舞台『黒蜥蜴』に出演する井上芳雄さん、成河さんの対談インタビューをお届けします。稽古がはじまって２週間近く経ったおふたりに、作品づくりの現場や、お互いについてお伺いしました。井上さんのお話を聞いていた成河さんが、驚きの行動に！　（上）（下）に分けてお届けします。

――稽古がはじまってどうですか？　楽しいですか？

井上：たくさん発見や感動があって、楽しいですね。

成河：楽しいけれどね……。

――けれど……？

成河：僕はもうダメだよ。インタビューに正直に答えようと決めちゃったから。

井上：知ってるよ、正直に答えない時あった？（笑）

成河：（笑）。楽しいけれど、もったいないですね。稽古期間が４週間しかないのは、少しかわいそうな気がします。

井上：最初から言ってるよね。

成河：ものすごく豊かで、ものすごく素敵な稽古なので、やはり最低でも5、6週間は必要なんじゃないかなと思います。

――どうしてもスケジュール的なことも。

成河：日本の興行的な都合と、どういう風に折り合わせて作品を作るのかというのも含めて、問われている作品だと思うんですよ。その状況で、何が一緒にできるのか。

井上：そうですね。前に（デヴィッド・）ルヴォーと一緒に作った『ルドルフ ～ザ・ラスト・キス～』の時は、今考えてみたら、ウィーンでやっていた作品だったんですよね。本場でやって、それを僕たちに合わせてくれるという作業でした。前回ご一緒したときと違うなと思うのは、ゼロから作るという意味ではルヴォーだって、試行錯誤して当たり前ですよね。今回の僕たちと、どうやって、何ができるのかというのは、確かに時間はかかるなと思います。イメージはすでにあったとしても、それを具体的にするにはとてもエネルギーが必要ですし、時間もかかる作業なんです。だから、思った以上にここに来るまでも……

成河：やっぱり時間がかかりますよ。

――逆にゼロから作るルヴォーさんを見るのは新鮮ですか？

井上：そうですね。

成河：とても楽しそうですよ。

井上：何か明るい（笑）。明るいというか、おどけているというか（笑）。

成河：本当に念願叶っての今回の作品だということを、稽古中も話していました。

井上：はしゃいでる、みたいなね（笑）。

成河：（笑）。

井上：そうしようとしているのかな？

成河：「20年程前に日本に来たときに、初めて三島と出会って、日本との繋がりの最初が三島だったので、それからずーっと三島を勉強してきて、上演したりもしてきた。今回の『黒蜥蜴』という興行で、しっかりと作れるタイミングをずっと探していた」と話していましたね。

――夢が叶う的な。

成河：本当に、その意気は感じますよ。

※アイデアニュース有料会員（月額300円）限定部分には、演劇について稽古についてお2人の意見が飛び交ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。1月2日掲載予定のインタビュー「下」では、さらに話が深くなり「演劇の劇論カフェみたいなの作ろうか」という話まで出たインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

＜有料会員限定部分の小見出し＞

■井上：チャレンジ、試行錯誤してみようという空気はある

■成河：自由にさせる、自由にさせてもらう、それこそが演劇

■成河：ルヴォーは、絶対に、意見を発言を、待っている

■井上：最初から恥をかかないために稽古している訳じゃない

＜『黒蜥蜴』＞
【東京公演】2018年1月9日（火）～1月28日（日）　日生劇場
【大阪公演】2018年2月1日（木）～2月5日（月）　梅田芸術劇場メインホール
『黒蜥蜴』特設ページ梅田芸術劇場　http://www.umegei.com/kurotokage/

＜関連サイト＞
「黒蜥蜴」のページ
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「黒蜥蜴」公式twitter
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井上芳雄オフィシャルサイト
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成河スペースクラフトページ
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成河・スタッフオフィシャルtwitter
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■井上：チャレンジ、試行錯誤してみようという空気はある

――ルヴォーさんとは、井上さんは２回目、成河さんは初めてですが、想定していたこと、想定していなかったことなどはいかがですか？

井上：やはりルヴォーが言う言葉や、作る稽古場の空気は素敵だなと思いますね。先程も言ったように、ルヴォーだって最初から魔法のように何でもできる訳ではなくて、まず最初にやってみて、やはりやめようということもあります。いずれにせよ、とりあえずやってみよう、チャレンジしてみよう、試行錯誤してみようという空気があります。そういう意味では色々とチャレンジもできますし、だからこそ、道を見られているという怖さはありますね。

