寝たきりの人の介護が劇的にラクになる、自動体位変換エアマット

エアマットにシーツをかけて、毛布をひいたところ=撮影・橋本正人

アイデアニュース編集部の橋本です。これまで連れ合いの松中みどりが何度か書いてきましたが、私の父の介護を通していろいろ学んだことを、このアイデアニュースで紹介しています。今回は、寝たきりの人の介護が劇的にラクになる、電動のエアマットのご紹介です。

モルテンの自動体位変換エアマット「クレイド」=撮影・橋本正人

モルテンの自動体位変換エアマット「クレイド」=撮影・橋本正人

寝たきりの人は、体を自分で動かすことが困難なため、体重がお尻など特定の場所にかかってしまい、そこに「褥瘡」(じょくそう)あるいは「床ずれ」と呼ばれるものができやすくなります。この褥瘡は、一度できるとなかなか治らず、出血が続いたりするので、なんとかできないようにしたいのですが、それを避けるためには、身体の角度を変える「体位変換」が必要になりますが、これがけっこう大変なのです。

私の父は、散歩の途中で転倒して頭を強打して首の骨を折り、救急車で病院に運ばれて緊急手術をして、なんとか一命はとりとめましたが、首の神経が損傷する「頸椎損傷」(もしくは頸髄損傷)と呼ばれる障害をおいました。首から下が動かず、立ち上がったり歩いたりすることはもちろん、手や足を自分の意思で動かすこともできません。もちろん、排泄も自分ではコントロールできない状態です。

ある日、父は入院先の病院で、私に言いました。「殺してくれ」と。首から下が動かない父は、病院ではほとんど何もすることができません。頸椎損傷は治療して治る見通しの非常に少ない障害です。このあともずっと、自分の意思では何もできず、死ぬことさえ自分ではできない父は、私に「殺してくれ」と言ったのです。その時、私は決意しました。なんとしても父を自宅に連れ返り、父が「生きていて良かった」と言ってくれる日がくるように目指すことを。首から下が動かない父も、家に戻ってくれば、家族が好きな時に好きな本をベッドの横で読みあげたりもできる。なんとか車いすに乗って、家の周りをめぐることもできる。家にいて、できるだけ快適に過ごしてもらえば、死にたいという思いは減るのではないか、そう考えました。

ただ、実際に家に帰るとなると大きな問題として出てくるのは、褥瘡防止のための「体位変換」です。病院では看護婦さんが深夜でも交代で訪れて、2~3時間おきにクッションを背中の一部の方に入れるなどして、体の角度を変えてくれます。自宅でそれをするとなると、夜中から朝までも家族のだれかが起きていて、2~3時間おきに、体位変換をしなければいけません。それはとても大変なことでした。

そうこうしているうちに、インターネットで「頸椎損傷」を検索して、あちこちページを見ていたところ、ある頸椎損傷の方が「褥瘡防止のためにエアマットを使っている」と書かれていました。エアマットがあれば、褥瘡が防止できるのかと思い、さらに「エアマット 頸椎損傷」などで調べていると、見つけたのが広島に本社のある「モルテン」の高機能エアマットレス(自動体位変換エアマット)でした。

カバーをとると、マットの本体はこんな感じ=撮影・橋本正人

カバーをとると、マットの本体はこんな感じ=撮影・橋本正人

ベッドが動く角度や時間を調整できるパネル=撮影・橋本正人

ベッドが動く角度や時間を調整できるパネル=撮影・橋本正人

「モルテン」というと、バスケットボールなどのボールにロゴが入っているので有名な、スポーツ用品製造を中心とした会社です。空気を送り込んでボールをふくらましている会社なのだから、ベッドに空気を送り込んで動かすこともできるんだなと、思いました。そして、当時(今から7年前の2008年)はモルテンの自動体位変換エアマット(高機能エアマットレス)の中で最上位機種だった「クレイド」を使ってみようと考えました。(モルテンのホームページを見ると、2015年6月8日の現時点では「クレイド」という名前の商品は掲載されておらず、高機能エアマットレスの最上位機種の名前は「オスカー」でした。オスカーは、体を左右に傾けるだけでなく、ひざの部分や上半身を指定して少し上げることができたり、クレイドより進化していました)

モルテンの高機能エアマットレスのページはこちら →http://www.molten.co.jp/health/product/mattress/02.html

モルテンのエアマット「クレイド」は、体位が変化する時間や角度を設定できるようになっており、父の場合、2時間で8度傾くのが一番合っているようでした。父がいない時に私も試してみましたが、2時間で8度動くわけですから、本人は動いていることにまったく気づかない感じでした。

自宅に戻るのを前に、入院先の病院に頼んで、一度「お試し」をしてみました。そうしたところ、思わぬ効果がありました。父は、入院中、夜になかなか眠れず、睡眠薬を服用していたのですが、モルテンの体位変換エアマットにしてから夜に眠れるようになり、睡眠薬が不要になったのです。よく考えてみると、夜中になっても2~3時間おきに、看護婦さんがやってきて体の向きを変えるわけですから、そのたびに目が覚める可能性があり、なかなか夜、ぐっすりと眠れていなかったのかもしれません。体位変換が不要になって、夜はずっと眠っていても大丈夫になり、睡眠薬が不要になったのです。

