2016年6月8日~12日に東京・中野のテアトルBONBONで上演された、山本夢人さん脚本、三上陽永さん演出の、AUBE GIRL’S STAGE第1回公演 『光射す場所へ歩く君たちへ』。女性キャスト総勢26名が、夏組・空組の2チームに分かれ、入れ替え無しのWキャストで上演されたこの公演の、夏組公演を拝見しました。
■舞台と客席の境界を曖昧にしてゆく開演前の舞台
舞台上のセットは、どこか可愛い雰囲気の漂う談話室風な部屋。その床や、見せる収納を兼ねた長椅子と思われる低めの棚の下には、色とりどりの丸いクッションが配されています。照明はうっすらと差し込み、暗い色の勝つ舞台奥のホリゾントには、キラキラした多角形が重なった文様がやわらかく映し出されいて、闇の中の光や掘り出された原石のようなイメージを連想させます。
開演5分前には、出演者である制服姿の女子高校生たちが舞台上に現れ、暫くそのまま留まって楽しそうに談笑をしていました。会話の内容まではハッキリわかりませんでしたが、その様はまるで楽屋?イエイエ、さながら友達の家に放課後に集まって、くつろいだ様子で、好きなアイドルの話や恋バナなどに興じているようで、聞こえてくる弾ける明るい笑い声や、ふざけてクッション投げをする彼女たちの姿を見ているうちに、最初は「お?始まったのかな?」と、緊張してシーンとなった客席も、徐々にその緊張を緩めて、こちらもくつろぎながら舞台上の彼女たちを見守る体に変わっていって、本来であれば舞台と客席、明確に境界で分けられる空間が、その境界が曖昧になり、馴染んだような、劇場全体に不思議にあたたかい空気感を感じました。
そして、開演時間。元のように無人になった舞台から物語が始まりました。
■「胡散臭い」と言いながら、自己啓発セミナーに参加した女子高生たちは…
最初に現れたのは、学校帰りと思しき、愛莉(あいり:荒木未歩)、七海(ななみ:大串泉)、心音(ここね:助川紗和子)の仲良し高校三年生3人組。女子高校生が対象の「女子高生プランニング」という自己啓発セミナーにハマっっている心音は、いつもマイペースで思った事がすぐ口に出る性格の七海が、最近元気がない事が心配で、高校三年生の思い出作りと称して、夏休みに2泊3日の自己啓発セミナー合宿に参加しようと誘います。最初は、そんなの宗教みたいで胡散臭いと言って及び腰の七海ですが、心音の勢いに押されて、実はやりたいことが見つからず、今は焦っている状態だと話し、真面目な性格でしっかり者の、教師になることを目指している愛莉も巻き込み、3人一緒に合宿へ参加することになります。
場面は一転し、合宿当日。彼女達3人の他に高校生の参加者は5人。スマホ依存でそこからの脱却を誓う高校二年生の玲奈(れな:桑原藍)。幼馴染の間柄で共に高校二年生、自分に自信が持てず、引っ込み思案ですぐに自分の世界へ閉じこもる、こちらもスマホ依存の瑠香(るか:矢野愛璃)と、何でもそつなつこなし、マサチューセッツ工科大学への進学を目指す、秀才の芽吹(めぶき:細川詩織)。両親が自分のなにもかもを束縛していると感じて反発し、親への不満を募らせている高校三年生の萌子(もえこ:田中麻衣花)。そして、周囲と明らかに距離を置き、何もかも冷めた反応を示す、最年少高校一年生の彩香(さやか:花井円香)。
さらに、今人気の自己啓発セミナーに学び、そのノウハウを地域の活性化に生かしたいと考えている、中野区役所地域振興課の公務員、”パッション”が身上の、明るく熱血感な金子(かねこ:赤沼杏奈)と、その上司で、冷静な頭脳派、野島(のじま:片渕真子)の体験参加2人。セミナーのプランナー兼講師の、やさしく穏やかな風情の美貴(みき:玲々美)と、そのアシスタントで、関西人独特のノリで場を賑やかす陽香(はるか:和林亜希)。そして、美貴の姉で彩香の母にして愛莉の中学時代の恩師、美香(みか:都倉有加)。物語は8人の女子高校生達と、5人の大人達で紡がれていきました。
<AUBE GIRL’S STAGE第1回公演『光射す場所へ歩く君たちへ』>
【東京公演】2016年6月8日(水)~12日(日) テアトルBONBON (この公演は終了しています)
<関連サイト>
AUBE GIRL’S STAGEオフィシャルサイト
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<次回公演情報>
第2回公演「ざわつくから叫んでみたんだ」2016年10月15日(土)~25日(日)@GEKI地下リバティ
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■胸のうちでモヤモヤしていたさまざまな思いを『言語化』してアウトプット
■派手な喧嘩、ド根性系の笑い、切なさに胸が苦しくなるシーン…
■“明快な目標が見えていたのに、それを失ってしまった者の再生”は
■若さ溢れる出演者13人が、強力なスタッフのサポートで役を生ききる
■胸のうちでモヤモヤしていたさまざまな思いを『言語化』してアウトプット
