日本全国津々浦々、どんぶらこ~、どんぶらこ~と流れていき、どんな場所にでもなじむエンターテインメントがある。神木優ソロアクト「モモタロ」と銘打つ、この公演は俳優の神木優さんが、おとぎ話「桃太郎」を題材にして朗読、漫才、コント、一人芝居、即興と様々な表現方法で桃太郎の謎を紐解き、独自の視点でツッコミを入れていくユニークなライブだ。アイデアニュースでは、このほど京都公演を取材した。初見で感じたのは、「こんな桃太郎アリなのか!?」という驚きと、身近なものをこんな風にエンターテインメントに仕立てられるのか、という発見だった。
■チョコレート店のカフェスペースで
「モモタロ」は、「劇場に足を運びにくい人に観に来ていただけるように、日常の場所で公演を」という試みで、これまでもホールやスタジオ、お寺、神社、古民家、カフェ、ギャラリーなど様々な施設で公演を開いてきた。美容室や空港、東京タワーなども会場となっており、それぞれの場所にちなんだネタを仕込んだり、各分野の人たちとのコラボレーションも行ったりしている。京都公演は、老舗チョコレート店サロン・ド・ロワイヤル京都本店で行われた。普段はカフェスペースとなっている小空間を会場にし、また大阪府出身の神木さんにとって京都は、ほぼ地元ということもあり、アットホームな雰囲気の中で行われた。
公演は約1時間20分で、9演目が披露された。マイク無しの肉声で、神木さんは公演中、一人でほぼずっとしゃべりっぱなし。舞台袖も幕も無いため、衣装替えもその場で行う。「モモタロパンフレット」によれば、「桃太郎」は日本に約700種類、4千ほどの話が伝承、継承されているという。「桃太郎研究家」を名乗る神木さんは、文献を読んだりしながら「ネタ探しのため」の研究に励む。現在55のレパートリーがあり、その中で上演時間や場所に合わせて演目を構成する。「みんなが知っている昔話を、ただ『知っている』というだけで終わらせるのはもったいないですから、『桃太郎』という題材をエンターテインメントとして見せるにはどうしたらいいかを考えています」と神木さん。
演目は、着眼点がユニークだった。朗読では、17世紀に発表された「桃太郎」の変形版を自身で脚色・現代語に訳して、深みのある物語として紹介。コントでは、キジが電話相手ときび団子で労働交渉をするというシュールなストーリーを繰り広げる。プレゼンテーションのシリーズでは、黒ブチ眼鏡に白衣をまとった教授のキャラクターに扮して、桃太郎の謎を突き詰めていく。興味深かったのは、神木さん自身の視点が加わること。「桃太郎のおばあさんから学ぶ7つの習慣」では、おばあさんの行動を独自の視点で分析して、観客を巻き込みながらツッコミを入れつつ、笑いから人生訓にまで昇華させている。
■観客が思い付いた言葉を使って一瞬で話を仕立てる
そんなバリエーション豊かな演目の中で、特に面白かったのが「即興」。前説で観客の何人かを募り、その場で思い付いた言葉を一人一語ずつ、画用紙に書いてもらう。それが終盤の演目に使われる即興ワードとなる。「即興」では、神木さんが「桃太郎」を朗読する中で即興ワードを織り交ぜていくのだが、それが何なのかを、紙をめくるその瞬間まで神木さんも他の観客も知らない。出てきたワードを使って神木さんが一瞬でどう話を仕立てるかが見もので、ここでは終始、期待と緊張が入り混じったような空気が漂っていた。特に会場が沸いたのは、桃から出てきた子どものくだりで「ケチャップ」というワードが出て、神木さんがとっさに「桃太郎」ではなく「ケチャップ」と名付けた瞬間。主人公の名前すらもあっさりと変えてしまう、まさかの力技的な切り替えしに、会場からどっと笑いが起きた。その後も桃太郎の名前をケチャップのままで通し、笑いの余韻は最後まで続いた。公演で即興の経験を重ねる度に、神木さんの瞬発力は鍛えられ、磨かれているのだろう。
神木さんはエンターテインメントで「固定概念をひっくり返して笑って」もらえるような表現を目指しているという。実際にライブを観て、たしかにひっくり返った。既存の物語の形を一度、分解して、要素を取り出して、新たにエンターテインメントとして再構築していくという意味において、こんな桃太郎もアリなんだ、と。神木さんの取り組みを料理に例えるならば、和食の海苔巻きが、異文化の中でカリフォルニアロールにアレンジされ、それはそれとして市民権を得ていくようなプロセスに似ているかもしれない。
自分が面白いと思うことを探求する神木さんの姿勢から感じたことがある。それは、日々通り過ぎているものの中に実は面白いことがたくさん眠っていて、神木さんが「桃太郎」を様々な切り口で紹介しているように「着眼点」を意識することで、身近でもっと愉快なことが見つかるのではないかということ。
■笑って過ごしてもらいたい。それが『モモタロ』という形に
神木さんの思いはシンプルだ。「僕はやっぱり、人生に笑いを提供できればいいなと思うんです。笑っていれば病気になりにくいとも言いますし、俳優の在り方としても、コメディの方を強くやっていきたいですね。それ以外のお仕事もありますので、何とも言えない部分もありますが、基本的には笑って過ごしたいですし、笑って過ごしてもらいたい。それが今、結果的に『モモタロ』という形になっています」
人生を楽しむことにおいて、感性を刺激された公演だった。
※神木さんが初めて落語「桃太郎」を上演したのは2013年2月。「モモタロ」公演は2016年で4年目に入った。2014年には1年間で東京23区のすべてで上演するという目標を達成。2015年からは日本全国47都道府県を回るべく新たな挑戦が始まっている。京都公演が6府県目で、今後も各地での上演を企画中だ。今後のイベント情報は、神木優さん公式ホームページやブログで。
<関連サイト>
⇒神木優公式ホームページ
⇒神木優ブログ「FLY -yuh KAMIKI’s-」
<アイデアニュース関係記事>
⇒桃太郎を題材に、さまざまな表現で演じるソロアクト「モモタロ」公演
⇒「桃太郎」の1人舞台で東京23区制覇、神木優インタビュー(上)
⇒これからは全国各地で「モモタロ」を、神木優インタビュー(下)
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「モモタロ」京都公演終演後、神木さんにインタビューし、各演目に対する考え、ライブ中の観客との関係性や、ファンの方へのメッセージなどをうかがいました。
■発想力が勝負。「そこですか!」というところを突いていく
■即興キーワード、応援してくれる人が敵に見えることがあります(笑)
■綾小路きみまろさんは距離感が上手くて、落としながらも観客を愉快にさせてくれる
■コンテンツを知らない人にどう広げていくかが課題
■チームとなってプロジェクトを応援してもらえる関係性を作れたら
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■発想力が勝負。「そこですか!」というところを突いていく
――神木さんは、「桃太郎」を研究していらっしゃる?
