2017年10月8日に帝国劇場で開幕したミュージカル『レディ・ベス』に出演中の、石川禅さんと吉野圭吾さんにインタビューをしました。(上)(下)に分けてお届けいたします。石川さんは司教ガーディナー役、吉野さんはスペイン大使シモン・ルナール役。ともにレディ・ベスにとっては敵となる役です。初演との違いや、小池修一郎さんの演出について伺いました。
ーー開幕して手応えはいかがですか?
吉野:再演ですが、色々と中身も変わり、それぞれの役の性質が変わったりしているので、そこを突き詰めている最中ですね。
石川:再演にあたる改訂内容として、曲が増えました。(シルヴェスター・)リーヴァイさんが新曲を書いてくださった、ベスの歌と、ベスとロビンのデュエットです。さらに、上演時間を短くしようという話があり、改訂して、各キャラクターの情報量をシンプルにしました。初演では、笑える部分やエンターテインメントとして楽しめる大衆性がありましたが、再演では芸術性が高くなったと思います。
ーーご覧になった方の声なども届いていますか?
石川:音楽が増え、芝居もよりリアルに、主人公にとっての悪者は、シンプルに見せようという動きがあったことで、ケイト・ブランシェットが主演した映画『エリザベス』がかなり重厚に描かれていたように、お笑い的なセンスは置いておいて、重厚に書き直そうということだと思います。初演の華やかなエンターテインメントから、あの時代の怖さを抽出させたことで、賑々しく華やかで楽しめたものが好きだったお客様は、お笑いの要素がなくなったことを残念に思うでしょうし、再演の方が時代に即していていいというお客様と、賛否両論かもしれませんね。
ーー吉野さんはいかがですか?
吉野:同感です。
石川:おい!
(一同笑)
吉野:レディ・ベスを追い込んでいかなければいけないので、そう思って今はやっていますね。
ーーその追い込み方は前回と比べて違いますか?
吉野:シンプルに悪者になった方が今回はいいんじゃないかと思います。
石川:自分の役を大事にしますから、一番面倒なのは、初演のときの息吹みたいなものが体に残っていることなんですよね。それを違う方向の切り口の断面を見せるように変えてほしいと言われたときに、僕は初演ではキャラクターに女性的な部分が強かったので、喋り方も、所作も変えなければいけない。初演のときに身についてしまったものを、もう一度リセットし直すのに結構時間がかかったと思います。特に、ベスに対しての敵側である、メアリー、ガーディナー、ルナールの3つの役にキャラクター変更がありました。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「前回はふたりの間での絆みたいなものがあったんですが、今回はそこを排除している感じ」という今回の作品での2人の関係や役作りについて話してくださったインタビュー前半の全文とお2人のソロの写真を掲載しています。24日掲載予定のインタビュー「下」では、『砂の戦士たち』『レ・ミゼラブル』『レベッカ』『ダンス オブ ヴァンパイア』など、これまでお2人が共演された舞台などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■石川:一度体に浸透したものを違うものに変えるという作業が、一番手こずりました
■吉野:前回はふたりの間に絆みたいなものがあったんですが、今回はそこを排除
■石川:小池さんは、どの客席から見ても綺麗に見えることを大変大事にされる
■吉野:僕の癖は何だろうと考えていたんです。でも見つからなかった(笑)
<ミュージカル『レディ・ベス』>
【東京公演】2017年10月8日(日)~11月18日(土) 帝国劇場
【大阪公演】2017年11月28日(火)~12月10日(日)梅田芸術劇場メインホール
<関連リンク>
帝国劇場『レディ・ベス』のページ
http://www.tohostage.com/ladybess/
梅田芸術劇場『レディ・ベス』のページ
http://www.umegei.com/schedule/594/
東宝演劇部Twitter
https://twitter.com/toho_stage?lang=ja
石川禅ホリプロオフィシャルサイト
http://www.horipro.co.jp/ishikawazen/
石川禅&STAFFTwitter
https://twitter.com/zenishikawa
吉野圭吾オフィシャルサイト
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nut/index2.htm
吉野圭吾jujction公式プロフィール
http://www.junction99.com/p_yoshino.html
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■石川:一度体に浸透したものを違うものに変えるという作業が、一番手こずりました
石川:小池さんも初演時に笑わせようとしたわけではなく、もちろん楽しませる要素はあったと思いますが、一番の要素は、聖職者としてしっかりと神に仕える身、一番清らかでいなければいけないヤツが、実は一番汚かったということを見せたかったんですよね。老醜老いさらばえた人間が、加齢臭の息を吐き、聖職者のくせに男に言い寄ろうとし、さらに金まみれ。そういうリアルさを初演は見せたかったのだと思います。一度体に浸透したものを、同じセリフを喋っているけれども、違うものに変えるという作業が、一番手こずりました。でも、一番楽しいところでもありますね。
ーーどういう風に変えていくかという?
