「稽古場で感じて創る」、『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』篠井英介(上)

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

2012年のピューリッツァー賞戯曲部門賞受賞作品、キアラ・アレグリア・ヒュディス作『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル ~スプーン一杯の水、それは一歩踏み出すための人生のレシピ~』が、2018年7月6日(金)~22日(日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演されます(大阪公演あり)。歌舞伎界の新鋭、尾上右近さんが翻訳現代劇に初挑戦する注目の作品です。その右近さん演じる主人公エリオットの母親役、オデッサを演じる篠井英介さんに、作品についてお話をうかがいました。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

――翻訳・演出のG2さんとは、これまでにいろいろな作品でご一緒されていらっしゃいますが、今回はG2さんから直接お話があったのでしょうか?

この作品はパルコさんからのお話でした。もちろん、G2さんが「よし」と思ってくださり、G2さんが翻訳と演出をなさるということも、やっぱりお受けするにあたってはとても大きかったです。

――主人公エリオットの実母、オデッサを演じられます。いま現在で彼女をどのような人物と感じていらっしゃいますか?

彼女はかつてジャンキーで、おさない娘を亡くしている暗い過去がありますし…。子供のお父さんの姿が出てこないので、母子家庭で子供2人を育てながら、仕事もしていて大変だった。そんな中、そういうお薬にちょっと走ったようなところがあったりするのかなぁと思いますね。台本には書かれていないので、これは想像ですよ(笑)。

でも、基本的にサイトを運営したりしているので、世話好きなところももちろんあり、本来、人も良いんじゃないかなと思います。逞しさと弱さを両方兼ね備えている感じかな。強いところと、とっても弱い部分とを、…やっぱり皆さんそうなんですけど、すごく両方持ってるからこそ、こんな状態になっちゃってるっていう感じはありますね。

――台本を読ませていただきましたが、それぞれの登場人物のバックボーンについては、あまり語られていないように感じました。篠井さんは、役作りはどのようにされているのでしょうか。

人によっては「この人はこういう家族構成で、こんな生い立ちがあって」って、考える人もいらっしゃると思うんですけど、いつもいろんな役をやらせていただくときに、僕は台本に書かれているものがすべてで、演者としては、そこに肉体が、存在があるので、背景はお客様が想像すればいいと思ってるんです。僕はそれを口で説明しませんからね。「実はここに到るまでにこんなことがあって」なんて、台本にももちろんないので、「この人どういう人で、どんな前後があって」っていうのは、それをお客様が探していく、っていうのかな、感じていったり、見つけていくのがお芝居の楽しさだと思います。

自分が役の背景を想像して決めても、演じる上での寄る辺というか、ひとつの指針としてはあっても良いと思うんです。それを伝えるのが目的ではないので。出てくる人たちの人間関係とか、関わり方とかドラマ、そこで生まれるドラマをお客様にお見せするのです。だからあんまりね、考えないようにしているんです。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、現代劇のリアリズムの楽しさや大事なこと、「母性溢れる主人公の母親」とされるオデッサ役について、演出のG2さんなどについて語ってくださった内容を掲載しています。6月19日掲載予定のインタビュー「下」では、「華がある」という尾上右近さんについてや、今の日本でこの作品を上演する意味などについて語ってくださったインタビューの後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■人って周りから見られたり、どう接してくださるかっていうことで自分が生まれてくる

■生きづらさとか、ささやかな希望とかが、ちゃんとお客様に見えたり感じたり出来れば

■お芝居って、自分で決めちゃっても思い通りになんか行かない。人間相手、人間関係だから

■お芝居をしながら育っていく、変わっていく系のお芝居。今回はそれで良いと思います

<『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル ~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』>
【東京公演】2018年7月6日(金)~ 7月22日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【大阪公演】2018年8月4日(土) サンケイホールブリーゼ
公式サイト
http://www.parco-play.com/web/play/wbts/

<関連リンク>
PARCO STAGE Twitter
https://twitter.com/parcostage
Me&Her コーポレーション篠井英介
http://www.me-her.co.jp/profile/sasai_eisuke/

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篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

