「音楽が好きじゃないフリをしてきた」、アルバム発売・伊礼彼方インタビュー(上)

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

ミュージカル・カバー・アルバム『Elegante』を発売した伊礼彼方さんにインタビューしました。なぜ“音楽活動解禁”をしようと思ったのか、14歳からの音楽への思い、演劇への思いを振り返りながら、その真意を丁寧に伺いました。超ロングインタビューです。(下)では『レ・ミゼラブル』について、ジャベールの役作りについて、東京公演が開幕してから伺ったお話を掲載します。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

――CDのお話を伺いたいのですが、伊礼さんが“音楽活動解禁”というのが分からない人もいると思うんです。

そうですよね。僕は14歳からギターを弾いているんですよ。14歳で音楽に出会って、THE BLUE HEARTSのコピーバンドを始め、音楽って最高!となって。体育館で文化祭をやったんですが、その時に集まった生徒たちの熱狂をいまだに忘れられなくて、ライブ、生の舞台にこだわっているんです。いつかまた文化祭を超える熱狂した男たちと女性たち、「ウオー!」「キャー!」みたいな声を浴びたいと思ってずっとやっていますが、なかなかそこには辿り着けていないのが現状です。当時の僕は無知だったことで演劇をすごく馬鹿にしていた人間で、演劇部に対してオタク系のイメージを持っていたというか。今の時代は違うかもしれませんが、我々が10代の、中学校や高校の演劇部って、眼鏡をかけた男の子と女の子しかいなかったイメージなんですよ。

――わかります。私も高校時代に演劇部の扉の前まで行きましたが、結局開けられなかったですね。

音楽も好きでしたが、吹奏楽部の世界も独特で、僕にとっては足を踏み入れる場所ではなかった。全てが交わる事のない、種類の違う人たちだったんですよね。今はすごく好きなんですよ。好んでインストやブラスバンドも聞くんですが、当時入れなかった理由はそこにあるんです。それと同じで、固定概念ですが今も日本全体に、ミュージカルをやってる方たちはどちらかというとオタクっぽいイメージがあると思うので、それを払拭したいんです。最近はアイドル的な若い人たちが活躍して、活動の幅を広げてきていますし、テレビに先輩方が出てくださっているから、少しずつその扉は開き始めていますが、僕みたいな偏見を持っている若者を減らしたいんです。

今の10代が、どう演劇やミュージカルを見ているのかわかりませんが、明らかに当時の僕は上から見ていました。「なんだお前ら、つまらねえ、日を浴びろよ」って(笑)。当時、1993年でJリーグ開幕した時期だったので、僕らはサッカーに没頭していました。多感な10代でしたね。もちろん上も下もないですよ。過去を消そうとは思いませんが、過去に上から見て荒れていた自分を認めて、受け入れて、今は正しい道に進もうと(笑)。「ミュージカルは良いですよ。演劇は素晴らしいですよ。疑似体験できるし、人生を変えてくれる。映画や読書と一緒ですね?」って。オーケストラを生で体験したら、やはりあの感動はリアルな舞台でしか味わえない。そういう活動をこれからしていこうと思っています。“Elegante伊礼彼方”として(笑)。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、伊礼さんと音楽と芝居とミュージカルの関係について、学生時代からこれまでを深く振り返っていただいたインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。5月28日(火)日掲載予定のインタビュー「下」では、『レ・ミゼラブル』に実際に出演してから、どのように思ったのか、ジャベール役についてバルジャン役の3人について伺い、さらに昨年上演された『ジャージー・ボーイズ』についても伺った超ロングインタビュー、後半の全文と写真、公演写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■強いメッセージがあるちょっと トゲトゲしいのが好きだった

■役を通している時は、すごく素直にいろんな事を受け入れられる

■僕にとっての師匠は、それぞれの役……ようやくスッキリしました!

