「ひとりひとりの事情に向き合って」、たらちねクリニック・藤田操院長インタビュー

クリニックのいつもの席に座る藤田操先生=撮影・松中みどり

2017年11月12日から3日間、福島県を訪れました。まずはいわき市小名浜へ。6月に開設されたばかりの「たらちねクリニック」院長に、筆者の敬愛する医師であり旧友である藤田操さんが就任したので、お話を聞いてきたのです。2011年の福島第一原発事故直後から、いわき市の放射線量測定などの活動を続けてきた認定NPO法人「いわき放射線市民測定室たらちね」が開設したクリニック。原発事故から6年、甲状腺検診や予防接種などを中心に、全身の放射能測定(ホールボディカウンター)や尿のセシウム測定なども出来ます。日本で初めての、市民が運営する放射能測定室併設型クリニックで働く藤田さんの思いを中心にレポートします。

クリニックのいつもの席に座る藤田操先生=撮影・松中みどり

クリニックのいつもの席に座る藤田操先生=撮影・松中みどり

――クリニックを半年経験して、始めに思っていたのと違うなあということはありましたか?

もっと孤軍奮闘するんじゃないかなと思ってたんだけど、近隣のドクターの応援がもらえてよかった。近くの病院がレントゲンやCTを撮らせてくれて、「こういうクリニックが必要だとずっと思ってました」と言ってくれる人もいて。

――へえ、自分もこうした活動をやりたいと思っていた先生が他にもいたんですね。

快く協力してくれます。もちろん、「やってもしょうがないよ」とか「今さらやらない方がいいんじゃない」という人もいますけど、まあ色々ですね。あと、ここでは甲状腺の吸引細胞診をやっていて、それは他の病院ではあまりやっていないことなんだけど、島根県からはるばる来てくれた専門の先生がノウハウを教えてくれました。

――甲状腺に結節が見つかったら、ここで吸引する?

ここでやります。検査は業者に委託して、結果が来たらまたここで患者さんに説明します。

――もっとも力を入れてやりたいことは、やっぱり甲状腺検診ですか?

そうですね。子どもだけでなく、たくさんの人に来て欲しい。甲状腺検診は子どもには最低1年に1回受けてもらいたいんだけど、福島県の検査は、2年に1回なんですよね。それと、ここに来る人たちが一番ききたいのは「日常の食べ物」についてで、それも一概には答えられないんです。住んでる場所や家族構成などによって違うから。じっくり話を聞いて、患者さんの不安に応えたい。それって、金勘定じゃなくてやっているNPO開設のクリニックだからこそ出来ることですよね。

たらちねクリニックの中は子どもたちが安心できるようなデザイン=撮影・松中みどり

たらちねクリニックの中は子どもたちが安心できるようなデザイン=撮影・松中みどり

藤田操さんと筆者は、フィリピンのピナツボ火山噴火の被災地支援を通して知り合いました。フィリピンの貧困地域で働いたこともあり、東日本大震災後は福島に移って病院勤務のかたわら「いわき放射能市民測定室たらちね」でボランティアを続けた藤田医師。最近まで、子どもたちの保養先である沖縄県・久米島で勤務していた藤田さんほど、たらちねクリニック院長にピッタリな人は他にいないと、あらためて確信しました。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、出張検診は具体的にどのように行われているのか、患者さんの多くが気にしているのは何なのかなどについて伺った藤田操さんインタビュー後半の全文と写真、たらちねクリニックが進めている「子どもドック」を紹介しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■検診とか健康相談とか、いろんな機会があることが大切

■「きっと何事もないだろうから検診を止めましょう」は、おかしい

■検査を受ける弊害はない。レントゲンみたいな放射線じゃないから

■保険適用されない「子どもドック」を無料提供するため、力を貸して

■患者さんや家族と向き合って、丁寧に話をして不安を軽減していきたい

<たらちねクリニック>
住所: いわき市小名浜花畑町11-3 カネマンビル3階
電話:0246-38-8031 FAX:0246-38-8322
【診療科】内科・小児科【診療内容】予防接種、甲状腺検診、健康診断各種、こどもドックなど
【診療時間】月~金
9:00~12:00(受付8:30~11:30)
14:00~17:00(受付13:30~16:30)

<関連リンク>
認定NPO法人 いわき放射能市民測定室たらちねホームページ
https://tarachineiwaki.org/
Facebookページ
https://www.facebook.com/tarachineiwaki/
たらちねクリニック活動紹介のページ
https://tarachineiwaki.org/feature/clinic.html

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◆たらちねクリニックでは、新たな試みとして無料の「たらちねこどもドック」を計画しています。以下の動画をご覧ください。

詳しくはこちらのページをご覧ください
https://www.actbeyondtrust.org/campaign/donation/tarachine/dock/

※ここから有料会員限定部分です。

■検診とか健康相談とか、いろんな機会があることが大切

――たらちねでは、クリニックだけではなくて、各地に出かけて「出張検診」をしているんですよね?

