「太宰治と芥川龍之介みたいと(笑)」、『スリル・ミー』成河・福士誠治対談(上)

成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

日本初演から10年を迎えるミュージカル『スリル・ミー』が、2021年4月1日(木)から5月2日(日)まで、東京芸術劇場シアターウエストで上演されます(群馬・愛知・大阪公演あり)。二人の役者と一台のピアノのみで繰り広げられる、息をもつかせぬ究極の100分。初演から熱狂的なファンも多い作品が、今回は三組で上演されます。アイデアニュースでは三組それぞれにインタビューし、2月に掲載した松岡広大さん(私)と山崎大輝さん(彼)のインタビューに続いて、2018年公演から引き続きの出演となる成河さん(私)と福士誠治さん(彼)に、稽古が進む3月半ばお話を伺った内容を紹介します。2018年の出演時と今の感触の違い、この作品を英語や韓国語で演じるのと日本語で演じることの違い、「盛り上がり」という目に見えないもの正体をどう考えるかなどについてのお話が出たインタビューを、上下に分けて2日連続で掲載します。

成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI
成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

ーー稽古をされてみて、まずどんなことを感じていますか?

福士:あらためて『スリル・ミー』の面白さを感じています。この作品に再び自分が入る上で、新しい発見も自然と出てきていますので。僕は再演をやったことがなかったので、面白い奥深い作品だと感じているところです。ソンちゃん(成河さん)との芝居も久しぶりで、やはり楽しい。もちろん、稽古はもう少しやりたいなと思いながらも、ワクワクしている部分もあります。同じくらい不安もありますが(笑)。

成河:(笑)。感じることも、考えていることも、前回からずいぶん変わってきているので、自然と変わりますね。演出の栗山(民也)さんが僕らに与えてくださる言葉も、少しずつ変わってきていますし。「前回はそんなことはなかったけれど、今回はこんな感じなんだ」と感じていますが、多分、自分たちが変わってきているから、それを引き出そうとしてくださっていると思うんです。そういう面白さをあらためて感じていますね。二人芝居という形なので、純粋な変化が出やすいんでしょうね。装飾物が少ないので、人間の心持ちや生き方、あり方がポンと出てしまう。それが面白くもあり、怖いところです。

ーー栗山さんから、何か記憶に残る言葉などはありましたか?

成河:あるけど、言ってしまうと何かね。昨日、面白かったね。言っちゃう?

福士:ああ、小説家の?

成河:すっごい面白かった。あ〜!って思いましたね。ある種、「私と彼」のそういう性質でもあると思いますが、「太宰治と芥川龍之介」と言われて(笑)。

ーーそうなんですか! どちらが、どちらですか?

成河:どっちだと思います?

ーーうーん……成河さんが太宰治?

成河:そうですね。僕らの「私と彼」の関係が、「太宰治と芥川龍之介」みたいと(笑)。冗談半分ですよ? ちょっと笑いながら、「そんな感じがするな」と言っていました。すごく真剣に書かれたら、栗山さんも嫌だろうから(笑)。

福士:ある種だよね。お互いの世界観を持っている二人、という意味合いを込めて。作風が違う二人、みたいなこともあるのかな。でも、ソンちゃんは「うえーい!」みたいになっていたよね?

成河:例えば、太宰の質感みたいなものを。作品とのテーマ性とかリンクは、全然関係ないんですが(笑)。雑談の中で、例えば、太宰的な手触りだったり、芥川的な手触りみたいなものを、栗山さんの言葉から感じました。栗山さんも、そういう風な言葉を使われる人なので、すごく面白いなと思いました。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、2018年の出演時と今の感触の違いや、この作品を英語や韓国語で演じるのと日本語で演じることの違いなどについて話してくださったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。3月31日(水)掲載予定のインタビュー「下」では、「盛り上がり」という目に見えないもの正体などについて「今日、お時間あります? だって、楽しいじゃん!」と、お話が止まらなくなったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■福士:「演劇は永遠に成長する」と聞いていましたが、「終わってなかった」と体感

■成河:曖昧な表現が日本語は多いので、錯覚も同調も依存もする。そこがゾクゾクする

■福士:「それが欲しいんだろ」ってすごい。「それ」を説明していないのに頷かせる

■成河:曖昧な方向に突き抜けている。そこが私と彼のミステリアスな部分を表現している

<ミュージカル『スリル・ミー』>
【東京公演】2021年4月1日(木)~5月2日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
【群馬公演】2021年5月4日(火)~5月5日(水) 高崎芸術劇場 スタジオシアター
【愛知公演】2021年5月15日(土)~5月16日(日) ウインクあいち大ホール
【大阪公演】2021年5月19日(水)~5月23日(日) サンケイホールブリーゼ
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/thrillme2021/

