120万部を突破した大人気少女漫画を原作とする、A New Musical『ゆびさきと恋々』が2021年6月13日(日)まで本多劇場で上演中で、6月12日(土)にはライブ配信も実施されます。雪(豊原江理佳さん)と逸臣(前山剛久さん)のドキドキな展開、りん(林愛夏さん)と京弥(上山⻯治さん)の不器用な可愛らしさ、気持ちに素直になれず「調子に乗るな」と雪に意地悪ばかり言ってしまう桜志(池岡亮介さん)、直球で逸臣にアタックし続けるも叶わぬエマ(青野紗穂さん)、逸臣を追いかけるエマを想う心(中山義紘さん)の片想い。観客は、登場人物の中に必ず自分を見つけるのではないでしょうか。全ての登場人物に共感できる、全員が幸せになって欲しいと願いたくなる、そんな素敵な作品。開幕直前に行われたゲネプロを観て感じたことを、オフィシャル写真をまじえてレポートします。
雪の世界を表すシーンで、このミュージカルは始まります。自分の身体の奥深くから聞こえてくるような音が響く中、時折聞こえるのは雪の息遣いのみ。「私の世界」という歌声と、雪と雪の妖精たちの身体表現(コンテンポラリーダンス)のみで構成されています。雪の世界の中に、自分がすっと誘われたような感覚でした。物語の後半、逸臣は、「憎しみや妬みや悪意を、雪は耳から入れていない。どこまでも澄み切ってまっさらなんだ」と、雪のことを歌います。
その時、私の中に心象風景として広がったのがこの冒頭のシーンでした。そして、その中に逸臣の「俺を雪の世界に入れて」という言葉が響いてくる…。この作品を拝見してとても印象的だったのは、このように心で音や言葉を感じるシーンがとても多かったという点です。恐らくは、この冒頭シーンによって、心の感度が普段よりも研ぎ澄まされたのではないかと思います。
雪の頭を優しく「ぽんぽん」して、電車を先に降りる逸臣。ここで雪が歌う「この響きは何?」の中で、恋が始まる響きが「トトン」「トクン」と表現されます。このシーンで印象的だったのは「電車を降りてから、この振動が自分のものだった」ことに雪が気づくというところです。雪はまだ、この感情になんと名前を付けたらいいのかがわからない状況。自分の中から湧いてくる初めての音に気づくのです。感じたことがないリズムや歌が、どうやらこの音から溢れていそう…。
そんな雪の姿を見ていると、気づけば私もドキドキしていました。静かに自分の感覚に耳を傾ける中で、ふとこれは、今舞台上で描かれている雪の状態に近いのかもしれないと想像しました。もちろんセリフを耳から聞いて心が反応しているため、同じ経験ではありません。しかし、「客席という、舞台とは位置付けの異なる静かな空間」にいる立場であったからこそ、このシーンの雪の心の振動を私自身も感じられたように思ったのではと思います。このミュージカルは、劇場の客席にいると「観る」だけではなく、「感じる」ことができる作品なのかもしれません。
<キャストメッセージ>
豊原江理佳さん:今このような状況のなかで本番を迎えられることが奇跡だと思います。せっかく本番を迎えられるので、来ていただいた皆様にはなにか持って帰っていただきたいですし生きる活力、元気を与えられていたらいいなと思います。ありがとうございました。
前山剛久さん:昨年からコロナで演劇はなかなか辛い立場に置かれていますが、こうしてゲネプロを終えて初日を迎えられることを嬉しく思っています。このお芝居で何を感じ取っていただくか、何を与えられたか、それぞれだと思いますが見に来ていただいた方の生きる希望に繋がったら嬉しいと思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、キュンキュンにとどまらず「愛」を感じさせる物語の魅力や、手話シーンで感じたことや曲などについて書かれたルポの全文と公演写真(写真提供・ワタナベエンターテインメント)4カットを掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■笑いの要素を担う京弥役の上山と、恋に不器用なりん役の林にもキュンキュン
■エマ役の青野への恋心を隠す心役の中山、報われない思いがこの作品を魅力的に
■桜志役の池岡が、客席と手話で話すコーナーも。本当にお話できた気持ちに