■「僕は音楽が好きじゃないですよ」というキャラ作りが辛くなった

■キュンキュンしたい方は『Elegante』を(笑)

■ミュージカルの曲が オリコンに入って世の中に出てきてほしい

<伊礼彼方 ミュージカル・カバー・アルバム『Elegante』(エレガンテ)>
発売:2019年4月17日
価格:¥2,500(税抜) ¥2,700(税込)
仕様: CD+DVD / 20ページブックレット
品番:YRCN-95307
発売元:SLENDERIE RECORD / よしもとミュージックエンタテインメント
公式ページ
http://yoshimoto-me.co.jp/artist/slenderierecord/discography_detail/3919/

<伊礼彼方『Elegante』リリースイベント>
ミニライブ+CD購入者対象特典会(握手+サイン会)
【東京】2019年5月26日(日)13:00~ タワーレコード渋谷店(終了)
【愛知】2019年6月23日(日)18:00~ 名古屋パルコ西館
【大阪】2019年7月13日(土)19:00~ タワーレコード梅田NU茶屋町店
【福岡】2019年8月17日(土)18:30~ 博多・HMV&BOOKS HAKATA
【北海道】2019年9月14日(土)18:00~ HMV札幌ステラプレイス
詳細はこちら
http://yoshimoto-me.co.jp/artist/slenderierecord/news_detail/5305/

<ミュージカル『レ・ミゼラブル』2019年全国五大都市ツアー公演>
【プレビュー公演】2019年4月15日(月)~4月18日(木) 帝国劇場(終了)
【東京公演】2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
【愛知公演】2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
【大阪公演】2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
【北海道公演】2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式サイト
https://www.tohostage.com/lesmiserables/

<関連リンク>
SLENDERIERECORD伊礼彼方『Elegante』
http://yoshimoto-me.co.jp/artist/slenderierecord/discography_detail/3919/
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伊礼彼方 Instagram
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伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■強いメッセージがあるちょっと トゲトゲしいのが好きだった

僕は武道館に立つのが夢で、ずっと音楽活動をしてきたんです。途中モデル活動もしていますが、全て音楽のコネクションを作るため。アルゼンチン出身として、外国人役のエキストラみたいな番組に出た事もあるんです。もう出られる所は何でも出てやると。そして18歳の時に、個人事務所の社長さんを紹介して頂いて、そこでアイドルバンドのような、THE LANTERNというバンドを組まされました。3年間活動したんですが、僕はアイドル性がありませんでしたからね。当時から、THE BLUE HEARTSや尾崎豊に影響されていたので、強いメッセージがあるちょっとトゲトゲしいのが好きだったんです。「愛とか知らないよ」みたいな。

――今は愛の歌を歌っているのに(笑)。

はい! 今はそうです。愛は深いんですよ。愛なしじゃ生きていけませんから。人って変わるもんです(笑)。

――(笑)。

そういう時期があって、バンド活動をしながら路上でお客様に聞いていただいて、手売りでCDを売ったり、チケット売ったり。

――それがアイドルバンド活動時代。

はい。バンドのギターは仮面ライダーに出ている俳優でした。当時僕はまだ芝居をやっていませんでしたが、身近にはそういう人はいました。ドラムは本格的なドラマーで、彼は今も活躍しています。やはり、やりたい音楽と方向性が違うとどうしてもストレスが溜まってきますし、今みたいに柔軟に物事を捉えられたらいいんですが、18歳ですからね。「えっ、エレキ使わねえの? ディストーションでガーン!でしょ。男は!」と思っているのに、アコースティックギターを持たされて、しまいには12弦ギターで、カントリー系のアレンジにさせられたり。それはそれで良い経験でしたが、当時の僕にはしんどくて、21歳ぐらいで脱退したんです。

――なるほど。

そこからひとりで活動しはじめました。路上ライブしかありませんでしたね。あとは月1のライブハウスの対バン。知り合いの制作の方に声を掛けてもらって、路上で聞いてもらってチケットを売って、ライブに流す、聞いてもらうという活動を23〜24歳ぐらいまで、再び3年ぐらいひとりで活動して、サポートメンバーにサポートしてもらっていました。結局ずっと芽が出ず、当時僕はいろんなアルバイトをしていました。