モルテンの体位変換エアマットは、数十万円するものでしたが、介護保険の対象になっており、父の場合、このエアマットのリース代金の自己負担は月額1500円でした。月々1500円で、父も良く眠れて、わたしたち介護の家族も体位変換の作業をしなくてよいなら、安いものだと思いました。

この「クレイド」は父が倒れてから7年間、リースで使い続けました。介護用品を扱っている業者からのリースなので、定期的にメンテナンスもしてくれますし、途中で新しいものに交換されました。父の介護でお世話になったヘルパーさんや看護師、医師も、このエアマットはほとんど見たことがないらしく「これは便利ですねぇ」と、みなさん口を揃えて言っていました。このマットレスのおかげで、父は倒れてから2015年4月に亡くなるまでの7年間、自宅では一度も褥瘡はできませんでした。

「自宅では」と書いたのは、一度だけ、肺炎で病院に入院した際に、病院で褥瘡ができてしまったのです。病院では看護婦さんが体位変換をしてくれていますが、それでもできてしまうのが褥瘡。できることならば、このような体位交換エアマットが各病院に普及し、看護婦さんの負担も減って、患者の褥瘡も減る、そんな状況になってほしいものです。

エアマットにシーツをかけて、毛布をひいたところ=撮影・橋本正人

エアマットにシーツをかけて、毛布をひいたところ=撮影・橋本正人

昔の歌を息子の妻と一緒に歌って笑っている父。この数時間後、静かに息を引き取った=撮影・橋本正人

昔の歌を息子の妻と一緒に歌って笑っている父。この数時間後、静かに息を引き取った=撮影・橋本正人

父は、倒れてから7年間、自宅で家族の介護を受け、今年(2015年)4月7日に、肺炎のため亡くなりました。82歳でした。首から下は動かなくなったけれども、「プリズムメガネ」という眼鏡をかけて横になったままで机の上のDVDデッキで好きな映画を見て、声でページがめくれるようにしたiPadで本を読み、妻の手料理が大好きで、いつも周囲の人に笑って「ありがとう」と言ってくれていました。この写真は、父が亡くなった日、2015年4月7日の正午ごろに、連れ合いが歌う終戦直後の明るい歌謡曲「東京シューシャインボーイ」を聞きながら、父が笑っているところです。この写真を撮った4時間後に、父は眠るように息をひきとりました。

<アイデアニュース関係記事>
24時間全介助が必要な父を在宅介護、家族が倒れないためのスケジュール
→ https://ideanews.jp/backup/archives/5213
手を使わずに呼び出し音を出せます、息などに反応する「マルチケアコール」
→ https://ideanews.jp/backup/archives/4557
手が不自由な人でも本のページをめくることができる…iPad活用法
→ https://ideanews.jp/backup/archives/4303
寝たきりの人の介護が劇的にラクになる、自動体位変換エアマット
→ https://ideanews.jp/backup/archives/4042
寝たきりの人のベッドの天井に映し出せる「プロジェクションクロック」
→ https://ideanews.jp/backup/archives/3627
お義父さんの介護はエコノミカル ~安くて便利なグッズ紹介~(2)
→ https://ideanews.jp/backup/archives/3084
お義父さんの介護はエコノミカル ~安くて便利なグッズ紹介~(1)
→ https://ideanews.jp/backup/archives/3013
「超福祉展」レポート、「HAL®」などについて詳しくお伝えします
→ https://ideanews.jp/backup/archives/13129

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アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】 「殺してくれ」と言った父に、こう答えました(橋本正人)

頸椎損傷で首から下が動かなくなって数か月後、治療の見込みがないと知った父は、「殺してくれ」と私に言いました。より正確には「正人、明日は祝日で看護婦も手薄だから、睡眠薬を買ってきて、私を殺してくれ」と言ったのです。

私は、こう答えました。「お父さん、わかりました。ただ、首から下が動かないお父さんが、急に睡眠薬をたくさん飲んで死んだら、まっさきに疑われるのは私です。私は逮捕され、刑務所に行くことになるでしょう。今、私は刑務所に入りたくはありません。なんとかうまい手がないか考えますので、しばらく待ってもらえませんでしょうか」と。父は「わかった」と言ってくれました。

もちろん、それからどうやって父を殺害するかを考えたことはありません。なんとか父が「死にたい」と思わないようにしたいと、一生懸命考えました。

帰宅して7年間、家族と一緒に自宅で過ごした父。おかげでその後、「死にたい」と言うことはありませんでした。というか、父はとても強い人で、7年間、愚痴ひとつこぼしたことはありませんでした。あの日「殺してくれ」と言ったのが、私が聞いた唯一の愚痴でした。帰宅して、家族をはじめ多くのヘルパーさんや看護師さん、医師らに支えられた父。父は、いつも周りの人に笑顔で「ありがとう」と言い、みんなに愛されていました。最後まで頭はしっかりしていて、ヘルパーさんらの相談にものり、私の仕事についてもさまざまなアドバイスをしてくれました。

私は、7年間の父の介護で、いろいろなことを学びました。「アイデアニュース」では、今後も父の介護で学んだこと考えたことを紹介し、これから介護を担当する人たちのお役に立ちたいと思います。

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