「知らない世界の引き出しをこっちに」、伊礼彼方インタビュー(下)

伊礼彼方さんインタビューより=撮影・桝郷春美

2016年11月11日から12月4日まで、東京・紀伊國屋ホールで上演される「サバイバーズ・ギルト&シェイム」に出演する伊礼彼方さんのインタビュー「下」です。抽選でアイデアニュース有料会員3名さまに伊礼さんのサイン入り「チェキ」写真をプレゼントします。(このプレゼント応募は終了しました)

幅広い表現力と歌唱力を武器に、数々のミュージカル作品で活躍する伊礼彼方さんはここ数年、ストレートプレーの舞台でも精力的に活動しています。「役を掘り下げていく工程は変わらないのに、ミュージカルだから、芝居だからという風に分けられる。それが嫌なんです。もっと世界を広げて、新しいものが作れるんじゃないかと思うんです」と話す伊礼さんのインタビューの続きです。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、動画に収録した部分以外のインタビューの全文をテキストで掲載しています。9月に行われたコンサート「姿月あさと×マテ・カマラス×伊礼彼方 SPECIAL LIVE」について、また、ミュージカルやストレートプレーについて、うかがったお話を掲載しています。

<有料会員向け部分の小見出し>

■人を通して呼び覚まされる感じですね。僕は一人じゃ何もできない

■マテのジョークを、僕が日本のテイストに変えて、皆さんに伝わったらいいなと

■新人だった頃、ミュージカルの現場にいて危機感を感じたんです

■知りもしないで決めつけられるのが、嫌なんです

■バレエ「うたかたの恋」を観て魅了されました。芸術はほんと無限だなと

■現実と葛藤しながら何とか自分の道を作り出していかないと

■プレゼント応募フォーム

※伊礼彼方さんのサイン入り「チェキ」写真1枚を、アイデアニュース有料会員(月額300円)3名さまに抽選でプレゼントします。応募は有料会員の方はログインし、この記事の文末にある応募フォームからご応募願います。応募締め切りは11月13日(日)です。(このプレゼント応募は終了しました)

<KOKAMI@network vol.15「サバイバーズ・ギルト&シェイム」>
【東京公演】2016年11月11日(金)~12月4日(日) 紀伊國屋ホール
作・演出:鴻上尚史、出演:山本涼介、南沢奈央、伊礼彼方、片桐仁 / 大高洋夫、長野里美

<関連サイト>
「サバイバーズ・ギルト&シェイム」 http://www.thirdstage.com/knet/survivors/
サードステージ公式ページ http://www.thirdstage.com/
伊礼彼方 official web site http://www.kanata-ltd.com/

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伊礼彼方さん=撮影・桝郷春美

伊礼彼方さん=撮影・桝郷春美

※ここから有料会員限定部分です

■人を通して呼び覚まされる感じですね。僕は一人じゃ何もできない

――以前、楽屋前で伊礼さんと少しお話した時に感じたことですが、伊礼さんは相手が伊礼さんの話をきちんと理解できるように、とても丁寧に説明される方だなと思いました。伊礼さんの中に、伝えたい意欲のようなものがあるのでしょうか。

何かを伝えたいという気持ちはありますよ。その何かはふわっとしていて、常に確立しているわけではありません。現場で生まれるものです。このインタビューもそうですけど、会話の中から自分も触発されながら、ああこういう気持ちがあるんだなと気付いて、伝えたい思いが出てきます。だから、人を通して呼び覚まされる感じですね。僕は一人じゃ何もできない。

■マテのジョークを、僕が日本のテイストに変えて、皆さんに伝わったらいいなと

――今日のコンサート「姿月あさと×マテ・カマラス×伊礼彼方 SPECIAL LIVE」で、伊礼さんとマテ・カマラスさんとのやりとりを「兄弟みたい」と言われていましたが、マテさんが一生懸命に話す片言の日本語のおしゃべりを生かすことができるのは、伊礼さんが両方の気持ちが分かるからではないかと思うのですが。(※インタビューは、9月28日兵庫公演の終演後に実施)

それはもちろんあります。たとえば(チリ出身の)母親としゃべっている時、母の何気ないジョークを日本人に伝えても伝わらないっていうのはありますし、逆もあります。たとえば日本のお笑いでボケとツッコミのかけ合いの時に頭を叩くというのは、外国人にとっては暴力に映るんです。そんな目の前で人が叩かれているのを見て笑うってとても失礼、何なら止めに行かないといけないという思いになるわけです。ですから、そこで笑うという感覚が分からないんですよ。外国の方全員がそういう訳ではないでしょうが、うちの母親はそう言っていました。

今日のコンサートでいえば、マテが言うジョークは、なかなか日本人の感覚に浸透しない。でも僕は彼が何を伝えたいかが分かります。ジョークとしてしゃべっている時と、真剣にしゃべっている時と、トーンも、使う言葉も違いますから。彼が伝えようとしている向こうのジョークを僕が日本のテイストに変えて、皆さんに伝わったらいいなと思ってやっていました。

伊礼彼方さんインタビューより=撮影・桝郷春美

伊礼彼方さんインタビューより=撮影・桝郷春美

■新人だった頃、ミュージカルの現場にいて危機感を感じたんです

――大らかで自由奔放なマテさんの魅力が伝わりました。ともすれば、違和感に転じがちな多言語の感覚を瞬時に読み取り、その場の空気を馴染ませることは誰もができるわけではないと思います。伊礼さんは多くの人が気付かないところを察知できるアンテナがあるから、舞台の上でのおしゃべりにしても、和みや笑いに転換できるのではないかと思います。それは、こんな価値観、こんな世界があるんだよと、知らない人に知らせる術としての表現の幅を広げるところにもつながっていくのかなと。

