国境も貧富も超えて心の奥に届く音楽、ピアニスト・西川悟平さんインタビュー

2016年10月3日寝屋川アルカスホールで演奏する西川悟平さん=写真提供・濱口賀代さん

2016年10月3日、大阪府寝屋川市にあるアルカスホールで、「7本指のピアニスト」西川悟平さんのライブが開かれました。西川さんは、アメリカの有名なピアニストに認められて渡米、カーネギーホールでの演奏活動という華やかなアメリカンドリームの中で活躍していた頃、難病ジストニアが発症します。「一生、ピアノは弾けません」と何人もの医師から告げられたところから、悟平さんの復活と再生のドラマが始まります。病気を「ギフト」と言い、今の僕だから奏でられる音があると言う西川さんのライブの様子を紹介します。アイデアニュース有料会員向け部分には、西川さんのインタビューを掲載します。西川悟平さんについては、⇒こちらの記事もご覧ください。

■水滴が波紋を広げるような始まりからドラマティックな終わりまで、緊張感を持って迫ってくる

悟平さんの著書「7本指のピアニスト」を読み、YouTubeで演奏を聴いていましたが、はじめて生で、これまで数々の奇跡を引き起こしてきたピアノに触れることができる。そう思ってワクワクしながら待っていたところに、悟平さんが登場。

1曲目は、水滴が波紋を広げて行くような静かな始まりからドラマティックな終わりまで、美しいピアノの音が緊張感を持って最後まで聞き手に迫ってくる「プレリュード イ短調」。悟平さんのために松藤由里さんが作曲されたオリジナル曲です。

ピアノの前に座り、祈るように頭を垂れてからの演奏。使える指が忙しく鍵盤を走り、腕が何度も交差する独自のスタイル。そして演奏後胸に左手をあててお辞儀をするところまで、“ピアニスト・西川悟平”さんの圧倒的でキラキラしたオーラを感じました。

2016年10月3日、寝屋川アルカスホールで演奏する西川悟平さん=写真提供・濱口賀代さん

2016年10月3日、寝屋川アルカスホールで演奏する西川悟平さん=写真提供・濱口賀代さん

■辛いことがあった日の心を、優しくなぐさめてくれるような美しい曲

この夜演奏された曲のなかで、私が一番心惹かれたのはプーランクの「即興曲15番」とベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第8番悲愴」をセットにして続けて弾いたもの。

即興曲の方は、少し悲しげな美しい旋律で、悟平さんがジストニア発症後に練習を重ねて演奏できるようになった記念の曲なのだそうです。そして、悟平さんのお母様がとても気に入っていて、闘病されていたときに何度も悟平さんに弾いて欲しいと頼んだ曲なのだと著書にも書いてありました。辛いことがあった日の心を、優しくなぐさめてくれるような美しい曲でした。

「悲愴」の方は、悲しみのときを悲しいだけの旋律にするのではない、透明な明るい響きがあって、悟平さんの美しいピアノにピッタリだと思いました。

22016年10月3日のコンサートでゲストのナムユカさんと西川悟平さん=濱口賀代さんのFBより

2016年10月3日のコンサートでゲストのナムユカさんと西川悟平さん=濱口賀代さんのFBより

■二人組の強盗に襲われ、ハッピーバースデーを演奏したら、何も盗られず

そして、大きな拍手のあと始まったのが、爆笑トークでした!悟平さんには「鉄板」の持ちネタが幾つかあるのですが、その中でもリクエストが多いという「去年の1月、ニューヨーク・マンハッタンのアパートにいたら二人組の強盗に入られた」という話をまずしてくれました。

「最初はもちろん怖かったんですよ。でもだんだんと、彼らがなぜ泥棒になったのか、知りたくなってきたんです」
アメリカの大学で心理学を学んでいた悟平さん、「どんな子ども時代だったのか聞いてもいいですか?」と質問、はじめはお前なんかには分からないと言っていた泥棒も、やがて親からの性的虐待など、悲惨な幼少時代の話をはじめたのだそうです。深く同情し、号泣した悟平さん。

「なんでも好きなもの持っていっていいから」と言う悟平さんに、泥棒のひとりが「お前ら日本人には人に対する尊敬の念がある。俺はその文化が好きだ」と言い出しました。

「ちょうど日本からお茶が送られてきたんだけど、緑茶飲みますか?」と聞くと「飲む」というわけで、3人は朝まで話し込みます。泥棒のひとりが誕生日が近いというので、悟平さんはハッピーバースデーの曲を弾いてあげました。泥棒は笑顔になり、やがて涙を浮かべて聴いていたのだそうです。

とうとう朝になって、泥棒ふたりは何も盗らずに帰っていきました。それどころか、悟平さんのシャワールームのバルブを修理し、「ドアを開ける時はちゃんと確認しろ」と注意をしてくれたという話に、会場は何度も温かい笑いにつつまれました。そして誰もが、この人間力の高い、魅力的な人のピアノをもっともっと聴きたいと思ったのです。

アメリカのニュース番組で、音楽を通して平和を実現するという一例としてこの強盗事件を悟平さんが語っています。英語ですが、ぜひご覧ください。→http://www.nbcphiladelphia.com/entertainment/the-scene/Harmony-for-Peace-Foundation-Concert-at-Kimmel-Center_Philadelphia-393417131.html

2016年10月3日のコンサートでトーク中の西川悟平さん=濱口賀代さんのFBより

2016年10月3日のコンサートでトーク中の西川悟平さん=濱口賀代さんのFBより

■西川さんのピアノを昨年初めて聴いた濱口賀代さんがコンサートを企画、準備期間3ヵ月で実現

この日のライブは、「西川悟平ライブ・イン・ジャパン大阪寝屋川実行委員会」が主催したもので、彼のピアノを昨年初めて聴いて心を動かされた濱口賀代さんが、「西川さんの言葉を多くの人に届けたい」と願ってプロデュースしたコンサートでした。

賀代さんが初めて悟平さんの演奏を耳にしたのは、2015年6月30日。西川さんの母校、大阪偕星学園高等学校での記念コンサートでした。「何事もあきらめてはいけない」「夢はかなう」という悟平さんのメッセージをもっとたくさんの人に届けたいと思った賀代さんは、とうとう自らコンサートを企画、準備期間3ヵ月で実現させてしまったのでした。

寝屋川でのコンサートを主催した濱口賀代さんとピアニスト・西川悟平さん=写真提供・濱口賀代さん

寝屋川でのコンサートを主催した濱口賀代さんとピアニスト・西川悟平さん=写真提供・濱口賀代さん

賀代さんは、普段は子どもたちに英語を教えておられます。悟平さんのコンサートを通して最も伝えたかったのは、「英語を上手にしゃべれるようになることがゴールではなくて、英語を使っていろんな人と仲良くすることで、解決出来ることもたくさんある。子どもたちには夢を持ってほしいし、あきらめず、ふさぎ込まず、心身ともに元気に生きていってほしい」ということ。

「大人たちって、とても忙しくて疲れています。子どもたちには夢をもちなさいと言いながら、自分があきらめてしまいそうなことも多いんですね。たくさんの人に悟平さんの音楽を聴いて欲しかったのですが、特に私のような、子どもたちの前に立っている人たちに、悟平さんのピアノと話を聴いてもらいたい、元気になってほしいと思ったのが、コンサートを企画したもともとの願いでした」と賀代さんは話しました。

2016年10月3日のコンサート終了後、左から濱口賀代さん、西川悟平さん、ナムユカさん=濱口賀代さんのFBより

2016年10月3日のコンサート終了後、左から濱口賀代さん、西川悟平さん、ナムユカさん=濱口賀代さんのFBより

<西川悟平ライブ・イン・ジャパン大阪寝屋川>
【大阪公演】 10月3日(月)アルカスホール (この公演は終了しています)

<今後の西川悟平さんのコンサート情報>

☆西川悟平ライブ・イン・ジャパン
【神奈川公演】2016年10月31日(月)開場18:00 開演19:30 モーション・ブルー・ヨコハマ
料金:自由席5800円
問い合わせ:モーション・ブルー・ヨコハマ 045-226-1919

