「『この人とやるのゾクッとする』が一番誠実な答え」、成河・福士誠治対談(下)

成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

2021年4月1日(木)から5月2日(日)まで東京芸術劇場シアターウエストで上演されるミュージカル『スリル・ミー』に出演する、成河さんと福士誠治さんのインタビュー、後半です。「盛り上がり」という目に見えないもの正体などについて、「今日、お時間あります? だって、楽しいじゃん!」と、お話が止まらなくなったインタビュー後半の内容を紹介します。

成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI
成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

ーー2018年に出演が発表になったときに、観客の期待感みたいなものは感じましたか?

福士:ふたりで「ぶち壊してやろう」と言っていましたね(笑)。

(一同笑)

福士:でも期待されているというのは本人たちが「そうですね。分かりました」と言うのもおかしい(笑)。

成河:それってどうやって分かるんですか?

ーー私は取材する側でもあり、観客でもありますが、何かが発表になったときの空気感ってあるんですよね。ザワッとする期待感。人間の期待には、分かりやすい期待と、驚きのようなザワッとする期待感があると思うんです。このタイミングでおふたりが来る面白さを感じる部分があるかなと思って。私の勝手な感覚なので、違うという方もいらっしゃるとは思いますが。

成河:面白いですね!

ーーおふたりがこの作品に出演する、そして再演にも出演する。そこにも面白さも感じました。

福士:僕個人的には、面識はなかったのですが、ソンちゃん(成河さん)の作品は以前からいろいろ観ていました。同世代くらいの演劇をやっている人の中で、素晴らしい役者がいると思っていて、すごく好きだった。そんな方と、ガッツリふたり芝居を作ることに、僕自身がまず興奮しました。偶然『スリル・ミー』が始まる前に、一緒に食事をする機会があって、そのときに、やはり会話の節々が面白かったのを覚えています。ものづくりをする温度みたいなことが似ていて、自由さも感じた。そこに『スリル・ミー』という作品がコラボしたという感覚です。決まった時は、どんな風になるのかなというより、ソンちゃんと作品づくりをしたらどうなるんだろう、と子供みたいにワクワクしたり。だから、再演するときも「ソンちゃんじゃないとダメです」が大前提。新しくパートナーを変えると言われていたらお断りしていたと思います。

ーー成河さんはいかがですか?

成河:面白いこと聞きますね。セイちゃん(福士誠治さん)が言ったことが全てだと思うし、俺もそうなんだけど、せっかくだから、いろいろな角度から考えますね。今日、休みをもらって自宅からZoomでインタビューしてもらってるから、今日、お時間あります?

(一同笑)

福士:休め、休め。

成河:だって、楽しいじゃん! みんなお酒でも持ってきて(笑)。ごめんなさい、そんな長くするつもりはないんですが、すごくよく考えることなので。例えば、演劇界はとても狭いじゃないですか。今おっしゃっていただいたように、いろいろな方向から、いろいろな盛り上がり方をしていただいているということは、なんとなく肌感では感じるんですが、ただ現実問題としてお客様は、本当にそれぞれですよ。何か一枚岩のように、ひとつの大きなうねりのように感じたとしても、その中にはものすごくバラバラな意見や感性など、全然違うものがあって、それが何か知らないけれど、ひとつの波になっているというのがエンタメにはよくある話だと思います。結局、見えないものなので、こちらからも見えないし、お客様同士も分かるようで分からないことだと思うんですよ。だから、そういう目に見えない気負いが2年前にはありましたね。『スリル・ミー』や『エリザベート』などの人気演目について回る、よく目に見えないもの。僕は、それに乗っかって面白いと思えるたちではなかったので、その正体が知りたくて、という気負いですよ。別に、ネガティブな意味ではなくて、純粋に正体が知りたいなと考えていったときに、広報の仕方などね。だから、意見を言って生意気にいろいろと口を出させていただいたりして、それを聞いていただいたりしていましたが、お客様との付き合い方は作品ごとに、すごく大事だと思うんです。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、ちゃんと自分のためにやるということの意味や、市場マーケットや広報やシステムの話や、そして『スリル・ミー』の盛り上がりについて話してくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■成河:自分の井戸が、人の井戸と地下で結ばれている。地上で結ばれちゃいけない

■成河:セイちゃんが言った答えが一番誠実。「この人とやるのゾクッとする」だけ

■福士:怖いもの見たさを質の良いものにすることを安易に考えると、大失敗する

■福士:チケットがなくなる話なら、成河さん二時間は話せる。成河:だからいいの!

