川井郁子、「第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート 2018」の魅力を語る(上)

川井郁子さん=撮影・米満ゆうこ

クラシック音楽にあまりなじみがない人でも、耳にすることが多いと思われるストラディヴァリウス。それは、イタリア・クレモナの名工アントニオ・ストラディヴァリが17世紀から18世紀にかけて作り出した世界最高峰とうたわれる弦楽器の総称だ。今回、このストラディヴァリウスのみを集めて、ベルリン・フィルの名手13人が奏でる「第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート 2018」が、2018年5月26日(土)から全国各地で開かれる。長年ストラディヴァリウスを愛用しているヴァイオリニストの川井郁子さんに、楽器やコンサートの魅力、川井さん自身の活動について、大阪で話を聞いた。このコンサートは、大阪では2018年5月31日(木)にフェスティバルホールで開催される。

川井郁子さん=撮影・米満ゆうこ

川井郁子さん=撮影・米満ゆうこ

■色んな形容詞が当てはまる全てを備えた楽器

――「ストラディヴァリウス・サミット・コンサート」は今年で12回目を迎え、今回は7台のヴァイオリン、2台のヴィオラ、2台のチェロのストラディヴァリウス11台が集まるそうです。

すごく密度の高いストラディヴァリウスが11台も揃ったら、オーケストラに負けない迫力や、音色のバリエーションが楽しめると思います。ストラディヴァリウスの音色の良さが一番生きる編成ではないでしょうか。ベルリン・フィルの皆さんは、弾き方が朗々としていて、弦楽器を鳴らしきる。そういう響きが特徴なんです。「ストラド」のダイナミックな音色が聴けると思います。

――私も含めてヴァイオリンを弾いたことがない人は、「ストラディヴァリウス」というネームバリューだけで、すごさを感じてしまいがちです。ほかのヴァイオリンと比べるとどう違うのでしょう。

生で聴くと、身体に響いてくる音の肌触りが違うと分かると思います。すごくきめ細かいんですよ。シルクのようで、きらびやかでいて、滑らかな音色なんです。ほかにも名器はたくさんありますが、ほかの楽器は「甘い音色」「パワフルな音色」など形容詞が偏るんです。ストラドは全部を備えている。色んな形容詞が当てはまる楽器だと思います。

――全部備えているとはすごいですね。

音色もダイナミックかつ繊細です。なかなか全部揃った楽器はないんですよ。

――例えば、ストラドは現代音楽は適さないとか、奏でる曲のジャンルはいかがでしょう。

ストラドは音色が多様ですし、弾く曲によって色んな顔を出してくれる。名器だからこそですね。私もアルゼンチンタンゴやジプシー音楽、和楽器が大好きですけれど、すごく違う音色をドンドンと出してくれる。今でも常に楽器に発見があって、奏者にとっては頼もしいパートナーですね。

――川井さんご自身も大阪芸大から貸与されている1715年製のストラディヴァリウスを使用されています。何年ぐらい使われていますか。

もう10年ぐらいですね。

――最初、手にしたときはどんな感じでしたか。

ストラドは手ごわいと聞いていて、まさにそんな感じでしたね。すぐに楽器本来の音色は出てくれなくて。手ごわかったですね。

――その手ごわさがなくなるまで、どのぐらい時間がかかりましたか。

皆さん、半年ぐらいかかるそうで、私もそのぐらいかかりました。自分では時間がかからないタイプだと思っていたんですが(笑)。

――その間、ステージで演奏するときは?

もちろん、ストラドを使いました。舞台でも弾いておかないと、楽器のことが分からないので。今は私の一番の理解者でいてくれて、私の声、分身みたいな存在になってきたなと思います。

※5月4日掲載予定のインタビュー「下」では、楽器やコンサートの魅力、川井さん自身の活動についてなどインタビューの後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■楽器が持っている〝気〟を感じます

■楽器は生き続けているもの

■最初は難しくても、ある時に応えてくれる

■ストラディヴァリウスの多彩な魅力が味わえるプログラム

<第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサ-ト 2018>
【松山公演】2018年5月26日(土)松山市民会館大ホール
【福岡公演】2018年5月27日(日)福岡シンフォニーホール
【川越公演】2018年5月29日(火)ウェスタ川越 大ホール
【大阪公演】2018年5月31日(木)フェスティバルホール
【浜松公演】2018年6月1日(金)アクトシティ浜松 大ホール
【山口公演】2018年6月2日(土)山口市民会館大ホール
【島根公演】2018年6月3日(日)島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール
【鹿児島公演】2018年6月5日(火)鹿児島市民文化ホール第一
【札幌公演】2018年6月6日(水)札幌コンサートホールKitara 大ホール
【名古屋公演】2018年6月7日(木)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
【東京公演】2018年6月8日(金)~6月10日(日)サントリーホール 大ホール

<公式サイト>
http://www.st-summit.com/

<関連リンク>
Ikuko Kawai Official Web Site http://www.ikukokawai.com/

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■楽器が持っている〝気〟を感じます

――以前、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんにお話を伺ったとき、「楽器オタクだから、ヴァイオリンを見ているだけで楽しい」とおっしゃっていましたが、川井さんは?

