動物たち 福島第一原発20キロ圏内の記録」を、続いて2012年に「待ちつづける動物たち 福島第一原発20キロ圏内のそれから」という写真集を出されています。水を求めて用水路に落ちた牛、猪を獲るための罠につかまって足を失っても仲間の犬たちを守っているリーダー犬、地震で破壊された町の瓦礫のなかでなんとか生きている猫・・・その場にいて、無力な自分を叱咤しながらシャッターを切った太田さんの気持ちを思うと、悲しい写真もしっかりと見なければならないと思いました。

写真をバッグにした太田慶介さん=撮影・松中みどり

写真をバッグにした太田慶介さん=撮影・松中みどり

2016年3月11日2時46分、展示されている1枚の写真の前で黙祷しました。太田さんの写真は何度も拝見していますし、本も全部持っているのに、この日は特別な感慨を覚えた一枚の写真があります。

「来てくれた!」と題された写真=撮影・松中みどり

「来てくれた!」と題された写真=撮影・松中みどり

「来てくれた!」と題されたこの犬の眼差し。置いてきぼりにされて、過酷な日々を過ごしても失われなかった人間への信頼。太田さんの写真集、「のこされた動物たち」には、この犬についてこう書かれています。

『原発から20キロ圏内の車がほとんど通らない交差点に、一匹の犬がいました。私に気づくと、彼は自ら近づいて来ました。誰かに飼われていたのでしょう。首輪もしっかりしています。持参したドッグフードを差し出すと、食べるには食べますが、人恋しいのでしょう。それよりもスキンシップを求めてくるのです。

「ほらほら、こっちはいいから早くご飯をお食べ」

そう言って器を差し出しても、人間の方がいいのです、嬉しそうに耳をぺたんと寝かせて、なでてなでて、と目で訴えかけてきます』

頭を垂れて祈りました。この5年間で命を落とした動物たちに、震災から5年たっても、今も取り残されている犬、猫、牛たちに。何が出来るのかを考えながら祈りました。

2016年3月11日午後2時46分、あの震災から丸5年、祈るしかない筆者です=撮影・太田康介さん

2016年3月11日午後2時46分、あの震災から丸5年、祈るしかない筆者です=撮影・太田康介さん

太田さんをはじめ、今も給餌ボランティア活動を続ける方々や、写真展に協力されている人たちがおられるのが救いです。今回の写真展、会場は、その名もGallery paw pad・肉球画廊さん。世田谷区の小田急線祖師ヶ谷大蔵駅、ウルトラマン商店街の中にある小さなスペースです。東日本大震災被災動物ボランティアの経験のあるオーナーが、何か出来ないかと思ったのがきっかけで開いたギャラリーなのだそうです。

震災と、それに続く原発事故という未曽有の事態に、ペットや家畜のことよりもまず人の命を優先した・・・百歩譲って仕方なかったこととしても、その後何年も、動物たちへの公的なレスキューがおこなわれていないのはどういうことでしょうか。愛され、家族のように暮らしてきた犬や猫や鳥、魚。人間の役に立つために生まれ、精一杯生きていた牛、馬、豚、鶏。ただ、見殺しにされた命と、今も待ちつづける命。私たちは、震災から5年を機に、もう一度考えなければならないのだと思います。

写真展を後にした私は、翌日からのツアーに備えて福島に向かいました。次回の記事は、その旅の報告になります。太田康介さんがシャッターを押したときの辛さには、比べるべくもありませんが、このような写真を撮ることになる旅でした。

2016年3月12日・飯舘村にて=撮影・松中みどり

2016年3月12日・飯舘村にて=撮影・松中みどり

<関連サイト>
太田康介さんのブログ「うちのとらまる」 → http://s.ameblo.jp/uchino-toramaru/

gallery paw pad・肉球画廊 → http://blogs.yahoo.co.jp/gallerypawpad

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■太田さんはイラストの腕もなかなかです

■将来の自然災害に備えて

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■太田さんはイラストの腕もなかなかです

写真展では、太田さんの写真集が販売されていました。ギャラリーに来られた方は、熱心に見ておられました。本を買った人にはサインの代わりに太田さん直筆のイラストがついてきます。

