奥が深かった「声に出して読むこと」、朗読教室で学ぶ「伝える力」「聴く力」

オハナの朗読教室の様子=撮影・松中みどり

朗読教室が静かなブームだそうです。目の前の人と話すより、メールやラインを使う風潮の今、「朗読」とは意外だったので、大阪にある花本弘子先生の教室を訪ねました。声に出して読むことは、想像していたよりも奥の深いものでした。教室ルポです。

※2020年9月18日追記:11月から完全にオンラインのレッスンに移行し、対面授業はなくなります。詳しくはホームページ https://www.office-ohana.com/ をご覧ください。

朗読教室の様子 真中が講師の花本弘子先生 2018年5月16日=撮影・松中みどり
朗読教室の様子 真中が講師の花本弘子先生 2018年5月16日=撮影・松中みどり

2017年9月、朗読教室を舞台にしたドラマ『この声をきみに』がNHKで放送されました。花本弘子先生が主宰する「クリエイトオフィス・オハナ」にも、ドラマの放送後、朗読を学びたいという人の問い合わせが増えてきて、2018年3月、これまでのお昼のクラスに加えて「朗読教室」夜のクラスを新しく開講。私が教室を訪ねた日には、男性と女性のふたりがレッスンを受けていました。以下は、生徒さんへのインタビューです。

――朗読教室に入ったきっかけとレッスンを受けての感想はいかがですか?

仕事で500人規模の講演会での司会をする機会があり、苦手だと思っていましたが、教室に通ううち「すごく良くなった」という言葉を周りからいただきました。他の朗読教室の体験レッスンも受けてみましたが、花本先生のお人柄に一番惹かれました。レッスンでのお話が面白く、楽しくて、あっという間に時間が過ぎます。(永谷小百合さん)

もともと詩を読むのが好きでしたが、あのドラマを見て、朗読に興味を持ちました。レッスンはとても楽しいです。(松岡孝さん)

――朗読はお仕事になにか影響があるでしょうか?

将来、法曹関係の仕事につくのですが、人の話を聴くのがすごく大事だと今感じているんですね。朗読は、声に出す前のインプットの段階で、いろんな人のいろんなセリフをどう読むか、想像力を働かせる必要があるから、これからの仕事に密接な関係があると思っています。仕事で必要な、話している相手の言葉にチューニングを合わせる聴き方は、まさに朗読的だなあと。(松岡孝さん)

――これから朗読教室に来られる方にひと言お願いします。

話すこと、聞くことは誰でもできますが、誰でもできるからこそ、オリジナリティのある話し方が大事だと思います。「何かはじめてみたいけど何がいいのか分からない」と思っている方にぜひおすすめしたいです。ただ、朗読は奥が深くて正解がないので、短期間で成果を出したい方には向かないかもしれませんね。(永谷小百合さん)

朗読にはいろんなアプローチがあるから、僕みたいに人の話をちゃんと聴きたいという人も、滑舌など話し方を勉強したいという人も、思っていることをうまく伝えたい人も、朗読教室で得るものがあると思います。人生経験を積んだ人、まだ経験の浅い人、いろいろな立場の人に来てもらって、どんな声でどんなふうに読むのか聴いてみたいので、本当に誰でも来てもらいたいです。(松岡孝さん)

朗読教室で指導中の花本弘子先生=写真提供・花本弘子先生
朗読教室で指導中の花本弘子先生=写真提供・花本弘子先生

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、朗読教室を指導されている花本弘子先生のお話と、生徒さんのインタビュー後半、朗読指導についてをレポートしています。ぜひお読みください。

