「怖がらずに、常に闘っていたい」、『ラ・マンチャの男』駒田一インタビュー(上)

駒田一さん=撮影・山本尚侍

個性と高い表現力で演劇ファンにはおなじみの俳優・駒田一さん。2015年度には『ラ・マンチャの男』のサンチョ役と『レ・ミゼラブル』のテナルディエ役、そして『ダンス オブ ヴァンパイア』のクコール役の演技で、第41回菊田一夫演劇賞の演劇賞を受賞されました。2019年9月7日に大阪のフェスティバルホールで開幕するミュージカル『ラ・マンチャの男』(宮城、愛知、東京公演あり)で、ドン・キホーテの従僕、サンチョ・パンサを演じる駒田さんに、『ラ・マンチャの男』をはじめ、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などについてうかがいました。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

ミュージカル『ラ・マンチャの男』は、16世紀のスペイン・セビリアの牢獄を舞台に、教会を侮辱した罪で投獄されたセルバンテス(松本白鸚)が囚人全員を配役にした即興劇を作り、セルバンテスが田舎の紳士キハーナと、キハーナが作り出した遍歴の騎士ドン・キホーテを演じるという三重構造で物語が展開。観客は見ているうちに、果たして、誰が現実で、誰が想像上の人物なのか区別がつかなくなっていきます。

――『ミス・サイゴン』のエンジニア役はどうしてもやりたくて3度目のオーディションで役を射止めましたが、『ラ・マンチャの男』のサンチョ役は、やりたいと思う役ではなかったそうですね。

いや、やりたくない役ではなくて、僕にはできないなと思っていたんです。

――どうしてですか。

荷が重い。恐れ多くて、旦那さま(松本白鸚)と二人であれだけずっと一緒にいられるかなと心配もありました(笑)。『レ・ミゼラブル』を一番最初に見たときは、テナルディエをやりたいと思ったんです。『ミス・サイゴン』はエンジニアをやりたかった。『ラ・マンチャの男』を見たときは、あの役をやりたいより、僕、居場所がないんじゃないかと思って。でも、1995年に『ラ・マンチャの男』にラバ追いの役で出演してから、いつかサンチョはやってみたいなと沸々と思うようになりました。

――2009年からそのサンチョを演じられ、今年で10年です。

サンチョは旦那さまのことを愛していて、恩がある。とにかく、旦那さま(松本白鸚)の一番側にいる。それはもう緊張してドキドキしますよね。

――今でもですか。

今でもです。25年前と比べたら全然違いますけど、自分からやっと白鸚さんに話しかけることができるようになりました(笑)。ある時、手を変え品を変えて稽古場で色々と試してみたんです。そうすると、白鸚さんが、「駒田さん、稽古場なのでドンドン見せてください」と喜んでくださった。

――松本白鸚さんは、1969年から『ラ・マンチャの男』に主演され、今年で50年を迎えます。役者が色んなアイデアを出すのを喜ばれる方なのですね。

そうです。やらないと「何やっているんですか」ととがめられます。

――どういう演出をされるのですか。

細部まで注意を配られています。セリフ一つ一つに対して、ものすごく重い深い言葉を投げかけてくださいます。それに対して同じようではなく、違うアプローチをしても喜んでくれて、納得してくださる。すべてを言われた通りに演じる必要はなくて、「一緒に考えてください」というタイプ。だから稽古場は面白いんです。稽古場で色々と試して、試して、試して、削っていく。そういう演出をなさる方です。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、セルバンテス役の松本白鸚さんと駒田さんが日ごろどのように接しているかや、『ラ・マンチャの男』の捉え方について、「事実は真実の敵である」などのセリフなどについてうかがったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。8月6日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、『レ・ミゼラブル』のテナルディエ役と『ミス・サイゴン』のエンジニア役についてのほか、来年40年になる役者人生についてうかがったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■先輩から「90人に嫌われてもいいから10人に愛されるようになりなさい」と言われて