■成河:お客様の勇気にお応えして『スリル・ミー』で真剣勝負。挑みかかってください

■福士:『スリル・ミー』10周年。10年続いた作品の集大成を楽しんでいただければ

<ミュージカル『スリル・ミー』>
【東京公演】2021年4月1日(木)~5月2日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
【群馬公演】2021年5月4日(火)~5月5日(水) 高崎芸術劇場 スタジオシアター
【愛知公演】2021年5月15日(土)~5月16日(日) ウインクあいち大ホール
【大阪公演】2021年5月19日(水)~5月23日(日) サンケイホールブリーゼ
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/thrillme2021/

<関連リンク>
成河 ブログ
http://web-dorama.jugem.jp
成河 スタッフ オフィシャル Twitter
https://twitter.com/tw_de_songha_sc
福士誠治 オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/seiji-fukushi/
福士誠治 Instagram
https://www.instagram.com/seiji_fukushi/

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成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI
成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

※ここから有料会員限定部分です。

■成河:自分の井戸が、人の井戸と地下で結ばれている。地上で結ばれちゃいけない

成河:こんなこと言っちゃって良いのかな。具体的に言葉にしてしまうと、究極的には自分のためにやっているんですよね(笑)。これは言い方も、書き方も非常に難しいかと思いますが、僕はちゃんと自分のためにやっていない人が、あまり信用できないんです。自分のためにちゃんとやっている人の方が、みていて面白いじゃないですか。自分のためにちゃんとやればいい。ピナ・バウシュの言葉ですが、自分のために、ちゃんと掘り下げて掘り下げた井戸が、まったく違う人の井戸と地下の底で結ばれている。表面的に「あなたのために」と地上で結ばれちゃいけないよ、と。地下で繋がっているのかもしれないですよね。

福士:面白い!

成河:何の話かよく分からなくなってきたけど(笑)。ただ自分のためにやるということを僕は常々思っているし、言ってしまうんですが、なかなか上手く伝わらない部分ですね。今質問していただいたことの答えになるかどうかは分かりませんが、その目に見えないエンタメならではのものを、いつも遠くから「何だろう、あれは」と思って見ています。結局、それに向かってああだ、こうだと言っても、霧の中で足掻いているようなもので何にもならない。もっと市場マーケットだったり、広報だったり、もっともっと大きなシステムの話なので。これからも言ったりはすると思いますが、実演に関しては何の関係もないと、今はあらためて強く思えます。

ーーそういえば、前回のインタビューで、成河さんに「今興味のあることは」とお伺いしたときに、「マーケティング」とおっしゃっていたことを思い出しました(笑)。

成河:必要なことですよね。

福士:めちゃくちゃビジネス用語だね。

成河:でも、やってくださる方がいるから、そのおかげで今『スリル・ミー』はここにあって、こうして出させていただいているわけですから。興味があって、すごいなと思うわけですよ。それこそ、昨日新納(慎也)さんたちと話していたんですが、本当に上手いよねって(笑)。

福士:戦略だねって?

成河さん=撮影・NORI
成河さん=撮影・NORI

■成河:セイちゃんが言った答えが一番誠実。「この人とやるのゾクッとする」だけ

成河:そうそう(笑)。作品としての戦略が本当にうまいという話をしていたんです。小さなところから始まって、きっと気づいたらそうなっただけでしょうが、そのサクセスストーリーをいかに盛り上げて話しているか(笑)。でも、人間はそういうストーリーに仮託して、その共同幻想を楽しみたいんですよ。それを邪魔する必要は全くないですし。「ついに大きい劇場に進出」と銀河劇場に行って商業的になった、それでまた小さなところに戻ってみたいな、そういう戦略は常々あるわけです。そのときにお客様は受ける一方だと思うので、こういうときに何を投げかけるのが一番誠実なのかなというのは常々考える。でも、それが回り回ると最初にセイちゃんが言った答えが、一番誠実なんです(笑)。

