2021年7月16日(金)から7月25日(日)まで兵庫県立芸術文化センターで上演される佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021 喜歌劇『メリー・ウィドウ』の記者会見が5月25日に開かれ、指揮者の佐渡裕さん、演出・日本語台本担当の広渡勲さん、ハンナ・グラヴァリ役の並河寿美さんが登場しました。また、Zoomでの参加となったハンナ役を務める高野百合絵さんと、ニエグシュ役の桂文枝さんから届いたメッセージも合わせて、記者会見のお話を紹介します。
■並河:佐藤しのぶさんのハンナをスペクトしつつ、私なりのハンナを
並河:私は2005年の、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ『ヘンゼルとグレーテル』から関わらせていただいております。県立西宮高等学校の音楽科出身ということもあり、西宮市は私にとって第二の故郷のような場所で、そこに劇場ができたときは本当に心躍ったものです。まさか自分がこの舞台に立つとは思いもせず過ごしておりましたが、監督をはじめ劇場の皆さまのサポートのおかげで、この舞台に立ち、大きな経験をし、歌い手として成長させていただく機会をたくさんいただきました。
2008年の『メリー・ウィドウ』では、ヴァランシエンヌ役をさせていただいておりましたが、今回は同じ作品でハンナの役を演じることになり、私の中では大人になったような気分です。前回ハンナを務めた佐藤しのぶさんは、学生時代から本当に憧れの歌手で、その佐藤さんと同じ舞台に立たせていただいたことは本当に大きな経験となり、毎日の稽古がすごく充実していたことを覚えております。佐藤さんのハンナは美しくて、きらびやかで、艶やかで。私にとって、ハンナは佐藤しのぶさんの影がずっとあるような状態ですが、佐藤しのぶさんのハンナは私にとってリスペクトすべきキャラクターとしつつ、私なりのハンナを演じていきたいと思っています。まだ稽古がはじまったばかりですが、共演者の皆さんと共に、新しい『メリー・ウィドウ』をご披露できたらと思っています。
■高野:緊張していますが、舞台に立ったら思い切って遠慮せず、堂々と
高野:今回、十数年間作りあげられてきた兵庫のオペラ作品に私も携わらせていただくことを、夢のように感じております。憧れの舞台で、本当にわくわくしています。前回の2008年で佐藤さんがハンナを務めた映像を拝見しましたが、すべてのエンターテイメントがギュッと詰まった、オペレッタを越えたひとつの豪華なショーのような感じに見えました。特に、佐藤さんが演じられたハンナは本当に美しくて、まさにディーバという存在感があって、登場されるたびにお客さまから拍手が起き、あらためて皆さまから愛されている方なんだと感じました。私は、まだまだ及びませんが、そんな存在感のある、皆さまから愛されるようなハンナに、歌い手になりたいと思っています。
これから立ち稽古がはじまりますが、ハンナがパーティなどで見せるオフィシャルな顔と、ダニロの前で見せるプライベートな顔、そのふたつを掘り下げて、共演者の皆さまや先生方と一緒に作り上げていきたいと思っています。大役に緊張していますが、舞台に立ったら思い切って遠慮せず、堂々と演じきりたいと思います。愉快で楽しい作品なので、お越しいただいた皆さまをハッピーな『メリー・ウィドウ』の世界にお連れできるように、頑張っていきたいと思います。
■広渡:観客あっての舞台芸術ということが一番大事なことだと思っています
広渡:私ごとで恐縮ですが、昨年12月に80歳になり、傘寿を迎えました。その記念すべき年に13年ぶりの再演で、この『メリー・ウィドウ』に携わる機会をいただけたことを大変感謝しております。早稲田大学の演劇科の先生が「舞台芸術には3つの要素がある」とおっしゃっていました。「演者」、それを受け取る「観客」、演者と観客の感動を結ぶ場としての「劇場」。「この3つの関係が正三角形になったときに最高の成果が得られる」ということで、私は生涯ずっと、それを念頭に置いてやってきました。演出する方の「やりたい」だけではなく、それを観客の方が受け取って楽しんでいただけるかどうか。観客あっての舞台芸術ということは、プロデューサー出身の演出家としては一番大事なことだと思っています。
