「狂言劇場 その九『武悪(ぶあく)』『法螺侍(ほらざむらい)』/『舟渡聟(ふなわたしむこ)』『鮎』」が、2021年6月18日(金)から6月27日(日)まで、世田谷パブリックシアターで上演されます。「狂言劇場」は、2002年から世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める野村萬斎さんにより、古典芸能という枠にとどまらず「“舞台芸術=パフォーミングアーツ”としての狂言」というコンセプトに基づいて2004年にスタートしたシリーズ。野村万作・萬斎・裕基の“狂言三代”が出演する今回の作品について、野村萬斎さん、野村裕基さんにお話頂きました。
――「“舞台芸術 = パフォーミングアーツ”としての狂言」をコンセプトとする「狂言劇場」は、どのような想いから企画されたのでしょう?
萬斎:「舞台芸術」というとちょっと固くなりますが、普通にお芝居だと思って来て頂けたらということです。能楽堂で演じると、どうしてもまずそこで敷居が高くなって「入ったこともないところに行くのは、ちょっと勇気がいる」と思う方も多いようですから。世田谷パブリックシアターの芸術監督の私としては、ミュージカルやストレートプレイを観たことがある人たちが来たことがあるであろうこの劇場で、普通に狂言を芝居として観て欲しいというのが願いなんです。
実際に観て頂くと、親しみやすさや、台詞がわかるんだということが納得頂けるのではないかと思います。古典芸能は、やっぱりよくできていると私は思うのです。700年近く続く洗練されたお芝居ですから、『キャッツ』や『オペラ座の怪人』より歴史は長いんですよね。そういう意味で、気軽に観に来て欲しいです。
――狂言をご覧になるお客さまを増やすという意図では、萬斎さん主宰の『狂言ござる乃座』がありますね。
萬斎:あれは、自分のレパートリーを増やすためもあって、21歳ぐらいから能楽堂で古典の狂言をやっているものです。狂言を普及するには「わかりやすいもの」をやるという方法もありますが、「狂言劇場」では演劇として「ドラマティックなもの」を選んでいます。舞台芸術として比肩してみると、現代劇より面白いかもしれないよ? と。そういった新しい発見をして欲しいですし狂言にはいろいろなアイデアが満載なので、大いに盗んで欲しいなと思います。
――盗んで欲しいというのは?
萬斎:お客様もそうですし、演劇関係者も含めていろいろな技術を。例えば、『キャッツ』は猫の世界を描いていますが、狂言では猿だけの世界が出てきたり、『ライオンキング』で頭に動物の顔が乗っかっていたりするのは、能や狂言では700年前からやってます(笑)。じつは『ライオンキング』の演出のジュリー・テイモアは、日本の能楽、日本の古典を大いに学んでいて、そこからいろいろアイデアを取っているんです。
ですからそういうことも含めて、舞台関係者でなくても、演劇的なものの根源がどこにあるのか? という意味でも、盗んで欲しいのです。台本としてはギリシャ悲劇が残っていますが、狂言は「現存する世界最古の演劇」なんです。
古いのになぜ今も残っているのかというと、それだけ普遍的でもありますし、やはり利に適った面白さがある。そのあたりのことを「すごく良くできたお芝居だ」と思って観ていただいても結構かと思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、「狂言三代」と銘打たれた今回の公演の意味や、萬斎さんがこれまで演じて今回は裕基さんが演じる『法螺侍』の太郎冠者(たろうかじゃ)役について、ミュージカルやストレートプレイと狂言の関係などについて話してくださったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。6月17日(木)掲載予定のインタビュー「下」では、シェイクスピアを狂言にした『法螺侍』と、池澤夏樹さんの小説を狂言にした『鮎』について、裕基さんのドラマ出演などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■萬斎:ワールドワイドに時代と向き合うことを彼(裕基さん)にも見て欲しい
■裕基:『法螺侍』は2年ぐらい前に能舞台で上演されたものを見ています
■裕基:祖父のシテ、父の太郎冠者が繰り上がり、僕の太郎冠者はどうなるのか
■萬斎:狂言のヒーローは現実世界の楽天的な人。『エリザベート』のトートとは真逆
<狂言劇場 その九 『武悪』『法螺侍』/『舟渡聟』『鮎』>
【東京公演】2021年6月18日(金)~6月27日(日) 世田谷パブリックシアター
万作の会 公式サイト
http://www.mansaku.co.jp/
世田谷パブリックシアター 公式サイト
https://setagaya-pt.jp/performances/202106kyougen.html
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■萬斎:ワールドワイドに時代と向き合うことを彼(裕基さん)にも見て欲しい
――今回は「狂言三代」と銘打たれています。
萬斎:『法螺侍』という作品は、父(野村万作さん)が中心となって作りましたが、父も90歳になって『法螺侍』はやらないということになり、父がやってきた嘘つきで酒好きで女好きで借金を踏み倒す中年の役をやることになりました。代送りを何故するかというと、我々はこうやって古典を相伝していくけれども、新作に向かっていくというのはどういうことかということも教えなきゃいけない。古典の芸である狂言を軸にしながら、だんだん違う要素もちょっとずつ増やしていくのが、一つの修業のカリキュラムというふうに思っていただければと思います。
古典はアイデアの宝庫なんですね。例えば、ピーター・ブルックや、太陽劇団、ロベール・ルパージュやサイモン・マクバーニー、みんな日本の古典芸能にかなり触発されているんです。ですから、盗られっぱなしじゃなくて、内部の人間が自分たちでそれを発信できないといけないということを、私は肝に銘じて、今まで活動してきました。
そういう開拓精神というか、ワールドワイドに時代と向き合っていくということを彼(裕基さん)にも見て欲しいと思います。とはいえ、もう私とは関係なくドラマに出たりし始めてますから、 “私なりのやり方はこうです” ということを示して、また彼は彼なりの何か、世界を見つけてくれればとは思います。
■裕基:『法螺侍』は2年ぐらい前に能舞台で上演されたものを見ています
――『法螺侍』の太郎冠者(たろうかじゃ)役についてはいかがですか?
