先日、兵庫県西宮市内の阪急夙川駅から苦楽園口駅の方に向けて歩いていたとき、ある看板が目に飛び込んできました。「ノーラ犬猫病院」と書かれたインパクトのある看板です。きっとここは、この頃少なくなった「ノラ犬」や、まだまだ多い「ノラ猫」たちのTNR活動をしている動物病院ではないかと思い、SNSに写真を掲載したところ、ノーラ犬猫病院の山田吏医師からご連絡をいただきました。早速、病院を訪ねたレポートです。どうぞお読み下さい。
――ノラ猫さんたちの不妊手術を積極的にするという意味でつけられた病院名なのですか?
いいえ、病院を開業するとき、自分の名前とか地名とかはつけたくなくて、たまたま、その時飼ってた「ノーラ」という猫の名前をつけたんです。
――そうだったんですか! では、看板を見て、きっとそういうことをされていると思いましたが、もしかしたら別の猫の名前だったら気が付かずに通り過ぎたかもしれませんね。
そうそう。たまたまね。飼ってる猫が別の名前だったら、病院も違う名前だったかもしれませんね。まあ、ノラ猫の不妊に関して積極的にやりたいというのは、その通りなんですけどね。特に最近は。
――開業されたのはいつですか?
1999年2月です。
――その時は、いわゆる普通の動物病院だった?
そうそう。開業当時はね、いろいろ大変じゃないですか。人も雇っているし、経済的に軌道に乗せないといけないしね。ここ数年で、まあ、そろそろ自分のやりたいことをやろうかなと思い始めて。それが、僕にとっては「ノラ猫の避妊・去勢」かなと思って。それで、池田の「のらねこさんの手術室」をインターネットで見つけたんです。ノラ猫の手術だけでこんな病院が出来るんやと、びっくりしたわけ。それで、自分にも出来ないかなと思ったんです。で、ここ数カ月、そういうことで動き始めているところなんです。
――では、「のらねこさんの手術室」を訪ねられたのは、ごく最近なんですね?
今年の5月。ゴールデン明けくらいだから、ノラ猫の不妊手術を積極的にやると決めて、まだ、半年になるかどうかというところです。
お話を聞いて、本当に驚きました。偶然通りかかって目についた看板で「誤解」した通り、ノラ猫たちの不妊手術に積極的に取り組むことを始められたばかりの「ノーラ犬猫病院」、そのきっかけが「のらねこさんの手術室」だったとは! アイデアニュースが始まった頃の人気記事、『人と猫が共存できる社会へ、TNR専門病院「のらねこさんの手術室」オープン』も、ぜひ合わせてお読み下さい。
<アイデアニュース関連記事>
人と猫が共存できる社会へ、TNR専門病院「のらねこさんの手術室」オープン
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、山田吏さんインタビュー後半の全文とともに、「ノーラ犬猫病院」で暮らす猫たちを紹介しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■収益をあげて従業員も支えて……それが、虚しくなってきて
■お年寄りが亡くなって、要らないと…。捨てるなんて出来ない
■仕事としての獣医ではなく、獣医としての本来の仕事を
■猫みたいに自分が一番で、自由に今を生きたいです
<ノーラ犬猫病院>
住所:兵庫県 西宮市松生町11-16
最寄り駅:阪急夙川駅もしくは苦楽園口駅
電話:0798-75-1314
【診療時間】
9:30~12:30(月火水木 土日祝)
16:00~19:00(月 水木 土日祝)
<関連リンク>
ノーラ犬猫病院 ホームページ
http://r.goope.jp/noradogcat
ノーラ犬猫病院 Facebookページ
https://www.facebook.com/noracatdog/
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■収益をあげて従業員も支えて……それが、虚しくなってきて
――では、最近、ノラ猫の不妊手術を積極的に行う病院として新しくスタートしたということでしょうか?
ノラ猫さんの活動をやっている地域の人たちと連絡し合ったりして、ちょっとずつそういう方向に進んでいく手探り状態ですね。まあ、こう言っていいのかどうか分からないけど、以前は仕事として獣医をやってたんです。金儲けもしないといけない。収益をあげて、従業員のことも支えていかないといけないしね。それが、だんだん虚しくなってきてたんですね。
――今は先生おひとりでされているんですね。
そうそう。で、どんどん、どんどん猫が増えるんですよ(笑)。経費も増えてね。
――確かに猫さん、たくさんですね。この子たちを支えるのにも経費がいりますね。
そう、食費も、病気になったら薬もね。最初3、4匹だったのが知らない間に10匹越えてしまいました。
■お年寄りが亡くなって、要らないと…。捨てるなんて出来ない
――こんなふうに猫さんが増えたのも、ここ数カ月ということですか?