福士:(笑)。

成河:それだけなんです。「この人とやるのゾクッとする」だけですから。僕らは。

■福士:怖いもの見たさを質の良いものにすることを安易に考えると、大失敗する

福士:目線によって話す方向性が変わると思うし、エンタメも役者ファーストで話させてもらったら、今みたいな僕らのゾクゾクや「やってみたい」になる。今、聞いていて、エンタメとは何かと言われたら、お客様にとっては「安全圏にいながらの怖いもの見たさ」。自分は安全なところにいるから、「どんなの?」という好奇心があって、多分「やれやれ」と言える。例えば、太宰治と芥川龍之介がコラボしたものは、見てみたい、読んでみたいとみんな言うけれど、やる方が大変です。そのリスクもあるだろうし、怖いもの見たさをどうやって質の良いものにするかというところは、作り側としては安易に考えてしまうと大失敗する。その辺は褒めておきたい。ホリプロさんは上手いな〜(笑)。

(一同笑)

福士:マーケティングなのか。最初は70人でやって、立ち見や当日券が70人より多く並ぶという伝説をひとつ作ることによって、伝説の舞台を観に行こうと、3年後には銀河劇場になる(笑)。

成河:そうそう(笑)。戦略上手い(笑)。

福士:だからエンタメとして『スリル・ミー』をやる。この小さい劇場でやるからこその、質の良いエンタメを目指した方全員が『スリル・ミー』の魅力をちゃんと受け止められる。でも、800人の劇場の最後列で観た人は、もう次は観に来ないかもしれない。また観たいと思わないのであれば、それはどっちを選ぶか。「今回が最終回」と言ったら良いんじゃないですか? ACTシアターでやりましょうよ。稼ぐだけ稼いで、人を入れて。

ーー伝説で今までのキャスト全員に出ていただいてとか(笑)。

福士:商業的だけで考えるのであれば、それでも良いですが、この作品は俳優二人とピアニストがいれば、小さい劇場でできて、長く続く作品になる。新しい俳優さんが出てきたときに、怖いもの見たさで「あの新人が『スリル・ミー』をやるんだって」と、また続けられたり。ジャパニーズロングランの作り方なのかなと思いますよね。人が変わったとしても、作品が残る。

成河:そのモデルを作りたくてやっているんだもんね。それは、やはり見事だと思います。

福士:その本質は、先ほど話した「曖昧さ」みたいなところがあるからだと思うので。戯曲の本質を届けるかどうか、みたいなところは、なかなか取り方によって違うのかなと思います。

成河:結局大きなシステムの中で、我々は踊らされているだけなのでね。

(一同笑)

ーー観客もそうでしょうか(笑)。

成河:観客の皆さんは、一人一人が考えれば良いのだと思います。実は、そのシステムを作っているのは我々ではなく、観客なんですよね。それはお客様一人一人が考えてほしいこと。僕らは面白いと思うものを、納得がいくまで作るだけ。それが本来の形なのかなと思います。

福士誠治さん=撮影・NORI
福士誠治さん=撮影・NORI

■福士:チケットがなくなる話なら、成河さん二時間は話せる。成河:だからいいの!

ーーありがとうございました。『スリル・ミー』は、観客の盛り上がりと、作り手の面白いという内容とが、日本のエンタメの土壌で、ある意味では健全に育っているなと思うんです。その一端を、おふたりの話から伺えたなと感じています。チケットもほぼ完売で期待も高まっておりますが、最後にメッセージを一言ずつお願いします。

福士:チケットがなくなる話なら、成河さん二時間は話せるから。

成河:だからいいの! それも観念したから。たこつぼはたこつぼだから。それは演劇だけじゃなく、どこもたこつぼ、趣味の世界になってしまう。そこからどうやって脱却しようかと、どこの業界の人も思っていると思います。でも、ホリプロさんはすごく動いていらっしゃるし、今回の『スリル・ミー』は東京芸術劇場シアターウエストでやることに、もちろん価値はあると思っている。新規のお客様、演劇を知らない人にと、言うわけですが、なかなかそういうわけにはいかない状況になってしまいましたし。それに2年前にもう観念したんです。もうこれは無理だから。演劇知らない人は観にこれないから。チケットがないから(笑)。

