「10年でガラッと変わるジャベール、好評です」、伊礼彼方インタビュー(下)

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さんのインタビュー後半です。5月28日(火)に帝国劇場公演を終える『レ・ミゼラブル』は、この後、名古屋、大阪、福岡、札幌の各地で、9月17日(火)まで上演されます。新キャストとして、初めてジャベール役に取り組んだ伊礼さん。どんな風にジャベール役を作っていったのか、対決する相手である3人のジャン・バルジャンの違いとは、昨年上演された『ジャージー・ボーイズ』についてなど、後半も超ロングインタビューです。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

――レミゼは、譜面をしっかりと守らなければいけないと思いますが、取り組んでいていかがですか?

例えていうと、肩身が狭いです。やはり何十年も上演されている作品を、「じゃあ僕が変えます」というわけにはいきません。新演出に変わった時に、いろんな曲、箇所がカットされて、より物語を伝えようと変化してきた作品のなかで、さらにいろんな事にチャレンジしようと思っていましたし、今もチャレンジしている最中です。ただ、やはり世界共通な作品で、大枠は決まっているなかで、新しく何かを変えるとなると、歌い方、掘り下げ方、あとは本人の持っている存在や色でしか勝負できない、伝えられないということはよくわかりました。

――クリス(トファー・キー)さんの演出はどうですか?

今回、クリスと一緒にやれたことはすごく価値がありましたし、多分、彼のおかげでレミゼに受かったと思います。オーディションでも「君は芝居の人間だから、ぜひ芝居を大事にしてほしい」と早々に言われて、1回で受かったんです。これはすごくありがたいことらしいんですね。現場でも、僕に対するノートは「歌いすぎるな」と。ノートは全員に行いますが、歌いすぎないことは「for you」と言われました。僕だけなんだって。彼は、それぞれの持っている色をうまく出そうとしてくれているんですよね。伊礼だったらこう、(上原)理生だったらこう、川口(竜也)さんだったらこう、というものがある。

僕は、基本的にはなるべく台詞にするようにはしていますが、今回心がけているのは、とにかく譜面を大事にすること。だから、自分で勝手には変えていません。音楽監督の山口(琇也)さんに、こういう風にしたい、こういうオーダーが出ている、と相談しています。ちゃんと譜面に則って演じていきたい。なぜならレミゼは音楽に全てが書かれているから。音楽が全部語ってくれているんです。だから音楽がとても大切。極端な言い方をすると、芝居ができない人がやってもそれなりに見える。成立してしまう。でもそれでは勿体ないと思うので。

――ご自身のジャベール像についてお聞きしたいのですが、冒頭の囚人・バルジャンとの対面から市長になったバルジャンとの対決までが8年。そしてさらに対決から次にバルジャンと会うのは10年後ですよね。10年経って再びジャベールが出てきたら、その顔が歪んでいて驚きました。

多分、5年で人はきっと変わると思うんです。いや、2、3年とかで変わるかな。

――この間の10年を、伊礼さんはどういう風に作られていますか?

言葉にすると、いろんな事を言わないといけないんですが、つい最近の自分みたいで。自分の親父みたいなのかな? 凝り固まったミイラ。人って水分がなくなっちゃうとカチカチになるでしょう? あれを元に戻せますか?

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、『レ・ミゼラブル』に実際に出演してから、どのように思ったのか、ジャベール役について、バルジャン役の3人について伺い、さらに昨年上演された『ジャージー・ボーイズ』についても伺った超ロングインタビュー、後半の全文と写真、公演写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■ジャベールの説明、言葉にするのは難しい。血栓ができるイメージなのかな

■シュガーは優しい、光夫さんは包容力、福井さんは新鮮

■長いこと脇の人に魅力を感じてやってきて、極めたいと思っていた

■レミゼに出演して、歌は大事だなと、音楽と寄り添わなければいけない

■(チームBLUEは)ぴろしがきっぱりREDを捨てた。男だなと!

