「いつもと違う。生半可なものは届けられない」、大竹しのぶインタビュー(下)

大竹しのぶさん

2021年1月8日(金)に東京のBunkamuraシアターコクーンで開幕する舞台『フェードル』に、フェードル役で出演する大竹しのぶさんの合同インタビュー、後半です(石川・愛知・兵庫・静岡公演あり)。イッポリット役の林遣都さんを初め、新たなキャストも迎えての再演。稽古現場での林さんにアドバイスされるシーンを再現してくださいました。また、今、この状況下で舞台に立ち続けるということについて、大竹さんご自身の、演劇そして観客への想いを伺いました。

大竹しのぶさん
大竹しのぶさん

ーーカンパニーの雰囲気はいかがですか?

栗山さんのお稽古って、最初進み方がすごく早いんです。ダダダダー!っと行っちゃう感じで。今回、さおりちゃん(瀬戸さおりさん:アリシー役)と遣都くん達は、とても大変だったと思います。特に、『フェードル』はセリフ劇なので、スピードが早い稽古だと、やっぱり「どうしよう」ってなるのがわかるので、緑子ちゃん(キムラ緑子さん:エノーヌ役)も一緒に、「私たちも初演の時はそうだったよ」って励まして。でも、さおりちゃんも遣都くんも「すごく楽しい!」って言ってるんです。

ーー林さんとのシーンでは、アドバイスされるようなこともありますか?

彼は、ずっと台本を見ていますね。休憩時間もずーっと。そして私にも聞きに来てくれます。ここってどうしたらいいと思います?って。だから、ちょっとやってみせると、「おー!なるほど」と言って。そんなやりとりは稽古場で一番楽しい時間です(笑)。

ーー大竹さんが、イッポリットの役を実際にやって見せられるんですか?

そうです! 例えば「解放して差し上げます」っていうセリフがあるんですけど、「解放」っていうひとつの言葉を強く言って立てるのではなくて、「解放」というイメージを持って「解放して差し上げます」と言えば、自然と「解放」っていう言葉が見えてくるんだよ、って。そんなことを言ってたんです。そしたら、「おーっ!」って(笑)。

ーーおおー! 私も今「おー!」ってなりました!

(笑)。彼はいつも「本当に楽しい。できないところがあるから楽しい。やってることが楽しい。見てるのも楽しい。注意されるのも楽しい」って言っていて。「こういう作品、合ってると思う」「こういう作品、好きです!」って(笑)。それは演劇の原点みたいな物を好きっていうことだから、本当にこの人はお芝居が好きなんだなって思って、嬉しくなりますね。キラキラしてますよ。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、言葉のエネルギー、古典劇と近代劇における感情の発露の違い、演劇やお客様への思いなどについては話してくださったインタビューの後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■エネルギーも大事。100万倍の「好きなの!!!!!」じゃないと面白くない

■神さまと対話できるギリシア悲劇は、感情を解放できる。近代劇は、感情が内に入る

■スピーディーなストーリー展開に感情を全部乗せて、常に爆発できる状態に

■生半可なものは絶対に届けられない。劇場に来て良かったと思っていただけないと

<舞台『フェードル』>
【東京公演】2021年1月8日(金)~1月26日(火) Bunkamuraシアターコクーン
【石川公演】2021年1月30日(土)~1月31日(日) 金沢市文化ホール
【愛知公演】2021年2月6日(土)~2月7日(日) 刈谷市総合文化センター
【兵庫公演】2021年2月11日(木・祝)~2月14日(日) 兵庫県立芸術文化センター
【静岡公演】2021年2月20日(土)~2月21日(日) 三島市民文化会館
作:ジャン・ラシーヌ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ、林遣都、瀬戸さおり、谷田歩、酒向芳、西岡未央、岡崎さつき、キムラ緑子
主催・製作:テレビ朝日、産経新聞社、サンライズプロモーション東京
公式サイト:
https://www.phedre.jp/

<関連リンク>
フェードル 公式 Twitter
https://twitter.com/phedrejp
大竹しのぶ オフィシャルサイト
http://www.otake-shinobu.com/
大竹しのぶ Instagram
https://www.instagram.com/shinobu717_official/

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『フェードル』ビジュアル
『フェードル』ビジュアル

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■エネルギーも大事。100万倍の「好きなの!!!!!」じゃないと面白くない

ーー演劇における「言葉」の意味や役割は、どのようなものだと思われますか?

戯曲によって違うとは思いますが、この『フェードル』については、栗山さんがおっしゃっていたことがあります。「暗闇で、声だけでもイメージができるように、言葉を言わなくちゃいけない」と。言葉が大きな力を持っているので、とにかく言葉を大事にするように言われていますね。「セリフだけでイメージできるような言い方をしなさい」と、さおりちゃんや遣都くんにもアドバイスされていました。

『フェードル』では、エネルギーも大事なんです。例えば「好きなの!」というセリフも、「好きなの」って、普通に言うんじゃつまんないんです。100万倍の「好きなの!!!!!」(鳥肌が立つようなトーンでした)じゃないと面白くないっていうことですね。愛も憎しみも絶望も、普通じゃないんですよね。ヤバイ人たちが集まっているから(笑)。

ーー100万倍の「好き」とか、「憎らしい」とかですね。

「思っただけで死にそう!」(ものすごいトーンです)みたいな感じです(笑)。こういう感情を素直に表すって、すごく大事なことだと思いますし、楽しいことでもあるんだろうなと思うんですよね。

■神さまと対話できるギリシア悲劇は、感情を解放できる。近代劇は、感情が内に入る

ーーギリシア悲劇ということについては、いかがですか?