ビジネスパーソンであれば、会社の研修やモノの本などで比較的身近に触れた事があると思われる『自己啓発』の文字。この「女子高生プランニング」は、やりたいことがわからずに、自分を見失ってしまい、これまでの自分と違う自分になりたい、変わりたいと願う女子高校生たちに、自分を変えるきっかけを見つけて、自分の将来をイメージしてもらう手助けをする事を目的としていました。そして、2泊3日の合宿の間、彼女たちの集団で過ごしてもらい、仲間という「つながり」があれば、助け合ってさまざまなハードルも乗り越える事ができるという事に気付いて欲しい、という「姉の思いを無駄にしたくない」と語る、セミナーを運営している、プランナーの美貴の思いがありました。
多くの自己啓発セミナーがそうであるように、まずは自分の現状の深堀、自分自身との対話からアプローチが始まりました。今まで生きてきて、自我が目覚めてからおそらくはじめての、自分との真剣な向き合いの『時間』を与えられた彼女たちは、当然ながら今まで言葉に出来ずに胸のうちでモヤモヤしていたさまざまな思い、例えば自分のこれまでと今と将来の事、友達の事、そして家族の事などを、セミナーの場でアウトプットする必要から、『言語化』して明確に自覚することになります。
■派手な喧嘩、ド根性系の笑い、切なさに胸が苦しくなるシーン…
物語が進むにつれて、セミナーのアプローチを通し、2泊3日という限られた時間の中で、互いにぶつかり葛藤しながら、そして、要所要所で彼女たちを見守る大人たちのアシストを得ながら、彼女たちはそれぞれ原因と結果と改善の方向性を見出していきます。自分のやりたいことが何か、それを実現させるためにどう勧めばよいのかの手がかりを見つける者。大切な友達であるが故に、その付き合いの距離感を模索し、仕切りなおしをする者。相手との衝突を良しとせず、逃げてばかりだった自分を反省し、相手とぶつかる勇気を得た者。
物語で起こった事をこのように書き出してみると「ガールズモノにしては、恋愛ネタでも無くて、思ったより固いんじゃないの~?」という感じになりますが、ところがこれがイマドキの女子高校生を取り巻く環境と視点と感性からなるエピソードで味付けがされていて、女同士の派手な喧嘩のシーンあり、ベッタベタに楽しいド根性系の笑いを誘うシーンもあり、かと思うと、しっとりと情感溢れる、切なさに胸が苦しくなるシーンもありの、なんともレンジが広くて、しかし観客を飽きさせないスピーディーな展開が続きます。
■“明快な目標が見えていたのに、それを失ってしまった者の再生”は
実は観劇前、それなりにイイ歳のオトナになってしまっている私は「十代の若者メインの物語だから~」と、例えば茶の間のテレビの前で、懐かしの『中学生日記』を見るような感覚で『傍観者』気味にこの物語を見守るんだろうなと予想していたのですが、彼女たち、そして大人たちも含めた登場人物それぞれが語る『事情』に、舞台上の彼女たちの『芝居』の中の、自然でリアルな感情の発露にいつの間にか捕まったらしく、気付けばすっかり「当事者」に近い感覚で、この出演者全員がセンターに立つシーンのある「群像劇」にぐいぐいと引き込まれていました。中でも、“明快な目標が見えていたのに、それを失ってしまった者の再生”、物語の柱として描かれた、美貴と美香の姉妹にかかわりも深い、愛莉と彩香の『事情』には、『家族』と、『師弟』の、互いを想う気持ちが切なくて、胸に迫るものがありました。
セミナーの中での言葉として、度々印象的な台詞が語られて「行動が自信になる。出会いが力になる。」や「何にもないから何にでもなれる。どこも向いてないからどこへでもいける。」などは、若い彼女たちへ向けてではありましたが、どの世代にも響くメッセージと受け取りました。殊に物語終盤での、美香が子供たちへ宛てた、作品のタイトルでもある「光射す場所へ歩く君たちへ」から始まる詩は、ひとりであることを恐れずに自立し、依存しない仲間を見つけ、ともに歩めば必ず道はひらけるから、と言う、この物語が伝えたい内容が凝縮された、次の世代への贈り物のような美しくも力強い一編で、前に一歩を踏み出すための勇気を与えてくれるメッセージとして、このシーンの優しい情景とともに心に残りました。
■若さ溢れる出演者13人が、強力なスタッフのサポートで役を生ききる
約90分の上演時間に、13人の登場人物たちのエピソードが入れ替わり立ち替わり展開し、笑って泣いての観劇後は、作品から前向きな気持ちをいただいたなと感じました。私事ですが、脚本の山本夢人さんの作品を拝見したのは、リーディング作品に続き2回目で、登場人物に寄り添い包み込むようなその作風、根底に流れる「優しさと切なさ」には、恥ずかしながら今回もまんまと泣かされてしまいました。
その脚本の登場人物たちを、キャストの個性を生かし、更に豊かに粒立たせ、時に観客の予想を裏切り不意を突く、刺激的なキレとユーモアと、作品への愛情が感じられる、三上陽永さんによる演出。そんな作品世界への観客の没入感をいや増してくれる、バリバリ硬派(!)なシーンからガラス細工のように繊細なシーンまで、まさに縦横無尽に体感させてくれる、オレノグラフィティさんの音楽と堀江潤さんの音響、坂本明浩さんの照明。そして下司尚実さんによる振付。作中何回か登場したダンスシーンでは、決して複雑で難しい特異な動きではないのに、観ていると不思議に自分の意識していない感情を不意に引き出されるような、とても不思議な感覚を感じました。
これらの強力なスタッフのサポートの上に、出演者13人が生き生きと役を生ききった、若さ溢れる、観客も元気になれる素敵な作品でした。