※ここから有料会員限定部分です。

■人って周りから見られたり、どう接してくださるかっていうことで自分が生まれてくる

――それは、この作品に限ったことではなく、とにかく台本で与えられた情報だけで。

そうです。あと、共演する方とこれからお稽古していく中で、「あ、こんな風な自分が見えた」とか、「相手がこんな風に自分を見てくださっている」とか、そういうやり取りをしていくうちに、僕の演じるオデッサの人間像が浮き彫りになってきて、それを観たお客様は「あぁ、きっとこの人は過去にこんなことがあったんだろうな」とか、このあと登場人物たちがどうするのかさえも、それは観てる人が考えたり感じるのがお芝居の楽しさなので。特にこういう現代劇はね。ギリシャ悲劇とか、もっとくだってシェイクスピアとかになると、「なになにで、自分は今、こんな気持ちで~」なんてみんな吐露しますけど(笑)。

――たしかに(笑)。

はい。あれ笑えますよね、少しね(笑)。

――現代の感覚ではそうですね。

内緒話なのに絶対聞こえてる、とかね(笑)、歌舞伎もそうですけど。例えば「自分はこうありたい」と決めても、共演の方たちがどういう風に接してくれるかで変わってくると思うんです。お芝居観るって、まさにそういうことなんだと思います。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■生きづらさとか、ささやかな希望とかが、ちゃんとお客様に見えたり感じたり出来れば

――物語では、「ドラッグ中毒」という要素が大きいですね。

日本では密かに深く蔓延している部分はあるのかもしれないんですけど、一般に生活している分には出てこないし、知り合いもいないし、せいぜい居てもアル中気味?(笑)みたいな人が居たりするぐらい。それもめったに出会うこともないから、実は実感はみんな無いと思うんです。わからないと思うんですよね。

――みんなわからない。

お客様も含めて。我々にとって、そんなに身近なことではない。なので、そこはとっても難しいところだと思うんですね。共感とか、理解とかをしにくい。ベースがもう既に(笑)。

――そうですね。そこをどう表現されるのか…。

それはもう、演出家の領分(笑)。

――(笑)。

ただ、僕は実は煙草吸いで、今はもう電子煙草的なものにしてるんですけど、依存とか、やめたいけどやめられない、っていうことに関しては、いくらかわからなくはないので、ちょっと煙草に置き換えてはいるんです。煙草も最近は大変喫煙が厳しくなっているので、僕たち喫煙者は罪悪感も幾らか伴うんですね。でも、この薬物中毒の人たちはもっとそういう意味では罪悪感も伴うだろうし、それからお金ももっとかかるんじゃないですか? お薬買うのに。

――そうですね。

ですから、そういう意味で依存はしちゃってるし、中毒なんだけど、すごくやめたいと思ってるっていう、そこがポイントですよね。各人が持っている心の葛藤? そこさえ理解してもらえる、っていうか、共感を呼べれば、別に薬物中毒はこういう症状です、っていう症例を出している訳ではないし、病状を説明するお芝居ではないから、その辛さとか、そのそういうものが書かれてはいないんだけど、各人に辛さとか、生きづらさとか、孤独とか、ささやかな希望とか、そういうものがちゃんとお客様に見えたり、感じたり出来れば、このお芝居は、結構良い線行くんじゃないかなと思います。でも、大きくはやっぱりね、演出家の領分になりますね、うん。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■お芝居って、自分で決めちゃっても思い通りになんか行かない。人間相手、人間関係だから

――公式サイトでは、オデッサ役について「母性溢れる主人公の母親」と紹介されていますね。

いや、これもね、逆にあんまり考えすぎないようにしているんですね。例えば右近くんが息子としてどういう風にお芝居で立ち現れてくるかって、それを観ないとわからない。僕が今、息子のことは本当はすごく愛している女の人なんだろうなと思っていても、仮に右近くんがどういうお芝居をするかで、すごくどこかで憎らしい存在になったり、人生におけるとっても重荷になったりするって可能性もあるわけで。だから、決め込まない方が、僕は良いと思っているんです。

やっぱりお芝居って、いま自分で決めちゃっても思い通りになんか行かないですね。人間相手だし、人間関係だから。なので今やるべきことは、台詞をとりあえず憶えるだけ(笑)。あとはもうお稽古場で実際に共演者がしゃべったり、つば飛ばしたり、顔を見たり、触ったりして、そこで感じていくことで創っていく。特にこういう現代劇のリアリズムのものは、それがすべてなんですね。

