こまつ座「戦後”命”の三部作」の記念すべき第一作、『父と暮せば』が、新たなキャストを迎え、2018年6月5日(火)~17日(日)まで、東京六本木・俳優座劇場で上演されます。初演から演出に携わってこられた、鵜山仁さんに再演に向けてのお話をうかがいました。
――『父と暮せば』の初演は24年前だそうですね。それからずっと演出に携わられた作品ですが、今回で何回目になるのでしょうか?
ステージ数にすると五百回を越えているんですけど、「竹造」的には5組目です。「美津江」的には6組目。
――ステージ数にして500回以上、再演を繰り返してきた作品ですが、前回の公演まで演じられてきた辻萬長さんと栗田桃子さんから、山崎一さんと伊勢佳世さんにバトンタッチされます。ある意味既に完成している作品と思いますが、演者が変わると演出も変化をしたりということが過去にもありましたか?
そうですね、どんどん変わって。まぁ、毎日変わる感じですね。
――毎日変わる。
結局、なんて言うのかな、固定した何かがあるわけじゃなくてすべては「関係性」なので。井上ひさしさんの台本は一応固定してるんですけど、そこに纏わる音とか表情とかっていうのはどんどん変わるわけです。それがまた二人のやりとりってことになると、相乗効果で全然別な方向に変わっていく可能性もあるわけだから、以前とは、やはり全然違うんです。ただその動きの軌跡みたいなものを追っかけていくと、「行動線」っていうんですけど、役者がどう動いているかっていうことは、見た目はあんまり変わってないんでしょうけどね。ただ、その醸し出す空気感みたいなものは、全然違うと思っているんです。
――キャストの変更のときならずとも、同じキャスト同士の再演でも、日々変わるということなんですね。
そうですね。
――新キャストの山崎一さんと伊勢佳世さんは鵜山さんがお決めになられたのでしょうか?
キャスティングは関係者みんなと一緒に話をするので、まぁ、神様が決めた、みたいな(笑)。とにかくご本人たちが出てくれないと話にならないわけだし、一応セレクションみたいなことはして、スケジュールを確認して、こまつ座とも話合いをして決める。あんまり自分ひとりで決めてるという印象がないんですよね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「看板だけの反戦平和じゃなくて、反戦平和を具体化するために、何をやってますか?」っていったら、「『父と暮せば』やってます」だけじゃ済まない時代になってきている気がするんですよね、というお話も出てきたインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。5月31日掲載予定のインタビュー「下」では、違和感を招くことがあっても舞台で方言を使うことの意味や、「客観的事実」とフィンクションと「主観的事実」の関係などについて語ってくださったインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■第二次大戦、太平洋戦争を直接には知らない世代が、今度竹造を演ることになるのが大きい
■遺伝子が、どういう戦いの経験を継承しているか? そういうレベルで「フィクション」を
■原子力みたいなアンコントローラブルな力には依らない哲学を僕らが持てるのかどうか
■知らないなりに、どうすればエネルギーを「戦わない力」に振り向けられるのか?
<『父と暮せば』>
【東京公演】2018年6月5日(火)~6月17日(日) 俳優座劇場
※6月14日(木)2:00公演後 鵜山仁アフタートークショーあり。詳細はこまつ座(03-3862-5941)まで。
【山形公演】2018年6月21日(木) 川西町フレンドリープラザ
【仙台公演】2018年7月14日(土) 日立システムズホール仙台 シアターホール
<『父と暮せば』公式サイト>
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※鵜山仁さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは6月13日(水)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
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■第二次大戦、太平洋戦争を直接には知らない世代が、今度竹造を演ることになるのが大きい
――皆さんと相談しながらお決めになられたのですね。
そうです。なんかそういう「縁」なんだろう、っていう感じで。
――お2人に、そのご縁が結ばれるきっかけは何だったのでしょう?
