2019年3月28日から29日、和歌山のドルフィンリゾートでイルカとふれあう「いるかツアー」が開催されました。参加したのは中学3年生になったレノアちゃんこと古池玲乃愛ちゃんと、小1から中2までの7名のこどもたちです。レノアちゃんのことは、アイデアニュースの「レノアちゃんの記事一覧(⇒ここをクリック)」を参照してください。
■先生とお母さんの呼びかけ:クラウドファンディングで「いるかツアー」
2018年夏、Ready for というクラウドファンディングで、古池敦子さんと西田昭子さんが、『キッズ・ドルフィン』活動への支援を呼びかけました。敦子さんは、重度の障がいがあるレノアちゃんのお母さんで、フラワーデザイナー。作業所や介護施設などで講師をしています。昭子さんは、公教育を含めて約25年間子どもたちと関わり、「Free Club」というこども支援教室を営んでいます。ふたりは、これまでの経験を活かして、2018年10月から学習、プール、いるかツアーを柱とした『キッズ・ドルフィン』を立ち上げ、個性あふれる子どもたちがともに学ぶ場所を作ることにしたのです。たくさんの人の支援でクラウドファンディングの目標額が達成され、小学1年生から中学3年生までの子どもたちが半年間、月に1回、日曜日に集まって、学習活動とプール活動を行ってきました。学習ではそれぞれの課題を持ちよって学び、午後からのプールでは水に入る楽しさを経験。レノアちゃんもすべての活動に参加しました。6ヵ月間の活動の集大成として、一泊二日の「キッズ・ドルフィン和歌山いるかツアー」が開催され、筆者も同行したというわけです。子どもたちはひとつの大きな家族のようで、まだ寒い3月末の和歌山でしたが、全員いるかと泳ぐことが出来ました。
■「勉強やプールやイルカはプロセス。個性をもつ子どもが一緒に育っていくことが大事」
――子どもたち全員がイルカと触れ合えましたね!
西田昭子さん:プール学習で、水に慣れること、水が楽しいと思えることを大事にしたんです。イルカがいるところは深いので、勇気をもってジャボン!って飛び込めることが大切だから。飛び込みやシュノーケリングの練習もしました。みんなの様子を見ていて、勇気が育ったなあと思いました。
古池敦子さん:仲間と一緒にすることが自信につながったと思う。うちのレノアもその一人ですけど、仲間がいるから水の中に入ることも挑戦できる。励まし合って、出来ることが増えていくんですね。
――半年という活動期間はどうでしたか?
昭子さん:正直に言うと、1年くらい欲しかったです。もう少し時間があったら、もっと芯から仲良くなれたと思う。私が「レノアちゃんと仲良くしましょう」と言ったら、みんなもちろんそうします。でも、子どもたちは言われなくてもそう出来るはず。この活動で目指しているのは多様性の理解なので、勉強やプールやイルカはプロセス、過程なんですね。活動を通して、いろんな個性をもつ子どもが一緒に育っていくことが大事だと思います。
敦子さん:いろんな個性の子どもたちが一緒に活動する場が地域にあんまりないので、レノアにどういうふうに接していいか分からない難しさは、あったと思います。みんな優しいから、毎回毎回、どうしたらレノアの思っていることが分かるんだろうとか、関わりを深めていってくれたんですけどね。同年代の中2の女の子たちの話が聞けるのが、レノアも嬉しかったみたい。アイドルの話とか、養護学校でなかなか出来ない話がレノアには刺激になっていました。
レノアちゃんだけではなく、子どもたち全員の冒険に立ちあえて(私もいるかと一緒に泳げて!)筆者にとっても嬉しい旅になりました。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、古池敦子さんと西田昭子さんのインタビューの続き、「いるかツアー」のさまざまな写真、今回またしても大きな成長を見せてくれたレノアちゃんの様子の紹介などを載せています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■かつて会話はできないと言われたレノアちゃんが、「お腹が空いた!」と言えた
