「1本線をつくるときの軸を見つけるようにしている」、松下洸平インタビュー(下)

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

こまつ座「戦後 “命” の三部作」のひとつ『木の上の軍隊』が、2019年5月11日(土)~5月19日(日)に紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで、2019年6月26日(水)には沖縄市民会館で上演されます。2016年に続いて、新兵役を演じる松下洸平さんに、作品の新たな挑戦と、役作りについてお話を伺ったインタビューの後半です。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

――人の死や争い事が現代より身近だった時代を生きる新兵を演じる上で、時代による感覚の違いをどのように埋められているのでしょう?

新兵が具体的に志願した理由を、突き詰めて考えて行くと、ここが上官と新兵の大きな差であり、あの2人が決して交わることがなかった大きな理由でもあると思うんですけど、何のために戦っているのか? という差ですよね。日本国を護ろうとする、ある種当時の日本人らしい、国のために戦うんだという思いの上官と、一方で新兵というのは、彼は一貫して島を守りたかった。自分の故郷(ふるさと)がとても好きだった。家族や恋人が居て、友達もたくさん居て、だから彼のことを思うと、とても真っ直ぐで。ただ僕と何か共通点があるとするならば、守りたいものがあるという思い、そこはもちろん、僕にも家族や友人が居て、守りたいと思う人がたくさん居ます。新兵にもそれはあって。どちらかというと、僕は新兵よりも上官の気持ちの方が、ちょっとピンと来ないですね。世代的にも「国のために戦うって、どういうことなんだろう?」って…。その難しさはあると思います。

――守りたいもののために、自分の命を張る状況ですよね。

そうなんですよね。

――自分の身を挺して守るというのは、イメージはできるのですが、現実に実弾が飛んでくる状況で、実際そういう行動を現代人がとれるかというと…。

そういった意味では、「死」というものが今よりも、もう少し身近だったと思うし、けれども、自分の命をかけてでも守りたいっていう思いと、実際自分の命をかけて危険に飛び込むのとで、まぁ一緒なのかもしれないけど、何か…。自分の命を、新兵はとても大切にしてますし。

――そうですね。新兵からは、「死」のにおいはしないですね。

しないんですよ。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、昨年末に『母と暮せば』での演技で平成30年度(第73回)文化庁芸術祭 演劇部門 新人賞を受賞、今年2月に『母と暮せば』と『スリル・ミー』の演技で、第26回読売演劇大賞 優秀男優賞・杉村春子賞を受賞され、トリプル受賞となったことなどインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■(新兵は)故郷を仲間や家族を守るために戦う。それしか方法がなかった、きっと

■(トリプル受賞は)「前半は普通の出来であったが~」って(笑)。ソコ言う?(笑)

■『スリル・ミー』は、改めて冷静に考えると、とても「一途な恋愛」だったと思う

■また新しくなる『木の上の軍隊』。まだこの作品が必要な以上は、演り続けていきたい

<木の上の軍隊>
【東京公演】2019年5月11日(土)~5月19日(日) 新宿南口・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【沖縄公演】2019年6月26日(水) 沖縄市民会館
公式サイト
http://www.komatsuza.co.jp/program/

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松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

※ここから有料会員限定部分です。

■(新兵は)故郷を仲間や家族を守るために戦う。それしか方法がなかった、きっと

――死ぬかもしれない、じゃなくて、守って生き残るという方向性ですね。

もちろんその方が強いと思うんですよ。彼はとても死を恐れますしね。とても怖い。だけど戦う。その根底には、もちろん自分の命を粗末にしていないし、自分の命は自分だけのものだっていう思いはもちろん強く思っていると思うんです。でも、そんなに大切な命をかけてでも、自分の故郷を守りたかったんですよね。仲間や家族を。

――新兵は守れると思ったから、志願したのでしょうか。

と、いうよりも、それしか方法がなかったんですよ。それしかなかったんです、きっと。

――時代的に、守るための選択肢がそれしかなかったんですね。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■(トリプル受賞は)「前半は普通の出来であったが~」って(笑)。ソコ言う?(笑)

――昨年末に、『母と暮せば』での演技で平成30年度(第73回)文化庁芸術祭 演劇部門 新人賞を受賞、そして、今年2月に『母と暮せば』と『スリル・ミー』の演技で、第26回読売演劇大賞 優秀男優賞・杉村春子賞を受賞されましたね。トリプル受賞、本当におめでとうございます!

