2021年7月14日(水)と7月15日(木)に、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールで上演されるストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』の作・演出を手掛けられた渡部玄一さんと、シューマンとブラームスの2役をWキャストで演じる佐賀龍彦さん(LE VELVETS)と渡辺大輔さんの3人のインタビュー、後編です。朗読劇に取り組まれるにあたっての思い、前回に引き続きクララを演じられる水夏希さんのこと、シューマンやブラームスの人物像や音楽の特徴について伺いました。
ーー朗読劇については、いかがですか。
渡辺:僕は一度、このストーリー・コンサートと同じようなシチュエーションの作品に出させていただいたことがあります。お能で和の世界、音楽は雅楽が流れていました。袴を身に付けていたこともあるかもしれませんが、和の世界ならではの独特の緊張感がありました。今回、その時のことを思い出しています。
佐賀:僕は朗読劇への出演は初めてで、ミュージカルも朗読もどちらも経験されている方に「どうしたらいいですかね」と聞いてみました。ともすれば、「本と自分」の世界になってしまうんじゃないかと気になったんです。でも、基本的には芝居と一緒だよって言っていただけたので、気が楽になりました。動きの制約はあるけれども、芝居をするときと同じように、シューマンならシューマンとして、その場にいればいいんだと。
渡部:シューマンとブラームス。二役は大変ですよね。
佐賀:同じ幕の中で、シューマンからブラームスに切り替わるシーンがあるのですが、そこがすごく難しくて。稽古でいただいたアドバイスを踏まえながら自分で作っているところなんですけれども、なかなか。
渡辺:演じ分けの指示は、演出家の方によって全く違うと感じています。僕がこれまでに経験したパターンだと、完璧に演じ分けてとか、色をつけるのはお客さまだから淡々と演じて、とか。役者に任せるということもありました。
ーー色々なパターンがあるのですね。
渡辺:渡部さんと佐賀さんのお話を伺って、今回はこういう感じなのかなと想像できたので、家に帰ったら整理して稽古の日に備えようと思います。音楽の世界観を理解して、その力を借りながら次のシーンに活かしたいなと感じました。お客さまには詳しくは明かさないような音楽の背景なども、演じる側にとってはパワーになると思うんです。そういう背景があるからここは熱を入れてお客さまを誘導したいな、とか。音楽の力が強そうなので、早く合わせたいです。
ーーAチームでクララ役を演じる伊波杏樹さんとは?
渡辺:伊波さんとは以前ミュージカルで共演したことがあるので、今回もコミュニケーションは取りやすそうだと思っています。
ーーBチームのクララ役は、2019年の再演にも出演した水夏希さんですよね。
渡部:水さんはクララにとても詳しいですよ。クララという人物のことがお好きで、興味を持っていらっしゃるからかもしれません。僕も何冊も本を読んでいますが、忘れていることもあるんです。この前も、水さんとクララの子どもの数が7人だったか8人だったかという話をしていたら、「8人です」って即答してくださって。よく調べられていますし、とても勉強家の方です。この『クララ-愛の物語-』の台本づくりにも、初演のときからご提案をいただいているんです。せっかくクララのこういうエピソードがあるのであれば、それがわかるようなセリフにするのはどうでしょう?とかですね。
渡辺:僕は以前、朗読劇で水さんの相手役をさせていただいたことがありました。そのときも、すごくいろいろ調べられていました。水さんに寄り添って行けば間違いないなと感じました。
佐賀:僕も「しっかりと寄り添って行きたい」と思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、前回に引き続きクララを演じられる水夏希さんのこと、シューマンやブラームスの人物像や音楽の特徴についてなど、インタビュー後半の全文と写真を掲載します。
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■佐賀:水さんとご一緒することで、クララは柔らかいだけではなく芯があるのだと
■渡辺:ノンフィクションは、調べながら想像することができるのが面白いです
■佐賀:音大入試のピアノ課題曲がシューマン。自分で歌詞をつけて覚えました
■渡部:クラシック音楽を作り上げた、彼らの「心の力」を感じていただけたら
<ストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』>
【埼玉公演】2021年7月14日(水)~7月15日(木) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
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■佐賀:水さんとご一緒することで、クララは柔らかいだけではなく芯があるのだと
ーー水さんのクララと合わせながらのお稽古はいかがでしたか。