――昨年の中川(晃教)さんとの対談でバイト時代のお話が出ましたね。

ちょっとランクの高いキャバクラで、新しくお店が出るからというので、マネージャーの下ぐらいまで行って、なかなか良いお金を頂いていたので、じゃあもう音楽を辞めてこういう仕事でやっていこうかな、いずれ自分で店を持とうかな、イタリアンも好きだし、飲食店をやろうかなと思った頃に、路上ライブで『テニスの王子様』の制作の方に「オーディションを受けませんか」と声を掛けられたんです。もう辞めようか辞めまいか、これを最後にしようか、もう1回ぐらいライブをしようか、うじうじしていた時でした。路上ライブをやっていると、「うちの事務所に来ませんか」「こういう良い話がありますよ」という人はたくさんいますから、騙されてたまるか!と思いましたが、いろいろ資料をもらって、『テニスの王子様』という漫画があるんだ、じゃあこれは本当かもしれないな、受けてみようかなと。それで、受けてみたら受かった。だから演劇の「え」の字も知らないし、ミュージカルの「M」の文字も知らなかったんです。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■役を通している時は、すごく素直にいろんな事を受け入れられる

――『テニスの王子様』に出演して、そこから舞台出演が続いていくことになりますが、舞台を続けようと思った理由が、テニミュのキャストが集まるドリライ(Dream Live)で、先程の文化祭のような景色を見たからと、以前他の媒体で伺いました。

そうなんです。僕は、横浜アリーナに立つのもずっと夢だったんです。やはりアーティストって、大きいホールに立ちたいもので、「夢が叶った」と思いました。もちろんひとりではないですが、興奮しましたし、素晴らしいなと。「アリーナーーー!」という名言を僕は残しているんです(笑)。それが代々受け継がれて、佐伯虎次郎という役は場所がアリーナじゃなくても、「アリーナ!」と言う。後輩はいい迷惑ですよね(笑)。それと、「無駄に男前」というのも、僕がやらせてもらったから付いたキャッチフレーズで、それを許斐(剛)先生がのちに漫画に活かしてくれたんです。

――テニミュでやれる事はやり切ったという感じですね。

そうですね。それでも、音楽をやりながら舞台をやっていましたが、何かすごく中途半端だなと思っていました。その次がスタジオライフさんの『カリフォルニア物語』のオーディションでした。当時はフリーだったので、いろんな方に「オーディションないですか」と伺っていて、スタジオライフさんが今ちょうど客演を入れようとしていると聞いて、よくわからないけれど、とりあえず行ってみたらヒロインに決まり……。娘役をやったのですが、それはそれで勉強になりました。

――次が『エリザベート』のルドルフ役ですね。オーディションを経て合格し、帝国劇場を踏んだことは皆さんご存知だと思います。普通はそこから、ルドルフ路線みたいなところがあるじゃないですか。

プリンス系統ですね。

――ミュージカルを知らなくて、ルドルフをやって、帝劇(帝国劇場)に出て、ある意味、ミュージカル界の頂点を見てしまったわけですよね。こういう世界なんだというのを。その時にどう思いましたか?

演劇も知らない、ミュージカルも知らない、帝劇の偉大さもわからない。僕にとっては、帝劇より武道館、渋公(渋谷公会堂)が僕にとっては聖地で、「帝劇って何? 武道館より小っちゃいじゃん。渋公と同じぐらい?」から始まっていました。改めて考えると帝劇に立たせてもらっているのはすごく光栄なことじゃないですか。ミュージカルやってれば皆が立ちたい場所ですよね。当時はそのことに対しても何も感じませんでした。でも、不思議だったのは音楽をやっている時は素直になれないのに、なぜか舞台に出会い、役を通している時は、自分がすごく素直にいろんな事を受け入れられる、人の言葉をすんなり受け入れられるな、というところから舞台への興味が始まったんです。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■僕にとっての師匠は、それぞれの役……ようやくスッキリしました!

この不思議な感覚は何だろうと。今まではコール・アンド・レスポンスを求めてきたはずなのに、ひとつベールを通して自分を見せる事の居心地の良さというか。すごくやりやすかったですし、ポジティブに包まれたんですよね。自分を出さなくていいんだ……そう、多分、もう自分を出す事に疲れてたんです。

――10代から音楽でずっとやってきていたことに疲れていた。

ずっと自分を出し続けていたし、ネタ切れしていたこともあって、もう僕は歌詞も書けない、曲も書けない。訴えたい事ももうなかった。インプットをしていなかったから、アウトプットするものがもうなくなってしまったんですね。当時読む本といえば、今もそうですが、ビジネス本や伝記ばかりで、もっと世界に目を向けていれば、本当はいろんな情報を基に曲を書き続けられたのでしょうが、僕のなかで、蓋をされて止まってしまっていたんです。それがミュージカルと出会い、役を扮してやることで、今まで得られなかった情報、新しい感情を知ったんです。それまで映画もほとんど見なくて、小説もほとんど読まなかったですが、人の人生を生きてみたら、自然に心が痛くなったし、今まで感じたことのなかったような人の痛みをわかるようになりました。そして、今まで音楽活動で否定され続けていた自己表現が、舞台だと評価され受け入れられた。だから、僕はすごく役に成長させられているんです。

――人格形成は役で行われたんですね(笑)。

20代からはそうなりました。もしかしたら、昔だったらそういう師匠がいて、師匠にいろんな事を教わっていくのかもしれない。僕にとっての師匠は、それぞれの役なんですね。……今、話していてようやくスッキリしました! 僕はずっと師匠を探しているんですが、みつからなくて。もちろん尊敬する方、カッコイイと思う方はいますが「この人!」という方がいなくて、ずっと悩んでいたんですが、そうか……役がそうさせてくれるんだ……。毎回、自分が演じているんですがその役が色んな事を僕に教えてくれるんです。

――自分では考えつかないような事がきっとたくさんありますもんね。

疑似体験するので、世界が一気に広がっていったんだと思います。子どもが毎回新しいおもちゃを与えられているような感じ。「うわ、何これ、楽しい!」「これとこれを繋ぎ合わせるとまた違う面白さがある!」ということを、この10年以上ずっと経験しているから、飽きずにやれるんです。それに、舞台の上では自分を発信しなくていい。役をどれだけ解釈しているかを見せていくので、そういう意味では、楽という言葉は適していないかもしれませんが、自分じゃないから、人の言葉だから、たまたま自分の体を使って表現しているだけなので、僕はそこにすごく魅了されてこの世界を続けているんです。だからこそ、そこに魅了されながらまた音楽に戻ることは、僕にとっては結構、自分自身への侮辱だと思っていて。「諦めたんだろう? 捨てたんだろう? 軽々しく戻れないよ」とずっと過去の自分に言われていたから、今まで音楽をやれませんでした。1度CDを出させてもらいましたが、企画物の作品を頂いて、それに乗っからせていただいた。

――舞台出演のオファーと、ある意味同じですね。

同じような感覚だったかもしれませんね。でも、勿論あれがしたいこれがしたいというのはあったので、選曲もして色々とこだわりもしましたが、今ほど音楽活動として向き合ってなかったですね。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■「僕は音楽が好きじゃないですよ」というキャラ作りが辛くなった

――そこから演劇が、自分の生きる場所としてスムーズになっていったんだと思いますが、そのなかで、気持ちが変わって、音楽活動再開を自分で許せるようになった具体的なきっかけは何だったんですか?

映像で具現化するならば、鏡を見るたびに、自分の目の奥に音楽をやりたがっている自分が映るんですが、パッと顔をそらしていたんです。そういう自分を認めてこなかったから、鏡を隠す、家に鏡を置かない、みたいな作業をしていて。

――そこまで!? 徹底していますね。

映画のワンシーンにするならそのぐらいの感覚で、自分を見ないような環境を作ってきたんです。

――あえて認めないようにしてきた。

音楽が好きじゃない。僕は芝居の人間だから、音楽のことなんか好きじゃないんだと。実際は読めるはずなのに、「音符を読めない」みたいなフリをしていた。でも、本当はちょっと読める(笑)。自分で譜面を作っていましたし。もちろん、コード進行で譜面を作るので、難しい譜面は作れませんが、そういう作業をしてきたから、読めないわけはないんです。ある意味、「僕は音楽が好きじゃないですよ」というキャラ作りを、ずっと演じてきたのが辛くなっちゃったんですね。

――辛くなったから認めた?