大きな歴史的な、クラシカルなもの、例えばさっきのシェイクスピアじゃないですけど、自分でこういう風に演じようとか、こういう風にこんな人間で在ろうとして頑張ろうという作品のものは、多少、役柄の骨組みみたいなものを創っておいて良いと思うんです。でも、こういうものすごいリアリズムのものは、そこに自分が、まず「居る」だけ。あとは、共演者の方の反応をみて、自分を肉付けして貰うの。周りに、共演の人に。そうじゃないと、本当に駄目だと思います。「私はこういう人物を演ってます!」ってやると、絶対面白くならないと思うんですね、ちぐはぐで。

――私たちの日常と全く同じで、予測されるコミュニケーションではなくて、例えばどこかへ出掛けて、そこで初めて出会った人との交流が始まって、という風に…。

なるべくニュートラルにいった方が良いと思いますね。

――ニュートラルな状態で会話、実際には台詞ではあるんですけど、実際に言葉を交わし、感情を交わし、そこで生まれるもので。

そう、自分の人物像が形作られると思います。例えば出会ったときの挨拶を、にこやかに笑って「こんにちは、はじめまして」って言ってくださると、こちらも気持ちがほぐれて、2人の人間関係がそこで初めて生まれるけど、すごくシリアスな顔して挨拶されたら、こちらもまた違う風になっていくし、そこで違う篠井英介が、またちょっと生まれるかもしれないので、それがお芝居。こういうリアリズムの時はすごく大事な気がするんです。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

■お芝居をしながら育っていく、変わっていく系のお芝居。今回はそれで良いと思います

――ニュートラルなところで入っていって、お稽古での共演者との実際の関わりによって、そこで初めてオデッサを創り上げるんですね。

そうですね。だからひょっとしたらこういう手のお芝居は、お芝居をしながら育っていくっていうか、変わっていく系のお芝居ですよね。稽古場ではこうだった、でも実際にお客様の前で演ったら、すごくやっぱり気持ちが高揚したり、思わぬことに反応が出たりして、初日観た方と、中日観た方と、千穐楽観た方で、役柄が少し違って見える、人物として少し違って見える可能性もある。そういうものじゃないかと思います、今回の作品は。それで良いと思います。

――G2さんは本番に入ってからも芝居が変化、成長していくことを是とされる演出家さんなのですね?

だと思いますね。やっぱり演出家さんも人を見ているので。例えば、僕なら少しほったらかしといて、どんな風に稽古場の段階で役が膨らんでいくか、あるいは人間関係がどういう風に構築されていくかを見守る時もあるし、お若い役者さんがそこに入ったりするときには、もうちょっと逐一コミュニケーションをとって「このときどんな気持ちだと思う? 」とか、そういう風に、ある意味演技指導をなさるときもある。だから彼も役者さんを見ながら、状態を見ながらやっているんじゃないかなと思います。笑えるという意味じゃなく、面白く興味深くなっていくんだったら、日々ステージで成長していって、いくらかニュアンスとか、印象が少し変わっていったとしても、構わないと思っていらっしゃると思います。実際は、わかりません(笑)。

――(笑)。普段は「芝居の話や演出について」みたいなお話は、話題にされないんですか?

意外とね、僕らの世代はみんな一匹狼っぽいので。G2さんも、もちろん昔「G2プロデュース」って会社をしてらっしゃって、仲間みたいな方もいらっしゃったんですけど、今はみんな独立して、ひとりの演出家であり、脚本家であり、っていう。僕も一匹狼の役者で、こういう風にパルコ・プロデュースさんのお仕事のときは、いろんな人たちが集まってますから、結構お互いの個性とか、成り立ちとかが違ってるので尊重しあう。なるべくその方その方の在り様を尊重しながら、ひとつのお芝居に向かって良い関係になっていくっていうのが、こういうプロデュースシステムの醍醐味なので。G2さんは、そのことをとてもよくわかっていると思うので、ある意味手練れな、職人気質なところはとってもおありなので、適材適所になさっていくだろうと思うんです。

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

篠井英介さん=撮影・伊藤華織

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“「稽古場で感じて創る」、『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』篠井英介(上)” への 1 件のフィードバック

  1. サンド より:

    このお舞台を数回の観劇予定しています。篠井さんはお顔は存じておりましたが、この度のメディアを通じてのお話を伺い、さすがにベテランの凄い役者さんのイメージが湧いてきて一度にファンになりました。観劇がますます楽しみでワクワクしております!

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