能、狂言、歌舞伎、文楽、人形浄瑠璃、これらすべて発祥の地が関西です。関西のお客さまは「すべて楽しんでやる」と非常に守備範囲が広く、そういう方たちに十分楽しんでもらうためには、どう舞台を作っていくか、この仕事を受けたときに、そのことを最初に考えました。最高の究極のエンターテイメントを皆さまに提供するには職人芸が必要ですから、佐渡マエストロをはじめ、スタッフ、出演者の職人芸を最高に発揮して、皆さんにコロナ禍のうっとうしい気分を一掃していただけるような、楽しめる舞台を作り上げていきたいなと思います。
■佐渡:笑ったり、手拍子をしたり、感動したり、たくさん届けられるように
佐渡:広渡さんと一緒に作った『メリー・ウィドウ』は、いま思い出しても誇らしく、本当に世界で唯一の舞台が作れたと自負しております。関西でしか作れないものということで、銀橋を作って宝塚風にしましたが、光栄なことに僕も宝塚100周年のときにオーケストラの指揮をさせていただき、「銀橋に初めて男の人が立った」と言われたという思い出もあります(笑)。そうした意味でも非常にリスペクトした上で、宝塚のテイストをこの作品に取り入れようと、宝塚のOGの方に出ていただいています。もう一点は、お笑いの文化です。前回のニエグシュ役は桂ざこばさんでしたが、今回は桂文枝さんに出ていただくことになりました。僕にとって一番思い入れのある作品を再演するということもそうなんですが、新しいキャストで、このコロナ禍の中で作っていくという大きな挑戦になると思います。
2008年の『メリー・ウィドウ』は12回公演がすべて完売だった訳ではありませんが、作品がよければ、そしてそれを伝えるスタッフの努力があれば、関西でこれだけの公演回数ができるんだと思いました。翌年、『カルメン』の公演後のサイン会で高齢のおばあちゃんが「私、去年の『メリー・ウィドウ』ですごくオペラのファンになったんですけど、こんなに人が死ぬ作品はやめてください」と言われたこともありました(笑)。そんな思い出もある『メリー・ウィドウ』は、僕にとって兵庫の舞台で一番誇れる作品です。前回ダニロ役を務めた黒田(博)君の息子さんである、黒田祐貴君が歌うことになり、親子2代で出てくれるのも感慨深く感じました。いまだからこそ、みんなが笑ったり、手拍子をしたり、感動したり、そうしたものをたくさん届けられるように最善の努力をして7月の本番を迎えたいと思います。
■桂:書記官の品位を忘れず、あまりふざけないようにしつつ、おもしろく
桂:このたび、『メリー・ウィドウ』で書記官のニエグシュを演じさせていただきます、桂文枝でございます。書記官の品位を忘れないように、あまりふざけないようにしつつ、見せ場はおもしろく、盛り上げるよう、バランスを見ながらやりたいと思います。佐渡さんと久しぶりに共演するので、楽しみです。ぜひ劇場に足を運んでいただきたいと思います。
※ここから質疑応答です。
ーー今回「改訂版」ということですが、前回とどう違うのでしょうか。
広渡:その時代時代の世相を取り込みながら、見せ場をたくさん作っていくというのがオペレッタなので、今年は今年の世相を反映させながら、見せ場を作っていきたいので、コロナやオリンピックのことが話題になるかと思います。
■広渡:フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのような雰囲気に
ーー今回、宝塚OGの香寿たつきさんが出演されますが、香寿さんに期待されていることを教えてください。
広渡:香寿さんの舞台を拝見したことはありませんが、お会いして、いろいろなお話をさせていただいて作っていきたいと思います。このシルヴィアーヌという役は、ニエグシュと関わり合いますので、文枝師匠と香寿さんの稽古場でのやりとりで、また新しい作品を作り上げていきたいと考えています。
ーー前回はタップダンスも披露されたかと思いますが、そのようなことはありますか?
広渡:前回、ざこば師匠に「なにかダンスみたいなことをやりたいんですが」と申し上げたら、「テレビドラマでタップを踏んだことがあります」とおっしゃったので、「それ、やりましょう」というノリでタップダンスをすることになりました。文枝師匠は「今回は歌も披露したい」というようなことをおっしゃってますので、歌いながらダンスをするなど、香寿さんとふたりでハリウッドを賑わしたフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースという有名なカップルのような雰囲気が出せたらいいなと思っております。
ーーオペレッタというと、デュエットなど人が密着する場面が多くなるかと思いますが、ソーシャルディスタンスの演出をどのように考えておられますか?