<有料会員限定部分の小見出し>

今読んでいる作品「ふたりは友だち」「飴玉」について

朗読を指導するとき

花本弘子先生は、生徒のやりたいことに合わせて親身になって下さる先生です

  1. ●花本弘子プロフィール
  2. 1986年より司会・ナレーションなどアナウンス業の現場に従事、2006 年よりスピーチ・プレゼンテーション・話し言葉ワークショップ・朗読などの教室を主宰。心理学・ボディワークなどから得た自らの経験を縦軸に、 表現法・伝え方・聴き方などを横軸とするトータル指導が人気となる。主宰する教室から出張しての小中学校教職員対象研修会や生徒対象総合学習講演、企業での新入社員研修及び経営者責任者講習、プロ司会者養成など指導経験多数。第一印象、接遇力を UP させるための基礎訓練に定評がある。
  1. ●オハナの朗読教室受講生募集  参加希望の方はオリエンテーション実施します
  2. 火曜日・水曜日にクラス開講中(定員がありますので、詳しくはお問い合わせください)
  3. Aクラス 10:30~12:00
  4. Bクラス 14:00~15:30
  5. Cクラス 19:00~20:30(水曜日のみ)
  6.  
  7. 〒541-005 大阪市中央区博労町4丁目2-3 伊藤ビル202
  8. TEL 090-8237-8356 花本弘子
  9. ホームページ⇒https://www.office-ohana.com/
  10. 朗読教室⇒こちらから

※2020年9月18日追記:2020年11月から完全にオンラインのレッスンに移行し、対面授業はなくなります。詳しくはホームページ
https://www.office-ohana.com/
をご覧ください。

  1. ●夏のスピーチ&朗読発表会「Sweech !」へのお誘い
  2. オフィスオハナでスピーチ・プレゼン・落語を練習中の人、朗読教室の生徒さんが参加する発表会が予定されています。朗読に興味がある方、朗読の勉強をはじめてみたいと考えている方、遊びにいらしてください。無料です。
  3. 日時:2018年6月30日(土)16:30~19:30
  4. 場所:大阪豊田ビル地下1階イベントスペース 大阪市中央区南船場4-3-11
  5.  

<関連ページ>

●NHKドラマ『この声をきみに』

http://www.nhk.or.jp/drama10/myvoice/

●アイデアニュースカルチャーセンター「英語スピーチレッスン」

  1. 英語で話すこと、伝えることを重視したレッスンです。月1度の開催ですので、アイデアニュースホームページでご確認ください。プライベートレッスンも可能ですので、興味のある方はお問い合わせください。
    TEL 0797-82-3323
    講師はアイデアニュースで「YouTubeで学ぶ英語」を連載中の松中みどりです。
  2. https://ideanews.jp/backup/culturecenter

●『ふたりは友だち』絵本ナビ

●『飴だま』青空文庫

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※ここから有料会員限定部分です。

今読んでいる作品「ふたりは友だち」と「飴玉」について

朗読教室の取材当日、生徒さんは男性と女性ひとりずつ。『ふたりは友だち』という絵本を朗読する松岡孝さんは、前述のNHKドラマ『この声をきみに』の中で使われていたこの作品をぜひ読みたいと自分で選ばれたそうです。一方、永谷小百合さんが朗読する新美南吉の童話「飴だま」は、花本先生から勧められるまで知らなかった作品ということでした。すでに何度かクラスの中で読んでいるおふたり、少し発声練習と呼吸法をした後、さっそく朗読に入りました。ふたりとも魅力的な読み手で、驚きました。

ドラマでもつかわれた「ふたりはともだち」を朗読中の松岡孝さん=撮影・松中みどり
ドラマでもつかわれた「ふたりはともだち」を朗読中の松岡孝さん=撮影・松中みどり

『ふたりは友だち』は、明るくて優しいかえるくんと、ちょっといじけた面白いキャラのがまくんの友情物語です。シリーズになっていて、そのうちの一編『おてがみ』は、誰からもお手紙をもらったことがないというがまくんのために、かえるくんが素敵なお手紙を書くというお話。玄関の前に座って、お手紙をじっと待っているがまくんは、「今、1日のうちのかなしいときなんだ。つまり、お手紙を待つ時間なんだ。そうなると、いつもぼく、とてもふしあわせな気持ちになるんだよ」と言います。「だって ぼく お手紙もらったことないんだもの」と。大急ぎで家に帰り、がまくんにお手紙を書いたかえるくん。その手紙をかたつむりくんに渡して、がまくんの家に配達してくれるように頼みます。そして、だれからも手紙がこなくて昼寝をしていたがまくんに、いっしょに玄関で手紙を待とうと誘うのです。手紙は来ないというがまくんにかえるくんが言いました。

