「尾上右近くんが僕にどんなお芝居をしてくるか、楽しみ」、篠井英介(下)

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

7月6日に開幕し、東京と大阪で上演される『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル ~スプーン一杯の水、それは一歩踏み出すための人生のレシピ~』は、歌舞伎界の新鋭、尾上右近さんが翻訳現代劇に初挑戦する注目の作品。右近さん演じる主人公エリオットの母親役、オデッサを演じる篠井英介さんにお話をうかがったインタビューの後半です。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

――息子であるエリオット役の尾上右近さんについて、どんな印象をお感じになりましたか?

この間、彼の持っているラジオにゲストで出させていただいたので、そのとき割とガッツリ1時間半位はおしゃべりしたんです。歌舞伎の人のすごいのは、365日の内の300日ぐらいは舞台に毎日上がって、白粉塗って演ってらっしゃるっていう凄さがある。お若かろうが何だろうが、やっぱりプロフェッショナルですよね。本当にキチっとした方なんです。お話のなかで、右近さんが「女形(おんながた)さんの篠井さんが来てくださって、ちょっと助かってます。ホッとしてます」っておっしゃってくださったんです。

歌舞伎ではないから、やっと女優さんと一緒に演れるのに、って実は思ってらっしゃるかもって思ってたら(笑)、「いや、有り難いです。ちょっと嬉しいです。慣れてる女形さんっていう存在が居てくださって」って言ってくださるから、「そ…そうなんだ…!」って、ちょっと思ってるんですけど。まぁ、そうおっしゃってくださるのは、僕も嬉しいので。歌舞伎の女形と、こういう現代劇の女形は大分違いますけど、でもハートは一緒なので、「じゃあ、頑張りましょうね!」っていう感じなんですけど(笑)。

――そうだったんですね!

僕、陰山泰さん以外は、皆さん初共演ですね。鈴木壮麻さん、葛山信吾さんはお芝居を観たことありますし、右近くんは歌舞伎でもちろん観ていますけど、南沢奈央さん、村川絵梨さんのお2人はお芝居を拝見したことないので楽しみですね。ここのところ人数の少ないお芝居が続いていて、G2さんとやっている「三軒茶屋婦人会」っていうのは、もう“オッサン3人が女の役を演る”っていう企画だし、これだけ見目お若く麗しい女性も入って、おじさんも居てっていうのは、ちょっとバラエティに飛んだキャスティングなので、それはフレッシュで新鮮だなーと思ってるんです。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「華がある」という尾上右近さんについてや、今の日本でこの作品を上演する意味などについて語ってくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■右近くんの態度に「あ、なるほどね!」って、わかる可能性が高いんです

■オデッサは、いわゆる女形としての技術とか、そういうものが通用しない役

■「この舞台にいる人たちと私は一緒」っていう捉え方が拠り所。今観ておくべき芝居

<『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル ~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』>
【東京公演】2018年7月6日(金)~ 7月22日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【大阪公演】2018年8月4日(土) サンケイホールブリーゼ
公式サイト
http://www.parco-play.com/web/play/wbts/

<関連リンク>
PARCO STAGE Twitter
https://twitter.com/parcostage
Me&Her コーポレーション篠井英介
http://www.me-her.co.jp/profile/sasai_eisuke/

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篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

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篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■右近くんの態度に「あ、なるほどね!」って、わかる可能性が高いんです

――篠井さんが演じるオデッサは、右近さん演じるエリオットの母親ですが、重荷を背負った人物という感じで…。

自分の薬物中毒のせいで、我が娘を死なせてしまったという重荷を背負ってるんだけど、その重荷もオデッサは一体どのくらい感じてるかっていうのは、よくわかりませんね。ホントにわからない。

――過去の負い目を置いても、子供への愛情はありそうに感じるのに、傷ついている息子へのケアはやっているようにはみえない。その一方で、チャットルームに集う多くの人々を救っている。この彼女の二面性というか…。

ちぐはぐですよね。他人に親切、身内に不親切な。息子もちょっと可愛がれよって感じ。だから、なんとなく想像するのは、やっぱりオデッサの一番どん底の姿を知っているのはエリオットなんですよね。だから疎ましいっていうのは正直言ってあると思うのと、「可愛さ余って」じゃないけれど、愛しいし大事だからこそ、なんかこう、上手く表現できない愛情表現っていうか。だからみんな屈折してるわけですよね。そういうお薬に逃げちゃうってことは、ま、弱虫なんですよ、みんなね(笑)。基本的にね。

だから、その弱いところと、なんかものすごく意固地なところの両面があって、だから、右近くんがオデッサに対して、僕に対してどんなお芝居をしてくるかが実は楽しみで、その右近くんのエリオットがこんな態度に、実の母親に接してくるから、「あ、なるほどね!こういう人なんだ」って、わかる可能性が高いんですね、オデッサは。

――たしかに。

従兄姉のヤズミンにとってはオデッサは叔母ちゃんですよね、叔母ちゃんに対してどんな風に接するか、っていうようなことで、自分が見えてくる。やっぱり人が自分を写す鏡になるんじゃないかなって思いますけどね。

――ひょっとしたら一番人の機微を感じられる部分なのかもしれないですね。ところで、作品の中で地理的なところでは、日本も出てきたりして、広範囲に場所が動くんですけど、舞台装置的には、かなり素舞台に近い状態になりそうですか?

