ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』が、2017年10月15日から11月4日まで、大阪の梅田芸術劇場メインホールで上演されています(東京公演は終了しています)。実は、私は観劇前は「この作品は子ども向けのミュージカルなのかな」と思っていましたが、それはとんでもない間違いでした。もちろん子どもも楽しめる内容ではありますが、大人にもズドンと響く、スピーディーかつ重厚な作品です。私はミュージカルを中心に、これまで数々の舞台を観てきましたが、こんなすごいミュージカルは、観たことがありません。高いレベルの音楽と歌と芝居とダンスが、絶妙な演出で一体になった、まさに総合芸術。涙も鼻水もダダ漏れになりながら、見入ってしまいました。
何が素晴らしかったのか言い出すとキリがありませんが、私としては、なんといっても1幕最後の「Angry Dance(怒りのダンス)」でした。その迫力は、まさに絶句。
バレエに理解を示さない父(私が観た回は益岡徹さん)に隠れて、バレエの先生(同、島田歌穂さん)の指導を受けていたビリー(同、加藤航世君)。ロイヤル・バレエ・スクールのオーディション当日にバレエを続けていることが父や兄(同、中河内雅貴さん)にばれてしまい、炭鉱労働者と警察の衝突が激しくなったことも重なって、試験を受けられなくなります。ビリーは、父に向って「母ちゃんなら行かせてくれた」と叫びますが、父は「母ちゃんは死んだ!」と怒鳴って立ち去ります。ここで、私の涙腺が崩壊しかけます。
ビリーは、階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込んで行き、怒りのタップダンスを踏み始めます。このダンスが、たまらくカッコイイんです。私が観た回にビリーを演じた加藤航世君は、バレエ歴9年とは聞いていましたが、タップがここまですごいとは思いもしませんでした。
そして舞台はまたたくまに警官隊と衝突する労働者たちの場面にスライドしてゆき、気が付くと、警官隊とビリーが対峙するイメージのシーンになります。この時の警官隊の迫力が、とんでもない。ヘルメット姿の警官隊が舞台の横幅いっぱいに広がり、手に持った半透明の盾を並べて大きな壁を作り、盾をガンガン叩きながら一斉に床にドン、ドンと当てます。盾が作る大きな音と、ビリーの怒りのタップの打撃音、そしてギターの激しいビートが交差します。
舞台を観ている自分自身が、舞台上に引きずり上げられて、グルグル引き回されているような「巻き込まれ感」。映像では感じられない、生でしか味わえない舞台の魅力を、あらためて認識させられた瞬間でした。
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■オールダー・ビリーの優雅な舞と、舞台の上空を縦横無尽にフライングする子どもビリー
■ストライキ中でお金がない父。ビリーのためにスト破りをして「裏切り者」と呼ばれ…
■ハッピーエンドばかりではなく、暗く厳しい現実世界もしっかり描き、それでも、と
■ミュージカルではあまり見かけない、父親と男の子の組み合わせの観客もあちこちに
<ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』>
【東京公演】2017年7月19日(水)~10月1日(日) TBS赤坂ACTシアター(この公演は終了しています)
【大阪公演】2017年10月15日(日)~11月4日(土) 梅田芸術劇場 メインホール
<関連サイト>
公式ページ
http://billyjapan.com/
梅田芸術劇場のページ
http://www.umegei.com/schedule/545/
<おもなキャスト>
ビリー:加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、未来和樹、山城力
お父さん:吉田鋼太郎、益岡徹
ウィルキンソン先生:柚希礼音、島田歌穂
お婆ちゃん:久野綾希子、根岸季衣
トニー:藤岡正明、中河内雅貴
ジョージ:小林正寛
オールダー・ビリー:栗山 廉(Kバレエ カンパニー)、大貫勇輔
(筆者が観劇した回のおもな複数キャストは、ビリー:加藤航世、お父さん:益岡徹、ウィルキンソン先生:島田歌穂、お婆ちゃん:根岸季衣、トニー:中河内雅貴、オールダー・ビリー:大貫勇輔、マイケル:城野立樹のみなさんでした)
