出演者と観客が互いを称え合う至極の時間、『ジャージー・ボーイズ』各公演を観て

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、日比谷・シアタークリエでの公演を終え、10月8日(月)の秋田公演を皮切りに、岩手、愛知、大阪、福岡、神奈川と続く全国ツアー中です。シアタークリエは連日満員の大盛況でした。私も大好きな作品ですが、アイデアニュースで取り上げた中川晃教さんと海宝直人さん、中川さんと伊礼彼方さんの対談をはじめ、別企画では演出家の藤田俊太郎さんと伊礼さんのトークイベントを行ったり、観劇を通して、色々な方向から拝見しました。シアタークリエでの公演について、さらにその様々な方向を通して感じたことなどを、まとめてみたいと思います。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

今回の再演を観て一番に浮かんだことは、「そうだった! ミュージカルではじめて読売演劇大賞を受賞した作品だったんだ!」という事実です。仕事柄、日々多くの作品を拝見しますが、すごいと思う作品は、ライター仲間などで話していても共通することが多いですし、結果、各演劇賞を受賞することが多いです。やはり、多くの支持を集めるから受賞に繋がるわけで、『ジャージー・ボーイズ』が大きな結果を残した作品であることは、作品を見れば一目瞭然。春夏秋冬と4つの季節をめぐりながら、フォーシーズンズの物語を描くという脚本の構成の上手さと隙のなさ。フォーシーズンズの名曲を用いたナンバーの数々。「観客を描いたミュージカル」を具現化するために作り上げた、日本版演出のオリジナリティ。実力派俳優たちの魅力と技術力。スタッフ陣のプロフェッショナルな仕事ぶり。チームWHITEと、チームBLUEの2チーム制で、それぞれの魅力を堪能できること。日本でフランキー・ヴァリ役は中川さんしか演じられないというスペシャリティ。これらすべてが揃っていることが奇跡的で、だからこそ多くの人に支持される作品なのだと改めて腑に落ちたのです。

日本でミュージカルを見に通うお客様は、圧倒的に女性が多いですが、『ジャージー・ボーイズ』は男性客が多いことも特徴です。私も初演から様々な友人知人を誘って観劇しましたが、男性たちもとても楽しんでいました。普段ミュージカルを見ない人でも楽しめるところがこの作品のすごいところだなと思います。同様な反応を感じる作品は『レ・ミゼラブル』。共通点は男性の主人公の半生を中心に描かれた物語というところでしょうか。人生の悲喜交々のリアルさが男性にも響くのかと考えます。

私がこの作品にはじめて出会ったのは、2015年に東急シアターオーブで上演されたブロードウェイ版の来日公演でした。母と一緒に観劇し、共に大興奮したことをよく覚えています。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、この続きを掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■シニア層のお客様が大歓声をあげていた、2015年のブロードウェイ版来日公演

■片方を見るともう片方が見たくなる、スパイラルにハマっていった日本版初演

■チームWHITEは、ハーモニーがとにかく美しい。鳥肌が立った「Cry For Me」

■チームBLUEの新しさに心ときめく。『ジャージー・ボーイズ』は芝居なんだと

■フランキー・ヴァリの歌声の再現ではなく、中川さんの歌声が観客を物語に導く

■“5番目のメンバー”が思いを返す、あの空気。他の作品に観られない独特の空間

<ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』2018>
チームWHITE:中川晃教、中河内雅貴、海宝直人、福井晶一、太田基裕、阿部裕、畠中洋、ほかのみなさん
チームBLUE:中川晃教、伊礼彼方、矢崎広、spi、太田基裕、阿部裕、畠中洋、ほかのみなさん
【東京公演】2018年9月7日(金)~10月3日(水) シアタークリエ(この公演は終了しています)
【秋田公演】2018年10月8日(月・祝) 大館市民文化会館(この公演は終了しています)
【岩手公演】2018年10月11日 (木)~12日(金) 岩手県民会館
【愛知公演】2018年10月17日(水)~18日(木) 日本特殊陶業市民会館 中ホール
【大阪公演】2018年10月24日(水)~28日(日) 新歌舞伎座
【福岡公演】2018年11月3日(土)~4日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【凱旋公演】2018年11月10日(土)~11日(日) 神奈川県民ホール