広渡:何ヶ月か前の歌舞伎公演で、煙管を渡すシーンがあったのですが、わざと逆手にとって1mくらいある長い煙管を持ってきて、それをギャグに使ったということもありました。そのあたりもうまく取り入れて、コロナだからできる、おもしろいシーンが出てくるかもしれません。お稽古をしてみないとわかりませんが、ポジティブに笑いを取りたいと思います。
ーー今回は宝塚の要素をどのように取り入れるかお決まりでしょうか。
広渡:佐渡マエストロのお話にもありましたが、やはり宝塚というと銀橋ですよね。オペラもバレエも普通はオーケストラピットの向こうでやるので遠く感じますが、銀橋は非常に身近に感じていただけます。特に、そういうところに重点を置きたいと思っております。前回はカーテンコールが終わったあとに10分以上のグランドフィナーレがありました。宝塚で大階段が登場するフィナーレの手法を取り入れましたが、今回もぜひそういうところも演出させていただければと思っております。
■佐渡:オペラの素晴らしさ、おもしろさを、もっともっと伝えていきたい
ーー街にオペラ文化を興そうということではじまったわけですが、長年やってこられて、実感を感じることがあるのかお聞かせください。
佐渡:街を歩いていて「今年は『メリー・ウィドウ』をやってくださいますか?」「楽しみにしています」という声を掛けられることがあります。また、並河さんや大山君など何回もこの舞台に立ってくれた人がいて、その回数が増えていくごとに、この劇場を自分たちの劇場だと思っているチームができたり、芸文センターで作るオペラが日本を代表する歌手たちに「そこで歌える」と感じてもらうことも大きなことかと思います。2008年の『メリー・ウィドウ』は2万人という人たちが芸文センターに来てくれましたが、満足することなく、オペラの素晴らしさ、おもしろさを、もっともっと伝えていきたいと思います。
この作品はダニロとハンナが主人公ですが、このふたりはなかなか、くっつかないんですよね。「好き」とは言わないけれどもお互い「好きだ」というところがおもしろい。一番核になるのは子どものようで、大人なふたりの恋の話だというところなんです。お客さんはドキドキしたり、イライラしたり、「もっと正直に、素直になればいいのに」と感じることもあるかもしれませんが、そういうところに『メリー・ウィドウ』のおもしろさもありますので、ぜひそこも楽しみにしていただければと思います。
<佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021 喜歌劇『メリー・ウィドウ』>
【兵庫公演】2021年7月16日(金)~7月25日(日) 兵庫県⽴芸術⽂化センター KOBELCO ⼤ホール
公式サイト
http://www.gcenter-hyogo.jp/merrywidow/
<出演>
【7月16日(金)、18日(日)、21日(水)、24日(土)公演】
ハンナ・グラヴァリ:高野百合絵
ミルコ・ツェータ男爵:折江忠道
ヴァランシエンヌ:高橋維
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:黒田祐貴
カミーユ・ド・ロシヨン:小堀勇介
カスカーダ子爵:小貫岩夫
ラウール・ド・サンブリオッシュ:大沼徹
ボグダノヴィッチ:泉良平
プリチッチュ:志村文彦
プラスコヴィア:押見朋子
クロモウ:森雅史
オルガ:鈴木純子
【7月17日(土)、20日(火)、22日(木)、25日(日)公演】
ハンナ・グラヴァリ:並河寿美
ミルコ・ツェータ男爵:片桐直樹
ヴァランシエンヌ:市原愛
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:大山大輔
カミーユ・ド・ロシヨン:樋口達哉
カスカーダ子爵:水口健次
ラウール・ド・サンブリオッシュ:晴雅彦
ボグダノヴィッチ:ジョン ハオ
プリチッチュ:三戸大久
プラスコヴィア:清水華澄
クロモウ:河野鉄平
オルガ:板波利加
【全日出演】
シルヴィアーヌ:香寿たつき
ニエグシュ:桂文枝
エマニュエル:鳥居かほり
[合唱]ひょうごプロデュースオペラ合唱団
[管弦楽]兵庫芸術文化センター管弦楽団
<スタッフ>
[指揮]佐渡 裕(兵庫県立芸術文化センター芸術監督)
[演出・日本語台本]広渡 勲
[装置]サイモン・ホルズワース
[衣裳]スティーヴ・アルメリーギ
[照明]沢田祐二
[振付]川西清彦
[合唱指揮]矢澤定明
[訳詞]森島英子
[衣裳補]小栗菜代子
[演出助手]飯塚励生
[振付助手]大畑浩恵
[映像]三浦景士
[舞台監督]幸泉浩司
[プロデューサー]小栗哲家
[制作]兵庫県立芸術文化センター
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