石川:こういう風に全く変える作業というのは、意外と醍醐味がありますね。
ーー吉野さんはいかがでしたか?
吉野:僕は……そんなに大変じゃなかったです(笑)。
(一同笑)
石川:そんなことないよ!
吉野:実はあまり変わっていないんですよね。
石川:そうか、スペイン側はそうなのかな。
ーー確かに一番変わられたのは石川さんですよね。その変わられた石川さんと一緒にやっていていかがですか? 相対するものが変わるというのは?
吉野:楽しまないようにやっています(笑)。
石川:楽しまないようにやってるよね。でも、初演でもアドリブはひとつもなかったんですよ。小池さんは我々大人チームの役者に出すダメ出しが、イメージなんですよ。体のこなしや動きはあまりおっしゃらないんです。それよりも、イメージで伝えるんです。こんな感じにしてほしいと。
■吉野:前回はふたりの間に絆みたいなものがあったんですが、今回はそこを排除
ーーどんなイメージの言葉をおっしゃるんですか?
石川:例えば、「ベスを消せ」のときに初演では歌い終わってから「しんどい」と言っていたんです。あれは、薬を飲んで心臓が悪いと言っているのに、あれだけ動きながら決めたらおかしいだろうと。だから「弱った一面を出してくれる?」と言われました。稽古で「しんどい」と言ってみたら「それでいい」と。本番ではその言葉に、思いの外笑いが来てしまいましたが、真意はそこなんです。アドリブっぽく見える芝居も、小池さんがOKを出したものなんですよね。面白かったのが、大阪に行ったら「ああ、しんど」にしてと言われて。それもアリなんだと驚きました。イギリスの物語ですし、ご当地ネタはタブーじゃないかと思っていましたが、そのときに小池さんは大衆性を出したいと思っているんだと。初演はお客様に楽しんで頂ける作品に近づけていた。でも、役者の自由なアドリブはなかったんですよ。僕達で膨らませてしまったところはあるけれどね。
ーーそれは呼吸的なところで少し楽しむというところですね。
石川:そうですね。
ーーそれを今回は抑えている?
吉野:前回はふたりの間での絆みたいなものがあったんですが、今回はそこを排除している感じですね。
石川:腹の探り合いで、結局はイギリスとスペインですから、いつ敵になるかわからないという関係での目線のやりとりですね。
ーーガーディナーが死ぬときに、ルナールが切り捨てているような、あの感じが常にある?
石川:そうです。お互いにメスとメスで探り合っている感覚ですね。
ーーあくまで今回は利害が一致しているだけなんですね。初演はそこに絆があった。
石川:絆というより、ガーディナーはルナールにホの字でしたからね!
吉野:それを利用してやろうというのがありましたが、今回は考え方を変えていますね。
石川:「本音でいい ふたりっきりだ」という歌詞の、この「ふたりっきり」という言葉に、初演ではそこまでやるんだというぐらいの芝居を入れていましたが、それが体に染み込んでしまっているから、そこを歌うと必然的に「僕達ふたりきりだよ」というニュアンスを、どうしても醸し出してしまい、稽古では苦労しましたね。根本的にこの人物はどういう人格にすればいいかという核がきっちりと見えて来たから、今は大丈夫です。
ーーなるほど。
■石川:小池さんは、どの客席から見ても綺麗に見えることを大変大事にされる
石川:小池さんの演出のとても特徴的なところは、やはり宝塚で演出をされている先生ですから、どの客席から見ても綺麗に見えるという絵面を大変大事にされるので、最初にリクエストするのは「絵」なんです。どう見えているかというところに対して、大変厳しいですね。そのために動きからつけていって、最終的にそこに感情を乗せていく作業が待っているんですが、そのプロセスはストレートプレイの演出をされる方と真逆の作業ですね。最初に気持ちありきで動かせておいて、最終的にこう動いてもらった方がいいと言われるのに対して、小池さんの場合はしっかりと頭の中に絵があるので、形からはじまって芝居に持っていくんですね。その全てが自分の中で、すとんと落ちると、どこからでも来いという状態になるんです。そういう動きを見せたいのならば、自分の役どころはこういう人間だから、こういう気持ちで動けるなと。
ーー吉野さんはいかがですか?
吉野:すっかり聞き入ってしまいました。なるほどなと思って。
(一同笑)
石川:「俺も同じだな」という感じですか?
吉野:(笑)。
ーー今のお話を受けていかがですか?
吉野:そう思います!