■記者会見で「歌いながら手話で表現」と感じた曲が、今は「声と手の歌」として響く
<A New Musical『ゆびさきと恋々』>
【東京公演】2021年6月4日(金)~6月13日(日) 本多劇場
公式サイト
https://yubisakimusical.westage.jp/
チケット 8,800円(全席指定・税込)
聴覚障がいのあるお客様を対象とした「タブレット型字幕ガイド付きチケット」ネット予約
https://l-tike.com/yubisaki-guide
<A New Musical『ゆびさきと恋々』ライブ配信>
配信日時:2021年6月12日(土) 18:00開始 ※アーカイブ配信あり
視聴券購入URL:
https://w.pia.jp/t/yubisakimusical/
販売期間:2021年5月15日(土)10:00~6月18日(金)21:00
料金:3,500円(税込)
配信サイト:PIA LIVE STREAM
<キャスト>
雪:豊原江理佳
逸臣:前山剛久
りん:林愛夏
エマ:青野紗穂
桜志:池岡亮介
心:中山義紘
京弥:上山竜治
アンサンブル:渡辺菜花、金井菜々、大津夕陽
ピアノ:森本夏生
チェロ:白神あき絵
<スタッフ>
原作:森下suu「ゆびさきと恋々」(講談社「デザート」連載)
脚本:飯島早苗
音楽:荻野清子
演出・脚本:田中麻衣子
振付:前田清実
美術:松岡 泉
照明:中川隆一
音響:清水麻理子
映像:ムーチョ村松
衣裳:KO3UKE
ヘアメイク:武井優子
歌唱指導:やまぐちあきこ/柳本奈都子
手話指導・監修:三浦 剛/忍足亜希子
稽古場ピアノ:森本夏生
演出助手:相原雪月花/元吉庸泰
舞台監督:山本圭太
主催・企画・制作:ワタナベエンターテインメント
<関連リンク>
「ゆびさきと恋々」(講談社「デザート」):
https://go-dessert.jp/kc/renren/
ワタナベ演劇公式ツイッター:
https://twitter.com/watanabe_engeki
ワタナベ演劇 スタッフ公式インスタグラム:
https://www.instagram.com/watanabe_engeki_staff/
#ゆびさきミュージカル
『ゆびさきと恋々』 関連記事:
- 「カーテンコール、手話でキャストに想いを伝えてみては」、『ゆびさきと恋々』ルポ 2021年6月7日
- 【動画】人気少女漫画を原作とした新作ミュージカル『ゆびさきと恋々』開幕 2021年6月6日
- 「箱いっぱいに届くお手紙、ありがたいなって」、前山剛久インタビュー(下) 2021年6月4日
前山剛久 関連記事:
- 「カーテンコール、手話でキャストに想いを伝えてみては」、『ゆびさきと恋々』ルポ 2021年6月7日
- 【動画】人気少女漫画を原作とした新作ミュージカル『ゆびさきと恋々』開幕 2021年6月6日
- 「箱いっぱいに届くお手紙、ありがたいなって」、前山剛久インタビュー(下) 2021年6月4日
上山竜治 関連記事:
- 地球ゴージャス『クラウディア』7/12の公演映像を7/21から7/28まで2パターン配信、トーク映像も 2022年7月19日
- 【動画】地球ゴージャス『クラウディア』開幕、3つのシーンをプレスコールで披露 2022年7月6日
- 音楽劇 『クラウディア』 Produced by 地球ゴージャス、2022年7月東京・大阪で上演 2022年2月25日
※ここから有料会員限定部分です。
■笑いの要素を担う京弥役の上山と、恋に不器用なりん役の林にもキュンキュン
観客という第三者の視線からは、どう見ても最初から「恋」だろう、もしくはそうなるだろうと明らかな雪と逸臣の展開。だからこそ、二人の間で「恋」だと言葉にされる前の、雪の素直な反応や、逸臣の雪への接し方にこの上なくドキドキキュンキュンしてしまうのではないでしょうか。客席の私たちは、全体を俯瞰して見ることができるのです。
視覚で捉えている目の前の展開と、心の中で期待している展開とを同時に走らせているため、見守りつつも、自分のことのようになるのです。彼らの手によるコミュニケーションは、最初は、頭ぽんぽん。次はギュッと手を繋ぎ、そして手話へと、触れながら会話へと発展していきます。恋とはきっと、会話よりも前に始まっているものなのでしょう。彼らを見ながら、そう感じました。