<関連リンク>
『ジャージー・ボーイズ』のページ
http://www.tohostage.com/jersey/

ジャージー・ボーイズ 関連記事:

⇒すべて見る

中川晃教 関連記事:

⇒すべて見る

伊礼彼方 関連記事:

⇒すべて見る

海宝直人 関連記事:

⇒すべて見る

矢崎広 関連記事:

⇒すべて見る

太田基裕 関連記事:

⇒すべて見る

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■シニア層のお客様が大歓声をあげていた、2015年のブロードウェイ版来日公演

シアターオーブで上演される来日公演は、他の作品でもそうですが、シニア層のお客様が多く、この時も母と同世代の方々が観劇していて、大歓声をあげて盛り上がっていました。『ジャージー・ボーイズ』で描かれるフォーシーズンズが全盛の1960年代は、シニア世代が思春期の頃。シニア世代が当時を懐かしく感じるのはもちろんのこと、当時を知らない世代が今聞いてもハマる名曲の数々で、年齢差を飛び越えて全員が熱狂できる音楽。観客が笑顔で劇場を後にする様が印象的でした。日本版は上演されるのかな、されるとしたら誰が演じるんだろうか、フランキー役は中川さんかしら、他のメンバーは……と思いめぐらせながら帰宅しました。その後の日本版上演発表で、狂喜乱舞したこともよく覚えています。

■片方を見るともう片方が見たくなる、スパイラルにハマっていった日本版初演

日本版初演は、初日に観ました。事前に中川さんにインタビューしていたこともあり、新たに日本版演出で作られることは知っていましたが、劇場に入った時、舞台上のモニターに面食らい、どんな風になるんだろうかとソワソワしました。そして、はじまったチームREDの日本版『ジャージー・ボーイズ』にのめり込みました。初演初日は、来日版から約一年後でしたので、まだ記憶も新しく、かなり違う演出になったんだという驚きが強かったです。来日版は字幕観劇でしたし、そもそもこの作品は決まった音楽の尺のなかで物語が展開していくので、スピーディー。来日版と違うことに気がとられて、1回で見きれなかったこともあったように思います。観劇を重ねるごとに様々な発見をして、日本版の魅力にハマっていきました。

チームREDは、中川さん、トミー・デヴィート役の藤岡正明さん、ボブ・ゴーディオ役の矢崎広さん、ニック・マッシ役の吉原光夫さん。4人のボーイズがとにかく役にハマっていて惹き込まれました。中川さん、 トミー役の中河内雅貴さん、ボビー役の海宝さん、ニック役の福井晶一さんによるチームWHITEは、よりまとまった印象で、チーム感が強く感じました。結果、両方が良くて、交互に見たくなるというスパイラルにハマって行きました。この2チーム制が上手く効いているのが魅力のひとつだと思います。再演ではチームWHITEと、中川さん、トミー役の伊礼さん、ボブ役の矢崎さん、ニック役のspiさんによるチームBLUEになりましたが、チーム感が違いすぎて、初演同様片方を見ると、もう片方が見たくなるというスパイラルにハマっています。通常のダブルキャスト公演ならば、様々な組み合わせをみることができるのが面白さだったりしますが、グループを描いた物語だからこそ、チーム感、チーム愛がそれぞれに強く、よりチームの個性が出てくるのかなと思います。

■チームWHITEは、ハーモニーがとにかく美しい。鳥肌が立った「Cry For Me」

再演は、新しいチームが生まれたことに加え、演出をはじめとするスタッフワークがブラッシュアップされたこと、初演から出演している出演者がそれぞれにパワーアップしていることなど、多くの進化があって、作品全体が研ぎ澄まされたと感じました。すべてのエッジがよりクリアになったという感覚。とくにチームWHITEは、初演からの熟成度に感動しました。まずハーモニーがとにかく美しい。全員のハーモニーのなかから中川さんの声が立体的に浮き立ってくるような印象です。4人が声をはじめて合わせる「Cry For Me」は、鳥肌が立つ感動を劇場中で共有している感覚になりました。