「だって ぼくが きみに てがみ だしたんだもの。」

かえるくんが書いた手紙は、こういうものです。

「しんあいなる がまがえるくん。ぼくは きみが ぼくの しんゆうで ある ことをうれしく おもっています。きみの しんゆう、かえる」

ゆっくりゆっくりやってくるかたつむり君を4日も待っていたふたり。長い時間がかかったからこそ、お手紙をもらったがまくんの喜びは大きく、それを見たかえるくんも嬉しかったのです。

――『ふたりは友だち』を朗読教室で読んでみて、最初の頃と今ではどう変わってきましたか?

先生から、(登場人物は)このセリフをどんな顔をして言ってるんだろうとか、どんなトーンで言うと伝わるだろうとか、いろいろアドバイスをもらいながら、試行錯誤して同じ物語をずっと読んでいると、やっぱり面白いですね。僕は、最初からこの物語に出てくる「がまくん」の方が得意だったんですよ。ちょっといじけてる感じの方ですね。感情移入しやすくて。自分に似ている部分があるのかもしれません。逆に、親切で明るいキャラの「かえるくん」は、どういうふうに読めばいいか、難しいなと感じてました。でも、朗読していくうちに、ただ明るいだけじゃなくて、心配する声もあって。じゃあこんなトーンでいこうかとか、自分の中でだんだんつかめてきたところです。(松岡孝さん)

松岡さんは、朗読は初心者ということでしたが、感性のレベルがとても高くて、こちらの言っていることをスポンジのように吸収されて理解が早い方です。本人の言うように、自分に似たキャラクターはとても上手で、気持ちが自然に入ります。一方、そのキャラクターと対面して話している、自分とは違うキャラクターが同じようにすぐ出来るかというと、よく分からない、入りにくい感じがありました。「このセリフはどんな顔で言ってると思う?」というような質問に答えてもらっているうちに、キャラクターの感情をさぐっていって、本人の理解が深まると読み方がぐっと変わってきました。とても楽しい、耳だけで聴いても気持ちや情景が伝わってくる朗読になってきたと思います。(花本弘子先生)

新美南吉の短編『飴玉』を読む永谷小百合さん=撮影・松中みどり
新美南吉の短編『飴玉』を読む永谷小百合さん=撮影・松中みどり

『ごんぎつね』や『手ぶくろを買いに』で有名な児童文学作家新美南吉の『飴だま』は、小学校の教科書にも載った1000字ほどの短編です。春のある日、渡し舟に乗り合わせたお母さんとふたりの小さな子どもとお侍。黒いひげを生やして強そうなお侍はすぐいねむりを始めます。そのうちに、一個しか残っていない飴だまをめぐって、子どもたちが自分にくれと騒ぎだしました。刀を抜いて子どものところにやってくるお侍。さて、どうなるでしょうというお話です。

――『飴だま』を読まれて、いかがでしょうか?

新美南吉さんの作品は、朗読を始めるようになってから知りました。『飴だま』は、先生から勧められて初めて目にしました。初心者の私でも、情景が浮かび、登場人物の気持ちが読み取りやすいです。この作品が、花本先生の教室で初めにとりくんだものなので、私にとって記念の第一号です。(永谷小百合さん)

「飴だま」は短くて、女性が読むと感情移入がしやすい作品だと思います。永谷さんは、お母さんのセリフは最初からお上手でしたが、小さい姉妹が飴だまをねだるセリフに苦戦されました。「あたしにちょうだい」「あたしにちょうだい」と単にそう書いてあるから2回読むというのでは朗読ではないんですね。先に言ったのはお姉ちゃんなのか妹なのか、何歳くらいなのかと、具体的に解きほぐして想像していくことで、情景が見えるわけです。そういう練習をしていくうちに、子どもたちの声がどんどん可愛らしくなって、ふたりを聴き分けられるくらいに上達されました。(花本弘子先生)