具体的に言えば2つの要素があります。僕は自分の好きな芝居だけをやってきました。自分のやりたい役、やりたい事。具体的に変わろうと思ったのは、支えてくださった人たちへの恩返しをしてこなかったことが大きいんです。「あれ? このままだと、僕はひとりになっちゃうな」と思った。

――やりたい事だけをやっていたら?

はい。スキルは上がっていっているし、評価もされますが、人がついてこないな、人に伝わっていない気がするなと。

――例えば、求められる事もやってみようと?

そうです。芝居に対してはやっているんですが、わかりやすく言えば、ファンの方が求める事に100%応えてこなかった。それをすると、またありのままの自分でいられない、飾らなきゃいけないと思っていたのですが、先日ライブをやってみたら「そんなことないんだな、ファンの方々は一番の味方なんだな」と改めて実感しました。

――今、37歳ですよね。結構時間がかかりましたね。

僕は時間がかかるタイプなんです。自分でもビックリします。歳を重ねてもどこか素直になれない突っ張ってる自分がいて、その一歩が踏み出せない。でもそれが、芝居の世界、ミュージカルの世界でこの仕事を10年以上やってきて「伊礼君って良いよね」って背中を押してくれようとしている方たちが増えてきて多分その人たちに促されたんだと思います。「この方たちを幸せにしたい。期待に応えたい」って。もしかしたらこれはファンの方も同じじゃないかと。歌でもライブでも、「これをしてほしい」という事をしたら、もしかしたら彼女たち、彼たちはその期間、人それぞれかもしれませんが、すごくハッピーに生きられたりするのかなと。こういう事が足りないのかな、素直になってみようかな、と。

――それが今だったという?

数年前からそうですね。レミゼ(レ・ミゼラブル)のオーディションを受けようと思ったのも、そのタイミングなんです。

――CD発売イベントを帝劇でできる事も、レミゼがあるからですよね。帝劇でCD発売イベントができるのはすごい事ですね。

ありがたいですね。まさかここまで皆さんが力を貸してくださるとは思わなかったから、僕も驚いています。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■キュンキュンしたい方は『Elegante』を(笑)

――CDの中身についてですが、オリジナル曲ではなく、ミュージカル曲のカバーアルバムにしたのは、どういう思いですか?

先ほどの話の延長になりますが、自分の思いを伝えるならば、曲を書くより、やはりみんながそれぞれ作品や役に思い入れがある楽曲を残したほうが絶対に嬉しいだろうと思ったんです。「僕の思いを曲にします」というのは前にやった事と同じで、自己中心的な、一方通行になってしまう気がしました。そうじゃなくて「共有」したかったんです。この「共有」という言葉を今後もすごく大事にしていきたいんです。

それぞれ僕との出会いは色々ですよね。『アンナ・カレーニナ』から知ってくれている人もいれば、『王家の紋章』や『ジャージー・ボーイズ』で初めて見てくださった方もいる。色んな方がいらっしゃって、みんなそれぞれ出会うタイミングが違いますが、作品の曲を聞くと、その時の記憶を思い出すでしょう? そういったアルバムにしたいと思ったんです。もし2つめ、3つめとCDを出させていただく可能性があれば、もっとアルバムに入れたい曲が本当はたくさんあって、それぞれに思い入れがあります。まずはそこから始めないと、僕は自分自身にも、世の中にも、ここまで支えてくれた方にも失礼だなと思うんです。そこを飛び越えていきなりオリジナルというのは、選択肢としてはありません。「いずれオリジナルを」という話になったとしても、その時は多分、相当壁を超えた時だと思います。

――ミュージカルで活躍されている、色々な方のCDを聞いていますが、伊礼さんの『Elegante』を聞くとキュンキュンします。「何だ、この愛のささやきの詰まったCDは!」って(笑)。

「愛なんか要らねえんだよ」と言っていた人間がね(笑)。

――前半なんて特に。CDは歌い手それぞれの個性が出て面白いですよね。そのなかで「伊礼彼方は愛で来たな」と(笑)。『アンナ・カレーニナ』や『グランドホテル』など、皆さんが「これをもう1回聞きたいだろう」というものを集めてくださったんですか?