そして、中河内さんが演じるトミーが、初演よりも若く可愛い印象で新鮮。中川さんのフランキーも、兄貴分のトミーに合わせるように可愛くなっていました。春ではまだ幼さが残る若者たちから物語がスタートすることで、全員の成長物語という色合いを強く感じます。初演から続いているチームWHITEならではの、チームとしての成長も物語と重なります。海宝さん自身の今の目覚ましい活躍ともリンクするような煌めくボブとの出会いは、セリフにあるように、グループの最後のピースがはまった様にぴったりですし、初演からさらに進化した芝居と歌声に魅せられました。福井さんのニックは、初演よりも弾けた自由度がフックになってキャラクターがいっそう際立ち、愛されたニックが脱退することの大きさに心が揺さぶられました。グループを去るときの後ろ姿が忘れられません。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

■チームBLUEの新しさに心ときめく。『ジャージー・ボーイズ』は芝居なんだと

そして、チームBLUEの新しさに、心ときめかせています。チームBLUEを見て、『ジャージー・ボーイズ』は芝居なんだと改めて思いました。伊礼さんがインタビューで語っていたラテンの血的なことなのか、男っぽい格好良さにシビれ、ヒリヒリする感覚がたまらなく、緻密に作り上げられたリアルな芝居に惹き込まれました。フランキーへの愛がだだ漏れの伊礼トミーの兄貴感とイタリア男感に呼応するように、中川さんも男っぽさが強く感じられるところが面白いです。芝居達者な矢崎さんのボブは、よく練られているというか、少年感を残す夏の頃と、プロデューサーとしてフランキーの手綱を握っていくまでの年月の変遷が巧み。さらに歌がめざましく上手くなっていて素晴らしいです。spiさんのニックは、まず大きくて可愛くて、愛すべきキャラクター。女性にモテるだろうなと納得させられます。そのニックがグループを脱退するとき、大きな背中が痛々しく、可哀想で堪らない気持ちになりました。チームBLUEは、中川さんと矢崎さんが続投で、伊礼さんがチームREDを観てリスペクトしていることもあってか、その遺伝子を少し受け継いているようなところも垣間見え、チームREDもまた観たいなと思わされました。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

■フランキー・ヴァリの歌声の再現ではなく、中川さんの歌声が観客を物語に導く

そして、現在日本でただひとりのフランキー・ヴァリである中川さん。『Can’t Take My Eyes Off You』で「君こそ奇跡〜♪」と歌われると、「あなたこそ奇跡!!!」と心のなかで答えてしまう人は多いのではないでしょうか。初演でも唸らされた歌声は、さらなる極上の歌声で、この先どこまで行くんだろうかと、もはやポカンとしてしまう程。インタビューで、私は聞く度に進化する歌声に毎回驚くと発言しましたが、今回も観る度に驚かされ続けています。フランキー・ヴァリの歌声を再現するのではなく、それを超えているというか、中川さんの歌声でもあるという個性と技術が、より観客を物語に導く力となっています。それは、ミュージカル作品としてのクオリティを押し上げている力でもあると思います。シングルキャストで、同じクオリティを保つだけでも大変なことだと思いますが、進化し続ける中川さんにただただ感動です。

中川さんのすごいところは、歌が絶品なだけでなく、芝居が素晴らしいこと。とくに、チーム感が肝となるこの作品において、回替りで2チームのフランキーを演じ続けているという事実。2チームの色が違う結果、違うフランキーが存在していて、両方きっちり成立させていることが見事です。物語の出発点である春のフランキーが違うと、成長していく物語全体を通してその違いが広がっていくように見え、特に秋から冬にかけてのフランキーが違うように感じます。言葉で表現することが私の仕事ですが、この違いについては感覚的なところというか、恥ずかしながら的確な表現がまだ見つかっていません。その違いは、ぜひ舞台を見て感じて頂きたいと思います。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より=撮影・岩村美佳