■光夫さんがレミゼに何を求めて出演し続けているのか、知りたかった

<伊礼彼方 ミュージカル・カバー・アルバム『Elegante』(エレガンテ)>
発売:2019年4月17日
価格:¥2,500(税抜) ¥2,700(税込)
仕様: CD+DVD / 20ページブックレット
品番:YRCN-95307
発売元:SLENDERIE RECORD / よしもとミュージックエンタテインメント
公式ページ
http://yoshimoto-me.co.jp/artist/slenderierecord/discography_detail/3919/

<伊礼彼方『Elegante』リリースイベント>
ミニライブ+CD購入者対象特典会(握手+サイン会)
【東京】2019年5月26日(日)13:00~ タワーレコード渋谷店(終了)
【愛知】2019年6月23日(日)18:00~ 名古屋パルコ西館
【大阪】2019年7月13日(土)19:00~ タワーレコード梅田NU茶屋町店
【福岡】2019年8月17日(土)18:30~ 博多・HMV&BOOKS HAKATA
【北海道】2019年9月14日(土)18:00~ HMV札幌ステラプレイス
詳細はこちら
http://yoshimoto-me.co.jp/artist/slenderierecord/news_detail/5305/

<ミュージカル『レ・ミゼラブル』2019年全国五大都市ツアー公演>
【プレビュー公演】2019年4月15日(月)~4月18日(木) 帝国劇場(終了)
【東京公演】2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
【愛知公演】2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
【大阪公演】2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
【北海道公演】2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式サイト
https://www.tohostage.com/lesmiserables/

<関連リンク>
SLENDERIERECORD伊礼彼方『Elegante』
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ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

※ここから有料会員限定部分です。

■ジャベールの説明、言葉にするのは難しい。血栓ができるイメージなのかな

――水分を加えたところで戻らないですね。

あの10年で、ジャベールの心がどんどん硬くなっているんですよ、多分。心臓の筋肉が硬くなっていて、部分的にしか動いていないイメージ。

――だから歪んでいる?

それが法で正義を貫くということなんでしょうが、あまりの視野の狭さがそうさせているんじゃないかと思っていて。

――10年かけてどんどん固まって、一部しか動かなくなってしまった状態で出てきている。

というのはありますね、簡単には説明できませんが。

――あの時点でもう「ジャベール大丈夫か?」と思いました。

僕は母親がキリスト教徒だからよくわかるんですが、信じているのが神と自分のみなんです。そうなるとどうなるかというと、人の意見を受け入れない。言葉が届かず、全部が手前で落ちてしまう。そして、自分に届かずに落ちた言葉は全部悪に見えているという感じかな。だから真っ暗なんですよね……これ、伝わりますか?

――はい。そうすると、演じている時は結構しんどいですよね。

ものすごくしんどいです。そう思って生きてきた人間に、バルジャンは許しを与える。自分が捕まって殺されてもいい状況なのに、捕まえようと思っている人間から逃がされるというロジックがわからない。例えば、ルービック・キューブでどうやって色を揃えればいいのかがわからない状況。赤を揃えたけど、青が揃わないといって、気が狂っていく感じ。「ンー! ンー! ンー! わからない!!!!!」という感じのまんま死んじゃう。投げ出せばいいのに、投げ出さずにずっと、何度も何度もやるんです。

――そうすると、自殺は混乱のまま?

混乱のままというか……。

――ジャベール3人の座談会の時は、演じる前の想像で、自殺を「解放」と仰っていましたが。

はい。でも解放は解放だと思います。意識的に解放するのではなくて、これしかないんだと。「俺はここまで来てる」ということに気づいてないんじゃないかな?

――気づかないまま飛び込んだ?

と、僕は思っています。本人の理性で解放に向かってるんじゃなくて、神が「君はこのままは生きていけないよ」と導いてくれた感じ?