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■オールダー・ビリーの優雅な舞と、舞台の上空を縦横無尽にフライングする子どもビリー
そして、次に度肝を抜かれたのが、2幕中盤の「Swan Lake Pas de Deux(白鳥の湖 パ・ド・ドゥ)」。ビリーが成長して立派なプリンシパルとなった「オールダー・ビリー」(私が観た回は大貫勇輔さん)と子どものビリーが、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を2人で踊るイメージのシーンですが、その美しさといったら……。ビリーとオールダー・ビリーが、床の上に斜めに立てた椅子をクルクルと片手で回しながら、バレエのステップを踊り続けるアクロバティックなシーンから始まり、2人が一緒に踊る「パ・ド・ドゥ」がどんどん進んでいきます。
大人と子供がきっちりしたクラシックスタイルのバレエを、まったく同じ振り付けで並んで踊るというのもユニークですが、もちろんジャンプの高さなどは「オールダー・ビリー」の方がはるかに高いのは当然です。しかし、ある時から、子どものビリーは、オールダー・ビリーよりもはるかに高く舞い上がっていきます。そうです。ピーターパンの舞台などでおなじみの「フライング」が、「白鳥の湖」の中に取り込まれているのです。オールダー・ビリーの優雅な舞と地上でクロスしつつ、舞台の上空を縦横無尽に舞い続ける子どもビリー。その優雅で幻想的な光景に、思わず目を見張りました。
■ストライキ中でお金がない父。ビリーのためにスト破りをして「裏切り者」と呼ばれ…
そして、涙がダダ漏れになる最大の泣きどころがやってきます。ビリーの思いを理解するようになった父は、ビリーにバレエ学校の試験を受けさせたいと思うようになりますが、ストライキ中で、試験に行くバス代やホテル代さえ足りない状態です。父は悩んだ末、スト破りをして働きはじめます。労働者仲間から「裏切り者」とののしられる父。最初は怒っていた労働者仲間たちですが、ビリーに試験を受けさせるために金がいると訴える父の思いは、良くわかります。しかし、スト破りを許すわけにはいかない。
労働者の1人が、ビリーが持っていた入れものに小銭を入れます。1人、また1人と小銭を入れる人が増え、ビリーより小さな子供までもがポケットを探し回って、小銭を入れます。ああ、もうこのあたりで、涙やら鼻水やらがダダ漏れになりました。それでもストライキ中の労働者の小銭だけでは足りない。そして、スト破りをしている「裏切り者」の1人がやってきて、財布から「お札」を取り出して入れます。「お前の金が受け取れるか」と突き返すビリーの兄。しかし、ビリーはお札をあわてて拾って「これだけあればロンドンに行ける」と。父やストライキ中の労働者たちは、「裏切り者」のお金を受け取ることを認めるのか、それとも……。
■ハッピーエンドばかりではなく、暗く厳しい現実世界もしっかり描き、それでも、と
物語は、ハッピーエンドばかりではありません。炭鉱労働者の悲しい未来も、しっかりと描かれていました。労働者の多くは解雇され、やがて炭鉱の町そのものが消えてゆく運命にあることが示されます。ビリーがバレエダンサーになって町に戻ってきた時、バレエ学校に行くことを応援してくれた労働者たちは、この町には残っていないことでしょう。最終盤で、労働者がエレベーターで地下の炭鉱に下りて行くシーン、無数のヘルメットのライトが劇場内を照らし出しながら地下に消えていくのは、美しくも切ない演出でした。現実の世界には、暗く厳しくつらいこともたくさんある、それでも……というのが、この作品のテーマだと思います。
■ミュージカルではあまり見かけない、父親と男の子の組み合わせの観客もあちこちに
客席には、普段のミュージカル公演ではあまり見かけない、父親と思われる男性と男の子の組み合わせの観客もあちこちで見かけました。この舞台は、これからも世界各地で、そして日本で、再演が続けられていくのは間違いないと思います。そして、この舞台が、世界中の人に感動と勇気を与え、人々が支え合って生きて行くための大きな力になることも、間違いないと思います。ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』のすべての関係者のみなさまに、お礼申し上げます。素晴らしい舞台を作ってくださり、ありがとうございました。
東京公演を観ました。本当に素晴らしい舞台で、両手を膝の上で握りしめながら観ました。何箇所も涙が出てきてハンカチ必須でした。今のビリーたちは今しか観られない!大阪にも行きたいくらいです!