☆西川悟平ジャパンニューイヤーコンサート
【神奈川公演】2017年1月19日(木)開場18:30 開演19:00 横浜みなとみらいホール 小ホール
料金:全席指定6000円
問い合わせ:株式会社McCar(マカ)03-5474-4566

<関連サイト>
★西川悟平公式ホームページ→http://gohei.info/index.html
★西川悟平公式Facebook→https://m.facebook.com/gohei.piano/?ref=bookmarks
もしくは→https://www.facebook.com/gohei.piano/?fref=ts

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※ここからアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。西川さんにインタビューして、うかがった内容をお伝えします。なお、西川さんが母校の小学校を訪問した時の様子も取材できましたので、後日、その様子を詳しくお伝えしますのでお楽しみに。

<有料会員限定部分の小見出し>

■すごく神経を使って、聴いてくれてる人の顔とか様子を見てるんです 

■曲を弾いてカッコつけといて、だんだん崩して、英語もしゃべって

■ホワイトハウスで「唯一無二」、「one and only」って言われました

■プロデューサー:この人は、いろんな人のハートに届く音と言葉をもってる

■音楽には、国境も文化も言語も時間も貧富も人種も超えて、心の奥に届く力がある

■一緒に合奏したり合唱したりして理解を深め、少しずつ戦争がなくなっていけば

※ここからアイデアニュース有料会員限定部分です。

――コンサートのあと、すごい人数の人たちがサインを待っていました。

悟平さん:そう、すごくたくさん待っていて下さって、嬉しかった~。カナダ人の友だちにこんなこと言われたの。“僕は悟平のコンサートで不思議な現象を見た。サイン会に並んでるのが小学生からおばあちゃんまでいた。このグループが並ぶってカナダでもアメリカでも珍しい。子どもからお母さんまでとか、お母さん世代からおばあちゃんくらいの方までというのなら分かる。でも、小学校1年生くらいからおばあちゃんまでなんて、本当に不思議だ」って。有難いよね。

■すごく神経を使って、聴いてくれてる人の顔とか様子を見てるんです

――演奏とトークを両方するっていうスタイル、大変だと思うんです。

悟平さん:そう!もう、大変やねん!!!ほんまに!途中でフラフラってなって、ロレツまわらへんって。練習では出来ないのが、お客さんの反応を見て、そこからエネルギーをもらうこと。エネルギーを取られる場合もあるんやんか。上手にコントロールしないとあかんねんけど。昨日は、僕、1400人のティーンエイジャーの前で弾かないといけなくて。(*2016年10月5日、母校である大阪偕星学園高校の後輩たちを前に演奏)最初、興味なさそうだった子たちも、前のめりになって聴いてくれた。

悟平さん:今は僕、すごく神経を使って、聴いてくれてる人の顔とか様子を見てるんですね。小さい会場だともっとひとりひとりの顔が見えるから、“あの人退屈してんなあ”と思ったらそっちに向けてパンチのきいたこと言おうとか。そういう僕自身の心の変化が、練習では出来ない。ひとりでは練習できないから、だから、毎回毎回がチャレンジですね。

悟平さん:そうやって一生懸命喋って、ぱっと急に弾くでしょう。ピアノは88鍵あって、それを全部ちゃんと音当てなあかんわけでしょう。そしてまた、こっち向いて、「みなさん」とか言うわけなんです。もう、汗ダラダラかくし。

■曲を弾いてカッコつけといて、だんだん崩して、英語もしゃべって

――でも、あのスタイルはずっと続けていかれるんですよね。

悟平さん:僕、あのスタイルはずっと続けて行くと思う、うん、大変やけど。

――大阪弁でしゃべる時、標準語でしゃべる時、英語でしゃべる時というふうに使い分けて?

