世界最高峰の名器とうたわれるストラディヴァリウスのみを集めて、ベルリン・フィルの名手13人が奏でる「第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート 2018」が2018年5月26日(土)に開幕し、大阪では5月31日(木)にフェスティバルホールで開催される。1715年製のストラディヴァリウスを愛用しているヴァイオリニストの川井郁子さんのインタビュー後半では、川井さん自身の活動について話を聞いた。
――今回、登場するストラドのヴィオラは地球上にわずか10台ほどしか存在しないそうです。
私もヴィオラのストラドは間近で一度も見たことがないので、すごく貴重ですね。ぜひ、聴いてみたいです。ストラドのチェロも美しいですよ。音の滑らかさとふくよかさ、音の密度の高さなど全部揃っています。ヴァイオリンもすごいですけど、ストラドの良さはチェロにもすごく感じます。
――ヴァイオリンに集中しがちですが、ヴィオラやチェロにも注目して聴いてみたいですね。
耳を澄ますところを変えて聞いてみると、色んな発見があると思いますよ。
■「月」をテーマにしたアルバムを昨年、リリース
――ここで、川井さんについてお伺いします。昨年、7年ぶりにアルバム「LUNA」をリリースされました。いつも私たち人間の身近にある「月(LUNA)」をテーマにされたのは何故ですか。
太古の時代から人は月を見て生きてきました。人が月にかけて、投影してきた思いを込めました。また、月は色んな顔を持っている。清純な澄み切った月もあれば、赤く妖しい月もある。それが女性に重なって、何度でも生まれ変わるという女性としての気持ちも重ねました。和楽器を多様に使い「オリエンタル」な世界観をテーマにしてみたんです。
――川井さんご自身が、「多様性のある月みたい」だと言われたことがあるそうですね。
舞台をやっているときに「あなたは器用ではなくて、受容体なんだと思う」とある人に言われたんです。与えられた役や、曲によって自分が自然に変わる。まさにそれが月みたいだなと思いました。照らされるものによって、私の中にあるメラメラしたものが出てくる(笑)。そういう面が自分の中にあるんですね。今回、和楽器の人たちとの出会いがあって、多彩な表現ができて良かったなと思っています。
――アルバムではムソルグスキーの「展覧会の絵」を、和楽器を使いアレンジされていました。原曲を崩さずに、お囃子や沖縄音楽も取り入れられ、ものすごく斬新でした。
昔からあのメロディーには和を感じていたんです。今回、ああいう形で発表できて楽しかったです。
――クラシックの名曲は聴いていて、和が合うなど、曲によってアレンジのイメージが膨らむのですか。
そうですね。曲によって、これは尺八が合うなとか。そういうアプローチが浮かんだときにしかアレンジしたくないので、どんなにその曲が好きでも、無理やり別なアレンジに変えることはしないようにしています。新しいイメージが浮かんだときだけですね。
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■ストラディヴァリウスが和の世界観を引き出してくれた
■羽生結弦選手がソチ五輪で使用した「ホワイト・レジェンド」を収録
■難民の子どもたちを支援する「マザーハンド基金」
■新たな自分を発見したときが一番ワクワクする
<第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサ-ト 2018>
【松山公演】2018年5月26日(土)松山市民会館大ホール
【福岡公演】2018年5月27日(日)福岡シンフォニーホール
【川越公演】2018年5月29日(火)ウェスタ川越 大ホール
【大阪公演】2018年5月31日(木)フェスティバルホール
【浜松公演】2018年6月1日(金)アクトシティ浜松 大ホール
【山口公演】2018年6月2日(土)山口市民会館大ホール
【島根公演】2018年6月3日(日)島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール
【鹿児島公演】2018年6月5日(火)鹿児島市民文化ホール第一
【札幌公演】2018年6月6日(水)札幌コンサートホールKitara 大ホール
【名古屋公演】2018年6月7日(木)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
【東京公演】2018年6月8日(金)~6月10日(日)サントリーホール 大ホール
<公式サイト>
http://www.st-summit.com/
<関連リンク>
Ikuko Kawai Official Web Site http://www.ikukokawai.com/
- 尾上菊之丞が構成・演出の詩楽劇『八雲立つ』、尾上右近・水夏希ら出演 2022年9月12日
- ガラシャとアントワネットを描く『月に抱かれた日・序章』川井郁子が12/10から上演 2021年12月9日
- 川井郁子、「第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート 2018」の魅力を語る(下) 2018年5月4日
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■ストラディヴァリウスが和の世界観を引き出してくれた
――川井さんはアルバムの2作目から和楽器を取り入れた作品を作られています。それは小さいときから和楽器をよく聴いていたのか、日本人のDNAなのかどちらでしょう。
和楽器を特別聴いていたわけではないんです。DNAでしょうね。生で聴いたことがないのに、この楽器のこの音がほしいと、DNAレベルで分かる気がします。大好きですね、和楽器は。
――先ほど、ストラディヴァリウスが和楽器とも合うとおっしゃっていましたが、ストラディヴァリウスならではの和楽器と調和した美しい音色というのがあるのでしょうね。
そうですね。多分、違う音色のヴァイオリンだと、陳腐になってしまう。和楽器の特色の強い音色に負けてしまうことも十分あるんです。ストラドが別の世界観を引き出してくれましたね。
■羽生結弦選手がソチ五輪で使用した「ホワイト・レジェンド」を収録
――また、羽生結弦選手がソチ五輪のエキシビションで使用した「ホワイト・レジェンド」も収録されています。
羽生選手から「ホワイト・レジェンド」は「3・11以降の僕のスケートの原点であり特別な曲です」というご丁寧なお手紙をいただいて。被災地の皆さんのために今も使って下さっているから、私も今回、「ホワイト・レジェンド『復活』~『白鳥の湖』より」と名付けてリアレンジしました。
――平昌オリンピックで羽生さんが金メダルを取られて、川井さんも喜びもひとしおだったのでは。
すごくうれしかったですね。
――自分の曲が手元を離れて、ほかの人のもとへ行き、表現されているのを見るのはいかがですか。
本当にうれしいですし、これ以上、励みになることはないですね。あの曲で毎日、練習してくださったと思うと、私も頑張らなくちゃという気になりますね。今年も日本各地でコンサートを開きますので、是非楽しみにいらしていただきたいです。
■難民の子どもたちを支援する「マザーハンド基金」
――また、川井さんが立ち上げた、難民の子どもたちを支援する「マザーハンド基金」ですが、今までどんな国に行って演奏されたのですか。
タイとウガンダに行って子どもたちのために演奏しました。私が子どものころ、初めてヴァイオリンの音にときめいたことを思い出させてくれるぐらい、「もう一回弾いて、もう一回弾いて」とダイレクトに感動してくれて。そこは日本の子どもたちとは全然違いますね、日本はモノがあふれ過ぎているから。アフリカの子どもたちは乗って踊り出してくれて、音楽の力を再確認しましたね。
――ウガンダの治安はどうでしたか。
すごく厳しいところもあると聞いていたので、比較的安全な場所に連れて行ってもらいました。大人にとっては外出したり、仕事を持つこともできない閉塞感のある環境ですが、子どもたちは、整っていない環境でも何でも遊びに変える力があるんです。学びたいという意欲もすごくて。勉強する意欲はモノがない分、強いんですね。この活動はずっと続けていきたいです。
■新たな自分を発見したときが一番ワクワクする
――川井さんもクラシックをはじめ、和楽器を取り入れた「LUNA」や映画音楽、タンゴ、「源氏物語」の世界を取り入れた音楽とセリフの舞台など、活動は多彩で意欲的ですね。
何かをやらないと次の道が見えてこないんです。やると、次のことが浮かんでくる。その繰り返しで自分を発見していますね。次は何かを考えたり、新たな自分を発見したときが一番ワクワクします。
――最後に「第12回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート2018」の観客のために、メッセージをお願いします。
ヴァイオリンの持つ一番美しい響きが聴けるコンサートだと思います。ヴァイオリンに限らず弦楽器が楽しめる贅沢な時間になるはずです。これは、生じゃないと伝わらないところがあるので、ぜひ、体感しに行っていただきたいと思います。