シーエイティプロデュースが「オフ・シアターからオン・シアターへのステップアップを前提にした作品づくり」を目標に、世界に通用する日本発のミュージカルを育てていくプロジェクトを始動しています。作品は西川大貴さんが脚本・演出を手掛けるオリジナル作品。2019年11月15日(金)にプレビュー公演が始まり、11月30日(土)に本公演が開幕するミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』です。音楽は桑原あいさん、振付は加賀谷一肇さんが担当され、さらにスーパーバイジング・ディレクターとしてダレン・ヤップさんが参加されています。西川さんにインタビューし、どんな作品になるのか、その物語や音楽、オーディションの様子などについて伺いました。(上)(下)に分けて掲載します。(このインタビューは稽古序盤に行われました)
――今オーディションから稽古に進んでいて、まずは現在の手応えや新しい現場の雰囲気について、どう感じていますか?
桑原あいの楽曲は、すごくいいものが出来てきています。想像したとおりであり、想像をすべて超えてくる楽曲が出来てきていると思います。『(愛おしき) ボクの時代』というタイトルですが、今の2020年的なフィーリングがありつつ、70年代や80年代の音楽が一番元気だった頃のスタンダードナンバーのような香りも感じられる楽曲です。そして日本的な部分もありつつ、洋楽的なかっこよさもある。そういったあらゆる「融合」がテーマになっているので、本当にいい音楽が出来てきているなと思います。そして、加賀谷くんの振り付けも本当に同じく、想像したとおりでもあり、想像を超えてくるようでもあり。ふたりとも1を網羅したうえで、10を返してくれます。どの現場でも、多少「違うんだよな」「これは伝わらないから仕方ないか」ということがありますが、今回はそれが一度も発生していないので。普通では考えられないです。
――それは西川さんの感性が、桑原さんや加賀谷さんの感性と合うということですか?
そうですね。もう、合うんでしょうね(笑)。
――脚本を読ませていただきましたが、ナンバーのところにト書き的に説明が入っているじゃないですか。例えばあそこに、どのくらいの要素を加えて依頼して、1が10になって返ってきているんですか?
まず、台本を読んでもらった時点で「こういうイメージはどう?」とざっくり尋ねてみて、それに対するレスポンスが大きくずれたことがないので、台本を詳しく説明してさらに足してやっていくというよりも、書いてあることに対して、「こういう捉え方はどうだろう」「それ、おもしろいね」「こっちは、こういう方向で膨らませるのは?」という風に自由に進めていく感じですかね。最初から僕のイメージの中にあるものを「ああいう風に、こういう風に」と決め打ちで伝えてはいないですね。自主企画で舞台を作っているときにも感じたのですが、自分の思い描いたことをやるだけでは限界がありますし、それはあまり楽しくないというか……。楽しいんですが、あまりクリエイティブではないなと思っていて。自分の頭の中にあるものを、もちろんベースにはするんですが、コラボレーションをして、その化学反応みたいなものを楽しみたいなと思い、この企画をスタートしました。それが今、きちんと実行出来ているので、これ以上ないクリエイター陣だと思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、クリエイター陣、キャスト陣について、脚本の中身についてなどインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。11月15日(金)掲載予定のインタビュー「下」では、創作活動をはじめた経緯などインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■どんな作品でも最初は小さなスタジオで、衣装もセットもなしで作るのが当たり前
■オーディションでは共通言語のある方々を選びました。だから稽古が止まらず早い
■普通ならストレートプレイや音楽劇に近いテーマ。それをミュージカルでアウトプット
■洋楽の影響を受けて日本人が乗れるように日本ナイズされた、僕らに馴染みがある音楽を
<ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』>
【1stプレビュー公演】2019年11月15日(金)~11月18日(月) DDD青山クロスシアター
【2ndプレビュー公演】2019年11月23日(土祝)~11月26日(火) DDD青山クロスシアター
【本公演】2019年11月30日(土)~12月15日(日) DDD青山クロスシアター
公式サイト
https://www.bokunojidai.com/
※こちらはミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』の公式ページに掲載されている「あらすじ」の画像です。
<関連リンク>
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※ここから有料会員限定部分です。
■どんな作品でも最初は小さなスタジオで、衣装もセットもなしで作るのが当たり前
――企画意図にも、「クリエイターを育てる」ということも大きなコンセプトになっていますが、自分が主導で作りたいものを一緒に、化学反応を起こしながら作って、皆さんのアイデアを融合していくのは、総合芸術ならではの作り方という感じですか?