ありがとうございます。

――渡辺保さんの審査評を拝読しまして。

「前半は普通の出来であったが~」って(笑)。ソコ言う? と思って、保さんらしい(笑)。

――「後半長崎に原爆が投下されて自分が死ぬシーンで卓抜な演技を示した」ここの前ふりですよ!(笑)。『母と暮せば』では、お母さんとの穏やかな会話のシーンからの、原爆に身を焼かれる浩二の演技は、本当に我が身の皮膚が、今溶け落ちる痛みと恐怖を劇場で体感した一人ですので、渡辺さんのおっしゃっていることに、諸手をあげて「ホントそれ!」と思いました。

いや、ありがたいです。

――渡辺さんのおっしゃる「今の自分、過去の状況、そしてその状況のなかに生きる自分。そういう3点が明確になって~」というのは、簡潔に言うと、過去と現在と未来(へ向かう)それぞれの自分、という理解をしたのですが、この過去・現在・未来という3点は、普段から意識されていらっしゃることなのでしょうか?

いや、わっかんないんですよね。どうやって演ってたんだろう?(笑)。ただ、そこを行ったり来たりする芝居が『スリル・ミー』も、過去・現在・未来、わりと行ったり来たりしてますよね。例えば『スリル・ミー』に関して言えば、登場人物が54歳の「私」という “現在の「私」” ですよね。彼(54歳の「私」)を創るところから始まったような気がするんですよ。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■『スリル・ミー』は、改めて冷静に考えると、とても「一途な恋愛」だったと思う

――現在の「私」を創るところからアプローチされたんですね。

『スリル・ミー』が、なぜあそこまで「面白い、面白い」といろんな方に言っていただけたのかということを改めて冷静に考えると、とても「一途な恋愛」だったと思うんですよね。

――事件性を置くと、そうですね。

そうなんです。あくまでも僕は恋愛というか、ラブストーリーとして、あの作品を捉えているので。1本軸をつくって、それが、ずーっと先まで続いているようなイメージをするんですよ。

――1本軸をつくる。

(過去の自分として登場する)19歳、もっと言えば、あの2人は幼なじみだったわけだから、きっと小さい頃から一緒だったわけですよね。ずーっと「彼」のことが好きで好きでしょうがなくて。19歳になってもずっと好きで、何されても、逃げられても、ずっと追いかけ続けて、ああいうことになってしまって。それでも好きで、一緒に刑務所に入って、「彼」を失って、それでもまだ好きで、54歳まで好きで。彼はきっとこの刑務所から出ても、「彼」のことを愛しながら、ずーっと生きて、死んでいくんだろうなという、彼の最期の日までを想像できるようにしたいんです。となったときに、この1本線が何なのか? って考えるんですよ、いつも。

『木の上の軍隊』でもそうなんです。彼(新兵)が何故戦っているのか? ということをまず考えたときに、「島を愛しているから」という単純な理由でもいいと思うんです。彼は幼い頃から、この島で育って、この土地で育って、ずーっとおおらかに育ってきて、お父さんもお母さんもやさしくて、友達も居て、恋人もできて、牛さんが大好きで。で、そんなこんなで戦争になって、沖縄にアメリカ兵がやってきて、友達も死に、両親も死に、ひとりぼっちになって、それでも戦わなければならない。それで、あの2人は、最終的に木の上を降りて、その後もずーっとこの木の上で生き続けて、変わらない沖縄、七十何年経った今も沖縄をずーっと見続けている、という1本線をつくるときの、この「軸」をいつも見つけるようにしているんです。『母と暮せば』でもそうだと思います。とにかくお母さんのことが大好き、好きで好きで、ずーっと好きで。ブレない役が多いんですね。あっち行ったりこっち行ったり、迷ったりする役がないんですよ。

