5月21日に帝国劇場で開幕するミュージカル『レ・ミゼラブル』に、ジャン・バルジャン役とジャベール役で出演される吉原光夫さんにお話を伺いました。吉原さんが『レ・ミゼラブル』に初出演したのは2011年。オリジナル演出版の日本公演最後の年で、ジャン・バルジャン役でした。さらに、2013年にはジャン・バルジャン役とジャベール役の2役で出演。2015年を経て、今年が4度目となります。オリジナル演出版と新演出版、さらにジャン・バルジャン役とジャベール役、様々な観点から『レ・ミゼラブル』を知る吉原さんに色々と語って頂きました。
■『レ・ミゼラブル』は俳優としては辛いです。地獄のようというか
――吉原さんは2011年のオリジナル演出版から出演されて新演出版と両方を経験し、今回が4度目の出演となりますが、『レ・ミゼラブル』にはやみつきになる魅力や、やめられない魅力はありますか?
実は逆で、結構「やめよう、やめよう」と思ってしまうんですよね。それは『レ・ミゼラブル』だからではなくて、どの舞台もそうなんです。今年1月にミュージカル『手紙』も再演しましたが、もうやめようと思ったくらい。再演を嫌がっている訳ではないですが、再演を含めたリズムで公演をやりたくないんです。
――1作品、1作品を今回しかないという思いでやっていきたい?
やはりそういう思いが強いです。みなさんがよく記者会見で、「今回で終わるぐらいのつもりで」と言いますが、「つもり」ではなく「これが最後」という思いでやらなくちゃいけないと思っています。『レ・ミゼラブル』は俳優としては辛いです。地獄のようというか。「観る」と「やる」とでは本当に違う。終わった瞬間は、正直なところ、もう二度と『レ・ミゼラブル』の曲を聞きたくないという状態になります。
――それはバルジャン役でもジャベール役でもそうですか?
僕はどちらでも一緒です。もう「ダンターン」(幕開きの音楽)を聞くのが、千秋楽以降しばらく嫌ですね。iPodを触っていて操作ミスでかかってしまうと「わー!」って。
――それでもこの作品に戻ってきてしまうのは。
何でしょうかね、何なんだろうな……。役者ですからね。舞台に立ってなんぼというところもありますから。特にこういう大きな作品はビジネスライク的な側面ももちろんなくはないんです。やっぱり自分は2017年、この作品とこの役のおかげで、また新たに演劇の道を歩ませて頂いているということも含めて、『レ・ミゼラブル』で自分が変化しようと、変化しなくてはいけないと思っているんです。俳優は守るのではなく、壊して、壊して、変化を求めていかなくちゃいけないと思うので、その思いに惹かれるのかなと。でも、はっきりとこれだとは言えないんですよ。はっきりしているものがあれば、再演のオファーに対してすぐに出演を決められると思いますが、いつも結構考えて、考え抜いて出演を決めています。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、「ジャベールは自殺したままで苦しいでしょ」とよく言われながらも「僕は全然苦しくないです」と言うその理由など、『レ・ミゼラブル』についてさらに掘り下げて伺ったお話の全文を掲載しています。4月14日に掲載する予定のインタビュー「下」では、昨年に出演された『グランドホテル』『ジャージー・ボーイズ』などのお話や、演劇に対する思いなどについて語ってくださった内容を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■ジャベールのときに袖でバルジャンを見ていたら、舞台上に自分がいるような感覚になった
■「Stars」は神に向かって歌っていると思いますが、その返事が頂けたんですね
■「自己満足劇団だと! このやろう。何でもいいから出てやる」と思いオーディションに
■ジャベールをやるときは、評判が悪いんですよ。「なんだ、アイツは」みたいな
<ミュージカル『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演>
【東京公演】2017年5月21日(日)~7月17日(月・祝) 帝国劇場
【福岡公演】2017年8月1日(火)~8月26日(土) 博多座
【大阪公演】2017年9月2日(土)~9月15日(金) フェスティバルホール
【愛知公演】2017年9月25日(月)~10月16日(月) 中日劇場
http://www.tohostage.com/lesmiserables/index.html
<関連サイト>
吉原光夫-カムトゥルー
http://c-true.net/artist/yoshihara-mitsuo/
吉原光夫オフィシャルtwitter
https://twitter.com/mitsuoyoshihara
- 「真っすぐなものをなくしたくなくて演劇をやっている」、吉原光夫インタビュー(下) 2017年4月14日
- 「ジャベールは舞台の袖で救われる」、『レ・ミゼラブル』吉原光夫インタビュー(上) 2017年4月13日
- 「新しい風を巻き起こせるアンジョルラスに」 相葉裕樹インタビュー(下) 2017年3月24日
- 30周年『レ・ミゼラブル』にアンジョルラス役で出演、相葉裕樹インタビュー(上) 2017年3月23日
- 「ワクワクと怖さを胸に」、日本初演から30周年『レ・ミゼラブル』製作発表 2017年3月1日
※吉原光夫さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは4月28日(金)です。(このプレゼント募集は終了しました)
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■ジャベールのときに袖でバルジャンを見ていたら、舞台上に自分がいるような感覚になった
――それでも悩み抜いて4回も出演されています。他の作品と違う魔力みたいなものがあるんですか?