何でしょうね。今回は、やっぱり竹造の場合は、戦後世代に変わるという、それが大きいですね。第二次大戦、太平洋戦争を直接には知らない世代が、今度竹造を演ることになるというのが大きいです。で、やっぱりそれは、現場では要するに、僕よりも更に年齢が下の山崎一さんが演じるっていう意味なんですけど、非体験世代が被曝体験をどうやってフレキシブルに受け止めるか?みたいなことで、山崎さんが演ってくれれば何か良い伝え方ができるんじゃないかという期待というか、カンなんですけど。そういうところで決まっていったのかなと。
伊勢さんの場合は、その前後に『マンザナ、わが町』(2015年)と、『紙屋町さくらホテル』(2016年)っていう共有体験があるし、そこで、やっぱり新しい世代の美津江像っていうのを期待したっていうことがあります。
■遺伝子が、どういう戦いの経験を継承しているか? そういうレベルで「フィクション」を
――直接戦争を知らない世代の竹造が生まれたというお話でしたが、戦後時間が経って、芝居を観る観客側の年齢層も変わっていったことも踏まえての代替わりと。
そうですね、どうしても自分の年代が、ある種、基準になっちゃうから。自分より上の方はある程度わかるんですけど、下の方とは、何がどういう風に伝わっていくのかなということについても、すごくあてどがないってところがある。まぁ、「芸能」というのは、直接経験のない事をどう伝えていくかっていうのが勘所だから、むしろこれからが正念場なんだと思うんです。 “フィクションとして、被爆を語る”っていうことが「どう舞台の上で成立するのか? 」という興味はすごくあります。
――戦争の記憶を伝える情報が、「昭和」の時代にくらべると、「平成」の現代では圧倒的に量が減ったと感じます。その情報が流れたとしても終戦記念日に集中していますね。
そうですよね。
――“フィクションとして被爆を語る”というお話がありましたが、戦後世代の山崎さん、伊勢さんが、竹造と美津江を演じる際に模索された「道」が、同じ戦後世代の観客にとっても、「道しるべ」になるのかもしれませんね。
そうですね。直接経験してるってことは、むしろ色んなバイアスも含んでるということなんで、だからもうちょっとその…、なんていうかな、深いところで、我々の「遺伝子」が、どういう戦いの経験を、どういう被爆体験を継承しているか?そういうレベルで「フィクション」を作って行かないと、おそらく伝わっていかない何事かがあるっていう感じがするんですよね。
■原子力みたいなアンコントローラブルな力には依らない哲学を僕らが持てるのかどうか
――若い世代にとっては1940年代は、戦後の昭和生まれ世代が幕末を連想するくらいの時代感覚、距離感なんだろうと思うことがあります。身近とは言い難いそんな時代を、どうリアルに伝えるのか? もちろん舞台ですから、ライブで、目の前で追体験、疑似体験するという強みはあると思いますが、それがどこまで観る側に響くか?ということですね。
僕らの遺伝子の中には、きっと何らかの形で「戦いの記憶」みたいなのが蓄積されている筈なので。それをより伝わりやすいものに仕立て直すということが、第二次大戦についても、本格的に求められる時代になったんじゃないかなと感じます。
――今、この2018年に『父と暮せば』を上演することの意味、でしょうか?
二十何年やっていると、多少経験の風化とか、それのまた再生とか、時代が変わってひと巡りして、ということを身近に体験してきている。「北の脅威」みたいなのがあると、たちまち世の中が、どうやって脅威を叩き潰すのか? という風に論調が行っちゃうこともよくわかった、だから今、どういう場合にでも、どんな時でも「武器をもって戦わない」っていう覚悟を、一人一人が固められるかってことが問われている時代になって来たんじゃないかと思います。
製作発表の時も言いましたけど、看板だけの反戦平和じゃだめなんですよ。反戦平和を具体化するために、何をやってますか?といわれて、『父と暮せば』やってますってだけじゃ済まない気がするんですよね。だから、原子力みたいなアンコントローラブルな力には依らないっていう、しっかりした哲学を僕らが持てるのかどうかが、今問題なんじゃないのかな。
そういう意味では、ある種の政治的なメッセージであると同時に、我々がこの時代の「生活感覚」を、どう作っていくかってことが問われる公演になるんじゃないかと思うんです。
■知らないなりに、どうすればエネルギーを「戦わない力」に振り向けられるのか?
――我々日本人に刻まれているであろう、「戦いの記憶」を呼び起こしたい、ということになりますか?
まぁ、それもありますし、そもそも芝居っていうのが考えてみると、二千五百年前くらいに、そのさらに何百年前のトロイ戦争っていうのを「芝居」にするところから始まったという歴史がありますよね。おおよそ、その「戦い」なんてものが孕んでいる多義性をどう受け入れるか、自分が生き延びるために人を犠牲にするとか、逆に、人のために自分を犠牲にするとか、そういう相反するエネルギーが拮抗している身体を持ってる訳ですからね、僕らは。
日本の戦いの記憶ばかりじゃなくて、およそ人類の戦いの記憶みたいなことを、どう呼び起こして、それを生き延びる力に転嫁するかっていうことですかね。それが直接的な経験から離れていればこそ、むしろそれを再生する、再生させる表現の力が問われるということじゃないですかね。
具体的な経験があれば、それに対する抵抗感も具体的にあるわけですけど、知らなければ知らないなりに、何をどうすれば、我々のエネルギーを「戦わない力」に振り向けられるのか? そこが問われるんだろうと思うわけです。
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