そうですね。今回はダレンもいます。あらゆる意味で先輩ですし、大小作品問わず、いろいろなミュージカルに立ち会っている彼と話していても出てくる話ですが、どんな作品でも最初は小さなスタジオで、衣装もセットもないなかで失敗しながら作りあげていくのが当たり前というところもあるので、最初から決めてかかると、きっとそれ以上のものにはならないんです。僕が言ったものを汲み取って、その通りに振り付けを考えてくれることも、頼めばやってくれると思いますが、「ざっくりと頭にあるけど、とりあえず全然固めないようにしよう」と言っています。まだ舞台セットも衣装も決まっていないんです。決めないと進まないんですが、決めてしまうと、そこである程度見えてしまう。まだまだ化学反応が起きそうな感じがあるので、まだ詰めるのを我慢しているくらいですね。今は本読みもまだ始めていないので、ダンスと歌を先行していますが、本読みをして詰めていったら動きも見えてくることもあると思います。今、動きまで決めてしまうと、その動きに合わせて読み合わせも進めていかなければいけないので、あらゆる意味で余裕をもっておこうと思っています。
■オーディションでは共通言語のある方々を選びました。だから稽古が止まらず早い
――なるほど。今クリエイター陣の話をたくさんしてくださいましたが、キャスト陣はオーディションで決めたとのこと。しかも、本当にこの作品に参加いただくにあたって、という視点だけで選んでという形も珍しいことだと思います。
そうですね。オーディションでも、ただ課題曲を歌ってもらって「ありがとうございました」ではなく、「得意な分野はわかったから不得意な分野を見たいな」とか、わざとマニアックな話をしたときに、どれだけ共鳴してくれるかを見せていただきました。「意外とそこは興味をもってくれるんだ」「そこはドライで、踏み入れずにギャンブルはおかさないんだな」など様々な反応が見られたなかで、共通言語のある方々を選びました。タイプはバラバラで、様々なジャンルの、様々な経歴をもった方に集まってもらいましたが、オーディションのなかでも、「ここは、こうじゃないですか」「こういうものも、ありだと思いますが、どう思われますか?」などと、たくさん会話をしたんです。そこで共通言語をもった会話をできる人しか今のカンパニーにはいないんです。普段、俳優として関わっていても、共通言語を見つけるまでに数週間かかってしまう人もたくさんいて、それで結構稽古が止まってしまうんですよね。ほかの人は全員わかっているんですが、そのひとりのために、何回も同じシーンをやると「ほかのことをやりたいんだけどな」と俳優もストレスを抱えてしまう。結果、どんどん稽古場の空気が重くなっていくのが、みんなわかるじゃないですか。だから、キャリアなどもさまざまですが、共通言語をもった人たちだけでと。そこは大事にしました。
――共通言語で集まった人たちで作る稽古場は、きっとすごく早いですよね。
早いですね。今はダンスをやっていますが、5分くらいのダンスもざーっと振り付けをつけていましたから。もちろん、ダンスの経験がないという人もいらっしゃるので、その人たちがゆっくり進むのは想定内ですが、ダンサーのなかでも、表現の解釈が違うと、そこでも止まってしまうこともあります。抽象的で申し訳ないですが、スタイルは違っても共通言語があるとはやいですね。でもやはりコレオグラファー(加賀谷一肇)の力もあると思います。求心力があったり、居方に説得力があったりするから、出来るという部分はあると思います。
■普通ならストレートプレイや音楽劇に近いテーマ。それをミュージカルでアウトプット
――作品の中身についてもお伺いしたいのですが、まず脚本を書かれたときに、何をテーマに作りたいと思いましたか?