(一同笑)
吉野:僕は今回抑えてるんですよ。出しゃばらないというのをテーマにしているんです。衣裳が目立ってますが(笑)。あまりセリフもないので、存在だけでどういう人なのかを感じてもらうというのが挑戦ですね。
石川:我々の年齢になってくると、そういう芝居はとても大事になってくるんですよね。
吉野:僕は黙って見ている役割だと思うので、言葉の中で何をこの人は感じ取っているのかを、お客様に感じてもらえるようにというお芝居を心がけています。ルナールはガーディナーを利用する立場なので、大事なところだけ加わって後はお任せしてという、今のこのインタビューのようなことが舞台上で行われているんです(笑)。
(一同笑)
■吉野:僕の癖は何だろうと考えていたんです。でも見つからなかった(笑)
石川:そうだよね(笑)。小池さんがおっしゃっていたのは、ルナールの役まわりが「私は言ってない。あなた(ガーディナー)が勝手にやったんでしょ?」というところに持って行きたいと。だから、ヒントは振るけれども最終的に決断を下すのはガーディナーやメアリーで、どうにでも逃げられるという本当に悪いヤツです。
ーーそこはスペインのためですもんね。
吉野:そうなんです。
石川:そういうスタンスなので、言葉少なめになりますし、黙って見ていながら目線ひとつ、指先ひとつ動かしただけで、彼の意思が見えるような芝居をやっているんですよね。
吉野:すごくシンプルにと思っています。
石川:小池さんのダメ出しを伺っていると、初演よりリアリストになった気がしますね。リアルに気持ちでやってほしいとおっしゃいます。
吉野:そうですよね。変わられましたね。
ーーそれはやりやすいですか?
石川:それでも形で見せたいというのはあって、さらに気持ちをということなので、より大変なんです。そこが小池さんの演出ならではですね。でもそれは、すごく大事なことです。というのは、2000人の劇場で見ると、細かいセリフのニュアンスは伝わりませんから、一番見えるのは体のラインなどですよね。例えば全く動かなかったのに、右手がすっと挙がればとてもそこが象徴されるけれど、ずっと動いている中で右手が挙がっても意味がない。小池さんはそれを常に指摘します。例えば動きの癖、それを取れと言われるのは、実は劇場内で役を演じるときにはとても大事なことなんですね。気持ちが大事な演出家はそこまでは言わないですね。動きが大事で、なおかつ気持ちを入れる、それが小池修一郎という演出家なんです。
ーー今回はより難しくなってきているんですね。
石川:ありがたいお話です。為になるお話です。
ーー吉野さんは今のお話についてはいかがですか?
吉野:そうですね……とても為になるお話です。
(一同爆笑)
吉野:実は、禅さんが癖の話を言われていたときに、僕の癖は何だろうと考えていたんですよ。他の人にも聞いたりして。でも見つからなかったんです(笑)。
(一同笑)
吉野:癖が見つかるほどに動いていないんです。
石川:動いていると思うよ。でも圭吾ちゃんは格好つける役が得意じゃないですか。
ーー立ち姿が美しくて。
石川:ビリヤードの場面なんて、「カッケー!」と思って見てますよ。
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初演のお二人の関係性も楽しく拝見していましたが、再演になって短くなった場面でも、より老獪さと悪辣さが感じられて、物語が締まった感じがします。
別の作品でもお二人の共演を心待ちにしています。
身体に染み込んだものを変えて行く作業は大変。
禅さんがお稽古場で苦労されたことと同じことをまさに今、観劇する度に感じています。
観る側も、細部まで残っている初演時の記憶に縛られている、とでも言いますか‥
再演版に慣れるにはもう少し時間がかかりそうです。
でも、こういうお話を伺う機会が今回はないので、ヒントの一つにはなりました。
スッキリした部分もありますが、総合的にみると初演の方が好きかも。
ロビンとベスの新曲が増えた代わりに初演のデュエット曲がカット!好きなメロディーだったので、その影響もあるかも。
禅さんのファンですが、とても禅さんらしいコメントを引き出した素敵な記事でした。ありがとうございました。この記事を読みたくて会員になりました。今後も禅さんをぜひ取り上げてください。
ルナール(吉野圭吾さん)とガーディナー(石川禅さん)の演出変更にとても興味があり、この記事が読みたくて会員登録しました。
初演の演出に少し未練があり残念でもありますが、お二人のコメントから新しいチャレンジをしているのかなとも感じ、今回の演出も楽しんで観劇したいと思います。
まだまだ公演が続きますので、お二人とも体に気を付けて頑張ってください。
前回のお二人のシーンがとても好きだったので、再演でその部分が削られてとても残念に思っている観客の一人です。
でも、今回の演出、流れを考えると、とてもシンプルにわかりやすい関係をみせてもらったなと感心しています。
後半のインタビューも楽しみです。