(一同笑)

■成河:お客様の勇気にお応えして『スリル・ミー』で真剣勝負。挑みかかってください

成河:このご時世もあります。まだまだ演劇を最優先にできない人が、来れるような時節ではないですし、それでも来てほしいとは言えないです。それでも必要だと思ってきてくださる方の中には、まだまだ勇気が必要な方もいらっしゃると思います。特に、密度の高いお芝居ですし。客席で話したりはしないので、大丈夫かと思いますが。シーンとしている劇場の芝居なので。まだまだ勇気が必要だと思うので、その勇気にお応えして、今回はお客様との真剣勝負です。なので、挑みかかってきてください、と思っています。

成河さん=撮影・NORI
成河さん=撮影・NORI

■福士:『スリル・ミー』10周年。10年続いた作品の集大成を楽しんでいただければ

福士:僕は、コロナとかこういうご時世の中で、あらためて娯楽の大切さを感じています。娯楽はいろいろな形があると思いますし、家の中で家族で楽しくトランプをやることも娯楽だと思います。自粛期間中も悶々としたりして体と心のバランスは大事だなと感じることもありました。そういう意味で、やはり演劇ができる、お客様に観ていただけるという状況は本当にありがたいこと。『スリル・ミー』の10周年、10年続いた作品の、今の集大成みたいなものをお客様に楽しんでいただければと思います。あとは、ソンちゃんの言う通り、何をどう考えて、どういう作品の本質で、私たちが今後何をやろうか、どういう思いになるのかは、正直観たお客様に感じていただけなければ意味がないですし、「こういうことを感じてほしいんですよ」と言ってしまうのは簡単ですが、それはただの講義になってしまうから。やはり体感型。心を動かして観てもらえたら。僕らは一生懸命やるだけかなと思います。

ーー分かりました。ありがとうございます!

福士誠治さん=撮影・NORI
福士誠治さん=撮影・NORI

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“「『この人とやるのゾクッとする』が一番誠実な答え」、成河・福士誠治対談(下)” への 8 件のフィードバック

  1. ぐーぴん より:

    2018年の公演を複数回見ることができて、そのたびに表現に驚かされてきました。今年も期待しかありません。多分想像以上の形が見られるんでしょうね。楽しみです。

  2. まちゃこ より:

    お二人のお話がとても深くて何度も読み返しています。写真の表情も素敵ですね。
    2018年に成河さんの演技に衝撃を受け、何度も当日券に並びました。何であんなにスリルミーに夢中になったのか、自分なりの答えを見つけに行こうと思ってます。再演がホントにホントに嬉しいです!

  3. knk より:

    おふたりの話のお話が面白くてずっと聞いていたいです!色々なお話を聞き出して頂きありがとうございました!舞台とても楽しみです!

  4. めいこ より:

    同じような内容になりがちなインタビュー記事の中で、この記事は内容が多岐ににわたりとても興味深く読みました。公演への期待も高まります。お写真もとてもよいですね。

  5. rosso より:

    2018年で観てもう一度やって欲しい!と思ったペアだったので、既に期待でいっぱいですがインタビューを読んで更に楽しみになりました。
    日本語のもつ曖昧さやマーケティングの話まで演劇のことに留まらないお二人のお話を読めて良かったです。

  6. ゆき より:

    2018年公演で何も知らずに友人に連れられて観た衝撃が忘れられません。そのとき叶わなかった成河さん福士さんペアの観劇が叶う2021年、心して観劇したいです。
    資本主義の病というテーマにつながる貴重なお話が読めて、観劇がさらにいろんな方向から楽しみになりました!

  7. まろん より:

    スリルミーを全く知らない状態で、2018年に成河さんと福士さんのスリルミーを観ました。あまりの衝撃に終わっても拍手を忘れて呆然としてました。
    開けてはいけない箱を開けたいのが人の性。逃れられない魅力がある作品です。

  8. anju より:

    凄い!
    面白くて、いつまでも聞いていたいです。
    とても楽しみです。

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