■『ラ・マンチャの男』は捉え方が色々。経験を積むと同じことをやっても感じ方が違う

■「事実は真実の敵である」の意味は、僕が言うと僕の答えになるので、持ち帰ってほしい

■折り合いをつけていた。だから「一番憎むべき狂気とは…」のセリフがたまんないんです

<ミュージカル『ラ・マンチャの男』>
【大阪公演】2019年9月7日(土)~9月12日(木) フェスティバルホール
【宮城公演】2019年9月21日(土)~9月23日(月) 東京エレクトロンホール宮城
【愛知公演】2019年9月27日(金)~9月29日 (日) 愛知県芸術劇場大ホール
【東京公演】2019年10月4日(金)~10月27日(日) 帝国劇場
公式サイト
https://www.tohostage.com/lamancha/
大阪公演特設サイト
https://www.umegei.com/lamancha/

<関連サイト>
駒田一オフィシャルブログ「駒田一の酔いどれときどき日記」
https://ameblo.jp/hajipyon/
駒田一:Victor Music Arts
http://www.victormusicarts.jp/hajimekomada_pro/

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※駒田一さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは9月5日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

※ここから有料会員限定部分です。

■先輩から「90人に嫌われてもいいから10人に愛されるようになりなさい」と言われて

――白鸚さんと駒田さんの関係が、ドン・キホーテとサンチョの信頼のある温かな関係に現れると思います。

そうですね。僕は人と接することが嫌いじゃないんですよね。どっちかというと得意なほう。若いころは「八方美人で皆に好かれようとしている」と言われたことがあるんです。でも先輩から「90人に嫌われてもいいから10人に愛されるようになりなさい」と言われて、確かにそうだなと。自分の思っていることを隠すのではなく、相手に言えるような人間になろうと思いました。ズケズケ言い過ぎて失敗することもありましたが、稽古場で自分の考えを見せるようにしています。それで、納得してもらいながら、「じゃあ、旦那さま、帰りに一杯行きますか」と(笑)。

――そういうご関係なのですね。

白鸚さんとは食事にも行きますし、公演にご招待頂くこともあります。昔は緊張して、触れることもできなかった。旦那さまにパーンと触れられるようになったときに、そうお伝えすると、「駒田さん、あなたはエンジニアをやっている人ですよ。0番に立っている人です。もっと堂々とやってください」と。「そんなんで終わるな」という?咤激励ですよ。うれしかったですね。だから、今回もベッタベッタ触らせてもらおうと思って(笑)。いや、本当にサンチョはそういう役なんですよ。

――10年が経ち、役に対して深まったものはありますか。

あります。白鸚さんがいまだに進化していますから。だから、同じことをやっていたら太刀打ちできない。失敗することを恐れずに進化していく。「間というのは一つしかない。その一つの間を見つけるために僕たちは苦労するんだ」と旦那さまがおっしゃるんです。全くその通りで、そのいいと思う間が100回のうち何回あるだろう。それはやりながら、感じるしかない。それが僕たちの仕事ですし、正解はない。

――正解がないから、その間を探すことは一生続くのでしょうね。

そうです。すべての作品に通ずることです。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

■『ラ・マンチャの男』は捉え方が色々。経験を積むと同じことをやっても感じ方が違う

――私は作品を何回も拝見していますが、若いときは、正直に申し上げて、ピンとこなかった。でも、年を取るごとに胸に迫る作品ですね。

100人中、100人がそう言いますよ。僕もそうでした。うちのオフクロも何十回も見て、「良かったねー」と泣いている。だって、あの作品、意味分かります? 僕はなんのこっちゃ分かんないです(笑)。捉え方が色々ありすぎて、見る人によって違う。ドン・キホーテには赤に見えるけど、白なんだよというお話じゃないですか。色んな経験を積むと、同じことをやっていても感じ方が違う。これが一番分かりやすいたとえです。説明するのが難しいんですよ、この作品、哲学ですから。

――哲学ですし、心理学的なところもありますね。駒田さんご自身はどういう物語として捉えられているのですか。

人間というのは、100人いたら100通りの捉え方があって、その人が何を感じて、どこに生命の火をともすのかを考えさせてくれる作品です。だから、役者同士でよく「見るもんじゃなくて、やるもんだ」といっています。役者をやる以上は、『ラ・マンチャの男』の中にいたい。セリフの一言、ひとことが25年前と今じゃ全く違うんです。いまだに分からないセリフも多いですね。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

■「事実は真実の敵である」の意味は、僕が言うと僕の答えになるので、持ち帰ってほしい

――例えば、「事実は真実の敵である」というセリフがあります。

その意味、分かりますか?