■“5番目のメンバー”が思いを返す、あの空気。他の作品に観られない独特の空間

ラストシーンで、トミー、ボブ、ニック、フランキーが、ひとりずつ、栄光の象徴でもある舞台セットの3階から長い階段を降りてきて、自分の人生を振り返り総括するとき、「じゃあね」的に客席に投げかけて去っていく姿が、それぞれに“らしくて”とても好きです。初演の初日、自然発生的に拍手が送られました。彼らの人生を見届けてきた観客が、エールを送るようなあの空気は、他の作品には観られない独特の空間だと思います。そして、中川さんがインタビューで語っていた「Who Loves You」。「誰が愛をくれるんだ? それは君たちでしょう?」と、私たち観客は投げかけられます。彼らが愛おしくてたまらない、そんな気持ちを込めて舞台へ思いを返す……そんな対話を通して、お互いを称え合うような、特別な思いが劇場に満ちる至極の時間です。

改めて『ジャージー・ボーイズ』の魅力を再認識する機会となった再演の舞台。観劇する度に涙している自分に驚きました。観客は観客役であり、5番目のメンバーであると、藤田さんをはじめ、キャストの方々が様々なところで発言していますが、客席に座って共に春夏秋冬の季節を巡っていくと、彼らの物語に一喜一憂するだけでなく、彼らの紆余曲折が自分自身の人生と重なってきたり、自分の人生は今どのあたりだろうかと考えたりします。フランキーが『Can’t Take My Eyes Off You』を歌う場面、観客が観客役としてこの作品に参加していることが特に活きるところ。その日によって、熱が違うことは、客席にいて強く感じます。春夏秋冬と旅してきた彼らの物語を知っている観客たちが、フランキーの成功を祝い、拍手を送る。観客役も再演でクオリティが高くなっているシアタークリエでした。全国ツアーでは、東京と比べると、観客が舞台観劇に必ずしも慣れている場所ではないそれぞれの土地で、どんな風に受け入れられるのか、私も何箇所か訪れて体感したいと思います。

そして、ここまで読んでくださった読者の方に、最後にひとつご提案です。これから舞台をご覧になるようでしたら、どちらのチームをご覧になるにしても、中川さん&海宝さん、中川さん&伊礼さん、両方の対談記事を改めて読んでから観劇してみてください。そして、観劇が終わってから再び読んで頂くと、さらに発見があると思います。自分が担当した記事ながら、読みかえすとまだまだ発見があって面白いです。全国ツアーの成功の先に、長く上演され続ける未来を願います。

Follow me!

“出演者と観客が互いを称え合う至極の時間、『ジャージー・ボーイズ』各公演を観て” への 3 件のフィードバック

  1. ももんが より:

    岩村さんの記事と舞台写真から、JBを体験した時間が蘇りました。
    (観劇というより、体験した、という感じです)
    個人的には、客席と舞台がこんなにも繋がっているミュージカルは
    初めてだと感じています。客席に座っていても、多方向から舞台を
    観ることができ、また、人物を感じることができるという演出に、
    本当に興奮しました。
    今回、念願で再演を観ましたが、一人観劇だったのが心残りで・・・。
    ぜひ、両親を連れて観に行きたい!!今は、しみじみ思います。
    素敵な記事をありがとうございました。

  2. あき より:

    シアタークリエでの千秋楽から一週間あまり。
    すっかりJBロスに陥っていましたが、作品を観た時の感動が瑞々しく蘇ってくるステキな記事でした。

    次は横浜凱旋に行く予定なので、それまでは今回の記事や中川さん&海宝さん、中川さん&伊礼さんの対談記事で時折作品を思い返したいと思います(^^)

  3. リナ より:

    ジャージー・ボーイズ愛に溢れる記事、楽しく読ませていただきました!
    コンサート版と再演しか観ていませんが、本当に奇跡の作品だと思いました。
    それも、それぞれのチームがそのチームにしかない奇跡を見せてくれていると感じます。
    それぞれ緻密な努力を重ねて奇跡に到達しているような…。
    観劇前に対談記事を読むことができたことも大きかったです。
    全国ツアーが終わる前に改めて読ませていただきたいと思います!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA