「大竹しのぶさんから学んだことを『王家の紋章』に」、伊礼彼方インタビュー(下)

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さんのインタビュー後半です。(下)では相手役がダブルキャストの場合の芝居について、さらに「稽古場は宝の山」とおっしゃる伊礼さんに、その宝について詳しく伺いました。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

――相手役がダブルキャストというのは、2010〜2011年の『アンナ・カレーニナ』以来ですよね。あの頃は、相手との関係性を作るのは大変とおっしゃっていましたね。

そうでしたね。物語のスタートとゴールは同じですが、相手が違えばその途中が変わってくるんです。当たり前ですが、僕の受け止め方も自然と違うんですよね。でも、あの時は違うことに気づいていなかった。だから、演出家も大変だろうなと思いながら見ていたそうですが、次第に僕は精神的にも追い込まれていき、追い込まれていることにすら気づいていない僕に、「ちょっと伊礼くん大丈夫?」とストップがかかったんです。そのときに、すごく疲れているんだということに初めて気づきました。同時に違うパターンの人間と芝居をする訳だから大変なんです。そこから稽古を別々にするようになったら、すごく楽になりましたが、大変なことは同じなんですよね。不倫という少し濃い内容の作品でしたし、受けの芝居ばかりでしたので、余計に大変でした。今回は、少し攻めもあるので大丈夫かなと思っています。

――なるほど。

序盤は問題ないと思います。後半の受けの芝居になった時に、どう自分で整理をつけていくかですね。でも、『アンナ・カレーニナ』で経験しているので、その予備知識が生かせるんじゃないかと思います。「彼女はこういうパターンなら、自分はこういう風に切り替えよう」という2つのスイッチを用意しておかないと大変だろうと思います。

――『アンナ・カレーニナ』の時は、大変さに自分で気づいていなかったけれど、今回は「稽古に入ってふたりがどういうアプローチをしてくるか分からないから、自分の心がどう動くか、どうアプローチするか分からない」と考えているということは、この6年で大きな変化があったんですね。

そうだと思います。最初からそういう気持ちなので、おそらく前ほど苦しまないとは思います。でも、やはり交替で稽古するのが一番大変なんです。一度やった場面をリセットして、同じテンションにもっていくのはすごく大変。だから、本番は1公演ずつ出来るので楽ですね。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「稽古場が宝の山」という伊礼さんがこれまで稽古場で得てきた「宝」について具体的に伺ったお話など、インタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料部分の小見出し>

■『ピアフ』で大竹(しのぶ)さんが「マルセル、マルセル」と10回ぐらい呼ぶんですが…

■先輩の技、引き出し、テクニックを盗んできました。ビブラートも3年程ずっと考えて

■『ビューティフル』はアーティスト系の方がたくさんいらっしゃるので、とても楽しみ

■遠慮があまりない稽古場になると思います。そこで生まれる新しい作品を観てほしい

<ミュージカル『ビューティフル』>
【東京公演】2017年7月26日(水)~8月26日(土) 帝国劇場

<公式ページ>
帝国劇場 ミュージカル『ビューティフル』
http://www.tohostage.com/beautiful/

<関連リンク>
伊礼彼方official web site http://www.kanata-ltd.com/
伊礼彼方【KL-official】 twitter https://twitter.com/kl_official_?lang=ja

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伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

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■『ピアフ』で大竹(しのぶ)さんが「マルセル、マルセル」と10回ぐらい呼ぶんですが…

――稽古場が大変なんですね。

大変だと思いますが、稽古場は宝の山なので、すごく身になります。先輩方の芝居を見られるのが一番いいですよね。僕はそれで10年間やってきました。今回、先輩は武田(真治)さんと剣(幸)さんです。剣さんとは一度もご一緒したことがないので、色々と勉強させて頂こうと思います。

――「稽古場が宝の山」というのは、具体的にはどんな宝でしょうか?

その時は気づかなくても、あとで振り返ってみるとものすごい宝があります。例えば、『ピアフ』では大竹(しのぶ)さんと 共演させて頂きました。飛行機が落ちて死んでしまった恋人に、彼女が一幕ラストで「マルセル、マルセル」と10回ぐらい呼ぶんですが、その10回が全部違うんです。全部、違う感情で呼んでいる、すごいと思いましたが、その時は自分がそれを使えるとも思っていませんでした。でも、そういうものをインプットしておくんですよ。なぜ、ああいう風に全部言い方を変えるんだろうか。1歩進むごとに感情が変わっていく彼女を見て、なぜあそこまで変わっていけるんだろう、その前の芝居も見てみようと。真剣に見るようになると、何となく過程が分かって、だからこういう引き出しになるんだと分かる。すごく計算しているなと思いました。