全くないんじゃないんじゃないでしょうか。多分そうじゃないと、逆に出来ない、うん。イメージがついちゃうから。

――そうですね。なのであまり観客に対して、わかりやすい「点」を提供する芝居ではなくて、観た私たちが考える芝居になるのかなと。

「感じる」といった方が良いかな。そうね、だからG2さんにしても、割とチャレンジャーなことだろうと思うし、パルコさんにしても、ある種シリアスな内容だし、社会的な感じもあるじゃないですか。この作品を取り上げることも、なかなか勇気が要るだろうと思いながら(笑)、「へーっ! 」って。ある種、エンターテイメントとはちょっと遠い感じはあるので。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■オデッサは、いわゆる女形としての技術とか、そういうものが通用しない役

――でも、エンターテイメントで?

右近くんってやっぱり、「華」があるので、彼が出てくることに価値があるっていうのかな。そういう俳優ってやっぱり居て、それはもう理屈じゃないんですよね。昔で言う「華がある役者」という言い方しましたよね。右近くんってそういうものを持っている人なので。

まぁ、これだけの顔ぶれがそろって演れば、それなりにはなるような気もするんですけど(笑)。それにしても僕の女形は、この中ではチャレンジャーだなぁとは思いますけど。僕自身、あんまり自信がないって言い方も変だけど、特にこの役に関してはお手上げな感じなんですよね、正直言って。いわゆる女形としての技術とか、そういうものが通用しないもののひとつなんですね。これって。

――女形の技術が通用しない。

なんかね、役のイメージを持っちゃいけないタイプの役なんですね。それって女形にはものすごい過酷なことなんですね。これがまぁ、現代劇とはいえ、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』のブランチ・デュボアっていう役を、僕は大好きで何回も演ってますけど、あれなんかもう歴然と「あ、こんな感じだろうなー」って、演る前に思える。「こんな感じで、こう始まって、こう演ってって」って、ある種構築する、構成みたいなものを自分で描けるんですけど、このオデッサとかこの戯曲に関しては、僕に限らず皆さんそうだと思うんですけど、なんか、そんなもの創っちゃ駄目っていう感じ、やっぱり。

――もう、リアルに人と人がぶつかって出来るものだけでやらないと?

そう。その、チャットで会話している訳だから、それが本心かどうかも実はわかんない訳ですよ。

――そうですね。

僕ら文章を書いたり、電話でしゃべるときに、「もしもし、こんにちは」って言ってるときの本心って、実は意外と違うじゃないですか。まして、この文章を打つときは、まったくの本心かどうかわからないし。…難しいところですよね、本当に。

――チャットなどで会話して、相手の話に本当は乗り気になれないけれども渋々「そうだね」と返す場合、実際の会話では、その感情が声の高さや雰囲気に滲みでたりしますけど、文章で「そうだね♪」と返すと全然ニュアンスが変わってしまったりしますね(笑)。

違いますよね。だからみんな何か心の底を偽ったり、押し隠したり、また吐露したいんだけどうまくできない、とか。甘えて何でも打ち明けたいんだけど、なかなか出来なかったりとかっていう、そういうせめぎ合いがあるので、自分の演じる役の人物像を、本当に創っていけないタイプのお芝居だから、僕も結構引き受けるときには勇気が要りましたね(笑)。

たいがい僕、お話をいただくと、女形の時には着てる衣装とか、出てくるときの立ち方とか、歩き方とか、割と浮かべてお稽古に行くんですね。「この人だったら絶対シルクのブラウスだな」とか「こんな薄い色かな」とか、それが実際そうならなくても、そういうのを拠り所にして、まずはお稽古に入っていくんですけど、この作品に関しては、もう何にもないんですね、お手上げな感じです。でも、その分楽しみなんですけどね。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■「この舞台にいる人たちと私は一緒」っていう捉え方が拠り所。今観ておくべき芝居

――最後にお客様へメッセージをお願いします。

まずはこの作品は、薬物中毒の患者たちの話で遠い世界ですから(笑)。だから、お客様に感じて欲しいことは、僕らが最初に戯曲読んだ時みたいに、「へーーーっ! 」っていう気持ちですよね(笑)。その、「へーっ」っていうところから始まる訳だから(笑)。

みなさんの中に何かが芽生えたり、あとこう、共感出来ないとやっぱり演劇としては面白くないので。強いて言えば、現代人が持っている平和で豊かな日本だけど、みんなが持っている孤独感とか、社会とのつながりの希薄な感じとか、家族の関係みたいなものは、結構いま、みんなつらい時期ですよね。戦後の20年ぐらいはみんな生きるのにいっぱいいっぱいだっただろうけど、それ以降の40何年は豊かなだけに、みんな寂しかったんじゃないかっていう気がする。それはご家族が居ようが、何かこう孤独っていうか、そういうものをみんな背負ってる様な気がするんですね、現代日本人って。それがエスカレートすると、依存症になっちゃう、みたいな。だから、アメリカとかは、日本の10年15年先をいってそうじゃないですか、いろんなことが。

――よく例えられますね。

実際そうだろうなとちょっと思ってて。だから日本のある意味先の、将来の姿のような気もするんですね。「身近な人が、知らないうちに寂しさとか孤独とか、そういうものを紛らわすために、薬に走っちゃった」っていう人が、10年後には、身近に出てくるかもしれない訳ですよ。豊かなだけに、薬も容易に手に入っちゃうし。

――そうですね。

だから、変な言い方ですけど「明日は我が身」だし、いまある自分のちょっとした寂しさとか、空虚な感じとか、そういうものは、「この舞台にいる人たちと私は一緒」っていう、そういう風な捉え方が僕はすごい拠り所になるんじゃないかなと思います。だから、お話的にはちょっとつらいけど、“観ておかなければいけないお芝居”。ま、ちょっとPRな感じだけど(笑)。今観ておくべき芝居っていうことは言えるような気がしますね。

――お話ありがとうございました。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

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