「のこされた動物たち 福島第一原発20キロ圏内の記録」

「のこされた動物たち 福島第一原発20キロ圏内の記録」2011年発行

「待ちつづける動物たち 福島第一原発20キロ圏内のそれから」

「待ちつづける動物たち 福島第一原発20キロ圏内のそれから」2012年発行

「しろさびとまっちゃん」2015年発行

「しろさびとまっちゃん」2015年発行

太田さんの写真集はすべて持っているので、この日はポストカードを購入、袋に太田さんのイラストを書いてもらうことになりました。

イラストを描く太田康介さん=撮影・松中みどり

イラストを描く太田康介さん=撮影・松中みどり

ポストカードと、太田さんのイラストはこんな感じです。

太田さんのイラストと、ポストカード=撮影・松中みどり

太田さんのイラストと、ポストカード=撮影・松中みどり

■将来の自然災害に備えて

「福島県農業総合センター畜産研究所」によると、2011年2月、福島県では乳用牛17,100 頭、肉用牛74,200 頭 、豚184,200 頭、ブロイラー1.109 千羽 、採卵鶏5,807 千羽などの家畜が飼育されていました。また、「一般社団法人 愛媛県開業獣医師会」によると、福島県で登録されていた犬の数は2011年で 102,334 頭 。猫には登録制度がありませんが、日本ペットフード協会の調査では、猫の飼育数は犬の約 85%と推察されるそうです。そうすると猫の飼育数は約87,000頭となります。

家畜の大半が過酷な状況の中で死んでいきました。また殺処分された家畜も多い。ペットに関しても、もとの飼い主のところで暮らしている犬や猫はまだまだ少ないのです。失われた命に対して、私たちは、頭を垂れて祈る以外に、するべきことがあると思います。この教訓を生かして、将来の災害に備えなければなりません。ペットとの「同行避難」が当然であるという意識を、常日頃からもっておくことが大切です。

2013年、環境省は「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を出しています。→ https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/ippan.pdf

つまり、政府レベルで「同行避難」が推奨されているというわけなのです。しかし、現実問題として、災害時の避難所で、犬や猫の受け入れ態勢がどれほど整っているかは、自治体によって、災害の規模によって大きく異なっています。ペットを家族の一員として愛している私たちが今すぐ出来ることがあります。

環境省のガイドラインからいくつかご紹介しましょう。

◎災害に備えたしつけと健康管理の例
犬の場合
●「待て」「おいで」「お座り」「伏せ」などの基本的なしつけを行う。
● ケージ等の中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく。
● 不必要に吠えないしつけを行う。
● 人やほかの動物を怖がったり攻撃的にならない。
● 決められた場所で排泄ができる。
● 狂犬病予防接種などの各種ワクチン接種を行う。
● 犬フィラリア症など寄生虫の予防、駆除を行う。
● 不妊・去勢手術を行う。
猫の場合
● ケージやキャリーバッグに入ることを嫌がらないように、日頃から慣
らしておく。
● 人やほかの動物を怖がらない。
● 決められた場所で排泄ができる。
● 各種ワクチン接種を行う。
● 寄生虫の予防、駆除を行う。
● 不妊・去勢手術を行う。

◎ペット用の備蓄品と持ち出す際の優先順位の例
優先順位1 常備品と飼い主やペットの情報
● 療法食、薬
● フード、水(少なくとも5日分[できれば 7 日分以上が望ましい])
● 予備の首輪、リード(伸びないもの)
● 食器
● ガムテープ(ケージの補修など多用途に使用可能)
● 飼い主の連絡先とペットに関する飼い主以外の緊急連絡先・預かり
先などの情報
● ペットの写真(携帯電話に画像を保存することも有効)
● ワクチン接種状況、既往症、健康状態、かかりつけの動物病院など
の情報
優先順位2 ペット用品
● ペットシーツ
● 排泄物の処理用具
●トイレ用品(猫の場合は使い慣れたトイレ砂)
● タオル、ブラシ
● おもちゃ
● 洗濯ネット(猫の場合)など

被災地では、愛するものを見捨ててきたという思いが、助かった人たちの胸に消せない傷を残していました。一緒に逃げられた場合でも、十分な準備がなかったために、ペットが病気になったり亡くなったりしたケースがあったと聞きます。必ずどこかで起きる「次の」災害に備えることが、命を落とした動物へ、私たちの果たすべき責任であり、未来への約束ではないでしょうか。

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