僕は俳優のほかに「桃太郎研究家」を名乗っています。みんなが知っている昔話を、ただ「知っている」というだけで終わらせるのはもったいないですから、「桃太郎」という題材をエンターテインメントとして見せるにはどうしたらいいかを考え、「ネタ探しのため」の研究をしています。公演の演目の一つに「桃太郎」発祥地論争についての作品があります。発祥地については、〈研究〉として深いところまで掘り下げることができますが、それを僕がやっても〈エンタメ〉としては価値が無い。むしろ、その話題のうわべだけ触れて、比較して、ツッコミを入れて笑いに変える方がエンタメとしては面白いと思っています。「野鳥総選挙」という演目にしても、キジというキーワードにひっかけてはいるものの「桃太郎」の話ではなく、どうしてキジが国鳥になったかという話に展開しています。「桃太郎」という縛りがある中で笑いに変えるには、やはり発想力が勝負。「そこですか!」というところを突いていき、全く違う着眼点を示していきたいです。
■即興キーワード、応援してくれる人が敵に見えることがあります(笑)
――演目の中でも特に、即興が面白かったです。キーワードは、京都公演の場合「鴨川」や「舞子さん」などご当地もののワードが多い印象でした。お客様から出てくるキーワードは、地方公演の場合、それぞれの地域に根ざすものが多いですか?
やはり多いですね。他には、ドラマの役名も出てきます。そうなると、そのドラマを観ていないお客さんには、ドラマの説明からしないといけないので結構遠回りになるんです。その瞬間、いつも応援してくれる人が敵に見えることがあります(笑)。くっそー、これ説明すんのかよ!と(笑)。「モモタロ」は、僕がお客さんをいじるというか、お客さんからいじられるというか、そんな要素のある即興から始まっているところもありますので、即興を使ってもっと面白いことができればと思っています。
■綾小路きみまろさんは距離感が上手くて、落としながらも観客を愉快にさせてくれる
――公演中、観客との関係性も気になりました。観客をもてはやすのではなく、むしろ落とすような話しぶりで、独特の親近感がありました。
基本的に、お客さんを落としていくキャラの時は、役を定めています。ふだん、前説の時は距離感をはかっていますが、教授のキャラクターの時だけは、何を言っても許されるような(笑)設定になればいいなぁと思っています。尖ったキャラで表現することに、初めは迷いもありました。でも、いざやってみたらウケたので、これもいいかなと思って(笑)やり続けています。僕は、綾小路きみまろさんの漫談もよく聞きますが、きみまろさんは距離感が上手くて、落としながらも観客を愉快な気分にさせてくれる。僕は笑いのルールについてはよくわかりませんが、公演をやっていて思う事は、お客さんって、尖ったことを言われてもどこか客観的に、自分以外の人をあてはめて面白がってくれているんではないかなぁ、って。
■コンテンツを知らない人にどう広げていくかが課題
――「モモタロ」公演を全国展開していく上で今後、どのように進んでいきたいですか?
地方公演は、なかなか難しいところがあるとは感じています。一番の問題は集客ですね。どこで公演しても子どもからお年寄りまで笑ってくださるので、コンテンツはいけると思うんです。それを知らない人にどう広げていくかが課題ですが、現状そんなに広告費をかけられるわけではないし、知名度があるわけでもないので、コンテンツの口コミと、あとはそれぞれの地方で知り合いを作って、その人たちに協力をお願いするという地道なやり方で取り組んでいます。
――その中でも、見守っておられるファンの方がいらっしゃる。
京都公演でも、広島、高知、愛知、東京など、遠方から来てくださった方々もいらっしゃいます。
■チームとなってプロジェクトを応援してもらえる関係性を作れたら
――最後にファンの方へのメッセージをお願いします。
一人の俳優が、「桃太郎」という題材を通して、新しいエンターテインメントのジャンルに取り組んでいる姿をこれからも見守っていただきたいと思います。よく観てくださっている人たちには、「こういう切り口からの作品を観たい」という希望を言ってもらえたら作品も作りやすいですし、チームとなって、この桃太郎プロジェクトを応援してもらえる関係性を作れたらいいなと思います。