<関連リンク>
成河 ブログ
http://web-dorama.jugem.jp
成河 スタッフ オフィシャル Twitter
https://twitter.com/tw_de_songha_sc
福士誠治 オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/seiji-fukushi/
福士誠治 Instagram
https://www.instagram.com/seiji_fukushi/

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成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI
成河さん(左)と福士誠治さん(右)=撮影・NORI

※ここから有料会員限定部分です。

■福士:「演劇は永遠に成長する」と聞いていましたが、「終わってなかった」と体感

ーー2018年に取り組んだ感触と、今再びやろうという時の感触の違いは感じていますか?

福士:ソンちゃんに「再演って、どういうことなの?」などと聞いています。ロングランだったり、同じメンバーで再び作り上げることで、演劇作品の可能性をどんどん広げられるわけじゃないですか。前回に追いつかなくては、という感覚ではなくて、前回とはまた違った道が見えた瞬間があった。そのときに、僕は2018年の『スリル・ミー』が終わってなかったんだと腑に落ちました。これまでにも「演劇は永遠に成長するんです」と、言葉ではよく聞いていましたが、自分の中で体感として、「あんなに命を削って一生懸命やったけど、終わってなかったんだ」と。

成河:(笑)。

福士:悔しさもあり、面白さでもあり。それが僕の、この2年間での人生の体験なのかもしれないです。成長なのかもしれないですし、もしかしたら退化していることもあるだろうし、ブラッシュアップされていることもあるだろうし。

福士誠治さん=撮影・NORI
福士誠治さん=撮影・NORI

■成河:曖昧な表現が日本語は多いので、錯覚も同調も依存もする。そこがゾクゾクする

ーー成河さんは、いかがですか?

成河:最初は誰でも、気負うんですよ。無自覚な気負いも絶対にあるでしょうし。例えば、2018年のときに、英語版、韓国版の台本を見ながら、日本語は何をどうしたら本当に面白くなって原点に近づけるんだろう、と考えていたんです。これは僕の趣味なので。いろいろとやっている内に、結構そこで気負って「もっと、こうなんじゃないか」「ああなんじゃないか」と思ったりしていたんですが、それが上手くできたところもあり、また「やっぱりな」と思うところもあり、というのが2018年の総括です。今回、あらためて見直したときに、「この日本語、いいな」って(笑)。

ーーブログに書いてらっしゃいましたよね。

成河:そんな思いで書きました。「永遠」という言葉をはじめ、栗山さんが言葉を編纂しているいるところが多いんです。日本語の戯曲にしかない曖昧さがあるんですよね。韓国語も英語も、もっと具体的です。英語では具体的すぎて「だから何?」となってしまうし、韓国語は、心情的なことを言葉でちゃんと説明しているんですが、日本語は曖昧。だから解釈がものすごく分かれるし、俳優に委ねられてしまう。面白いところと、とても難しいところがあります。例えば「永遠」という言葉の重心を変えているんですよ。そこで貫くみたいな。すると必然的に言い回しもいろいろなところで変わってきて、曖昧な、少し飛躍のある言い回しが手強い。日本語は、だから面白いよなという部分があります。日本語で、あれもこれも言ってしまうと、おしまいだなと。例えば、日本で親しい間柄だと言葉が少なくなっていきますよね。日本語圏だけではないでしょうが、日本語話者ならではみたいなものが書き込まれているんですよね。それが良いなと思っています。

ーー今、相手が何を思っているんだろうとか、勝手に読もうとするところがありますよね。

成河:ありますね。

ーーこう思っているかなと勝手に脳内で進めていく、みたいな。

成河:はい。

ーーそういうものが日本語版『スリル・ミー』に良い作用として働くみたいな感じですか?

成河:働いていると思います。口に出す言葉も、とても曖昧な表現が日本語は多いので、ときにお互いが錯覚もするし、同調も依存もする。自分の理想や幻想を押しつけていることもあるし、それに気づけないということもある。いろいろなことが日本語の曖昧さゆえで、それを意識して使うと、すごく面白いです。めっちゃ分かり合って話しているように見えるけれど、遠くからみるとそうでもないんだなとか。私にとっての彼も、彼に取っての私も。そういうところが日本語だとゾクゾクするなと思います。

成河さん=撮影・NORI
成河さん=撮影・NORI

■福士:「それが欲しいんだろ」ってすごい。「それ」を説明していないのに頷かせる

ーー福士さんはどう思われますか?