いや、もっと前から、じわじわ増えてたんです。誰も要らない、飼わないという猫を頼まれるんですね。お年寄りの飼い猫で、その方が亡くなって、もう飼えないとなったら仕方がないじゃないですか。捨てることなんて出来ないから。
――ノラ猫だけではなく、行き場のなくなった猫も引き取っておられるんですね。
そうそう。例えば、ここの患者さんが猫を飼いたいということだったので、愛護団体から3匹引き取ったら、そのうちの子猫2匹だけ飼うことになって、大人の猫は要らないから、公園に放すというので、うちで引き取ることになったりとかね。ノミだらけだった子が今ではすっかり元気で太ってます。
■仕事としての獣医ではなく、獣医としての本来の仕事を
――気が付いたら、10匹を越える病院猫がいるわけですね。
そうそう。13匹ですね。まあ、今はね、ひとりだしね。仕事としての獣医ではなくて、獣医としての本来の仕事が出来たらいいなと思ってます。
――今は、仕事の割合としては、普通の患者さんと、ノラ猫さんとどんな感じですか? ノラ猫さんが増えている?
それは難しいですね。いろんな人に伝えているんですけどね。まだノラ猫の割合は低いです。ノラ猫にそんなにお金をかけられないという人が多いんじゃないかな。
――池田の「のらねこさんの手術室」は、TNRのT=トラップからされていますものね。
そうなんです。すごいですよね。それで、1日12頭とか15頭の手術をされてね。あそこは3人でやっておられるけど、僕はひとりだから、そこまではやれない。あと、不妊手術を続けてすると集中力も途切れてきますから、僕はそれほどたくさんは出来ないです。そういうことで言うと、まだ普通の患者を診る方が多いですね。
――ちなみに、こちらで去勢や避妊手術をするとおいくらなんでしょうか?
飼い猫の避妊手術は22000円なんですよ。ノラ猫だと10800円。飼い猫の去勢手術は14000円。ノラ猫は5400円。税込みです。一般の患者さんだったら3240円もらう抗生物質も、ノラ猫には込みです。もちろん、飼い猫もノラ猫も、同じ手術をします。儲けはありませんけど、僕ももう50歳を越えてますから。視力の問題や集中力を考えると、手術ができるのは頑張ってもあと10年くらいかと。それだったら、無理してお金儲けするより、10年好きなことをやりたいと思っています。
■猫みたいに自分が一番で、自由に今を生きたいです
――もともとそんなに猫がお好きだったのですか? もちろん獣医さんを目指されたわけですから、犬も猫もお好きなんだと思うのですけれど。
もともと好きだったというより、猫のことがだんだん好きになってきたって感じかなあ。犬って飼い主に忠実じゃないですか。言うこときくし、順位が決まっていて、飼い主さんが上だと思って服従する。猫はそんなことないでしょ。呼んでも来ないし、トイレも食事も、自分がしたいときだし。訓練なんかできない、自由なんですよね。そんな猫と暮してたら、自分も自由に、楽しくなってきたんです。犬のように飼い主さんの顔色見て我慢して暮すんではなくて、猫みたいに自分が一番で、自由に今を生きたいです。
本来なら患畜用のゲージや、山田先生の憩いのスペースと思われる場所にも猫がいっぱい。お話をうかがった11月4日時点で13匹の「病院猫」がいるノーラ犬猫病院なのでした。(その後、1匹猫が亡くなって、11月24日現在、12匹の猫になったそうです)
病院内を自由に歩き回る猫もいれば、猫エイズの猫はちゃんと隔離され、まだ慣れていない猫は違う部屋にいます。どの猫も自分の居場所を得て、幸せそうに暮していました。もちろん山田先生の手で避妊・去勢手術済みで、病気の検査もばっちり。「必要最小限のことをしてます」と話す山田先生ですが、それ以上の愛を受けて暮していることは、猫の顔を見れば分かりました。「病気の猫は飼えない」と捨てられてしまった腎臓病の猫には、毎週6回の点滴を続け、皮膚病の猫も交通事故にあった猫もきちんと手当を受け、それぞれのんびり、ゆったりと暮していました。
「ノーラ犬猫病院」は、今はまだ、山田先生の目指すノラ猫の不妊手術専門の病院ではありませんが、猫を愛し、猫から学んで、猫のように生きていきたいと願う先生のいる素敵な病院でした。飼い猫さんのことも、さぞ親身になって下さるだろうと思います。もちろん、TNR活動をされている方にもぜひ、西宮に「ノーラ犬猫病院」があるよとぜひ教えてあげて下さい。
最後に、山田先生の愛読書をご紹介します。「幸せになりたければねこと暮しなさい」です。猫と暮すことで、自分らしい生き方を実践されている山田先生でした。ノーラ犬猫病院をどうぞよろしくお願いいたします。