成河：想定外というわけではないですが、やはり人数が多いなと思いますよ。

井上：（笑）。

成河：（笑）。もちろん、日生劇場の企画として、三島由紀夫が求めている配役はありますが、「いや～、人数多いな」と思っていたんですよ。稽古場は、人数が多ければ多いほど密度は薄くなりますので、その分、停滞もしますが、停滞が一番の稽古場の栄養だったりするのでね。だから、時間がかかるということですが、「人数多いな、大丈夫かな」と思っていました。その心配が完全に払拭された訳ではないですが、やはりルヴォーは大人数を演出することが上手いんだなということを発見しました。大人数を、ひとりひとりが自由に、生き生きと、しっかり生きるように、台本の中に入れ込んでいく作業がすごくスムーズで、少しびっくりしました。ああいうことは、動く方も動きをつける方も、わりと日本人は不得意なんだろうなと。自由にさせるということが、一番難しいのでね。

■成河：自由にさせる、自由にさせてもらう、それこそが演劇

――なるほど。

成河：自由にさせる、自由にさせてもらうというのが、どちらにとっても、とても難しいんですが、ただそれこそが演劇だったりしますから。その部分を一番大事にされていますし、分かっている。経験値がものすごくおありなので、とてもスムーズに、とても生き生きと、大人数のシーンが進んでいくんですよね。多分、彼の頭の中でプランニングがあるんでしょうけれど、それを決して表に出さずに、ぽそぽそっと大事なところを言うと、いつの間にかそのようになっている。大人数を使うところでの「これは演出家の魔法だな」というシーンはいくつかありました。それは、ハッとさせられましたよ。

――稽古場の様子を客観的に話してくださいましたが。

成河：稽古場というのは、客観的にいるものですからね。主観的に稽古場にいたら、間違いですよ。

井上：（笑）。

――そのなかで、ご自身で役を作って稽古をしていていかがでしょうか？

成河：そんなの知らないよね？（笑）

井上：分からないですね、まだ（笑）。

成河：そんなの後ですよ。自分の役なんか、最後の最後ですからね。

井上：でも、ここまで時間をかけたなと思うと同時に、自分がやったシーンなんかは「あれ？　もう次いっちゃう？」とか、「あれはどんな風にやったかな？」とか、そういう意味ではまだ固まっていもいないですし、そこをすごく繰り返すという訳でもないので、まだ手応えというのはないまま。でも、１個１個のシーンはすごく時間がかかる。何か不思議な感じですね。

成河：多分ね、初日の開演時間、１時間ぐらい押しますよ。

（一同笑）

成河：間違いない。

井上：１時間？

成河：これ、ちゃんと書いてくださいね。

――はい（笑）。

成河：押すかもしれないけど、押したらすっげーおもしろいから。ブーブー言うなって。

（一同笑）

井上：いや、分かんない。押さないでしょ（笑）。でも、ルドルフの時ですら、１時間前位まで、カーテンコールの練習をしてた。

成河：カーテンコール？

井上：ずっとギリギリまでカーテンコールをやっていなくて、「あれ？　１時間後位には公演が始まるよね？」って。それくらいまで舞台上にいたよ。

成河：だよね。

井上：普通だったらありえない。

成河：どうやったって稽古が短すぎるのでね。それは、日本のやり方の中では無理なんですけど、ヨーロッパの方が苦しむのはそれですよね。

■成河：ルヴォーは、絶対に、意見を発言を、待っている

――お互いについて伺いたいのですが、明智小五郎役と雨宮潤一役は、残念ながらあまり直接は絡まないですよね。

井上：最後にアクションシーンがあるはずなんですが。

――それは楽しみです。逆に稽古場ではお互いを見ている時間が長いと思いますが、お二人で稽古場に入られるのは『エリザベート』以来ですよね。ご覧になっていていかがでしょうか？

井上：静と動が激しいなというか、うまく使い分けているなと思いますね。常に動いて、仕掛けたり、ちょっかいを出したりして、ワーワーとやっているイメージが強いと思うんですが、当たり前ですが、そんなことを四六時中していると疲れちゃいますよね（笑）。「どこにいるのかな？」というくらい稽古場の端にいて、稽古を見ていたり。多分、台詞覚えたり……という時ももちろんあるでしょうし、それがすごくはっきりしているんだなと。