――ある意味、最後を神に委ねて。

そうですね。星を見てもいつも味方だったのに、全く星が見えなくなっちゃった。星が輝いているのに「あれ、何も見えない」と。あのシーンは、視界が、映像だったらキューンと小さくなっていって、一生懸命に指を入れて広げようとしても全然広がらない。そうしたらもう何も見えない。見えなくなったらもう落ちてましたという……。

――なるほど! この解説すごく面白いですね。それを明かすのが、役者としてどうなのかというのは別として。

すごく恥ずかしい……(照)。

(現場全員爆笑)

ジャベールの説明、難しいんです。絵は見えますが、言葉にするのは難しい。ドロドロしているんです。血栓ができるイメージなのかな、もしかしたら。どんどん詰まっていく感じ。いろんな事に例えられますが、とにかく固まっていっちゃう。石なの?と。だから、なぜ自分がそんなに心震えるんだ、わからない、揺れたことがない私が、何が起きている!?という感じです。

――あのジャベールは、これまでレミゼをずっと見てきた方でも、すごいと思っているんじゃないかと思います。

そうみたいですね。ありがたいことに今までジャベールの自殺が理解できなかったけどすごく腑に落ちた!とかよく言って頂きます。あの若さから、10年でガラッとイメージが変わる。最初から結構若くはないじゃないですか。でも僕は、衝撃を与えたいというのがあったので。でもこれ、プランになっちゃうから明かすのは嫌なんですが(笑)。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

■シュガーは優しい、光夫さんは包容力、福井さんは新鮮

――対決する3人のバルジャンはそれぞれいかがですか?

バルジャンとして大事にしているポイントが違うんだと思うんです。それが何かは言葉にできないですが、僕らジャベールも多分そうなんです。シュガー(佐藤隆紀)はめっちゃ優しいです。囚人っぽさはないですね。彼を突き動かしている正義があって、ジャベールに近いなと思ったんです。一本筋を通そうとしているなと。まだ戦っている最中なんだと思います。彼は歌でやってきていて、芝居の感覚はいいんですがまだ引き出しが少ないぶん、その引き出しを増やす作業を手伝っています(笑)。その代わりに歌を教えてもらっていて。歌で困っているところを聞くと、こうすると声が出ますよって教えてくれるんです。(吉原)光夫さんは見た目からして最初はワイルドですが、市長になってからの包容力に関しては疑いようがないですね。

――そうすると、市長がバルジャンだとわかったときの衝撃は激しいですよね。

そうなんです。その衝撃は光夫さんが一番激しいと思います。福井(晶一)さんは、稽古で一度対決シーンの殺陣をやったくらいで、本番でほぼはじめて一緒にやったので新鮮でした。福井さんはガンガン攻めてくるんです。「どうだよ! 俺を見ろよ! お前の目は節穴か!」という感じで煽ってくる。今まで知らない福井さんがそこにいて、それに驚いて、新鮮で、こんなバルジャンがいるんだと、こいつは何者なんだと。自ら疑念を植えつけてくるんです。

――三者三様のバルジャンと対峙していて、動く気持ちの流れも変わりますか?

そうですね。客観的に見ていて、バルジャン3人それぞれの良さがあって、感動するポイントが違いますよね。どの役もそうだと思いますが、この人のここは最高、この人のここは誰々のほうがいいなど、それぞれ個性があって、得意とする部分があるから、多分完璧な人はいないと思うんです。僕の気持ちの流れも違うんですが、自分はバルジャンだと告白してからは同じです。川口さんのジャベールは疑いの眼差しで彼がバルジャンじゃないかと決めにかかっていて、その方法もひとつだと思うんですが、僕は真逆でその告白を聞いてものすごく驚く。一本取られた感があるんです。この私が騙されたのかと。「やってくれたな市長さま! よくもまぁヌケヌケと! 人前でこれだけのことを!」と。そこからの落差で、正義や法に対しての忠誠を忠実に描いているんです。例えば、光夫さんスマートですね。おそらく前回までとは違うんでしょうね。

――拝見していても違いますね。神への懺悔を積み上げている様が違うように感じます。

そこを目指しているんだろうなというのは、やっていて何となく伝わってくるので、僕も光夫さんとの2幕の対決は掴まないんですよ。言葉に集中しようと決めているんです。光夫さんが言葉で攻めてくるので。

――それは福井さん、佐藤さんとは違う。

胸元を掴んで制圧され、説得されるのが基本形で、おふたりはそうなんですが、その盛り上がる気持ちがお二方とも違うんです。

――なるほど。

今回ものすごくヒントになっているのが、エポニーヌが「あのおまわりはドジ」っていうじゃないですか。人から見たジャベールのセリフを大事にしているんです。ガブローシュから見てもすごくマヌケなんだと思うんです。ああいう言葉って人間味があると思うので、すごく大事にしています。やらせて頂いていて楽しいですよ。できあがっている、制約が多い作品ではありますが、どうしたら自分の色を乗せられるのか。日々メンバーも変わるので新鮮だし、探求心はふかまるばかりですね。

――他の媒体でしたが『ビューティフル』でお話を伺ったときも、ブロードウェイの決まった形にハメていく過程を楽しんでいるというか、そのなかでどうやるかを柔軟にされているんだなと思いました。

昔はそれが苦手でしたが、いろんな経験をさせて頂いたからだと思いますが、最近は後付けで感情を乗せて、理由を見つけていく。パズルみたいなものなんです。僕はパスルが大好きなので、その作業を楽しんでいますね。ここを歩くと言われたら、そういう感情ができあがっているんだ、それはどういう理由なのか探って、人の芝居を見て、なるほどだから動きひとつにしても世界共通なんだと。そのなかで世界共通にならないものは何かというと感情なんです。栗山(民也)さんの作り方がそうなんですよね。以前は技術がなかったから、そこでまず疑問符がたくさん出てきてたのですが、今は経験値と引き出しが増えた分、動きが決まっていても、歩く間にこういうことも、こんなこともできますよと提示できるようになったのが大きいかもしれません。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■長いこと脇の人に魅力を感じてやってきて、極めたいと思っていた

――レミゼのような有名作品に出演すると、今までと違う反応がありませんか?

ぶっちゃけ物凄くありますよ。舞台中も、カーテンコールでも感じますし、頂く手紙もそうなんですが、今まで伊礼を観なかった方が反応してくださっていますね。例えば『エリザベート』以来というお客様が多いですね。

――グランドミュージカル系の作品を中心に観ている方や、主役を演じる役者さんに注目する方も多いのではないでしょうか。

僕は芝居をはじめて早々に脇に興味が行ったんですよね。時間とともにセンターで輝いている方にたくさん出会って、センターで輝いていてカッコイイという思いになるんですが、長いこと脇の人に魅力を感じてやってきて、それを極めたいと思っていたんです。そのほうが作品を引き立てるし、いろんな勉強ができて、引き出しが増えるなと。

――センターの役のほうが色々と描かれていて、やりがいがあるのかなと思うのですが。

そうだとは思います。ジャベールも、『ジャージー・ボーイズ』のトミーもそうでしたが、自分ひとりではできない、周りに支えてもらわないと真ん中は輝かないんだなとわかりました。まだ、主役はやっていないですが、おそらく主役というのは、周りがなくては成立しないんだろうなと思いますね。だからそう見えるのだろうし、人に頼り、寄り添って、一緒に作るんだろうと思います。主役も脇もどちらも良さがあると思うので、どちらも経験してみたいですね。

――実際に主役をやったらまた発見があるでしょうね。

どんな景色が広がるんでしょうね。今回レミゼに出させて頂いて実感しているのはお客様が帰ってきているんだなと。「あのときの伊礼くんがこんなに成長していた」というお手紙が多いんです。それは言い換えると、今のこのレミゼの時期まで、僕が進んできた道には興味がなかったんだなと。一応10年以上演劇の世界でやってきているんですけどね。良くも悪くも今までは王道に対して否定的でしたが、最近はジャンルなんだなと思うようになりました。宝塚や劇団☆新感線というジャンルがあるのと一緒で、王道というジャンルがあるんだと。今回その王道のど真ん中である作品に出させて頂いて、王道とよばれる所以もわかったし、「伊礼くんが王道に?!」って驚いた方もたくさん居ました。何がいいとか悪いとかではなく、好きなモノは好き、人それぞれ好きなジャンルがあり、苦手なジャンルがある。そして、それらの何かがきっかけになって、お互いの未知のジャンルにも興味をもってもらえれば。レミゼで伊礼彼方を初めて知った方が、次に伊礼が出てるまだ見ぬ知らないジャンルだけど観てみよう!って思ってもらえたら嬉しいですよね。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■レミゼに出演して、歌は大事だなと、音楽と寄り添わなければいけない