2011年から2013年のときは、まだ出演回数が少なかったので完全にやり足りなかったんです。2013年はジャベールでもキャスティングされていたので、やる気満々でしたが、途中で色々と事故が起きまして、バルジャンをたくさんやることになりました。その結果、今度はジャベールがあまりやれてないと思い、次の年もやりました。苦しいけどやりたくなる、麻薬的なものはあるんじゃないかと思います。
――そうすると、やり足りなかったものは、ある程度満足されているわけですよね?
そうか……そうですね。
――今回の出演は何か違う思いありましたか?
いや、今、そう言われてそうだなと思いましたが、これだけ腑に落ちるということは、今度は、何か落ち着いてやりたいんでしょうね。
――バルジャンとジャベールは、対比のような、因縁のある役ですが、それぞれの役側から見ると、作品の見え方は変わりますか?
本当にはっきりと色が変わりますね。先程、別のインタビューで「役を完全に演じ分けられます」と言ったんですが、たまに変な気持ちになるときがあるんです。ジャベールのときに袖でバルジャンを見ていたら、舞台上に自分がいるような感覚になったんです。カメラでスピンオフを撮っているような感覚。そう見えたということは、ふたりが違うという理由が存在しているんだなと。役の匂いの違いや、見える世界の匂いの違いがあるんですよね。
――ぜひ具体的に伺えますか?
ジャベールは、彼の正義で生きているだけで、悪いことをしようとしている訳ではないんですよね。彼の正義を貫き通そうとしているんですが、「地下」という感覚があります。地べたをはいずり回る犬じゃないですけど、何かこう、嗅ぎまわって、汚くて、つらくて、暗くて、苦しくて、怖いのに、バルジャンを追い続け、自分の人生をかけている。そういう彼の世界に泣けてくるときもあるくらい、何でコイツはここまでと思います。
バルジャンはプロローグではジャベールと同じような世界なんですよ。なぜ自分がここまで虐げられなくちゃならないのかと思っている。その怒りをぶつけて、「目には目を、歯には歯を」と思って生きている世界から、フッと抜けた瞬間「空」の感覚になるんです。空に向かって羽ばたいてる。もちろん途中で落ちそうになったり、カラスの襲撃にあったり、色々ありますが、それでも必死に羽ばたいて、空に行こうとしている感覚で、ふたりのビジョンが全然違うんです。カメラの定点が違う感じですね。
■「Stars」は神に向かって歌っていると思いますが、その返事が頂けたんですね
――そう伺うと、ジャベールが地下から「Stars」を歌うのが切なすぎますね。
そうですね。ジャベールは自殺をした後、カーテンコールまで一度も舞台には出ないですが、僕は結構袖にいて、死んだ後の世界を見てるんです。「ジャベールは可哀想」という言葉を聞くんですが、ジャベールがその世界を見れるのがいいと思うんですよね。絶対に悪なんだと疑い続けたバルジャンが、ミリエル司教とまた再会し、最愛のファンテーヌに手を取られて天国に召すという姿を見れること自体が救いなんだな、と。
――なるほど。
ジャベールはかなりの信仰者、宗教者です。バルジャンが神の元に召されたということは、神が彼を認め許しているということだから、それはジャベールにとっては答えを頂いたようなものです。「Stars」は神に向かって歌っていると思いますが、その返事が頂けたんですね。
――物語の最後にジャベールにとっても答えが出る。
だから、よく「ジャベールは自殺したままで苦しいでしょ」と言われますが、僕は全然苦しくないですね。きちんと消化されて終わっています。
――その感覚は最初からですか?
初めてジャベールやったときは、まだ消化不良でしたね。ちゃんとやれていないのかなとも思いました。バルジャンをやっていることは大きいと思います。だからこそ見える世界で、他のジャベールを演じる役者に聞いても、もしかしたらあまり分からないかもしれません。
■「自己満足劇団だと! このやろう。何でもいいから出てやる」と思いオーディションに
――そもそも『レ・ミゼラブル』との出会いは?
うちの親父がかなり文学青年で、小さい頃、読み聞かせられていたのが『レ・ミゼラブル』でした。でも、眠くなる話だなと思ったぐらいで。舞台を全然観たこともなく、曲もほとんど知りませんでした。劇団四季を退団して、2009年から小劇場で自分の劇団を作って活動していたときに、観に来た友人から「自己満足劇団やってないで、ちゃんと外で表現して、大きな舞台に立ちなよ」と言われてイラッとして。「自己満足劇団だと! このやろう。何でもいいから出てやる」と思い、2010年に何でもいいからオーディションを受けようと思ったら『レ・ミゼラブル』だったんです。革命家がかっこいいなと思って、アンジョルラス役を受けました。ところが、オーディション会場に行くと、全然キャラクターが違う人達が集まっていて、これはヤバイなと。白いベストに白いパンツで、全身真っ白い格好の人がいたり。僕は革命家だというから軍服を着て行ったんです。
――軍服を持っていたんですか?