朗読を指導するとき

――花本先生のクラスは、とにかく自由で楽しい雰囲気ですね。先生の真似をするという場面がなかったのが印象に残っています。

「こうやるとうまくなるわよ」というふうに、手本ををやってみせるということを一切しないのが私の指導のやり方です。読み手が変われば、同じ物語でも雰囲気が変わるのが当たり前なんですね。その人がどういうふうに読みたいのか、どんな情景を見ながら話しているのかを確認しているんです。「今何が見えてるの?」ときいて、例えば子どもを心配して怖がっているお母さんが見えているなら、それでいい。「自分の表現をやってみなさい」と言います。だから、これをやりたい、この作品が読みたいという人には持ってきていいよと言っています。初心者は、男性なら男性のセリフ、女性なら女性のセリフが、やはりやりやすいですが、自分が読みたいという思いも大切ですから。初めてクラスに来られた松岡さんが『ふたりは友だち』を読みたいというのは、良い選択だったと思います。もしこれが、例えば『雪国』を読みたいと言われたのだったら、「ちょっと難しいかもしれませんね」と言ったかもしれません(花本弘子先生)

――レッスンを見学させていただいて、生徒さんが読んでいる作品を交換しても面白いかもしれないと思いました。

そうですね。他の人が読んでいるテキストも渡しているので、そういうことも出来ますね。自分が読むとどうなるんだろうと、レッスン中に思っているはずですから。人が朗読している作品は、自分も経験しているわけです。クラスで学ぶ利点のひとつですね。他の人が朗読するのを聴いて、自分が感じることと先生が指導することの共通点や違う点をみつける、という勉強ができるわけです。

――私は、花本先生に、飛び込みで一度プライべートレッスンをしていただきました。朗読する日が決まっていて、直前だったからですが、そういう依頼も多いですか?

はい、とても多いです。もともとプライベートレッスンが中心のオフィスで、ビジネスマンのプレゼンテーションや、スピーチや、直前に決まったいろいろなイベント関係の司会進行役など様々です。もちろん朗読も。

花本弘子先生は、生徒のやりたいことに合わせて親身になって下さる先生です

筆者は、花本弘子先生の朗読教室を取材するために見学に訪れた5月16日より前に、先生のプライベートレッスンを受けました。先生の授業の進め方を知りたかったのと、5月3日の憲法記念日に「日本国憲法前文」を朗読する機会があったので、純粋に指導を受けたかったからです。絵本でもなく、詩でもなく、仕事に必要なプレゼンやスピーチでもなく、「憲法前文」を読みたいという変わった依頼にも関わらず、「憲法を読みたいという方は初めてです」とおっしゃりながら、笑顔いっぱいの指導をいただきました。駅前で不特定多数の人を相手に読むという制約がある朗読でしたが、そのために必要なポイントをきっちりと押さえてもらったレッスンでした。ただ間違えずにスラスラと読めるだけではなく、聴いている人にちゃんと「伝わる」朗読を、日本国憲法前文においておこなうためにはどうしたらいいか。「憲法記念日に前文を読みたい!」という私の気持ちをくみつつ、間を取るところやトーンを変えて読むやり方などを親身になって教えてくださいました。結果、井上ひさしさんが現代語訳した前文を先に読み、「日本国憲法のエッセンスが記されている前書きにあたるものが前文なんですよ」という解説をした上で、現行の憲法前文を朗読するという構成が出来たのです。自分が読みたいものを頑張って読んだという自己満足だけではない、聴いてくださる人に伝わりやすい分かりやすい朗読になって、とても有難かったです。

コミュニケーション能力が高くなければ仕事にならない社会になったと書いたのは、劇作家の平田オリザさんでした。それなのに、インターネットやコミュニケーションツールが発達したおかげで、逆に対人のコミュニケーションが苦手な人が増えている今、「朗読教室」というのはひとつの答えかもしれないと思いました。単にスラスラ読めるようになるのではなく、相手のことを考えて、伝える力と聴く力を身に付けていく教室。筆者が英語の教師として生徒さんに教えたいと思っている内容にとてもよく似ていると思いました。実は、レッスン見学の後、YouTubeで『ふたりはともだち』と『飴だま』の朗読をいくつか聴きましたが、花本先生の教室で聴いた朗読の方が、魅力的だったと思っているのです。興味のある方はぜひ一度、足を運んでみて下さい。

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