私は楽器オタクではないんですが(笑)、やっぱり名器を見せてもらうときはワクワクしますね。楽器が持っている〝気〟をすごく感じるんです。楽器には気があって、古くて歴史あるものに囲まれると、何ともいえない感覚になりますね。エルガーやメンデルスゾーンが使っていたストラディヴァリウスに囲まれたことがあって、そのときは自分がすごくちっぽけな存在になった気がしました(笑)。

――楽器によっては気を感じないものもあるのですか。

あります。そういう楽器はいい意味で、素直に鳴ってくれる楽器だったりするんです。その楽器自体が何かを持っている場合は、その楽器をよく知らないと鳴ってくれないんです。

■楽器は生き続けているもの

――偏屈ものの人間みたいですね(笑)。今回は、1672年に製作されたヴィオラ「グスタフ・マーラー」、1710年製作のヴァイオリン「キング・ジョージⅢ」などのストラディヴァリウスが登場するそうです。ただ、楽器が高額だから音がいいというものでもないのですよね。

そうですね。楽器のコンディションがすごく大きいんです。同じ時期のものでも、今すごくいい状態のものと、調子の悪いものがある。楽器は生き続けているものなんです。

――今回は楽器の総額が90億円だそうです。聞くだけで、失神しそうな値段ですが(笑)、演奏する人は、そこまでは考えないのでしょうか。

考えなくなっちゃいますね(笑)。一番最初は怖いと感じましたが、日常で、毎日接しているものですから身近に感じるようになってきますからね。

■最初は難しくても、ある時に応えてくれる

――生き物ですものね。それなら相性もあるかと思います。頑張ってみたけれど、これはダメだわという場合もありますか(笑)。

そうですね。でも、ストラドは諦めてはダメです(笑)。最初は難しくても、ある時に応えてくれるので。

――辛抱強く、応えてくれるまで練習を重ねると。

鳴らすための研究をするので、そうするとうまくなるんです。皆、ストラドを使うとうまくなると言われます。皆さん、半年の間にすごく苦労して研究されていると思います。

■ストラディヴァリウスの多彩な魅力が味わえるプログラム

――今回、世界最高峰のオーケストラの一つと言われるベルリン・フィルのメンバー13人で編成された「ベルリン・フィルハーモニック・ストラディヴァリ・ソロイスツ」が演奏します。

ベルリン・フィルは「朗々と歌う」という表現がピッタリです。そういう響きがとことんまで楽しめると思います。ベルリン・フィルのほうが、日本人の精神性と似ていると思います。ウィーン・フィルとはいい意味で正反対ですよね。ウィーン・フィルは、聞いただけでウィーン・フィルです。「まつ毛が歌うような」と形容されています。同じストラドを使っても音色が全く違うんです。ベルリン・フィルは楽器を鳴らしきる奏法なので、楽器のダイナミックさを聴かせてくれるはずです。

――「まつ毛が歌う」とはすてきな表現ですね(笑)。

天使が歌っているような独特の音色です。軽やかさではなく、透明感がすごいんですよ。奏法が全然違うんですね。弾き方が私たちが習ってきたのとは違う。あれは真似できないですね。

――今度、その言葉を意識して聞いてみます。今回のコンサートの曲目はどう思われますか。

ストラドの多彩な魅力が味わえるプログラムになっていると思います。土っぽくて荒々しいバルトークの「ルーマニア民族舞踊」から、バロックの美しい調和で聴かせるヴィヴァルディの「四季」まで、同じアンサンブルでもこんなに違う音色があると実感できるプログラムだなと思いました。さすがですね。

――ほかにも、伝統音楽「スペインのフォリア」、グリーグの組曲「ホルベアの時代より 作品40」なども演奏されます。

皆、タイプの違う曲です。ヴィヴァルディの「四季」は皆さん耳なじみのある曲ですから、それがストラドだと、こんな風に聴こえるんだというのが、一番分かりやすいかもしれませんね。

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