佐賀:一人で稽古していると、自分の中で想像するクララ像しかないわけですが、合わせると、セリフの雰囲気や色を感じることができました。水さんが持たれている雰囲気が、セリフの一言一言から伝わってくるんです。心身両面で、しっかりとした形でクララを提示してきてくださいますし、自分が想像していたものと全然違っていたところもありました。面白いです。
ーーどのようなところが、想像とは違っていたのでしょうか。
佐賀:例えば、僕は母性と柔らかさのイメージでクララを想像していたんです。でも水さんとご一緒することで、クララの母性には柔らかいだけではなくて芯がある感じなのだなと。水さんがそうおっしゃったわけではないですが、そういう感じを受けました。
渡辺:きっと、AチームとBチーム、2日間で全く違う舞台を楽しめるんじゃないかなと思います。朗読劇のセリフも音楽も一緒ですが、演じる人が違いますし、音の感覚も日によって違うでしょうから、どちらも観ていただけると面白いのではないでしょうか。
ーー今回演じられるのは、実在の人物ですよね。役作りをされる上で、架空の人物の場合と異なる点はありますか。
佐賀:僕の場合は、どちらも一緒じゃないかなと思います。というのも、同じ時空間を生きている人のことでさえも、その人がどんな人かを正確にわかるということはあり得なくて。あくまでも、自分や誰かが見た「その人像」になりますよね。フィクションでもノンフィクションでも、演じるにあたっては、いつも自分なりに役を理解して、その人の人物像を浮かび上がらせていく。そこは変わらないんじゃないかと思います。
■渡辺:ノンフィクションは、調べながら想像することができるのが面白いです
渡辺:元々ドキュメンタリーが好きなこともあるかもしれませんが、100年以上前に、この同じ地球に存在していた人を演じるということに、すごくワクワクしています。フィクションは作られたものに自分で補っていかなきゃいけないイメージなんです。ノンフィクションの場合には、調べながら想像することができるのが面白いです。でも、「こういう人だった」と言われている場合にも役作りをする上では決めつけないようにしています。歴史が覆ることもよくありますし。
渡部:この物語も、登場するのは実在している人物ばかりですが、ストーリーは実話に基づくフィクションなんです。
佐賀:クララとシューマンとブラームスのことは、明らかになっていないところも多いんですよね。だから、そこを敢えて結論づけない脚本も面白いなと今回思っているんです。あえてふわっと表現されているところに想像力を喚起させられています。
渡辺:誰もが聞いたことがあるシューマンやブラームスを演じられるチャンスなんて、後にも先にもあるかどうかわからないですよね。出演は1日限りですが、楽しんで頑張りたいです。
ーーシューマンやブラームスについては、どのようなイメージを持たれていますか?
佐賀:どちらも同じように真面目なイメージです。でも今回、シューマンの伝記を読んだり、台本に当たらせてもらったりして感じているのは、彼は直球型でかなり繊細だということです。一方で、ブラームスには、芯というか我慢強さのようなものを感じます。何をもって人間の強さと言っていいのかは分かりませんが、シューマンのように、状況の変化にたじろいでしまうところはないという印象です。
渡部:よく本質を捉えられていますよね。ブラームスは強いんですよ。12才頃からハンブルクという港町のキャバレーで、酒の匂いと娼婦たちに囲まれながら、冬の寒い夜でもピアノを弾いていたんです。それで家計を助けていたんですね。20才になって音楽の武者修行に出たら、それまでに見ていた女性とは全く異なるクララに出会ってしまうんです。溺愛されて育ったシューマンと、逆境に強いブラームス。音楽性も全然違うんですよ。
渡辺:クララの言葉で、二人の違いが浮かび上がってくるようなシーンもありますよね。
■佐賀:音大入試のピアノ課題曲がシューマン。自分で歌詞をつけて覚えました
ーー佐賀さんは大学でクラシック音楽を学ばれていますが、シューマンやブラームスの音楽への思い入れなどはありますか?
佐賀:僕はたまたま、音楽大学の入学試験のときの課題曲がシューマンだったんです。声楽科なのですが、ピアノの課題曲もあったんです。その中の1曲がシューマンの「愛らしい五月よ、お前はもうすぐやってくる」でした。聴くとすごく詩的で爽やかな気持ちになる曲なのですが、演奏するとなると掴みどころがなくて。音楽を始めたのが高校2年生のときでしたから、余計にそう感じたのかもしれませんが。
ーー他の作曲家と比べるといかがですか。
佐賀:同時に課題曲になっていたバッハやベートーヴェンは、指で覚え込ませて弾くこともできたのに、シューマンはそれがスムーズにできなかったんですよ。曲だけだと理解しづらかったので、最終的には、自分で歌詞をつけて覚えましたね。
ーーご自身で歌詞をつけられたのですか!
佐賀:今になって考えると、シューマンの曲は歌詞をつけやすいんです。曲が歌っているんですよね。逆にバッハやベートーヴェンは、歌詞を付けにくいと思います。僕とシューマンとは、そういう出会いでした。
ーーシューマンの曲には、歌詞を付けやすいという特徴があるのでしょうか?
