19世紀半ばのパリを舞台に屋根裏部屋に集う若者たちの夢や恋・友情を描き、数々の映画やミュージカルに影響を与えたプッチーニの名作オペラ『ラ・ボエーム』が、2021年6月12日(土)に日生劇場で開幕。宮本益光さんによる日本語訳詞、園田隆一郎さん指揮、伊香修吾さん演出、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で、6月13日(日)まで上演されます。この公演は、日生劇場を運営している公益財団法人ニッセイ文化振興財団が、NISSAY OPERA 2021として上演するもので、2017年初演のプロダクションを新たな視点で「再構築」する全4幕の作品です。
全幕を通して、ミミが居続ける別の空間があり、そこには別の時間が流れているような…そんな印象の演出だと思いました。登場人物全員が主役と言っても差し支えないような作品。二村周作さんの美術、齋藤茂男さんの照明で、陰影を生かした抑えた色彩感覚が、若者たちのそれぞれの個性や生き様を浮き彫りにしていました。十川ヒロコさんによる衣裳の色合いも上品な感じで、キャラクターにぴったりはまっていました。
12日の出演は、安藤赴美子、宮里直樹 、横前奈緒 、今井俊輔 、北川辰彦 、デニス・ビシュニャ 、清水宏樹 、小林由樹、工藤翔陽のみなさん。13日の出演は、迫田美帆、岸浪愛学、冨平安希子、池内響、近藤圭、山田大智、清水良一、三浦克次、工藤翔陽のみなさんです。アイデアニュースでは、ショナール役で12日公演に出演の北川辰彦さんのインタビューを5月10日と11日に掲載させていただきましたが、6月8日と9日に行われたゲネプロのうち、北川さんを含む12日公演メンバーが登場した6月8日のゲネプロの様子を、独自撮影の写真で紹介します。
クリスマス・イヴの夜、詩人ロドルフォ(宮里直樹さん、写真中央)と画家のマルチェッロ(今井俊輔さん、写真左)は、共同生活している屋根裏部屋で寒さに震えています。ロドルフォが自らの原稿をストーブで燃やし、わずかな暖をとることを思いつきます。そこに哲学者コッリーネ(デニス・ビシュニャさん、写真右)が帰宅し加わります。
この部屋の中に、ミミは本来はいないはずですが、今回の演出では、ミミ(安藤赴美子さん)は彼らから見えない存在ながら、椅子に座って彼らの話に耳を傾けているのです。
音楽家ショナール(北川辰彦さん)は、お金と食料や薪とともに意気揚々と登場し、それらを得たいきさつを語ります。北川辰彦さんのショナールは、表情や細かいしぐさ一つに至るまで、物語の中のスパイスのような存在で、目が離せません。
そして、ミミ(安藤赴美子さん、写真右)はローソクの消えた部屋の中でロドルフォと鍵を探します。この時、ミミは初めてロドルフォと会話を交わしますが、ミミはすでに彼らについてよく知っていて包み込むような存在感が漂います。暗闇の中、手探りで鍵を探すミミとロドルフォ。手と手が触れ合う瞬間も音で表現され、二人の声と想いが重なり合う場面は、オペラの醍醐味を味わうことができる屈指のシーンです。
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■賑わう街の第2幕。合唱は外から響き、ムゼッタとアルチンドロは「窓」から登場
■アンフェール門の第3幕。女性コーラスを軍曹と税関吏が人形を用いて表現
■短いセリフでも、表情や細かいしぐさで、ショナールの心情を伝える北川辰彦さん
■次元を超えて存在するかのようなミミの旅立ち。永遠に残る青春の日々の記憶に
<NISSAY OPERA 2021『ラ・ボエーム』>
【東京公演】2021年6月12日(土)・6月13日(日) 日生劇場
各日14:00開演(開場は開演の30分前)
全4幕(宮本益光訳詞による日本語上演・日本語字幕付)
公式サイト(特設ページ)
https://opera.nissaytheatre.or.jp/info/2021_info/la-boheme/
<料金(税込)>
S席10,000円
A席8,000円
B席6,000円
学生席3,000円
<出演者など>
6月12日(土)/6月13日(日)ダブルキャスト公演
ミミ:安藤 赴美子/迫田 美帆
ロドルフォ:宮里 直樹/岸浪 愛学
ムゼッタ:横前 奈緒/冨平 安希子
マルチェッロ:今井 俊輔/池内 響
ショナール:北川 辰彦/近藤 圭
コッリーネ:デニス・ビシュニャ/山田 大智
ベノア:清水 宏樹/清水 良一
アルチンドロ:小林 由樹/三浦 克次
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
作曲:ジャコモ・プッチーニ
指揮:園田 隆一郎
演出:伊香 修吾
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
主催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
協賛:日本生命保険相互会社
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■賑わう街の第2幕。合唱は外から響き、ムゼッタとアルチンドロは「窓」から登場
華やかで賑わいのあるパリの街中のシーンの第2幕。屋根裏部屋がそのまま街中になり、群集のざわめきが舞台の外から合唱で響いてきます。舞台上はソリストのみで進行しますが、ドラマの雰囲気は最高潮に盛り上がって行きます。
ムゼッタ(横前奈緒さん)は、パトロンのアルチンドロ(小林由樹さん)とともに、舞台下手の窓から登場。画家のマルチェッロ(今井俊輔さん)の気をひくために「足が痛い」と騒ぎます。
■アンフェール門の第3幕。女性コーラスを軍曹と税関吏が人形を用いて表現
第3幕、アンフェール門の場面で、ショナールとコッリーネが、軍曹と税関吏の役を演じていたのには驚きました。女性のコーラスは舞台には登場せず、ショナールとコッリーネによって、パペットのような人形を用いて表現されていました。
第二幕もそうでしたが、このような合唱の使い方は、コロナ禍でのオペラ上演における工夫の一つだと感じました。
■ロドルフォに別れを切り出すミミ。マルチェッロとムゼッタの罵り合いと重なる4声
ミミはロドルフォに別れを切り出し、ロドルフォから贈られたバラ色の帽子を、愛の思い出として取っておいて欲しいと伝えます。ミミとロドルフォが2重唱を歌う背景では、マルチェッロとムゼッタの罵り合いが重なります。この4声のアンサンブルは、響きに奥行きが感じられ見事でした。
■短いセリフでも、表情や細かいしぐさで、ショナールの心情を伝える北川辰彦さん
コッリーネはミミのために外套を手放す決意をし、アリア「古い外套よ」を歌います。ショナールは2人きりにしてあげようと部屋を出て行きますが、そこにあるのは短いセリフのみ。表情や細かいしぐさで、ショナールの心情が伝わってきます。インタビューでは「漫画をバイブルにしていて、顔の表現なども含めた色々な表現を盗んでいます」と語っていた北川辰彦さんですが、その成果が如実に発揮されていると感じ秀逸でした。
■次元を超えて存在するかのようなミミの旅立ち。永遠に残る青春の日々の記憶に
ラストシーンでミミは永遠に旅立ちますが、ミミが次元を超えているかのように常に舞台上にいる演出だったこともあり、屋根裏部屋の詩人・画家・哲学者・音楽家たちにとってミミは、永遠に輝き続ける青春の日々の記憶になったようにも感じられました。
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