大竹さんはよく「憑依系」といわれていますが、僕は「計算」だと思っています。計算した上で、一度それを取っ払って、憑依しているのかもしれませんが、構築は全て計算されているんです。『王家の紋章』でライアンを演じましたが、台詞が「キャロル」ばかりなんですよ。それで、あの時の大竹さんが使えるんじゃないかと思いました。どうしたら全ての「キャロル」に違うニュアンスを乗せられるだろうかと思ったときに、ライアンの見えない部分の人間像が見えてくるというか。こうすればこういう風に聞こえるのかな、逆にこういう風に聞かせたいから、どういう風に前半を見せればいいだろうと考えることが勉強になる訳です。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■先輩の技、引き出し、テクニックを盗んできました。ビブラートも3年程ずっと考えて

大竹さんに限らず、色んな先輩の技、引き出し、テクニックを盗んできました。ビブラートもそうです。誰もビブラートを教えてくれなかった。27歳までビブラートが出来なかったですからね。自分が音楽をやっている時は必要なかったんです。ミュージカルの世界に入ると、みんながビブラートを聞かせていてすごいなと思いました。どうやってやるんだろうと、ずっと先輩達の歌を聞いていたんですが、構造が分からなくて習得できませんでした。「教えてください」と言っても誰も教えてくれなかった(笑)。

――どこでやり方を見つけたんですか?

どういう構造になっているんだろうと、3年程ずっと考えていたんです。ある日、NHKで演歌歌手の番組を見ていたら、「あっ、ビブラートって音程を変えているだけなんだ」と、初めてそこで気づいたんですよ。演歌歌手のビブラートはすごく深いでしょう?

――なるほど。

それまでは、音程を変えるという発想がありませんでした。声を震わせていると思っていた。でも、僕はそれがかっこいいと思わなくて嫌だったんです。

――自分の好みに合う方法論を見つけたんですね。

それが演歌歌手だった。じゃあ、これを狭めていけば使えるな、ビブラートって音程を変えるんだと。音程を上げて戻すパターンと、下げて戻すパターンと2つあって、演歌歌手は下げてのパターンで、ポップスは上なんだってそこで初めて気づいたんです。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■『ビューティフル』はアーティスト系の方がたくさんいらっしゃるので、とても楽しみ

――ビブラートの発見は稽古場ではなかったけれど、そういう色んな発見が出来る宝の山が稽古場に転がっているんですね。新しい宝が今回もきっとあるんじゃないかと。

『ビューティフル』の現場はプロの歌手がたくさんいるんですよ。みんな素晴らしい声の持ち主ですからね。

――盗む所がたくさんあるかもしれないですね。

それが一番嬉しいです。出演者の中にアーティスト系の方がたくさんいらっしゃるので、とても楽しみです。しかも、作詞家という役なので、言葉を大事にしていきたいと思います。僕自身は、音楽を聞く時に言葉にあまり興味がなかったのですが、ミュージカルの世界に入って初めて言葉の大切さを知るようになりました。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■遠慮があまりない稽古場になると思います。そこで生まれる新しい作品を観てほしい

――最後に、お客様へのメッセージや意気込みをお願いします。

作品や曲については調べればすぐに分かると思いますが、このキャストは自由に自分の発言力をもって、信念をもって生きている人間が多いと思います。こういう人間の集まりはいいものが出来る可能性を無限に秘めています。もしかしたら誰かの心が折れるかもしれませんが(笑)、バランスを取る事もすごく大事なので、そこは僕がやらせて頂こうかと思います。

みんながバランスを取ってしまうと、意見があがってこなくなり、信念が見えてこなくなって筋がぶれてしまいます。そうすると、演出家が舵を握らなければいけなくなりますが、僕が思う作品作りは、役者が作品の舵を握らなくてはいけないと思っているんです。演出家はその整理をすればいい。極端に言ってしまうと役者達の「こうしたい」「ああしたい」というのを、演出家が「そこはおさえろ」「そこ足りないから、もっとやってくれ」だけでいいと思うんです。スポーツ選手と監督と同じですね。

役者はもっとクリエイターでなければいけないと思っていて、それをクリエイトする場が稽古場。だから、すごく信念を持ってやっている人達が集まる現場から、色んな引き出しや色が出てくるんじゃないかと思います。その反面、ぶつかる事も多いと思いますが、最終的にそのぶつかりが素晴らしいものになると思うので、このキャストに期待をしてほしいです。

――キャストの皆さんの素敵さや自由さは、製作発表の段階でお客様も感じたと思います。

きっと、遠慮があまりない稽古場になると思います。そこで出来上がる作品を観てほしいです。このメンバーならではのオリジナルな日本版『ビューティフル』が生まれると思いますので、楽しみにしていてください。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

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“「大竹しのぶさんから学んだことを『王家の紋章』に」、伊礼彼方インタビュー(下)” への 1 件のフィードバック

  1. にゃじ より:

    とてもマニアックかもしれませんが(笑)、背中で語るショットがたまらなく好きです。

    演歌の番組を見たりするんだなあと、じじばば育ちの私にとってすごく親近感がわきました。

    例えば同じ番組を見ても、やはりプロの方は視点が違うんですよね。
    そういう部分が面白いなと思います。

    最後のメッセージもどんなところを観てほしいか、しっかり伝わりました。
    引き出す側、話す側、それぞれが信念を持っているからこそ聞けるお話しですね。

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