渡部:ロベルト・シューマンとクララとの恋愛がうまく行った年は、音楽史の中でも「シューマンの歌の年」とされています。彼はなんと、1年間に数百曲もの歌曲を書いているんですよ。これ以降の曲は、確かに歌謡性の高い曲が多くなっているんです。佐賀さんが課題曲として弾かれたのは、この時期以降の後期の作品だから、確かに譜面を見るとちょっとわかりづらいはずなんです。シューマンの変拍子は、海外のプロの指揮者の中にも、振り切れない人が案外いたりします。聴いているとごく自然なのに、譜面を見るとすごく戸惑う作りになっているんです。当時の佐賀さんは、引っ掛かっちゃったんじゃないですか。そんなシューマンの罠に(笑)。
佐賀:そういうことだったのかもしれないです(笑)。
■渡部:クラシック音楽を作り上げた、彼らの「心の力」を感じていただけたら
ーーお客さまには何を持って帰っていただきたいですか。
渡辺:お客さまの中には、前回の公演に来られている方もいらっしゃるかもしれませんが、本当にまっさらな気持ちで物語を楽しんで帰っていただけたらという気持ちが一番です。チームごとに1日ずつの公演なので、世界観をどれだけ共有できるか分かりませんが、クラシックの世界とはこれまで無縁だった方にも、シューマンやブラームスの音楽にも興味を持っていただけたらと思います。
ーー新しい世界を広げていただくきっかけになればいいですね。
渡辺:さらに、この3人の物語について調べたりしてもらえたらいいなと思います。そこに僕自身が、微力ながら尽くさせて頂けると嬉しいです。僕たちの仕事は、お客さまがいないと成り立ちません。作品の世界観を共有できなかったら、僕がここに参加した意味がないなと思っています。
佐賀:クラシック音楽ってどうしても、小学校とかで知識として習ったという入り口があると思うんです。難しいというイメージもあるかもしれません。でも今回のコンサートでは、自分たちと同じように恋や人生に悩んだ彼らが、たまたま彼らが持っていた「音楽」というツールでそれを表現していたんだということが伝わると思うんです。クラシック音楽そのものも、シューマン、ブラームス、クララのことも、もっと身近に感じてもらえるような、そんなコンサートになるといいなと思います。
渡部:お二人が言ってくれたように、まずはクラシック音楽をもっと好きになってもらいたいですね。この物語は、みなさまに共感していただけるような内容になっていると思います。ある意味、とてもありふれているテーマなんですが、恋して、愛して、そして、本当は愛してはいけない人を愛してしまって。
ーー確かに、共感しやすいテーマが取り上げられていると感じています。
渡部:そういうありふれたことが人生に起こりながらも、彼らが自分たちの「心」を使ってどれほどのものを作り上げてきたか、ということなんですね。ストーリーの中にも少し出てきますが、彼らがそうやって作り上げたものは、次世代の音楽家に継承されていくんです。だからこそ、現代の世界にも彼らの音楽が遺されているのだと思います。ですから、彼らの「心の力」を感じていただけたら、一番嬉しいですね。
ーーありがとうございます。楽しみにしています。
※佐賀龍彦さんと渡辺大輔さんのサイン色紙を、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは8月13日(金)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
今まで音楽家や曲の背景についてあまり知らずにクラシック聴いていました。今回、朗読劇のストーリー付きでそれぞれにかかわる曲を聴くというのがとても新鮮だったのと、朗読で景色が見えて、演奏・歌声も素晴らしくて、とても素敵な公演でした。
今後クラシックを聴くときには背景も見ながら聴いてみたいと思いました。
ここで渡辺さん佐賀さんの役に対する想いやいろいろなお話も聴けて楽しかったです。
素敵な対談記事をありがとうございました。
渡辺さんの役作りが奥深く、念入りに下調べされていることが知れて、興味深い記事でした。
7月14日に拝見しましたが、渡辺さんと伊波さんの息ピッタリの朗読、クラシック音楽と歌の融合が素晴らしかったです。
お二人共、声のトーンや話し方のテンポを年齢により変化されていたので、それぞれの人物像や情景が想像できました。
贅沢なひとときを過ごすことができ幸せな時間になりました。
本日マチソワを拝見しました。
上は昨日読ませていただいて、下は、観劇後に読ませていただきました。
渡辺さんが、いつも、凄く下調べをしてその人バックグラウンドを考えながら、演じられるので、今回も期待していました。
ここにも話題に出ていますが、シューマン、ブラームス共に真面目です。
そして、ブラームスがクララを支える行動はなかなか出来る事ではありませんね。
なんというか、見ていて、渡辺さんに似ている部分があると思いました。自分にも厳しい所は、特にです。
後、ブラームスが交響曲第一番に、20年の歳月をかけたのが納得しました。
久しぶりに、ブラームス聞きます。
そして、今回の朗読劇は、お能にも似ていると友達と話をしていました。
耳と頭を働かせ、素敵な音と声に癒されました。
楽しかったです。
今日、これからマチソワしてきます。予めこのようなインタビューを拝見できるとまた、見方が変わってより楽しめると思います。ありがとうこざいました。渡辺さんは稽古前だったとのことで、上演後の感想も伺いたいと思いました。