ファッションで持っていたんです(笑)。軍服を着たら革命家に見えるかと思ったんですが、見当違いでした。結局歌わせてもしてもらえないで。ジャベール候補になったんですが、肩を叩かれて、バルジャンの譜面を渡されました。諸先輩方の出る公演で『レ・ミゼラブル』を初めて観ました。
――作品との出会い方にも色々ありますよね。特に『レ・ミゼラブル』は何度も何度も見尽くして、愛を持って飛び込んだという方もいらっしゃいますから、珍しいかもしれないですね。
よく最初は批判されましたね。「観た事ねぇのかよ」って。
――バルジャンをやってみて、すっとその世界に入り込めましたか?
苦手だとか、掴みようがないとは思わなかったですね。演出家に求められていた、勢いなどを肉体的には表現出来ましたが、内面的には足りないことがたくさんあったと思います。まだ32歳でしたから。バルジャンは、テクニックは別として、感性があれば正直誰でも出来ると思うんです。バルジャンはずっと舞台上にいて周りの人に影響されていく役なので、影響されていけば出来るようになっているんです。ジャベールの方が難しいですね。舞台に出てきて一瞬にして空気を変えなくてはいけないから、それに値するエネルギーやカリスマ性、空気を変える力がなければいけない。
――ジャベールをされた時には苦労されました?
正直なめてました。僕のイメージとしては、ポンポンと出来ると思っていたんですが、結構舞台に出て来ないので、そこが難しいところです。彼が何を経験してきたのか、どう這い上がって、どんな人間になったのかが描かれていないんですよね。次の出番には何十年も経っていたりする。
――出番の間はどうされてるんですか?
2013年はひたすら袖にいてみたんですが、邪魔になってしょうがないのでやめました。次に楽屋にいて、色々と文献を読んでみましたが、出とちりをしそうになってやめました。今やってることは……あんまりよろしくないんですが、楽屋に帰った後、バルジャンの曲を歌っています。バルジャンの曲を歌うことで、バルジャンを脳裏に焼き付けるみたいな感覚ですね。
――バルジャンを忘れないで、次の場面に出て行くんですね。
楽屋帰って何にもしていないと、やっぱり『レ・ミゼラブル』から離れてしまう感覚もあって怖いんですよね。
――ジャベール役は他とは違う取り組み方をされている?
そうですね。でも、楽しいですよ。
■ジャベールをやるときは、評判が悪いんですよ。「なんだ、アイツは」みたいな
――カンパニーの雰囲気は毎回違いますか?
2011年から2013年は全く違いました。2013年から2015年はそんなに変わらず、同窓会的な感じがありました。今回はきっと全然違うんじゃないかと思います。
――吉原さんにとっては3グループ目ですね。カンパニーの中で、吉原さんはどういう立ち位置ですか? 引っ張るとか、見ているとか。
どうだろう……キレる訳ではないですが短気なので、稽古場が詰まっていたり、進行が上手くいってないと、すぐに促します。あとは人のことを考えている暇がない役なので、ひたすらバルジャンとジャベールに集中していると思います。
――普段からWキャストの方と役についてお話されますか?
どちらかというと、積極的にする方だと思います。
――『レ・ミゼラブル』ではどういうことを話しますか?
バルジャンは、立ち位置がここに変わったよとかそういう話はしますけど、役のことを話し合うとかはしないかな。ジャベールもしないですね。皆さんとは他愛もない話が多いですね。
――『ジャージー・ボーイズ』『グランドホテル』など他の作品のWキャストの時もされなかったですか?
しなかったですね。『グランドホテル』ではREDチームで話しましたね。
――Wキャスト同士ではなく、仲間たちとされたんですね。
『レ・ミゼラブル』でも、ジャベールの場合はしないです。無視ですね。結構、ジャベールをやるときは、評判が悪いんですよ。
――カンパニーの中で?
そうです。「なんだ、アイツは」みたいな。
――作品や役によって違うんですね。
違います。居方を変えるので。
――意図的に?
意図的にですね。
――意図的に変えることによって、役作りや自分の思考が変わってくるんですか?
役が逃げてしまう感じがするんですよね。
――ストイックですね。
ストイックではなくて、不思議とそうなってしまう感じです。バルジャンをやって、翌日の昼にジャベールというスケジュールだと、なかなかスイッチが入らなかったんです。だからわざとその世界に入って、スイッチを切り替えるみたいなことをやっていましたね。
※吉原光夫さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは4月28日(金)です。(このプレゼント募集は終了しました)
2015年公演で吉原さんジャベールのカリスマ性にハマりました!二役をされる吉原さんならではの、役へのアプローチのお話がとても興味深かったです。