■同学年の子や両親と行く旅行ではなく、個人参加の旅が子どもを成長させる
■「人に助けてもらいながら、私も活動をしていい」という気持ちが出てきた
■レノアちゃんのこれからの夢は「視線入力」を使ったコミュニケーション
<関連サイト>
クラウドファンディング「個性あふれる子どもたちへ共に学ぶ環境を届けたい!」
https://readyfor.jp/projects/kids-dolphin
- 2019年以前の有料会員登録のきっかけ 2020年8月18日
- 「がんばって、にほんの轍を残したい」聖火ランナーのひとり、レノアちゃん 2020年3月24日
- 「多様性の理解」が成長を生む。『キッズ・ドルフィン』でレノアちゃんが泳ぎました 2019年4月25日
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■かつて会話はできないと言われたレノアちゃんが、「お腹が空いた!」と言えた
レノアちゃんはかつて、「重度障害児」というカテゴリーに入り、基本的には、今後歩いたり、話したりすることはないという認識で療育をされるお子さんでした。でも、お母さんの敦子さんをはじめ、レノアちゃんの周りには、「レノアちゃんはいろんなことがよく分かっている」と信じて接している人がたくさんいます。いろんなところにどんどん出かけたり、小学校の卒業式では歩行器を使って歩いて卒業証書を受け取ったりしてきたレノアちゃんは、中3になった今、療育ではなく学習のクラスに入っているのです。
『キッズ・ドルフィン』のいるかツアーでも、ホテルの部屋にみんなが集まって、自分の好きなことや苦手なものを紹介したとき、お母さんの敦子さんとの指談(指で〇や☓や数字やひらがなを書いて、想いを読み取ってもらう方法)で自分のことを話したレノアちゃん。小1から中2の子どもたちが、レノアちゃんの”言葉”を待つ姿は、素敵でした。西田昭子さんと古池敦子さんが目指している「多様性の理解」は、こんなところから始まるのですね。
色々なところに積極的に出かけることで、レノアちゃんの心身は大きく成長しています。私は、レノアちゃんが言葉を発するところに居合わせることがこれまでにもたびたびありました。私がレノアちゃんに指談の練習をしてもらっていたとき、「ペン!」と大きな声で言ったり、「ご飯」と言ったり、卒業式では「古池レノアさん」と名前を呼ばれた時に「はい!」と答えたり。今回のいるかツアーでは、こうした単語だけの発話ではなく、「お腹が空いた!」という文章が言えたのです。レノアちゃん、お出かけして嬉しくて、よほどお腹が空いたんですね。こうした刺激が成長を促してくれるのだと実感しました。
実はレノアちゃんがいるかと泳ぐのは二回目。一昨年の夏、西田昭子さんたちと一緒に和歌山でいるかと泳いだときのレノアちゃんの笑顔は素晴らしかったそうです。もう一度、新たなメンバーに、そしてレノアちゃんにも再び、いるかと泳ぐ体験をして欲しかったという敦子さんと昭子さん。今回、レノアちゃんはウエットスーツを着てまだ冷たいプールに入りました。
■同学年の子や両親と行く旅行ではなく、個人参加の旅が子どもを成長させる
私は、レノアちゃん以外の子どもたちとは初対面だったわけですが、出会って1時間後のこの写真の笑顔。仲良しの兄弟姉妹かいとこのようで、西田昭子先生を中心に大きな家族のように見えました。学校から同学年の子どもたちと行く修学旅行でもなく、両親と行く家族旅行でもなく、個人として参加する旅は、他でなかなか味わえないワクワク感、ドキドキ感だったことでしょう。一泊二日の間に、助け合い、刺激し合って成長する姿を目の当たりにしました。
――今回のツアーの参加者の人数は8名でしたね。クラウドファンディングでは15名くらいが参加することを目標にしていたと思いますが、この人数はいかがでしたか?
昭子さん:実際に活動してみると、この人数で良かったです。第3日曜日に朝から集まって、午前中はそれぞれがやりたい課題をもってきて学習、お昼ご飯をはさんで、午後からプールだったんですね。プールは、泳げるように指導するというより、水に慣れて、水に入ることが楽しいということ分かってもらうことをまずやりました。ボール遊びや、飛び込みも、シュノーケリングも練習しました。子どもたちは、この人数だからやりやすかったし、最初意見がなかなか言えなかった子も、どんどん仲良くなっていったんですね。
敦子さん:レノア以外にも肢体不自由のお子さんの親御さんから問い合わせもあったんですけど、今回はちょっと間に合わなかったんです。いろんな個性のお子さんがいる『キッズ・ドルフィン』活動を目指していますが、初めての試みとしては、みんながいるかと泳いで、怪我もなく無事に帰ってこられて、本当に良かったです。
――ゆったりした日程も良かったですね。
昭子さん:今回は本当にゆったりしたツアーでした。1日目は移動だけでしたから、ホテルに入ってからは子どもたちの自由な時間が多くて。スケジュールがいっぱいあると、「あれやって、次これやって」、と忙しくこなすだけになるから、ゆったりした日程なのは今回、とても良かったことです。その中で、いるかと泳ぐとき、私が一緒に水に入らないというチャレンジも出来ました。私が離れても子どもたちがやれるのかどうか、少し迷いましたが、そうして良かったです。子どもたちだけでも全然問題なくやっていました。距離を持って、外側から声をかけるだけで、子どもたちはいるかのプールに入ることが出来たんです。子どもたちにやって欲しいことがあるときは、一歩引いてみることも大事ですね。私はお世話好きだから、ついつい手をだしてしまうけど、ちょっと引いて見守ることも大事だなあと思いました。
■「人に助けてもらいながら、私も活動をしていい」という気持ちが出てきた
――敦子さんとレノアちゃんは、ツアーを終えてどうでしたか?
敦子さん:レノアも、半分スタッフみたいな気分で参加していて、「無事に終わってよかった」と言ってました。
――そういう気持ちになることも成長ですね。
敦子さん:そうですね。自分がどこまで出来るのか、本当に出来るのか、レノアも考えていたんですね。「他の人に迷惑をかけるから行きたくない」というふうになると、何も出来なくなってしまいますが、レノアに「自分が出来ることは責任をもってしよう。その上で、人に助けてもらいながら、私もいろんな活動をしてもいいんだ」という気持ちが出てきたんです。日々成長(笑)それから、今回、たくさんの人に応援してもらってプロジェクトが実現出来たことが有難かったです。子どもたちにこういう経験をさせてあげようと思う、理解ある皆さんがいて嬉しかった。
今回、クラウドファンディングで資金があったことで、プールを貸切にして思うように活動できたり、ツアーには看護師さんが参加したりと、安心安全面を充実させることが出来たプロジェクト『キッズ・ドルフィン』。この態勢なら、肢体不自由だったり、知的障がいがあったりするお子さんも十分参加できると思いました。半年間、レノアちゃんと過ごした子どもたちが、10年後20年後に、福祉に対する理解がある大人になったり、そういう仕事についたりするきっかけになったら嬉しいと、お母さんの敦子さんが言った言葉が心に残ります。子どもたちの柔らかい心が、たくさんの大切なことを吸収している。プロジェクトの最後にだけ関わった私にも、それはよく分かりました。
■レノアちゃんのこれからの夢は「視線入力」を使ったコミュニケーション
指談を通して自分の想いが通じることで、どんどん社会との関わりを増やしてきたレノアちゃんもまた、地域の子どもたちと関わることで大きく成長していました。レノアちゃんは今、「視線入力」(画面に表示されている文字を見ることによりその文字が入力できるシステムのこと)を使ったコミュニケーションを練習中だそうです。指談の出来るお母さんがいなくても、自分の想いがストレートに伝わることを目指しているのです。『キッズ・ドルフィン』の子どもたちは、言葉を介さなくてもレノアちゃんの様子を見て分かることがたくさんあり、心は通じていました。でも、そこにレノアちゃん自身の言葉が発信されれば、もっと早く打ち解けられただろうし、思春期の子が大人を介さずにしたい話もできるようになるはず。互いに刺激し合ったレノアちゃんと子どもたちが、西田昭子先生の目指す「多様性の理解」を深め、どんどん成長していくことを願っています。いつか、海外で違う文化に触れたいというレノアちゃんの夢、きっと実現しますように。