はい。思い入れがある作品からと、なおかつ未来がある2曲も収録してみました。舞台では演じられなくても、ライブだったら聞いてもらう事は可能だと思ったので、やったことがないものを入れました。

――聞きたいであろう曲と、歌いたい曲で構成したんですね。

さっきの話に戻りますが、どの作品も、自分に愛を教えてくれているんですよ。

――「伊礼彼方の人生は愛がテーマ」という感じですね。

すごく純粋な愛から不倫から、いろいろありますが、やはり人と接する事が広がりをもたらしてくれるんだよ、ひとりじゃないんだよと。どの役もそうですが、役に救われているからそういうものを残したいです。

――では、その愛が詰まったCDをまだ聞いていない方に向けて、メッセージをお願いします。

それは僕が言うより、岩村さんが仰ったように、いろんな役者さんのCDを聞いている方がキュンキュンするCDだと。僕はキュンキュンさせようとは思っていないので、逆に新鮮で嬉しいです。これがもし「キュンキュンさせてやるよ!」というのであれば、また違うかもしれませんが(笑)。これまで何度も僕を取材してくださっている岩村さんが、キュンキュンしてくださるなんて、すごく嬉しい言葉なので、これに尽きるでしょう(笑)。キュンキュンしたい方は『Elegante』を(笑)。

――キャッチコピーですね(笑)。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■ミュージカルの曲が オリコンに入って世の中に出てきてほしい

おそらく、伊礼彼方って歌うイメージがないと思うんです。

――芝居の人というイメージ?

僕もずっとそういうキャラクターを作ってきたので、世の中には「歌が下手」と言われていたんです。

――中川(晃教)さんも「彼方君はうまいから!」と言っていましたよ。

あいつだけ言ってくれるんですよ。あいつは音楽活動にも本腰入れてるアーティストでしょう? だから、アッキー(中川)が言ってくれるとすごく嬉しい。天才が言ってくれると励みにもなりますし。そういった言葉をちゃんと受け止めて、みんなに発信していこうと。別に「伊礼彼方は歌えるんだよ」っていうことを言いたいわけじゃないですが(笑)。

――芝居じゃなくて音楽だけでも届けられるよ、と。

そう、音楽には音楽の良さがあるよねって。そこに気づいたというのもあります。気づいたというか、ミュージカルになると、僕は歌寄りでなく芝居寄りになりますが、歌は歌でちゃんと歌いたいと思うようにもなりました。ミュージカルから誕生した名曲はたくさんあります。だから、芝居歌じゃない、音をきちんと届ける仕事、そういう場も設けたいなと思っています。と、同時にミュージカルを普及したい思いもあります。

――ファミリーマートで『グランドホテル』が流れるのもすごいですね。

とても良い曲ですし、これがミュージカルの曲なんだと、知るきっかけにもなってほしいです。

――曲としても良い曲を集めた。

ミュージカルの曲がオリコンに入って世の中に出てきてほしいですね。多分、外国ならばそういうことがあるんでしょう。一般の方がふつうに「ラジオでかけてください!」と言うようになってほしいんです。井上(芳雄)さんが歌ってもいいし、石丸(幹二)さんが歌っていてもいい。誰の曲が浸透しても構わないから、日本がそうなってくれると、もっと豊かになるんじゃないかと。それはクラシックに関しても思っています。僕自身がクラシックに詳しくないので、具体的な曲は語れませんが、今インストやいろいろなクラシックの曲を聞いていて、やはり名曲揃いなんですよね。何百年も前に書かれた曲を知らないでいることが、すごく勿体ない、損だなと思うんです。僕はそこまで足を踏み入れられませんが、きっと美術などもそうなんでしょう。そういったいろんなジャンルが日本全体で当たり前のように生活の一部として存在できたら素敵ですよね。僕自身が、ミュージカルの曲に10代の時に出会いたかったです。