福士:「だって、それが欲しいんだろ」ってすごいよねと思う。日本語の持つ「それが」の「それ」を説明していないのに頷かせる。お前はそれだよな、と(笑)。

成河:本当だよね。

福士:英語でそれが「it」なのか「that」なのかは分かりませんが。

成河:英語だと「怖がらせて欲しいんだろ? そうして欲しいんだろ?」という会話になるんですが、例えば日本語で「それが欲しい」の「それ」というと、何か、もわっとするんだよね。

福士:ね。

成河:そこが面白いんだよね。え、どれ?みたいな(笑)。

福士:エロいというか、表面の言葉と心の何かを見たりする。あれは、ずるい言葉だよね。言っていても面白いと思うし、Sだよね(笑)。「うん」と言わせる。「分かるだろ?」とか(笑)。外国人で日本語も自国の言葉も流暢に喋ることができて、アメリカに住んでいて日本語も勉強している人が観たら、どう思うのかなと考えますね。アメリカでは、そんなまごまごしたことは言わないよ、と思うかもしれない。やはり日本人が観るミュージカルとして作っている気がします。

福士誠治さん=撮影・NORI
福士誠治さん=撮影・NORI

■成河:曖昧な方向に突き抜けている。そこが私と彼のミステリアスな部分を表現している

成河:日本語話者同士の演者と観客だから共有できるものに満ち満ちている。さすが栗山さんだ思いました。

福士:日本語のわかるアメリカ人しか観ないのであれば、作り方が違うだろうね。日本人のワビサビ、情緒を踏まえた上の、ユダヤ系アメリカ人を演じる感じ。

成河:そういう意味では突き抜けているので、一般的な翻訳劇とは少し雰囲気が違うんですよね。曖昧な方向に突き抜けているから。戯曲至上主義で翻訳劇をやっていったときには許されないような曖昧さで作っているから、やるのはすごく大変なんです。でも、そこが私と彼のミステリアスな部分を表現していると思うので、面白いと思うんです。

成河さん=撮影・NORI
成河さん=撮影・NORI

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“「太宰治と芥川龍之介みたいと(笑)」、『スリル・ミー』成河・福士誠治対談(上)” への 11 件のフィードバック

  1. みかん より:

    今回初めて観劇し、圧倒されました!
    お二人の演技、ハーモニーが素晴らしく、すっかり沼にはまりました。確かに福士彼の「それが欲しいんだろ」にゾクッとしましたが、そこに日本語の曖昧さが関係しているとの分析には納得させられました。とても面白く読ませていただきました!

  2. いくみ より:

    復習として改めて読み直しましたが、あえて具体的に言わない台詞が想像力を掻き立たせるポイントだなと改めて納得しました。それぞれの国でそれぞれのスリルミーが生まれているということが多くの人に支持される理由の一つなのかもしれませんね。インタビュー面白かったです!

  3. おれんじ より:

    このお二人は毎公演違うものを見せられている感じがしました。常に観るものの上を遥かに超えてくる。そんなワクワク感とドキドキ感がたまりません

  4. ささっぱー より:

    再演というより間が長めに開いた「続き」の様な「スリル・ミー 2021」また観られることができて嬉しいです。お二人がおっしゃる様に日本語は曖昧で、結局「彼」はなぜ「私」に…?などと思う事もありますが、そう言う「観客の想像力」を信用しているあの演出は大好きです。(演じる皆さまは大変だと思いますが。)
    では、今回の「森」楽しみにしております。

  5. knk より:

    このペアのスリルミーがもう一度観たかったので本当にたのしみです。日本語の曖昧さの話大変面白かったです。

  6. erieri より:

    今まで読んだインタビューの中で一番深くておもしろいです。
    お二人の進化を目撃できるのが楽しみです!

  7. ばたこ より:

    とても濃く、読みごたえのある、面白いインタビュー記事でした。このお二人のスリルミーがまた観られるなんて、まだ信じられない気持ちでいます。今回のインタビューを読み、ますます楽しみになってきました。素敵な記事をありがとうございました!

  8. anju より:

    スリルミー、前回は1回しか観れなくて、そのあと熱病に侵されたようになりました。
    いろんな人の書いたブログやレポを、漁るように読みました。
    今回、また観られるのを、とても楽しみにしています。

  9. さび より:

    2018スリルミーで今までにないくらい衝撃を受けたモンスターペアなので、再演に向けたお二人の心構えや意気込みがたっぷり聞けてありがたいです。作品も掘れば掘るほど面白いので、是非多くの方に触れて欲しいです。

  10. もんろ より:

    初めてスリルミーを見るので、すごくワクワクしています!

  11. ひろ より:

    2018年の舞台で圧倒されたこのお二人が戻ってこられるのが嬉しいです。

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