古代劇と近代劇には、感覚の違いがあります。ギリシア悲劇の『エレクトラ』と、それをモチーフにした近代劇の『喪服の似合うエレクトラ』のどちらにも出たことがあって、ストーリーも役の設定も同じなんですが、「神さまがいるかいないか」で大きく変わったんです。

ーーギリシア悲劇には、神さまが登場しますね。

近代劇には「私は、神を信じない」という場面もあります。当然、神さまとの対話シーンもないですよね。でも、ギリシア悲劇にはたくさん出てきます。「神よ、お願い」「神よ、あの人に復讐して」「神よ、あの人を愛しています」など。同じエレクトラの役を演じていても、ギリシア悲劇の『エレクトラ』は神さまと対話できる分、やっててすごく楽しいという感情でした。でも、近代劇ではすごく苦しい。ギリシア悲劇には感情を解放している面白さがありますが、近代劇では感情が内に内に入ってしまうんです。悲しみも絶望も全部、一人で抱えなきゃいけない。

ーー神さまには、感情を解放する役割があるんですね。

ギリシア悲劇のエレクトラの時は(解放していく雰囲気で)「神さまぁー!」って、「神さま、私はこうなのよ!」って言えるんです。近代劇の時には「私は一人で生きてゆきます」みたいになっちゃったんです。神さまを信じて、操られている方が楽だなって。私の変わった捉え方かもしれませんが。『フェードル』でも、神さまと対話するシーンはたくさんあります。いつでも対話できる。文句も言えるし(笑)。「天よ! こう言ったじゃないの!」って。それが面白いです。憎い、殺して、愛してる、死ぬ、全てが直球なんです。

■スピーディーなストーリー展開に感情を全部乗せて、常に爆発できる状態に

ーー古典作品ならではの面白さですね。

それと『フェードル』はストーリー展開がスピーディーなんです。「旦那さんが死んだ! ラッキー! イッポリットに好きって言ってきて! 権力もあの人にあげるわ!」って言ってたら、「旦那さんが生きて帰りました!」ってなるんですよ。「ババババンッ!」って物語が動いて、最後に、じゃあ死にます、ってなる。このスピード感に、感情を全部乗せなきゃいけない。乗り遅れないようにするのは大変ですよ。

ーー物凄いスピード感に、感情を。

常にこの感情の動きを素早く表現しなくてはいけないんです。感情を一個一個作っていくのではなくて、相手に何か言葉を言われたら、その瞬間に「パーン!」って常に爆発できる状態にしなければいけない。

ーー感情を爆発させなければいけないのは、古典作品の特徴でしょうか?

日常では起こりえない会話や出来事が起こり、そこに人間のありとあらゆる感情が交差するのが古典の面白さですね。

■生半可なものは絶対に届けられない。劇場に来て良かったと思っていただけないと

ーー今はどこもコロナで大変ですが、カンパニーの雰囲気はどうでしょうか?

芝居をみんなで一緒に作っているという意識が強いです。こういう状況なので、一緒にご飯を食べたり、残って話をしたりとかができなくて、それはすごく残念です。でも、そういうことはできなくても、稽古場の空気は澄み渡っているというか、美しいと思います。みんな芝居が大好きで、意識が同じ人が集まっているから、ベテランも若手も関係なく、いい物を作りたいっていう思いが一致しているから、空気はきれいです!

ーー先日『女の一生』を終えられたばかりですが、いかがでしたか?

『女の一生』は、客席を半分にして上演したんです。カーテンコールの時に客席が明るくなって、初めて全体が見えた時に「え!」と驚きました。これだけの人数で、こんなにあったかい拍手をしてくださっていたんだ、と。この状況の中で観に来てくださることがすごくありがたいなと思いました。一人でも、お客様がいる限りやるってこういうことなんだって思いました。特に『女の一生』は、戦時中に初演を迎えた作品だったんです。当時、戦時中という中でも、それでも、この芝居を届けたいと思って上演されたんだなって。そういうこともいろいろ考えましたね。今、この状況で絶対に必要なものかと問われたら、演劇は「絶対」ではないじゃないですか。「なくても今はいいんじゃない?」って言われたら、「そうですね」としか言えません。でも、演劇で生きている人たちも、たくさんいるんですよね。みんな生きていかなくちゃいけない。絶対ではないけれども、上演すると決めて…。そして、こんな中でも、来てくださるお客様がいらっしゃる。お客様と、いつもとは違う関係性があるので、生半可なものは絶対に届けられないという思いが一層強いですね。すごく一生懸命やる。やっぱり劇場に来て良かったと思っていただけないと、申し訳ないです。

ーー最後に、『フェードル』を観に来られるお客様へのメッセージをお願いします。

絶対来てね、って言えなくて…。エネルギーをお渡しできると思うので、気をつけていらしていただけたらと思います。本当に、とにかく感染対策を万全にはしています。観てくださったらきっと、「あ、頑張ろう」って思っていただけるような元気の出る作品だと思います。日常も忘れられますし。お客様に委ねるしかないのですが。

ーー観させていただく側は、気持ちが明るくなると思うんですよね。

ああ! それは本当に嬉しいですね。この前、3月からずっとリモートワークをされている方の話を聞く機会があったんです。たまに劇場に行くだけで、刺激をもらえてすごく元気になれたと。それを聞いて、ああ、こういう励まし方もあるんだなって嬉しくなりました。

ーーそうです! 観客としては、本当に励まされます。

頑張ります!(笑)。

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