――「Stars」をはじめとする楽曲は実際に歌ってみていかがですか? 「Stars」最後のロングトーンがすごくて、ここまで出るんだと正直驚いたのですが。

コンサートで歌うのならばもっと伸びますね。芝居が入っているからあれが限界ですけれど。

――それこそ久しぶりに伊礼さんをご覧になったお客様は驚いているんじゃないかと。

そうなんですよ! 長いこと歌えない人だと思われていたんですよね。そういう方々に、いろんな所に旅に出て、帰ってきたよと(笑)。でも、レミゼに出演して、改めて歌は大事だなと思いました。一時期は芝居に寄っていましたが、音楽ともっと寄り添わなければいけないなと。特に「Stars」はそうですね。歌寄りにしたほうがいいんじゃないかと、今も歌と芝居の塩梅を日々試しているところです。その自分自身で納得できる限界のところを攻めているんですよ。毎日職人が微調整して技を磨いている感じです。毎回録音して聞いているのですが、自分のなかで、今日は何点取れたんだろうと確認しています。常にクオリティは上げていきたいですからね。フィギュアスケートでいえば、どのトリプルジャンプにするかという感じですね(笑)。何度かやっていくと自分のなかでこれだ、という形ができると思うんですよ。逆に、「自殺」はかなり当初から自分のなかでははっきりしていて、全く迷いがないんです。

――このあと、名古屋、大阪、福岡、札幌と公演が続きますが、そのなかで変化していくかもしれませんね。

もしかしたら、最初から疑念を持って市長さまと向き合うかもしれません。一度試そうかと思っているんです。やってみたら違う芝居ができるのかもしれないなと思ったりもしていて。今回は変えなかったとしても、もし再演が決まって、違う解釈でやってみたいと思ったら、また違う方法を試してみるかもしれません。その都度、生(ライブ)でやるからこその面白さ、発見でもありますね。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■(チームBLUEは)ぴろしがきっぱりREDを捨てた。男だなと!

――今年に入って『ジャージー・ボーイズ』に出演していた方のインタビューが続いていまして、ぜひ伊礼さんにもお伺いさせてください。全国各地で拝見しましたが、チームBLUEはどんなサイズの劇場でも、絶対にブレなかったのがすごいと思いました。

その言葉はすごく嬉しいです。

――矢崎(広)さんが、「チームのためという軸の目線が網目状にしっかり作ってあるから、何が起きてもその目はずれない」と話していました。

そのとおりです! いい言葉ですね。そういうことなんです。僕個人的なことをいうと、芝居を作るときに、どんなトラブルが起きても、対応できるように心がけているんですよ。それでも思わぬトラブルが起きたりするんですが。それを4人でやったんです。事前の話し合いもそうですし、その場でもいろんな引き出しを渡して応えてくれる。多分、キーはspiだったんです。spiが応えてくれる役者だったら成功するなと思いました。そうしたら、期待に違わず応えられる人間だったんです。僕がピッチャーで、彼はキャッチャーみたいなポジション。それが成功したんですよね。あとは、ぴろしが前回を引きずらなかったことが一番大きいです。きっぱりREDを捨てたんですよね。男だなと!

――カッコいい!

そう! カッコいいの! だから3人のグルーヴができたんだと思います。アッキーはアッキーのグルーヴがあるんですよ。多分WHITEとは違う色合いのグルーヴなんだと思います。それがぴろしがいう「網目状にしっかり作ってあるからずれない」ということなんだと思います。

――中川さんは、「彼方くんと終わった後に話したことも、結構感動的なことがあった」と話していました。

え!? 何だろう? 覚えてないけど(笑)。でも、ひとりシングルキャストで、チームごとに受け答えを変えてくれていたから、僕にはアッキーはダブルキャストに見えていましたね。ふたりいました。すごいな、ひとりでよくやっているなと。『ジャージー・ボーイズ』は本当にいい作品ですね。メンバーに恵まれたといろんな取材で話しましたが、なかなか全員がしっくりくることってないんですよ。WHITEはWHITEで一丸となってやっていると思いますし、我々はまた違う感覚でやれたので、非常に勉強になりました。