そうですね。皆さんにもいろいろ知ってもらいたいですし、僕自身も知りたいというのが強いですけど、とにかく芝居の世界とミュージカルの世界の垣根が、少しでも低くなればいいなと思うんですけどね。

僕がまだ新人だった頃、ミュージカルの現場にいて危機感を感じたんです。振りと歌ばかり練習して何も芝居してない。芝居をやりたいと言ったら、君はミュージカルの人なんでしょと言われて、なかなか芝居の世界に入らせてもらえなかったんです。今度は芝居に出ている自分をミュージカルの先輩たちが、あの世界に行って大変だねと言ったり、やりたいんだよねと言いながら行動しない。

役を掘り下げていく工程は何一つ変わらないのに、ミュージカルだから、芝居だからという風に分けられる。それが本当に嫌なんです。心が一緒なのに、なぜそんなに違う風に捉えるかなって、怒りにも似た感情があります。僕が言っているのはお客様に対してではなく、業界内に対してです。お客様の方がもっと間口が広いと思います。

■知りもしないで決めつけられるのが、嫌なんです

――業界内で、違いばかりに目を向けられることに対するいら立ちを感じた。

悲しいというのが大きいのかもしれない。芝居も歌も同じなのに。もしかしたら音楽だけで生きている人たちは捉え方がまた違うのかもしれませんが、俺は役を通してせりふを発したり歌ったりしているのでそう感じます。

お芝居の人がミュージカルを見に来てもいいじゃない、ミュージカルの人がもっと芝居を見てもいいじゃない。とにかく一度観てほしい。それはオペラでもバレエでも一緒だし、絵を観るのでも一緒。俺も食わず嫌いが多いのでその世界を知らないことが多いんですけど、観に行ったら面白いなとはまることもあるし、やっぱりこの世界観は好きじゃないってそこでシャッターを下ろすこともありますけど。実際に知ってからなら全然いいと思いますが、ああいうものなんでしょ、と知りもしないで決めつけられるのが嫌なんです。順位を付けるものではないですから。

■バレエ「うたかたの恋」を観て魅了されました。芸術はほんと無限だなと

――それが今の葛藤。

同じ芸術を作っている人間からすると、西と東に分かれてとか、何とかの神と何とかの神で戦ってとか、少人数で戦って何が楽しいの?と疑問が浮かびます。団結して新しいジャンルを創っていくぐらいの気持ちになってくれないかなといつも思うんです。戦うのが世界ならまだしも、同じ国の中で戦っていて、時間の無駄。何なら、知らない世界の引き出しをこっちに引っ張ってくるぐらいの貪欲な人っていないのかなって思う。

もっと世界を広げて、新しいものが作れるんじゃないかと思うんです。きっと作ろうとしている方もいらっしゃると思うので、そういう人たちと出会いたいです。演劇を作ってきた演出家たちが、ミュージカルを手掛けることによって、そういう瞬間が見えたりもするわけで、だから僕は演劇作品に出るのが好きなんです。

何年か前に初めてバレエ「うたかたの恋」を観たのですが、まあ魅了されましたね。言葉を一切発していないのに、何を言っているのかが伝わるんですよ。筋肉一つで伝えられる表現力。たとえ人類が言葉を話せなくても伝える手段っていくらでもあるんだなと思って、芸術にすごく可能性を感じたんです。価値観はいろいろあると思いますけど、芸術はほんと無限だなと思って。なのにみんな、そこに規制を敷いてルールを作って、狭い世界でやっている気がしてるんです。

■現実と葛藤しながら何とか自分の道を作り出していかないと

――どうしてそういうことが目につくようになったんですか。

やっぱり自分がどっちの血も流れているからかもしれないですね。裕福な生活をしたいわけじゃないし、学校に行ったからってなんぼのもんじゃって思って生きてきているし、でも本当は学校にも行きたかったと思っている自分もいる。そういう現実と葛藤しながら何とか自分の道を作り出していかないといけない。そうやって生きてきた幼少時代が僕を構築したなと思います。

伊礼彼方さん=撮影・桝郷春美

伊礼彼方さん=撮影・桝郷春美

■プレゼント応募フォーム

<伊礼彼方さんのサイン入り「チェキ」写真を有料会員3名さまにプレゼント>
伊礼彼方さんのサイン入り「チェキ」写真1枚を、アイデアニュース有料会員(月額300円)3名さまに抽選でプレゼントします。当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。応募は有料会員の方はログインし、この記事の文末にある応募フォームからご応募願いします。有料会員の方はコメント欄にメッセージを書き込むことができますので、ぜひ記入をお願いいたします。応募締め切りは11月13日(日)です。(このプレゼント応募は終了しました)

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“「知らない世界の引き出しをこっちに」、伊礼彼方インタビュー(下)” への 3 件のフィードバック

  1. にゃじ より:

    質問に対して一つひとつとても丁寧に答えているのが印象的でした。
    聞き手側だけでなく、ちゃんと読み手のことまで考えて話しているのが伝わってきます。

    そういう姿勢が作品の役を掘り下げたり、仲間と作り上げて行く過程に生かされているんだなと納得しました。

    まだまだ色んな面が隠されていそうなので、またインタビューしていただけたらなと思います。

  2. ToMaTo より:

    やっぱり素敵な人です、伊礼くん。話す事が深く、広い。少なくともそうあろうとする姿勢に惹かれます。
    そして、それを引き出すインタビュアーさんにも感謝。

  3. ゆう より:

    ミュージカルとストレートプレイの垣根。それを役者さんの立場から発信してくれたのが新鮮でした。演じる側が区別しているのでは、そこからの発展も限られてしまいますよね。
    どちらの世界でもとびきりの存在感で魅力を発散する伊礼さんの活躍を、これからも楽しみにしています。

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