新しい情報を仕入れて在宅介護の態勢を進化させているEさん一家は、アイデアニュースではおなじみのご家族。嚥下障害があるお父さんのために、娘のSさんが今回導入したのが、干渉電流型低周波治療器「ジェントルスティム」です。
まだ一般に知られていない「ジェントルスティム」ですが、筋肉ではなく神経を電気的に刺激することで、嚥下反射を誘発する画期的な機器です。マイルドな痛みの少ない刺激で、サイズも手ごろで、使い方も簡単なため、在宅でも使いやすいシステムです。病院のリハビリテーション科などでようやく導入が始まったばかりの「ジェントルスティム」の情報を入手したSさんは、まずは試しに使ってみたいと考えました。
――試してみてどうでしたか?
「これまで父は、時間をかけて、かなり意識して “ごっくん” と飲み込んでました。それが、ジェントルスティムをリハビリに使ってから、とても滑らかに自然な感じで飲み込むようになったの。ジェントルスティムでリハビリをはじめてから、食べている時は嚥下反射もよく、素早くしっかりと飲み込めているみたいです。」
――すごい!いつもながら行動的ですね。
「早く試してみたくて、担当の方にお願いしてたら貸し出ししてくれました。新しい良いものが出たということを知ったら、試したいでしょ?やってみないと分からないもの。嚥下障害がある方には、おすすめのリハビリですよ。」
久しぶりにお訪ねした2018年3月2日は、月に2回の管理栄養士さんによる自宅訪問の日。喉頭癌で声帯を摘出したうえ、放射線の影響で食道がせまくなっているEさんの食事は原則3食とも家族の手作りで、管理栄養士さんが栄養指導をしているのです。雛祭り目前ということで、この日のメニューはピンク色、白、黄色、緑色を重ねた柔らかいお寿司風ご飯でした。Eさんのお連れ合いと管理栄養士の村田味菜子さんが台所に並んで、用意してある材料を使って嚥下食を仕上げていきました。出来上がりの柔らかさなどを村田さんが確認してからEさんに提供するので、安心です。もともと、食材や用途に応じてトロミ剤、ゲル化材を何種類も用意しているEさんのお宅ですが、メニューや、食材の特徴を生かして使いこなすのは、素人ではなかなか難しいわけです。トロミ剤、ゲル化材の使い方はもちろん、患者さん本人の好みや家族の意向をふまえ、食事の形態、量やバランスを考えて料理を作るのは、専門職である管理栄養士さんのアドバイスが必至。管理栄養士の自宅訪問という、言語聴覚士の訪問に比べてまたさらに珍しいサービスを利用することで、Eさんのための手作り嚥下食は、進化を続けています。
「チャレンジの毎日です。家族だけだと不安なこともあるけど、まわりにサポートして下さるチームがあるおかげで、新しい情報も手に入り、安心して暮せています。父のためにやれることはなんでもやろうと思っているの」と語るSさんでした。
<アイデアニュース関連サイト>
疲れていなかった頃の自分に戻れるクッション「p!nto」 ある家族の物語
目の当たりにした「管理栄養士による在宅訪問」の成果、オリーブオイルで体調改善
口から食べる楽しみを守りたい・愛情あふれるケーキが嚥下食レシピ大賞受賞!
<関連サイト>
カレイド株式会社ジェントルシステムHP
http://www.careido.co.jp/product.html
医療法人日翔会わたなべクリニックHP
http://nisshoukai.com/watanabe/
ナチュラルケアHP
http://natural-care.co.jp/
ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。嚥下食料理中の様子や、リハビリの様子を写真を中心に紹介します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■NST栄養サポートチームとの連携
■目にも美味しい食事を提供
■雛祭りのひし餅を意識
■食べることは生きること
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- YouTubeで学ぶ英語:(66)不法滞在であってもCOVID-19の検査は受けられるべき 2020年3月28日
※ここから有料会員限定部分です。
■NST栄養サポートチームとの連携
Eさんの食道はかなり狭くなっていて、嚥下障害が出ています。身体的な機能障害はほとんどないため、理学療法士ではなく言語聴覚士によるリハビリを続けておられます。そこに管理栄養士の訪問が加わり、「在宅NST:栄養サポートチーム」が出来ているわけです。NSTチームとは、「医師」「歯科医師」「歯科衛生士」「看護師」「言語聴覚士」「管理栄養士」からなり、患者さんの状況に応じて多様な職種の専門家が自宅を訪問し、治療効果を高めるための栄養改善をおこなう仕組みです。
Eさんは、嚥下領域に詳しい歯科医師にかかり、昨年、新しい義歯を手に入れました。歯が入ることで顔の表情もしっかりして、口腔内、嚥下もさらに改善し、リハビリの内容も進化。管理栄養士さんとタッグを組んだ家族の手作りの食事をとって、栄養状態は良好でベストの体重を維持しているそうです。
■目にも美味しい食事を提供
お粥を作るときのゲル化材、ゼリーなどを作るときのゲル化材、温かい食事はこちら、お肉の場合はこれがいいと、複数のトロミ剤、ゲル化材を使い分けているEさんの奥さんと娘さんは、月2回訪問している管理栄養士の村田味菜子さんのアドバイスを受けて、より安全で、栄養バランスの整った食事を作っています。その上、見た目にも美しくて思わず手がのびるような仕上がりは、2016年12月「トロミ剤ソフティアを使った嚥下食レシピ大賞」を受賞した程なのです。⇒口から食べる楽しみを守りたい・愛情あふれるケーキが嚥下食レシピ大賞受賞!
■雛祭りのひし餅を意識
3月2日のメニューは、雛祭りのひし餅を意識した4色を重ねたお寿司でした。まずは米粉に水を混ぜて熱を加え、ハチミツと酢を足してすし飯風にした白。それをふたつに分けて、ひとつには桜でんぶを混ぜ込んだピンク色に。黄色の部分は、いったんフライパンで炒ってからミキサーにかけた卵。土台の緑色はミキサーでいっそうなめらかさを増したアボカドです。
■食べることは生きること
アボカドと卵は、比較的簡単にEさんにふさわしい柔らかさとなめらかさに調整出来たのですが、難しかったのは米粉の扱いでした。ダマができたり、冷めると団子状に固くなってきたり。村田さんの指導で、初めから作り直しました。「食べることは生きること」です。一部が内径2~3mmの狭さになっているというEさんの食道に、せっかくの食事が詰まってしまっては台無しですから、楽しく、笑顔いっぱいに調理中ではあっても、肝心なところは真剣にアドバイスを受けて進めていました。3度の食事を丁寧に作っているご家族に、改めて頭が下がりました。
4色の食材を重ねて形を整えてからお皿の上に出すときも、ひとつを練習用に、もうひとつをEさんに提供するという徹底した仕事ぶりです。
いよいよ食事がSさんのところへ運ばれました。飾りつけに季節のお花をあしらうところまでこだわって仕上げた美しい一皿です。
この日は言語聴覚士の川窪麻子さんの訪問と日程を合わせて、同時介入、村田さんが食事作りのアドバイスをしている間、Eさん本人はジェントルスティムを使いながらリハビリをしておられました。
栄養の専門家である管理栄養士さんがEさんのNSTチームの中心となり、すべての治療の土台となる栄養状態の改善を見守ってくれることは、日々の食事を用意する家族にとってどれほど心強いことでしょう。ジェントルスティムという最新機器によって、嚥下機能を改善する干渉波の刺激を取り入れはじめて数か月。進化を続けるEさんの在宅介護の日々を、そうした実践的な情報を必要としている人々に届くよう、これからも発信していきたいと思います。