そうそう、結構いろんなところに行きますね。来てほしいとお願いが来ることもあるし、ここまで来るのが大変な人とか、近くまで来てくれるなら受けてみようかという人もいるからね。つい最近もこの地域の集会所に行って、近所の人に話をしたところです。血圧の話とか一般的な医療の話もしてきました。

――クリニックが出来たけれど、今後も出張形式は続けていくということ?

そうですね。やっぱりたくさんの人に受けてもらいたいからね。久米島での保養の時にも検診とか健康相談とかやっているし、いろんな機会があることが大切。僕だけでなく、ほかにもいろんな先生がボランティアで協力してくれてます。

デジタル超音波画像診断装置 購入には未来の福島こども基金などいろいろな市民団体の協力があった=撮影・松中みどり

デジタル超音波画像診断装置 購入には未来の福島こども基金などいろいろな市民団体の協力があった=撮影・松中みどり

■「きっと何事もないだろうから検診を止めましょう」は、おかしい

――出張検診のときは、この立派な超音波画像装置を持っていくの?

いや、それは置いてく(笑)。もう少しコンパクトなポータブルの機械と、折り畳みのベッドも持っていく。検診しながら、いろんな健康相談、医療相談なんかもできるから、多くの人に来てもらいたいですね。検診活動はこれからも続けていく必要があると思う。

何事もなかったらそれでいいわけで、「きっと何事もないだろうから検診を止めましょう」というのは論理がおかしいと思う。例えば、チェルノブイリの事故に比べて、放出された放射線の量が少なかったとか、癌の発生率が低いとか、いろんな言い方をされるけど、福島の人たちにとっての基準は、あくまでも福島第一原発事故の前なんです。チェルノブイリでも、核実験後の数値でもない。

事故の前と今を比べて不安になったり、健康被害を心配するのは当然だから、検診を受けたり、隣の測定室で放射能の数値を測ったりするのは、必要なことだと思う。

――患者さんひとりひとりの事情が違うから、向き合ってじっくり話を聴くのが大事だということを藤田さんがどこかで書いていたけど。

クリニックに来る患者さんの多くはこどもたちで、お母さんが連れてくるんだけど、やっぱり一番気になっているのは日常の食べ物のことですね。例えば畑で作ったものを食べさせてもいいかとか。それは、住んでいる場所や家族構成や、いろんな事情で違うから一概には言えない。その人によって、微妙に説明が違ってきたりします。心配症な感じの人には優しく話す方がいいなとか、この人にはちょっと厳しく話した方がいいなとか。

甲状腺検査もエコーをやりながら話をするし、説明は時間をかけますね。食べ物は、測定室が隣にあるから、持ってきてそっちで測ってもらうように伝えるし。漠然と不安があって、自分だけではどうしていいか分からないというのが、ここに来たら話を聞いてもらえて、データもちゃんともらるわけで、単に検診をするというだけじゃない。ひとりひとりの事情に丁寧に向き合って、不安を軽減してあげたいですね。

――病気を見るんじゃなくて、その人全部を見る。藤田先生にぴったりなお仕事ですね。

医療ってもともとそういうものだったんじゃないかな。ここはNPO法人が運営するクリニックだからね。普通の病院だと、経営面を考えないといけないから、切り捨てられてしまう部分を、金勘定じゃなくてやれるのがいいところですね。

たらちねクリニック院長藤田操さん=撮影・松中みどり

たらちねクリニック院長藤田操さん=撮影・松中みどり

■検査を受ける弊害はない。レントゲンみたいな放射線じゃないから

――ちょっと前に、子どもたちの甲状腺検診をあんまりひんぱんにやり過ぎない方がいいんだという話が広がっていたような覚えがあるんだけど、あれはどういうことなのかな。

それは、甲状腺は悪性度が低いと言われているんですよ。急激には悪くならない。実際、別の病気で亡くなった人を調べると実は甲状腺癌も持っていたということはよくある。男性だったら前立腺癌もそうですけど。だから、福島で甲状腺の検診をやってすぐ手術をしたというのは、見つけなくてもいい癌と言うか、もともとある癌を見つけて手術したんじゃないかという推論。つまり、検診自体が心配や不安をあおるだけだから必要ないという意見。

でも、そこでまた矛盾があって、じゃあ100人、200人近くになる手術した子たちっていうのは手術しなくて良かったケースなのかというと、決してそんなことはない。どうしても必要だから手術になったんです。一方で検診は必要ないということになると、大きな矛盾ですよね。

――普段は小さい子の甲状腺検診はやらない?

事故後に生まれた小さい子でも、希望があれば検査をします。いろんな意見とか思惑とかあるんだろうけど、僕は、今後も甲状腺の検診を続けていかないといけないと思っているんです。

――私は素人だけど、自分が癌患者なので、検診自体がしんどかったり、痛かったり、お金がすごくかかったりすると、受けるのはいやだなという気がする。でも、甲状腺はエコー検査だから、そんなにしんどいわけではないよね?

