ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」が、5月に東京・世田谷パブリックシアターで再演される(兵庫、福岡、名古屋公演あり)。2012年に韓国の小劇場で生まれた作品で、脚本・演出・音楽、全てひとりの女性ソ・ユンミさんによって生みだされ、2014年に鈴木裕美さんの演出、田村孝裕さんの上演台本で日本初演された。4人の血のつながらない兄妹と、家庭教師メリーの物語。子供の頃になくした記憶をたどる心理スリラーミュージカルだ。初演から引き続き出演する小西遼生さんに、再演にかける思いを聞いた。
――再演が決まって今どんな思いですか?
以前やった作品群のなかでも特にやりがいがあり、記憶にも強く残っている作品でしたので、もう一度できるというのはすごく嬉しい挑戦だと思っています。血がつながらない、本当の家族ではない兄妹たち、そしてメリーとの関係を、初演でとても丁寧に作りました。僕たち自身が本当に兄妹のようにいいところも悪いところもよく知っているメンバーだからこそ、そういう関係性が見える作品としても面白いと思うので、もう一度挑戦できてやりがいがあります。
――妹のアンナ役が音月桂さんから中川翔子さんに代わり、兄弟たち3人、小西さん、良知真次さん、上山竜治さん、メリー役の一路真輝さんは続投ですね。
音月さんがいないのは正直なところ寂しいですが、作品に挑む気持ちとしては新しく中川さんが入ってくることで、新たな気持ちで取り組めると思います。再演とはいえ、新生「ブラック メリーポピンズ」として、また新しい作品を作る気持ちですね。
――今日は再演組の皆さんと取材を受けていらっしゃいましたが、話していかがでしたか?
初演から2年経っての再演で、2年の間にそれぞれがやってきたことがあるので、きっと変化があると思いますが、話した感覚だと変わっていないなと。なんだかほっとして、嬉しかったですね。
――それは、素の部分が変わっていないんですか?
話している感覚が「こんな感じだったな」「変わってないね」って(笑)。役者としてのお互いの印象を聞かれたりもしたのですが、真次や竜治とは年齢も近いし、知っていることが多いので、いつもどおりだなと安心感があるんですよ。
――今はあのときの感覚が蘇ってきて、また作ることが出来る喜びを感じている状況ですか?
初演を振り返ると、この作品はセリフのやりとりで見えてくる関係性だけでなく、ぱっと見たときに通っている空気感がすごく重要なものなんだろうなと思います。物語のなかで、過去について本当に知りたいことがお互いにあるのですが、相手のことを気遣わずに言いたいことだけ言って、思い出すことができるんだったら、すごく楽ですよね。でも、本当は知りたいことがあるんだけれど、それを思い出させるとつらいかもしれないと、自分だけでなく兄弟たちのことも思ったりする……そこに、過去をちゃんと探ることへの難しさや苦しさを感じるんです。芝居で作っていくものに加えて、個人個人がお互いを知っているからこそ言葉ではないやりとりができる。そういうことが作品の魅力に繋がっているような気がします。
――初演ですごく反響があったと思いますが。
反響という意味ではあんまり知らないんです。でも、たくさんお客さんが来てくださって良かったなと思いました。手放しに面白いのではなくて、物語が終わったあとにどちらかというとシーンとしてしまう作品なので、実はやっていたときはお客さんの反応をそこまで感じていなかったんです。ただ夢中にこの世界のなかに入って、この作品の面白さを組み立てていこう、お客さんに観ていただこうと考えていました。すごく大切にしていきたい作品だと思いましたし、お客さんがもう一度観たいと思ってくださるのは成功だと思いますね。
――確かに、観終わって受け止める時間が欲しくなりました。
この作品は、ミュージカルとはいえ客席側に向かっていく芝居ではありませんでした。僕たちはステージの上で起こっていることをリアルに感じ続けなければいけなくて、それをお客さんに観ていただきました。俳優がお客さんのことをそこまで意識しなくても、照明、舞台美術、盆の使い方、振付、脚本、演出など、スタッフの皆さんがそれぞれに用意されたものが作品の総合力としてエンターテインメントになっていて、俳優たちにやりやすい空間を作ってくださいました。その総合力が魅力的な作品を作り上げたんだと思います。
<取材協力>
ヘアメイク/岩井マミ
スタイリング/森宗大輔
<心理スリラーミュージカル「ブラック メリー ポピンズ」>
【東京公演】 世田谷パブリックシアター 2016/5/14(土)~29(日)
【兵庫公演】 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 2016/6/3(金)~5(日)
【福岡公演】 福岡市民会館 2016/6/9(木)
【名古屋公演】 愛知県芸術劇場 大ホール 2016/6/17(金)
<関連サイト>
⇒ミュージカル「ブラック メリー ポピンズ」オフィシャルサイト
⇒小西遼生 公式ブログ(仮)
⇒キューブ オフィシャルサイト 小西遼生
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<プレゼント>
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■丸裸になっているようなステージでした
■韓国で3作品観劇、負けていられないなと
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■丸裸になっているようなステージでした
――初演の際、インタビューをさせて頂いたときに、鈴木さんの演出をすごく楽しみにしていると話していたのが印象に残っているのですが、実際にいかがでしたか?
期待していたとおりでした。一緒に仕事をして、得るものがたくさんありましたし、大好きな演出家で、特別な方ですね。
――何か具体的に心に刺さったものはありますか?
