「オペラ歌手は武士。一本の名刀を生涯かけて鍛える」、北川辰彦インタビュー(下)

北川辰彦さん=撮影・長澤直子

2021年6月12日(土)と6月13日(日)に日生劇場で上演される、NISSAY OPERA 2021『ラ・ボエーム』に出演する北川辰彦さんのインタビュー、後半です。オペラ歌手の飲み会とミュージカル俳優の飲み会の違いから、オペラ歌手を「武士」に例える理由、オペラ歌手になりたいという若者へのアドバイス、コロナ禍になって物事の考え方が変わったことや、読んでいる漫画と演技の関係などについて語ってくださったインタビュー後半の内容を紹介します。

北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

——ちなみにオペラ歌手の飲み会と、ミュージカル俳優の飲み会、どっちが騒がしいのでしょうか(笑)?

それは断然ミュージカル俳優ですね。声の大きさは圧倒的にオペラ歌手ですが、ミュージカルの現場は、僕もそんなにたくさん経験しているわけではありませんが、よく討論になるんですよ。「お前の演技はさぁ」みたいな。オペラではそれはほとんどないんです。オペラ歌手は「お前のあそこがいいよね」、という褒め合いになります(笑)。

ミュージカルももちろん褒め合いますが、言い合うことも多い。みんな本気になって、「俺の芝居はさ」、「お前の芝居はさ」、という議論をする場面を結構見ました。だからすごいなと思って。それで、その次の稽古は積極的にぶつかり合う。なりふり構わず皆が何かをやり始めることに僕はとても好感が持てました。

——ミュージカル俳優は飲み会で討論して、ぶつかり合う。オペラ歌手は褒め合う、と。

オペラ歌手は身体が楽器でマイクもありませんから、「もう歌えない」ってなってしまったら大変なんです。まず身体という楽器を作ることを高校生くらいから始めるので…。

——ある意味、ミュージカルの世界がちょっと羨ましかったり?

羨ましいかどうかは分からないですけれども(笑)、僕はいつもオペラ歌手という職業を、武士に例えるんです。声を鍛えることは刀を一本鍛え上げるのと変わらない。決して折ってはいけないし、美しく、かつ切れる名刀を生涯かけて打っていくんですよね。出来上がった刀はまた研いで、戦って。オペラの発声は剣道のようなもので、何々流みたいな流派も一生かけて勉強していく。戦っている最中にちょっと欠けた刃をまた綺麗に直して、絶対折れないように鍛えていくんです。声は、一度折れたら二本目は作れない、二度と作れない剣なので、その一本をいかに大事にするかということです。

——今まで考えたことがなかったけれど本当にそうですね!

僕はオペラ以外もよく歌うので、刀の使い方も場合によって色々変えています。刃がちょっとギザギザの剣になっているかもしれません(笑)。僕はもちろんオペラ歌手ですし、それは他にどのようなレパートリーを歌っても変わりはありませんが、オペラの楽しみは声だけではないと思っていますし、オペラも、色々な作品を歌ってみるという姿勢を保っています。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、オペラ歌手になりたいという若者へのアドバイス、コロナ禍になって物事の考え方が変わったことや、読んでいる漫画と演技の関係などについて語ってくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■チャンスは声をかけてこない。チャンスなのか分からないものにどれだけ手を伸ばせるか

■コロナ禍になって物事の考え方が変わりました。色々なジャンルの歌を聴いてもらいたいと

■僕は漫画をバイブルにしていて、顔の表現なども含めた色々な表現を盗んでいます

■以前『ラ・ボエーム』でコッリーネ役を演じた時、ロドルフォの肩に手をかける前に…

<NISSAY OPERA 2021『ラ・ボエーム』>
【東京公演】2021年6月12日(土)・6月13日(日) 日生劇場
公式サイト
https://opera.nissaytheatre.or.jp/info/2021_info/la-boheme/

<関連リンク>
NISSAY OPERA 2021『ラ・ボエーム』
https://www.nissaytheatre.or.jp/schedule/boheme2021/
北川辰彦 Twitter
https://twitter.com/tatyan1129
ザ・ジェイドTwitter
https://twitter.com/TheJADE9

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北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

※ここから有料会員限定部分です。

■チャンスは声をかけてこない。チャンスなのか分からないものにどれだけ手を伸ばせるか

——オペラ歌手になりたい、ミュージカル・スターになりたいという若者がいたら何かアドバイスはありますか?

どうでしょう。よく言われることですが、チャンスはあちらから声をかけてきてはくれないので、どの扉を開けられるか、それがチャンスなのか分からないものにどれだけ手を伸ばせるのかが大切だ、と僕は思っています。歌が上手い人、演技が上手い人は世界にたくさんいるし、見た目はもはや自分で作れる時代です。正直なところ、歌っていかないと生きていけないというのもあるので、やりたい役ばかりやっているかといったら勿論そんなことはありません。

でも、どうかな?と思っても、やってみると好きになることの方が絶対多いんですよ。だから知らなくてもやってみよう、と毎回思います。そうしたら必ず新しい自分に出会える。同じ作品でも違う人と一緒にやるとまた新しくなる。だから僕にとってはどういう作品と出会ったかよりも、どういう人たちとやったかのほうが大事なんです。

北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

■コロナ禍になって物事の考え方が変わりました。色々なジャンルの歌を聴いてもらいたいと

——今後の活動への抱負を聞かせてください。何かプロジェクトとか、夢はありますか?

一昨年までだったら、できるだけ多くオペラの舞台で歌いたい、と思っていましたが、コロナ禍になって物事の考え方が少し変わってきました。

——どう変わったんですか?

一つはもっと色々な音楽を歌いたいな、と思うようになりました。僕に出来るのは歌を歌うことしかないので、自分が生きていくためでもあるのですが、色々なジャンルの歌を歌ってみんなに聴いてもらいたい、というのが一番強いですね。そのほかにもライブ的なものをやりたいと思っています。僕らの世代でオペラ・ファンになってくれる人を増やすためにも色々な挑戦をしたいです。

たとえば3月にソプラノ歌手の辰巳真理恵さんとご一緒したライブでは、ベルク作曲《ルル》(12音技法という方法を使って作曲された歌うのが極めて難しいオペラ)からプロローグを歌ったんです。ベルクのガシャガシャした音楽、合っているのか間違っているのかも分からない、旋律もない、言葉もわからない曲。でもそれをそれなりに演技をつけて歌ったら、聴きにきたお客さんですごく興味を持った、とおっしゃる方がいて。オペラのアリアばかりのコンサートだったら、他の耳馴染みの良い名曲が記憶に残ったかもしれませんが、この日はオペラからはこの《ルル》のプロローグだけで、他の曲はミュージカル、アニメ、古関裕而などでしたから、かえって《ルル》の印象が強く残ったみたいでした。

クラシックだけのコンサートではなく、アニメソングの中にオペラも一曲という形の方が、オペラに興味を持ってもらう可能性につながるのかも、と思った経験です。

北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

■僕は漫画をバイブルにしていて、顔の表現なども含めた色々な表現を盗んでいます

——4月30日に予定されていたライブ『北川辰彦SINGSアニメワールド(仮)』は、緊急事態宣言を受けて延期となりましたが、アニメというのは?

僕はアニメが大好きなんです。でも、アニメよりもっと好きなのは漫画なんですが。実をいうと、僕の演技はすごく色々な漫画から取ってきているんですよ。

——北川さんは歌に加えて演技も素晴らしいと思っていましたが、その秘密は漫画なんですか!?

漫画の絵は一コマ一コマで流れを表現するじゃないですか。そのシーンの流れの中である一コマを切り取ってくる。こうなりました、ドン!で。実際はその流れは続いているはずなのに、そこだけ一コマ切り取ったということは、そこは見せたいシーン、強調したいシーンなんですよ。それはつまり、舞台でもお客さんの目に止まりやすい絵なんですよね。お客さんの印象に残りやすい絵。その絵をひとつ頭の中に浮かべておくと周りのシーンがつながりやすくなる。例えば、画角というかアングルでその人が表現したいものを見せようとすると、正面に立つよりも斜めに立つ理由が生まれてくる。

だから僕は漫画をバイブルにしていて、漫画から顔の表情なども含めた色々な表現を結構盗んでいます。実写のドラマだと動いているからちょっと違うんですが、漫画の絵のコマ割りで、大きいコマは見せたい絵なんだ、とか。舞台をやっている時も、ここはあの漫画のあのコマだ、という感覚を持って演じていたりします。

——舞台に立つ人は漫画を読むべきですね。

漫画はマストだと思いますよ。読んでいない人はいないんじゃないかと思うくらいです(笑)。歌手というよりも役者ですね。芝居をするなら漫画を読め、と。特にバトルものがおすすめです。例えば『ドラゴンボール』とか上手ですよ。それから『スラムダンク』もいいですね。こだわりぬいて描かかれている絵は、読者目線というか、感情移入できる絵というのでしょうか。

——まったく知らない世界でした。色々読んでみます。北川さんの一番好きな漫画はなんですか?

一番はもうないですね。なんでも好きですし。でも何か読んでみたい、という方には『ワンピース』あたりが一番いいかな。眉毛一本の表現でも「おお!」って思わせます。その表情を舞台の上で自分がやってもお客さんには一切見えないだろうけれど(笑)、でもやる価値はあるな、とか思ったりして。

北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

■以前『ラ・ボエーム』でコッリーネ役を演じた時、ロドルフォの肩に手をかける前に…

——相手役の人にはその演技が見えるかもしれませんよね。

そうですね。以前『ラ・ボエーム』で、今回僕が歌うショナール役ではなく、コッリーネ役を少しだけ演じた時があるんですが、最後にミミが息を引き取る場面で、ロドルフォが「ミミ〜!」と彼女に泣きつく。そして皆はベッドの周りを囲み、演出家さんからは皆で彼女を弔うような感じで、ということだったんですが、皆が「ミミ!かわいそうに!」と言っている間、僕だけはロドルフォの肩に手を置いたんです。コッリーネは哲学者だからこそ、「ロドルフォ、お前は生きているんだぞ」ということを言いたいと思ったんですが、その時に彼の肩に手をかける前に、一度手をグーに握る。それだけでもだいぶ雰囲気が変わるんですよ。このグーは、実はとある漫画からとっているんです(笑)。

——おお、実際にやっていただくと大きな違いがありますね。

コッリーネの心の中に強い思いがある一瞬が、そこに見えるというか。すみません、どうでもいい話ばかりしてしまって。

——いえ、素晴らしいお話です。しかも、とても大事なことです。

面白いですよね。うまく作用すると、いい意味で騙しているな、というこちらのワクワク感があります。舞台はこれだから辞められない、と思ってしまって。でも、こういう話を聞いてしまったらお客さんはちょっと興ざめになってしまいますよね(笑)。

——これ以上のネタバレはあまり良くないですね(笑)?

そうそう、そうですね。僕はこういうことを喋り出したら止まらないので、誰か止めてください(笑)。

——今日はオペラだけに限らず、舞台芸術の秘密をたくさん教えていただきました。これからもオペラに、そしてミュージカルを含む多彩な分野の舞台に、そしてコンサートにと幅広い活躍をお祈りしています。6月上演の日生劇場『ラ・ボエーム』も素晴らしい舞台になりますように!

みなさん、ぜひ観にいらしてください。

——ありがとうございました。

北川辰彦さん=撮影・長澤直子
北川辰彦さん=撮影・長澤直子

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