甲状腺の検査? 痛くもかゆくもないよ。くすぐったがる子どもたちは多いけど。

――特に、子どもが何回も検査を受けることによる弊害はない?

ない。レントゲンみたいな放射線じゃないから、被ばくするわけではありません。妊婦さんにもやってるくらいだしね。大きなのう胞や結節など見つかったときに受ける細胞診はちょっと痛いけど。

――自費で受けるとしたら甲状腺の検診は幾らでしたっけ?

3500円ですね。

――なるほど。そんな何万円もじゃないもんね。あ、でもホールボディカウンターとか尿のセシウム検査を受けると、それぞれにお金がかかる。ひんぱんに受けると負担も増えますね。ここから子どもドックの話につながるわけですね。

筆者注:実際に甲状腺検診を受ける時にはここに初診料がはいるので、だいたい5000円くらいになるそうです。

■保険適用されない「子どもドック」を無料提供するため、力を貸して

たらちねクリニックでは、無料の「たらちねこどもドック」に多くの方の協力をお願いしています。たらちねホームページの中の、「子どもドック」開設プロジェクトを紹介するページには以下のように書かれていました。

  1. 日本初の放射能測定室併設型クリニックとして2017年5月にオープンした「たらちねクリニック」では、通常の保険診療に加えて、子どもが無料で受けられる人間ドック=「たらちね子どもドック」開設を計画しています。
  1. 何らかの症状が出ていれば、18歳以下の福島県民は無料で検査を受けることができます。一方で、症状がない状態での検診には健康保険が適用されないため、18歳以下であっても全額自己負担になります。
    保険が適用されない「子どもドック」を無料で提供するには、みなさまの力が必要です。どうか、子どもたちの命と未来を守るためにご支援ください。

~中略~

  1. 被ばくの影響が身体に表れるまでには、時差があります。チェルノブイリで子どもの甲状腺がんが急増し始めたのは原発事故の5年後、「慢性的に病気」の子どもの数が「健康といえる」子どもの数を超えたのは事故の7年後のことでした。
  2. 全身すべての臓器を診てはじめて、被ばくによる健康リスクを正しく診ることができます。そして、原発事故から6年が経過した今がそのタイミングです。
    保険が適用されない「子どもドック」を無料で提供するために、力を貸してください。

詳しくはこちらのページをご覧ください→https://www.actbeyondtrust.org/campaign/donation/tarachine/dock/

検診とは予防ですから、基本的には保険ではなく自己負担。大人には人間ドックがありますが、子どもたちにこうした検診が必要になった責任は大人にあります。2018年の目標は毎月50人の子どもたちが、甲状腺超音波検査やホールボディカウンター、尿のセシウム測定、血液検査などすべての検査項目(有償の場合18000円)を寄付によって無料で受けられることを目指しています。2013年から甲状腺検診、2015年からは尿測定も始まっていて、個別に、あるいはすべての検査を受ける子どもたちはいました。希望に応じて実施していた各検査を、大人の人間ドックのようにセットにして本格稼働を行うのが、「子どもドック」の新しい点なのです。

たらちねクリニックホームページより

たらちねクリニックホームページより

■患者さんや家族と向き合って、丁寧に話をして不安を軽減していきたい

その患者さんや家族と向き合って、丁寧に話をして不安を軽減していきたいと語る医師藤田操さんをクリニックに迎えて、事故前は全くの素人だったお母さんたち、ただただ子どもたちを守りたくて動き出した大人たちの思いが生み出した「NPO法人たらちね」の新たな挑戦です。多くの方々に協力してもらいたいと思います。

最後に、藤田さんにお話を聞いて印象に残ったエピソードを紹介します。沖縄県の久米島に保養にくることになったある中学生の少年のことです。原発事故の後、いろいろな事情で学校を休み、引きこもりがちだった彼は、そこで自分より小さな子どもたちの“お兄ちゃん”格として頼りにされ、スタッフの人からもいろいろ用事をたのまれて自信がついたんだそうです。自分が誰かの役に立つということ、必要とされることほど、自信につながることはありません。

それを実現したのは、彼と話をしながら、体だけでなく心に抱える辛さを聴き取り、久米島のスタッフに「こういう中学生が保養に行くけど、いろいろ仕事をさせてやって」と根回しした藤田さんの洞察。その中学生から久米島保養のスタッフに来たお礼の手紙を見せてくれました。

藤田さんが診ているのは、震災後のこんな子どもたちなんですね。不安や苛立ちをゆっくり聞いてくれるお医者さん、素晴らしいです。これからもますますの活躍をお祈りしています。

たらちねクリニック号 藤田先生自ら運転して送り迎えをしてくれました=撮影・松中みどり

たらちねクリニック号 藤田先生自ら運転して送り迎えをしてくれました=撮影・松中みどり

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