――それは、『エリザベート』や『ハムレット』の時は感じなかったんですか？

成河：『エリザベート』は２週間くらいしか稽古がなかったから（笑）。

井上：『エリザベート』は特殊な感じで、ちょっと違うんですよね。演出家もずっといた訳じゃないですし。

――ゼロから作るのとはまた違った？

井上：動きをつけられる、みたいな感じでしたね。

成河：そうですよね。

井上：これは今回ならではの成河の居方なのかもしれないですが。

――どうなんでしょうか？

成河：あまり考えていないですね。でも、台本のことばかり考えています。何が必要なのか。何をしようとしているのか。

井上：でも、稽古を見ていて「ここ、こう見えるよ」とか「ここ、こうしたらいいんじゃない？」と言ってくれる。

成河：本当は、もっともっと闊達に、色々な感想が行き交う稽古場が豊かなんですが、僕も初めてなので、まだちょっと……。人数が多くなると、あまり捗らないんですよ。商業演劇で分業になってしまうと、そこが停滞して、淀んでしまうので、風通しが非常に悪くなる。ルヴォーを見ていても、絶対に意見を待っていますし、発言を待っているんですが、どうしても僕たちは、ルヴォーに限らず、特に西洋から人が来たりすると、演出家は先生になってしまうんです。だからつい待ってしまうし、「次はどんな素晴らしいことをしてくれるんだろう」と思った瞬間に、あんまり面白くないんですよ。そういうときに、どんなにくだらないことでも、つまらないことでも、子ども染みたことでも、「そんなの、ありえないよ」ということでも発言して、そういう空気にどこまでできるかを考えながら、いつもくじけています（笑）。

（一同笑）

成河：すごくくじけています。雨宮という役を頂いて嬉しいんですが、せっかくルヴォーとあの形で作れるのであれば、風通しの部分で何とか役に立ちたいなと思っていたので。ただ、なかなか難しいね。期間も短いし、人も多いし、分業がはっきりしているから。分業嫌いよ！

井上：（笑）。

――今日、そのお話を何度もループしていますね（笑）。

成河：分業はだめですよ。でも、しょうがない。分業が一番やりやすい。停滞を生まないための分業なので。でも、停滞すればするほど、実は最後はおもしろいんですよ。そこを勇気をもって停滞する。多分、ルヴォーはそう思っていると思うんですが。

■井上：最初から恥をかかないために稽古している訳じゃない

――成河さんは、井上さんをご覧になっていていかがですか？

成河：でも、やっぱり色々なところで鍛えられて、揉まれて、考えてきている人ですから、決めうちしないことはさすがだなと思います。ルヴォーは、「あれをしろ」とは滅多には言わず、好きに泳がせているので。もちろん客観的に見ていると、「あれはよかったけれど、これはまだなんだな」と分かることもあります。役者さんってやりだすと、不安なので大概は決めたがるんですが、やはり彼はその辺の肝が据わっている（笑）。色々なことをしながら、色々な線を作りながらやっている。僕が一番おもしろかったのは、それをルヴォーがちゃんと分かっているんですよ。「今、芳雄は色々な線を試しているから、僕が何かを言うタイミングじゃない」という阿吽の呼吸みたいなものがちゃんとあって、それは、とてもいい信頼関係だなと思います。素晴らしいパフォーマンスが出来上がることが、稽古場で必要なことではないので。色々な線を辿ってみて、「こっちへ行ったら、あそこに繋がったけど、あれは取りこぼした」とか、「こっち行ったら、これは取れなかったけど、こんなのが見つかったな」というのを、何回やるかですね。そういうことを言い合っていたので、すごくいいなと思いますね。

井上：そうね。でも、成河がそう言ってくれたら、そうかなとは思うけれど、僕は必死にやっているだけだし。成河を見ていると、与えられた状況で、自由にやるなら自由にやるし、何か与えられればそれを掴んで、また新しいもの……と嬉々としてやっているように見えるんですよね。

成河：嬉々として（笑）。

井上：それは多分重要なことで、それが成河の才能なのかもしれないですが、自分は本当は全部決めて欲しいですよ。やってみて、恥ずかしい思いをするのは、本当は嫌だから。でも、今言ったように、そうやって最初から恥をかかないために稽古している訳じゃなくて、最終的に、｢素敵だね｣を作るために稽古をしている訳だから……。

（井上さんを見つめて、「うん、うん、」と聞いていた成河さんがいきなり立ち上がって、井上さんの頰にキス！）

井上：何だよ！　何なんだよ！

――わぁ！！！　チューしちゃった（笑）。

成河：これ、書いておいてください。

――分かりました（笑）。

井上：（笑）。

成河：（笑）。まだまだ経験も浅いですが、ある程度やると分かりますよ。稽古場で恥をかかなかったら、本番で恥をかくんですよ。だから、早くかいておいた方がいいんですよ。さっさと、めちゃくちゃになった方がいい。「どうしよう、もうだめだ」とならずに本番を迎えたら大変な目に遭いますよ。

井上：目的がどこにあるかというのは、ルヴォーとやらせて頂いているので分かりますからね。それが素敵だとも思いますし、信頼がありますから、絶対にそのままにして諦めたりはしない。ちゃんと、どこかには導いてくれるはずだと思いますから。そういう意味では成河もそうですが、（中谷）美紀さんもやってみる人ですから、特に中心の人たちがチャレンジしてみたときに、やはり「それがいいんだ」という空気になると思います。

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