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

■光夫さんがレミゼに何を求めて出演し続けているのか、知りたかった

――最後に、この後のレミゼに向けてひとことお願い致します。

9月までありますので、毎回軌道修正しながら、さらに上を目指していきます。今お話している時点で10回くらい演じたと思いますが、もっとこうすべきところがあって、微調整しています。ネジをひと回しするか、緩めるか、それぐらいの感覚です。そういう微調整をやれることが楽しいですね。逆に ジャージーのときはそういう微調整はなかったですね。その場で起きたことに反応することが大事でしたが、レミゼはすべてが音楽ということもあって、自分がコントロールできない。コントロールされたなかで、どうやって微調整して、そこに乗っかって、まるで自分がやっているかのように見せていく。その作業が楽しいんです。すべてが決まっていて、僕らはある意味、操られ人形ですからね。そこで操られているように見せないにはどうすればいいのかと、すごく考えています。

――その微調整の結果を、劇場で拝見させて頂きます。

ぼくからひとつお話しておきたいのが、『レ・ミゼラブル』という王道作品に出演しようと思った理由のひとつに、光夫さんが出演した理由は何なのだろうと思って、それを知りたかったんです。なぜ再演を続けているのか。もちろん出演してほしいと呼ばれていることがすごいことなんですが、なぜ辞めずに続けているんだろうかと。芝居の人間が、なぜ音楽中心のこの舞台に乗っているんだろうかと。何を求めているんだろうか、あそこでどういう芝居ができるんだろうかと、知りたかったんです。

――それは吉原さんに聞かれたんですか?

見ればわかります。同じ現場に立てばわかるので。

――答えは出ましたか?

はい。芝居なんだなと。おそらく、新演出に変わってとくにそうなったんだと思うんです。僕が観た旧演出のレミゼでは、歌の分量に圧倒されて、ここまで芝居色を感じなかったんです。

――今、出演してみたら、レミゼは芝居なんだと思ったんですね?

そうです。音楽中心なんだけれど、芝居がちゃんとあるんです。これならば自分もやれると思いました。時代の流れに沿って、ミュージカルも変わって来ているんだなと。役者も、若手がどんどん新しいジャンルからミュージカルに来てるし、ひとくくりに「ミュージカル」と縛ってしまうのも勿体ない。新しい演出家、新しい王道がまた誕生すればもっと活性化もすると思う。このレ・ミゼラブルはそういう入口としては大きなきっかけになる作品なので、この年齢で参加することができて本当に良かったです。今の僕は、10代の自分からは想像できない姿ですよね、きっと(笑)。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『レ・ミゼラブル』公演より=写真提供/東宝演劇部

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

伊礼彼方さん=撮影・岩村美佳

※伊礼彼方さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは6月27日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

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“「10年でガラッと変わるジャベール、好評です」、伊礼彼方インタビュー(下)” への 2 件のフィードバック

  1. 玲人 より:

    伊礼さんのジャベール、観ることができました。
    「星よ」も好きですが、やはり最後の自殺のシーンがとても胸に残っています。
    ジャベールをどのように演じているか、決められた枠の中でどのようにして伊礼さんのジャベールを出していくか。
    この記事でそれが知れて良かったです。
    レミゼは芝居だと仰っていますが、その通りだなと思いました。芝居がちゃんとある。ミュージカルではあるけれど、芝居があるからこそ私たち観客の胸に響くんだろうなと思いました。
    アイデアニュース さんは、役者さんたちの言葉をありのまま書いてくれているイメージがあるので、いつも楽しく読ませていただいております。
    ありがとうございます。

  2. なみ子 より:

    東京千秋楽観劇しました。出演者皆さんの熱量が凄く圧倒されました。
    対決のシーンはカーテンコールでも伊礼さんがおっしゃっていましたが、本気の度合いが凄まじく気を抜いたらやられる感が伝わってきています。
    ジャベーは正に伊礼さんにはまり役だと思いました。
    記事ありがとうございます。

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