今までも本を書くときは、「ボクたちの話を書きたい」というのは、ひとつのテーマとしてあるんです。身の回りにあるものを書きたいんです。
――なるほど。フランス革命などではなくて、自分たちが知っている身近な話。
「今日も荷物が重いな」「なんで、俺は電車に乗って運ばれているんだろう」など、そういうちっぽけなことをミュージカルに出来ないかなと、ずっと思っていて。
――壮大じゃなくていいということですね。身近なことからスタートする。
そうです。今までストーリーを最初から筋立てて、いちから考えたことはなくて、そういう詩の断片だったり、ふと自分が感じたことをメモしたりしていたところからスタートしているんですが、それを普通にやろうとしたらストレートプレイや音楽劇のほうが多分、肌感覚としては近いテーマになると思います。でも、それをミュージカルにするために、いろいろ試行錯誤しながら今の形になっています。ミュージカルというアウトプット方法に惹かれる自分がいるから、どうにかそこと「ボクたちの話」を結びつけて、ミュージカルとして成立できないかなと、いろいろ考えています。だから、この作品をご覧になった方は、「そういう割にボクたちの話じゃなくない?」と思う方もいるかもしれませんし、「これは確かにボクたちの話だ」と思ってくださる方もいらっしゃるかもしれません。なにより、「いいミュージカルだったな」「楽しいミュージカルだったな」という風に思ってもらうことを、今は第一に考えています。でも、種はそのような感じです。
――身近なことが種になっている。
「変わりばえしない街だなぁ」「どこもビルばっかりだなぁ」みたいな。
――「あんなところに、こんなものがあったのか」というのは、新しい店を見つけるのも、きっとイベントみたいですよね。
でも、それでストーリーがどこまで発展するのかわからないですが、大きなことよりも本当は「ビル群のなかに、昔ながらのちっぽけな料理店がありました」みたいな話のほうが好きです。あとはミュージカルというものと、どのように仲良くするかですね。
――お話を聞いていると、結構華やかなナンバーになるのかなと。
なりますね。ジャンルでいえばポップソングミュージカルだと思います。企画自体が挑戦的だったり、実験的に思われたりするかもしれませんが、とてもキャッチーですし、ミュージカル的。ミュージカル好きの方にも楽しんでいただけるようなナンバーも多いのかなと思います。
■洋楽の影響を受けて日本人が乗れるように日本ナイズされた、僕らに馴染みがある音楽を
――音楽をポップソングにしたのはなぜですか?
いわゆるJ-POPっぽい音楽を使いたかったという訳では決してなく。日本のオリジナルミュージカルのいくつかには、海外ミュージカルの外見だけを切り取った、「日本ミュージカル音楽」という謎のジャンルがあるなと思うんです。「ボクたちの話」をやろうとするんだったら、巷にありふれているボクたちの音楽を無視するのは違うと思うんです。かっこいい音楽。そして心ある音楽であること。外見だけの「漠然とミュージカルっぽい音楽」を第一前提にするのではなく、すぐ近くにある音楽というのを乗せるべきだと素直に思います。冒頭にお話しした、洋楽と邦楽、新しいものとスタンダードの融合がやりたい、という話に通ずるんですが、今日本にありふれている音楽がそういうものですよね。今の流行っている音楽は、一世代前の音楽から強い影響を受けていたり、若い子が昔の音楽が好きだったり。そして現在の邦楽の多くは、洋楽の影響を受けた日本人が、日本人に合うように、日本ナイズしたものですよね。「真似する」っていうのも日本人の特徴だと思うんです。そしてそこからユニークな独自の文化を作り上げているっていう。
ミュージカルも同じですよね。元々は海外の文化。「僕はトムだ〜」とか歌ってる時点で、結構奇妙なことだと思うんですけど(笑)、それを日本語でやっているからこその新解釈が生まれたりして。だから、海外のものを素直に受け入れて、日本ナイズしてやるっていうのは当然のやり方なんじゃないかなと思います。ポップソングにしたいというのも、自分たちに馴染みがあって、「ボクたちの音楽」を使いたい、というそれだけなんです。
※西川大貴さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは12月14日(土)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
西川さん・桑原あいさんのユニット「かららん」が大好きで、本企画の発表以来本当に楽しみにしています。ミュージカルを観ることは好きだけど、独特の仰々しい世界観が肌に合わないと感じることもある私にとって、新たな扉を開いてくれる作品になる予感がしています。
感性の一致しているクリエイター陣のコラボレーション・化学反応がどんな作品をつくりだすのか、
2回のプレビュー公演でどう作品が変化するのか、
劇場へ足を運び目撃するのが楽しみです。
挑戦的なプロジェクト、応援してます!