悟平さん:そう、寝屋川で言われたのが、絶対大阪弁が良いって。何回も来てる人がいて、僕が大阪弁でしゃべってる時が、一番悟平らしいって言われたんです。まだちょっと迷ってるんですけど、段階を作ろうとしてるんですね。いきなり、「こんばんは~毎度!」って言うよりも、何も言わずに曲を弾いて、「皆さん、こんばんは。西川悟平です」ってカッコつけといて、それからだんだん崩して、英語もしゃべってとかね。

――そのギャップがすごく良かったです。

悟平さん:ありがとうございます。それを作ろうとしてるんです。ギャップを。

■ホワイトハウスで「唯一無二」、「one and only」って言われました

――演奏はもちろん、服装も決まっていてカッコいい要素と、しゃべってる内容がものすごく面白いっていうのが、いいですね。

悟平さん:めっちゃ大阪弁でね、下ネタとかもあったりして。完璧でしょう!(笑) 自分で、昨日鏡見ながら、かんぺき~って思った!ははは。

――クラシックの世界では珍しいですよね。唯一無二というか。

悟平さん:あ!そのセリフ、ニューヨークで言われた。唯一無二。ホワイトハウスでも言われました。今、3人目、言われたの。初めて言われたのはジョージ・パッカード。one and onlyって。もう一つ何か言われたなあ、なんやっけ。あ、one of a kindって言われた。1種類しかおらへんって。

――ジストニア発症のあと、幼稚園の子どもたちに音楽の喜びをもう一回教えてもらったっていうのも、とても良いお話で。

悟平さん:そう、だから得意なのは小さい子。小中高大も。もう全方位。全人類魅了!うそ、うそ。書かないでくださいよ、そんなん。あのアホ調子乗ってるって言われるわ。

――書いときます!宇宙も入れときましょうか。聴いた方はみんなファンになってしまいます。

■プロデューサー:この人は、いろんな人のハートに届く音と言葉をもってる

――(インタビューに同席した西川さんのプロデューサー田中隆博さんに)田中さんも、悟平さんの音楽と人間性に魅せられて?

田中さん:僕、正直、この人に会いたくなかったんだよね、最初。僕はクラシックの財団なんかもやっているんだけど、7本指でハンディキャップがある人ってことを聞いた時点で、ハンディがあるから会うってどうなのかなって思ったりしたんだよね。だけど、友だち関係も共通だし、やっぱり一回会ってみようってことになって。ある日、この人が僕のオフィスに入ってきた途端、ピカピカ!光ってた。ほんとにピカピカに光ってて、その時に指のことなんかどうでも良くなって、いろんな話をしてやっぱりすごいって思ったの。コンサートとか直接見てないんだけど、YouTubeだけちらっと聞いただけで。1時間くらい喋っただけでコンサートのプロデュース決めた。なんていうのかな、世の中の多くの人々に届く言葉と音を持っている人なんだよ。

悟平さん:ああ、ありがとう!良いこと言いますね~!パチパチ

田中さん:クラシックで言うと、こういう三角形のピラミッドがあって、そのピラミッドの頂点にいる、すごく技術を磨いていらっしゃる方々がいるの。いっぱいいる。でもね、その人たちって下に届かないんだよね。だけど、この人はいろんな人のハートに届く音と言葉をもってる。それってそういう生き方をしてるからなんだと思う。

■音楽には、国境も文化も言語も時間も貧富も人種も超えて、心の奥に届く力がある

――最後に、ピースコンサートにも出られた悟平さんなんですけど、“音楽で平和を”ということについてひとことお願いできますか?

悟平さん:音楽で平和をって言っても、音楽ですぐ暴力がなくなって直接平和をもたらすってことではないと思うんです。ただ、ひとりが出来る力は少ないかもしれないけど、音楽は、国境も、文化も、言語も、時間も、貧富も、人種を超えて、すべてを超えて、心の奥に届く、みんなが理解できるものだと思うんです。コンサートでも泥棒の話したでしょう。もちろん、スポーツとか他にもあると思うけどね。でも音楽家として言わせてもらうと、音楽にはそうした力があると思う。

■一緒に合奏したり合唱したりして理解を深め、少しずつ戦争がなくなっていけば

悟平さん:音楽で平和をって言ったところで、綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、そういうことを続けることによって、いろんな国の人たちにつながりが出来るといいなあと思っています。一緒に合奏したり合唱したり、演奏することで、絆を深めたりとか、理解を深めたりとか、お互いの国に対する関心を深めたりできる。素敵な音楽を通して、少しずつでも、未来の戦争がなくなっていけばいいなあと思っているんです。

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