――たしかに。

すごく、とても一途な役を演じることが多かったので。だから、過去・現在・未来を点で結びやすいんだと思うんです。変わらない、何かひとつ大切なものを持っている役だから、役を創るときにまっすぐ1本、何か柱みたいなものを立てるんですよ、いつも。

――松下さんがお創りになるキャラクターの、生まれてから亡くなるまでの時間軸という1本の線がまずあって、語られるのはそのほんの一部にすぎないけれど、観ている側にも、舞台で触れられない来し方行く末がしっかりと伝わるのでしょうね。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■また新しくなる『木の上の軍隊』。まだこの作品が必要な以上は、演り続けていきたい

――それでは、最後にお客さまへのメッセージをお願いします。

前回ご覧になっていただいたお客さまもたくさんいらっしゃると思うんですけど、『木の上の軍隊』はまた新しくなります。そして、僕たちが届けたいメッセージも、またさらに多くのことを届けたいという思いで創っています。沖縄のことに関しても、さらに状況も変わって、基地の問題とか、いろんなことでつらい思いをしている方もたくさんいらっしゃいます。だから、沖縄以外に住んでいる方が「遠い島の話ではないのかもしれない」という風に思っていただけるように、僕たちは精一杯上演します。今回は沖縄公演があるので沖縄にも行きます。この作品が沖縄で上演されることが求められているという状況を喜んでいいのか憂うべきか、難しいところではあるんですけど、けれどもやっぱり、まだこの作品が必要な以上は、演り続けていきたいと思います。

戦争の話だから、重いんじゃないかとか、ちょっと身構えてしまう方もいらっしゃると思うんですけど、2人のボタンの掛け違いトーク(笑)、噛み合わないトークを、蓬莱竜太さんがとってもコミカルに描いてくださっていて、たくさん笑っていただける場所もあるので、是非観に来ていただきたいです。

――沖縄公演があるのですね!

今回、嘉手納基地のすぐ近くの劇場でやるんですよ。

――そうなんですか!

そう、だから、なにか挑戦ですよね。

――いよいよ井上ひさしさんのお心を、現地へお連れする大切な公演になりますね。お話、有難うございました。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

※松下洸平さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは6月9日(日)です。(このプレゼントの募集は終了しました。)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

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“「1本線をつくるときの軸を見つけるようにしている」、松下洸平インタビュー(下)” への 5 件のフィードバック

  1. みしば より:

    松下さんのスリル・ミーでの演技に魅了されて、木の上軍隊も観させていただきました。
    新兵の純粋さは松下さんと同調しているようで新兵そのものを写していたように思います。その時代のその人にしか分からない、感じ得ないことを観る人に届けることの難しさ、受け取ることの難しさを感じましたが、戦争の辛さ悲しさ様々な想いが入り乱れる人の心にリアリティがありました。
    観てよかったです。

  2. あーさ より:

    今、丁度舞台の真っ最中。
    沖縄の地で観てみたいと、チケットとりました。
    本当に新しい深化した、木の上の軍隊。
    新兵はさらに無垢で、ただただ沖縄を、沖縄のすべてを失われたくない。上官は、よりずるくて人間臭い。軍人としてではない上官になってく様子が透けて見えて、戦争は人を変えてしまうと改めて思いました。
    語る女はより精霊として、ここにきたすべての人を包み込むような感じが出てました。

  3. ぽちょみー より:

    木の上の軍隊初日を観劇した後にこの記事を読みました。役者さんがどのような思いで演じられたか知ることで物語の解釈も深まりました。この記事を読んだ上でもう一度観劇したいと思いました。

  4. 貴子 より:

    2016年公演からの変化がとても多そうで、今回の公演への期待が高まりました。
    初日を迎える前に読めて良かったです!

  5. はる より:

    スリルミーで松下さんのファンになり、私も今回初めて観劇します。舞台は幅広く見ている方ですが、松下さんのファンでなければ見る機会のなかった作品かもしれません。大切に観劇させていただきたいと思います。

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