――いやぁ、分からないです(笑)。

分かんなくていいと思うんです。分かろうとする努力が大切なんです。

――哲学の問答みたいですね。

僕が言うと僕の答えになるので、観客に持ち帰ってほしい。25年前とは感じることは違うんですよね。僕はそれでいいような気がします。そういうセリフがいっぱいちりばめられている。だから、皆に台本も見てほしいぐらいですね。

――物語自体はどう解釈されているのですか。

解釈というのは一言では言えない。旦那さまも一言ではいえないと思うんです。だから、いまだに考えていらっしゃるんでしょう。この間の稽古でも英語の台本を持ち出して、この訳は合っているのか、翻訳の意味はと一語一句チェックしていました。そこからまたセリフも微妙に変わっていくんです。すごいですよ。50年もやっていらっしゃるのに。

――解釈ではない。

普段は「あのさー、事実は真実の敵だよね」という会話はしないじゃないですか(笑)。何だコイツと思われますよね。その人の感じる考え方でいいと思うんです。人によったら、「真実は事実の敵なり」という人もいるかもしれない。その人と議論すればいいんです。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

■折り合いをつけていた。だから「一番憎むべき狂気とは…」のセリフがたまんないんです

――有名な「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ」というセルバンテスの名台詞はどうですか。

それ、絶対、皆言いますよね(笑)。

――こちらの勝手な想像なのですが、駒田さんは約40年、俳優をされてきて、折り合いをつけてこない人生だったのではないですか。

つけてたんですよ(笑)。だからダメなんです。だから、このセリフがたまんないんです。だから闘うようにして、闘うようにして、怒られることを怖がらずに。たとえ、相手役だろうと誰だろうと。そりゃ、旦那さまに「おいっ、コラ!」とは言いませんよ(笑)。ある程度近い役者だったら、対等でいたいし、後輩だからといって遠慮はしない。ちょっと上ぐらいの人には遠慮せずにぶつかっていく。芝居のことだけではなく、生きていく上で闘っていく。一番僕が響いているセリフです。

――大人になればなるほど、折り合いをつけなきゃ生きていけない部分もあります。

そうですね。でも、若いのに折り合いをつけている子も多いんですよ。そんなんじゃダメですよね。僕は闘っていきたい。こういう仕事をしていると尚更ね。だって、答えがないんだもん。答えを探すために何かをやっていることが重要なんです。何となくこうじゃないかなと思っていることが一番ダメで、分かろうとする努力をすることなんです。旦那さまと一緒にいて改めてそう学びました。だから、常に闘っていたい。それにこの作品をやったことで、ほかの作品に生かされているから。

――具体的にはどういうところですか。

稽古場のあり方とか、間とはなんだとか。よく怒られましたよ、旦那さまにも。「駒田さん、今日の芝居はたゆんでます」。〝たゆんでます〟という言葉は聞かないじゃないですか。楽屋に帰って調べて、あぁ、ゆるんでいる意味かと。素敵な言葉だなと思うんです。お芝居とはセリフとセリフの行間や、空間で人を笑わせたり、泣かせたりすることができることだと思うんです。お笑いや落語も同じだと思いますが、舞台はその時の温度や湿度、空気がある。前日の芝居と全く同じことはできないです。いかにその間をキャッチして次の言葉を出すか。それができるのがいいお芝居だと思っています。そういうことを教えてくれる稽古場はなかなかないですよ。

駒田一さん=撮影・山本尚侍

駒田一さん=撮影・山本尚侍

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