作品に対しても、俳優に対しても、すごく愛情があるんですよ。演出家は俳優の指導をする人ではなく、作品の土台を作る人だと僕は思っているのですが、裕美さんはそのなかでも特に細かく導いてくださる人だなと思いました。答えを求めるわけではなく、本人たちにこのままではわからないだろうというところを、道筋をちゃんと見せてくれる人ですね。例えば、芝居のことでいうと、一番基本のことだけを大切にしていらしゃるのではないかと思います。基礎の基礎を、セリフの一行一行、ひと言ひと言を大切にする仕方だけは見失わないでやろう、あとは自由という感じ。うまく説明するのは難しいですが、僕にとっては筋が通っている、本質的なことをちゃんとやっている、実がある人だなと思いました。
――それは新鮮な時間でしたか?
もちろん素晴らしい演出家の方はたくさんいらっしゃって、そこは演出の基本だろうと思うのですが、例えば表現の仕方の違いで、エンターテインメントをどう見せるかがその手腕にかかっていると思うんです。エンターテインメントって難しい言葉で、この作品に使うと、下手をしたらチープになる可能性があると思うんです。裕美さんは、ただリアルに見ていたら苦しいだけのものを、総合力ですごく魅力的なものに変えてくださった方です。俳優が丸裸になっているようなステージでしたから、難しさもありましたが、余計な装飾をしない、でも美味しいものはたくさん付けますというような、僕らにとって生き続けやすい場所を用意してくださいました。裕美さんとご一緒する前からとても期待していて、なぜやりたいと思っていたんだろう、なぜそこまで求めていたんだろうと思うぐらい、裕美さんと仕事をさせていただきたかったんですよ。そしてその結果、僕が欲していた演出家だという感覚がありましたね。
――演出作品を見ていたときに、本能的に好きだと感じていたんですね。
それはありますよね。根本的に自分がやりたい質のものと、自分が気づいていなくても、こういう作品が好きなんだというものがあるとしたら、裕美さんはすごく興味がある方でしたから。しかも、上演台本の田村さんとは以前一緒にやらせて頂いていて、本質的なことを地に足をつけてやる、かなり信頼できる方だと思ったので、すごく楽しみにしていたんです。そういう期待をもって初演をやった結果、本当にやれてよかったという気持ちでしたね。
■韓国で3作品観劇、負けていられないなと
――最近、韓国に行かれたとお聞きしました。観劇目的ですか?
韓国ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」「シャーロック ホームズ2〜ブラッディ・ゲーム」に出演していたこともあり、旅行がてらいってきました。むこうで今までの活動も含めた取材もして頂いて、旅行の日程のなかで観劇可能な作品を3本観てきました。(2017年には韓国ミュージカル「フランケンシュタイン」にも出演が決まっている)
――何をご覧になったんですか?
日本では上演されていない、色の違う3作品を観ました。言葉がわからないですし、作品の前情報もなく行ったんですね。でも、見応えのある作品を観たかったので、すべて話題作と言われているものです。共通していえるのは、個人のエネルギーがとても強いですね。生命力というか。
――俳優自身のエネルギー?
もっというと人間のエネルギーですね。言い方が難しいのですが、民族的な強さというか、大地の、大陸の強さというか。
――なるほど。
3作品を観て、全て思いましたが、とてもストレートでエネルギッシュ。そこにしっかりとしたテクニックが付いているから、レベルがものすごく高かったです。ただ、どちらかというと本の筋はわかりやすくシンプル、そして、エネルギーで押すという印象がありました。僕は何本も韓国ミュージカルを知らないですし、あくまで個人的な感想ですが、日本版「ブラック メリーポピンズ」は、韓国と日本のいいところをすごくうまくブレンドできた作品なんじゃないかと思いました。日本版では、抽象的な表現が多かったり、表現が柔らかめになっていたり、韓国の方がご覧になると好き嫌いはあるかもしれません。でも、日本のお客様に対しては、舞台で見せるものとして、すごくいい案配でできているんじゃないかと思いました。
――韓国で感じた人間のエネルギーは、今後の自分に影響がありそうですか?
まず、舞台に立つ人間のレベルがとにかく高かったので、負けていられないなと思いました。いろんな理由があると思うんですよ。韓国には軍隊制度もありますし、ひとりひとりの生きなければいけないエネルギーが強いと思うんです。日本人と見た目は似ているけれど、似て非なるものというか。
ミュージカルということでいうと、音楽との距離感が、生まれながらにして近いと思いました。子供の頃から歌って踊っている人が多いそうです。同業者の方とお話する機会があったのですが、どちらかというとヨーロッパやアメリカ寄りのリズムとメロディが、言葉や生活のなかにあるのではと思いました。特に輸入ものの作品をやっていると、いわゆる「和」の音階ではないじゃないですか。音楽は日本発のものより、アメリカ発、イギリス発のものが多いので、そういうものを奏でる上で韓国の方は向いているんだなと。僕らも負けていられないですね。できることがたくさんあると思うので、いろいろと勉強になりました。
――そういう経験も経て、「ブラック メリーポピンズ」再演に取り組まれるんですね。最後に意気込みをお聞かせください。
初演でいい作品にできあがったと思いますが、まだまだ進化する余地がたくさんあります。生身の人間が、まだまだ伸びしろがある同年代のメンバーで作る兄妹の話であり、再演でもあるから、前回積み重ねたものがいい方向に向かって、よりクオリティの高いものができればと思います。そのうえで、この作品はやはり総合力。さまざまな力で魅力的にみせられるものに昇華させたいですね。心理スリラーミュージカルと銘打っているとおり、素直に言い返すことができない状況や、隠さなければいけない気持ちなど、いろんな思いが交錯して繊細に絡んですれ違う、目が離せない物語です。そして、音楽も素晴らしい。初演以上に、ミュージカルとして面白い作品にしたいと思っていますので、ぜひ観にいらしてくだい。