――ある意味、偏見を持たずに済むような、ミュージカルの曲も普通に選べる状況を作りたいということですよね。

そう、ロック、ポップ、韓国、洋楽、ミュージカル、レゲエ、クラシック、ジャズ何でもがある。全てそれぞれに良さがあるわけだから、そうやって普及していきたいですね。だからこそよしもと(株式会社よしもとミュージック)さんという、世の中に知られている会社から出させて頂いたことに、意味があるんじゃないかと。藤井隆さんのお力も借りることができて、ミュージカルとは違うところにもアピールできるじゃないかと。どちらかというと、僕個人を普及させたいのではないんです。

――自分自身じゃなくてミュージカルの曲や世界を届けたい?

はい。僕を通して、このCDをきっかけに、ミュージカルに接する機会が身近になればいいですね。それと余談ですが、SLENDERIE RECORD(スレンダリーレコード)さんのCDには、“サイン広場”という場所があるんですよ。ブックレットに藤井さんが、必ずCDにサインしやすいページを作ってくれていて。手に取って下さるファンの気持ちをちゃんと考えてるところがさすがです。さらに、藤井さんのこだわりなんですが、表紙にタイトルがない。

――そうですよね。衝撃でした。帯を取ったら名前がない!?と。

でしょう? 僕も衝撃的でした。ポスターもめちゃくちゃシンプル。でも、そこがおしゃれなんですよ。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

※伊礼彼方さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは6月27日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

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“「音楽が好きじゃないフリをしてきた」、アルバム発売・伊礼彼方インタビュー(上)” への 8 件のフィードバック

  1. らぶりぃ より:

    伊礼さん、レミゼご出演とCDリリース誠におめでとうございます♪
    これまでの軌跡と現在の活動に至る心境の変化は、まさにスクラップ&ビルドですね!岩村さんのお蔭でその流れを明確に知ることができ、深く感謝しております。
    現在は御園座、9月の大千穐楽まで熱くジャベールを生きて客席に本作ならではの感動を届けてくださいませ。
    今後のご活躍も期待しております!!!

  2. ミルフィーユ より:

    CD「Elegante」を聞きキュンキュンした一人です、渋谷のイベントとても良かったです。
    お芝居はもちろん伊礼さんの歌素敵だなぁ、もっと生で聞きたいなぁと思いました。今後の音楽活動にも期待しております。

  3. ゆか より:

    JBで伊礼さんのトミーにどハマりして、この記事が出ることを知り迷わず有料会員の登録をしました!伊礼さんはこういうインタビューで飾らずご自身の言葉で思いを伝えてくれる、そういうところが好きで、それは彼の芝居にも出ていると思います。演じている感がない、真っ直ぐな芝居が好きです!読み応えのあるインタビュー、伊礼さんの言葉を引き出してくれた岩村さん、ありがとうごさいました!

  4. ルナルナ より:

    伊礼さんにこんな色々な過去があったなんて・・・と心が苦しかったです。でもどんな辛いことも身にならない経験はないと私も思います。
    私は「TENTH」からのファン新参者なので1枚目のCDでは共有出来る曲は無くて残念でしたが、これから2枚目3枚目を楽しみに。一緒に想い出作って行きましょうね。

  5. のこ より:

    伊礼さんのイメージが変わるような、とても興味深いインタビューでした。
    読んでいて、さらに伊礼さんへの興味が湧いてきました!

  6. まなまな より:

    ジャージーボーイズで伊礼さんのファンになりました。以前の作品や歩みを存じ上げなかったので、伊礼さんご自身が「変わった」と仰っていたのがそういうことだったんだとよくわかりました。また、こんなに率直に丁寧にお話してくださるのが素敵だなと惚れ直しました(笑)
    読み応えのあるインタビューありがとうございます。続きも楽しみにしています。

  7. ミカポン より:

    ここに来るまでの時間は必要な時間だったと思います。

  8. アスタリスク より:

    最近ファンになったばかりなので、活動の初期のお話から現在までの思いについてたっぷり読めてとっても良かったです!

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