裕基:『法螺侍』は、2年ぐらい前に能舞台で実際に上演されたものを見ています。もちろん僕は裏で見ていただけなんですけど、どういう話であるとか、そういうイメージ像みたいなものが多少出来てはいましたが、自分がやらせてもらうことになった太郎冠者という役自体は、だいぶ父が作り上げたものであると感じますし、周りからもそう聞いています。やっぱりそういうところでは、“父の太郎冠者を受け継ぐ” じゃないですけど、そういう意味合いがあるんだろうなというのは感じます。
■裕基:祖父のシテ、父の太郎冠者が繰り上がり、僕の太郎冠者はどうなるのか
裕基:やっぱり祖父が『法螺侍』のシテの洞田助右衛門(ほらたすけえもん)をやっているイメージが大きいですし、僕の役(太郎冠者)も父がやっていたイメージが僕の中でも多いですし、一度見たことがある方だったら、多分それがテンプレートなのかなと思いますけれど、やっぱりそれぞれ代替わりするとなると、どうなるのかというのは自分自身も楽しみです。
萬斎:意外とね、『法螺侍』をやっていたのは彼(裕基さん)が生まれる前の方が多くて(笑)。
裕基:はい。
萬斎:世田谷パブリックシアターで『法螺侍』やるのは初めてですから、この人にとっては多分、『まちがいの狂言』の方がよっぽど見慣れていて、『法螺侍』はあんまり観たことなかったかもしれない。
裕基:そうですね。
■萬斎:狂言のヒーローは現実世界の楽天的な人。『エリザベート』のトートとは真逆
――『法螺侍』の洞田助右衛門役についてはいかがでしょう?
萬斎:世の中のいろんな欲望を、まさに代弁してくれるという意味では非常に狂言的な役です。狂言に出てくる人にスーパースターや格好いい人は1人もいなくて、格好悪い人が多い。みんなが理性の蓋をして生きているなら、その理性の蓋がない人が出てきて、代わりにドンチャン騒ぎをしてくれる。人より美味しいものを飲みたいとか、お金持ちになりたいとか、恋心を抱いたら付き合ってみたいとか、人間はそう思うことは多少あっても理性という蓋やブレーキがあるわけですが、狂言では「食べたいな」と思ったらもう食べてる。
『附子(ぶす)』という狂言を教科書で習った人もいらっしゃると思いますが、留守番の間、主人に「毒だから近付いちゃ駄目だ」と言われる物ほどかえって気になってしまう、そして食べてしまう、ということが起きるんですね。何もしないでそのままお留守番していたら、まるで道徳劇みたいな、演劇的にはちっとも面白くなくなっちゃうので、やっぱりそこは…皆さんは良い子だからきっちりお留守番するかもしれないけれど、太郎冠者と次郎冠者はそうではないと。
でも、そういうことは、ある意味普遍的で、年を取ろうが年取るまいが、「やっぱり人間好き勝手に生きたいよな」という意味合いもあるわけで、屈託なく生きている人間を見ることでわかるものってあるような気がするんです。やりたい放題やって懲らしめられるけど反省することなく「人間楽しく生きないでどうするんだ!」と、ワーっと盛り上がって終わる。そこに名もなきヒーロー像、庶民のヒーロー像がある。それは『エリザベート』のトートとは真逆ですね。究極の真逆。黄泉の国の帝王みたいな人と、現実世界の非常に楽天的な人とね。
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