林さんが演じるりんは、雪の一つ年上ということもあり、普段は雪をリードするようなお姉さんでもあり友達でもあるというとても素敵なキャラクター。明るくて優しく、頼れるにもかかわらず、恋愛のこととなると突然不器用になるところが何ともまた可愛らしいのです。りんの憧れは、カフェバー「ロッキン・ロビン」の店長である京弥。記者会見で、京弥を演じる上山さんからコメントがあった通り、原作とは風合いの異なるポップな印象でした。
兄貴肌で熱いかっこよさと笑いの要素を全て担う絶妙なテンポが魅力的で、ミュージカルのキャラクターとしてとても素敵だと感じました。彼がまた、りんと同様に恋愛となるととことん不器用なのです。気持ちを明確に言い出させずにモジモジしがちな、りんと京弥のシーンでは、雪と逸臣の直接的な「好きだ」という表現とはまた異なるタイプのキュンキュンを体験できることでしょう。
■エマ役の青野への恋心を隠す心役の中山、報われない思いがこの作品を魅力的に
この物語は、それぞれの恋が展開しながら進んでいきますが、必ずしも語られない部分に温かな「愛」を感じられる作品です。桜志から雪への「調子に乗るなよ!」という一見意地悪な言葉遣い。青野さんが演じるエマへの恋心を隠しながら、友達のスタンスを貫き、常にテンション高く振舞う、中山さんが演じる心。逸臣へのあまりにも直球な思いに、つい応援したくもなるエマの裏表ない素直さ。
雪と逸臣、りんと京弥はもちろんのこと、報われない思いを抱える登場人物も、それぞれとても人間的にも魅力的であること。この作品に「恋」にとどまらない「愛」の奥行きや深さが出ているのは、彼らのキャラクターの魅力ゆえなのではと感じました。だからこそ、強烈にキュンキュンしながらも、同時に穏やかな温かさを感じられるのでしょう。この作品の魅力はそこにあるのではと思いました。
■桜志役の池岡が、客席と手話で話すコーナーも。本当にお話できた気持ちに
池岡さんが演じる桜志は、雪と話したいために小さい頃からずっと手話を学び続けているというキャラクターです。作品の中で流暢な手話シーンが何度も登場するのはもちろんのこと、客席と手話で話すコーナーも設けられています。「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」「どこいくんだよ」など、「一緒にしてみましょう」と、桜志こと池岡さんが呼びかけてくださるので、ぜひ池岡さんの真似をして、一緒に手話で話してみてはいかがでしょうか。
実際に手話で話してみると、「指を動かしている」のではなく「指で話している」という感覚が生まれました。今、客席からは、舞台への「ブラボー!」などの声がけができない状況です。笑い声も遠慮がちになっているでしょう。そのような環境下の客席になってから、一年以上が経とうとしています。マスク越しの笑顔と拍手。そこに言葉はなくても、舞台に伝わるものが確かにあるとは伺っています。
しかしこの日は、舞台上の池岡さんと「こんにちは」など、具体的な言葉で本当にお話できたような気持ちになりました。劇中はもちろん、原作の漫画にも手話がたくさん登場します。舞台を観に行かれる方は、例えば「ありがとう」という言葉を覚えて行って、このコーナーや、カーテンコールのときに、キャストのみなさまに気持ちを伝えてみるのもいいのではと感じました。
■記者会見で「歌いながら手話で表現」と感じた曲が、今は「声と手の歌」として響く
「手は世界を歩く地図」「手は希望を作り出す」「手は明日をつかみ取る」「手は人と人を繋ぐ」「触れたもののこと少しだけわかる」。これは、記者会見のムービー記事でも一部紹介している「わたしの手・あなたの手」の歌詞の一部です。この曲は、物語の後半に登場します。この作品のメッセージが、全て集約されているような一曲になっていると感じました。
記者会見で初めてこの曲を聴かせていただいたとき、私は「歌いながら、手話でも表現されている」と感じていました。しかしゲネプロで拝見したときには、「声と手で歌われている一曲」として聴かせていただきました。「手当て」という言葉があるように、心にそっと手を当てて温めてくれるような響き。それは恐らく、作品そのものの温かさゆえなのだと思います。