舞台は精神病院。えぐり出される権力、エゴ、人種の偏見、手に汗握る会話劇の傑作『BLUE/ORANGE』が、2019年3月29日(金)~4月28日(日)東京・DDD青山クロスシアターで上演されます。2010年の初演と配役を変更しての9年ぶりの上演。初演で第18回読売演劇大賞優秀男優賞をクリス役(および『春琴』の演技により)で受賞し、今作では若き研修医、ブルースを演じる成河さんにお話をうかがいました。
2010年の初演では、入院中の青年・クリス役を成河さんが、クリスの担当研修医・ブルース医師役を千葉哲也さんが、ブルースの上司のロバート医師役を中嶋しゅうさんが演じました。2019年の今回は、クリス役を章平さんが、ブルース医師役を成河さんが、ロバート医師役を千葉哲也さんが演じます。
――2010年以来の上演です。思い出深いものもおありなのでは?
ワーサルシアターでね(笑)。非常に思い出深いですね。当時僕は大学時代からやっていた劇団を辞めた直後くらいで、それまではわりと同世代の人たちと演劇を創っていたので、こうグッと年を重ねている方々との共演は新鮮でした。
――初演は中嶋しゅうさんがいらして。
中嶋しゅうさんと千葉哲也さん。この作品の前にも、いくつか大きな舞台に出させていただいて、いろんな年配の方々とご一緒したんですけど、僕は劇団以外では、TPT(「Theatre Project Tokyo」)での『Angels in America』(2004年・2007年)のAngels役であったり、どうもこう、飛び道具的に使われることが多かったので、これだけ密な会話劇を演ったのは初めてでした。なので、すごく覚えてます。衝撃でした。
――初演は15回公演。企画には中嶋しゅうさんのお名前がありました。
公演期間は短かったですよ、本当に。中嶋しゅうさんの呼びかけでね。企画、中嶋しゅうさんと、シーエイティプロデュースの江口プロデューサーとであたためていらっしゃったんです。しゅうさんには、いろんなご縁をつないでいただきました、出会わせていただきましたね。千葉さんとも、そこで初めてお会いしました。
――当時も千葉さんが演出されていらっしゃいますね。
本当は小規模で3人でフットワーク軽く「オレ等でやろうぜ!」みたいな感じで始まったんです、しゅうさんそういう人なんで。「みんなで見合いながらやろうぜ!」って始まったんですけど、本読みしながら(しゅうさんが)「お、やっぱりこれは千葉が演出した方がいいな!」みたいなことを、サラッと突然言い出して(笑)。
――しゅうさんの一言で!(笑)。
一言ですよ! 千葉さんはどっちかっていうと、本当に懐が広いので「しょうがないっスね」みたいな感じで引き受けて(笑)。いや、もちろん絶対に演出家は決めたほうが良かったと思うんですけども。
――なんと言うか、役柄の関係性そのままのような…(笑)。
本当ですね~(笑)。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「この物語、誰がマトモなの? 誰を信じていいの?」という感じの作品について、成河さんが今のSNSなどと比較しながら作品について語ってくださったお話など、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。3月24日(日)掲載予定のインタビュー「下」では、成河さんが『Take Me Out 2018』に出演した章平さんを観たことがきっかけになって再演の布陣が決まっていった経緯や、1月まで出演されていた『Thrill Me』などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
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■二十代後半の僕には、ブルースの葛藤に強く共感することはできなかった。今は分かります
■「正義の鉄槌」はSNSで誰でも下せる。それが自分の論理に固執して目的が変わっていく…
■「多様性が大事だ」って言ってみてますが…
■小川絵梨子さんの新訳は、目玉です
<舞台『BLUE/ORANGE』>
【東京公演】2019年3月29日(金)~4月28日(日) DDD青山クロスシアター
http://www.ddd-hall.com/
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
出演:成河、千葉哲也、章平
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- 2019年以前の有料会員登録のきっかけ 2020年8月18日
- 「この芝居ヤバイっしょ!」と声を大にして言いたい、舞台『BLUE/ORANGE』ルポ 2019年4月16日
- 「本質に立ち返るべき。参加型じゃない演劇って何?」、成河インタビュー(下) 2019年3月24日
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- 「俳優はプロデューサーと一緒に創りたい」『COLOR』成河・井川荃芬対談(上) 2022年9月4日
- 「ファンクラブに入っていたかも」『COLOR』浦井健治・小山ゆうな対談(下) 2022年9月2日
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■二十代後半の僕には、ブルースの葛藤に強く共感することはできなかった。今は分かります
――初演の台本を拝見しましたが、成河さん演じるブルースの上司にあたるロバート医師が食えないタイプに描かれているように思いますが、ブルースはどんな人物なのでしょうか。
そうですね。ブルースは非常に常識人であり、一見社会的にも一番真っ当に見えて、(クリストファーとロバート)どっちともつながっているような人物ではありますけどね。それが少しある時点で揺らいでいくというか、豹変していくというか。大きい役ですね。もちろん3人の群像劇なので、主役も何もないですけど。その中でもブルースはどっちかというと、お客さまとつながりながら、演じているような役割な気がしますね。
――たしかにそうですね。もうひとりのクリストファーは最初から突き抜けていますし。
「異物」として、ずっとありますね。
――ロバートは、医師としての知見と経験という実力を兼ね備えたちょっと上の存在で。
そうですね。非常に論理的で合理的ですし。
――成河さんは初演でクリストファーを経た上で、今回ブルースを演じることに関して、どうお感じになっていますか?
本当に今思えばですけど、あの頃まだ二十代後半の僕には、ブルースが持つような、こういう葛藤みたいなものに強く共感することは、できなかったと思います。今はすごく分かりますね。今はむしろクリスを演れって言われる方が困りますね(笑)。好きですけど、こういう役は。
――クリストファーは、本当に彼独自の頑強な世界感が必要な役と感じました。
そうですね! で、本当に純粋に純真無垢に、狂気にも、悪魔にも天使にも見えなきゃいけない、というところなので。
――とても目まぐるしいですね。そういえば台本を拝見したとき、場面場面で感じる世界がグルグル変わって、目を回して酔ったような読後感がありました。たとえるなら、取っ組み合いの喧嘩で上になったり下になったりしながら、ゴロゴロ転がっているような。
あ~!(笑)。マウントの取り合いですからね。
■「正義の鉄槌」はSNSで誰でも下せる。それが自分の論理に固執して目的が変わっていく…
――それで、「この物語、誰がマトモなの? 誰を信じていいの?」って。
いやー! 本当にそうですね、そういうお話です。でもなんかそれって、すごく僕たちの日常にもありふれた感覚で、僕たちみんな、自分で理性的に判断を下していると思ってますけど、ある立場と見方を変えると、全然まともだと思っていたものがひっくり返ったり。日常でもどこでも起きてることだと思うので。
――このお話ほどわかりやすく起きているわけではないですが、価値観がひっくり返るというのは、結構日常に転がっていると感じます。
そうだと思います。特に今、ブルースがそういう役回りなので。「正義の使者」であることに酔ってしまうというか、それで「目的」を見失うというか。今、SNSでみんな、なんというか…、「正義の鉄槌」を誰でも下せる時代でしょ? それ(意見)自体が悪い訳じゃなくて、それはすごく悪意を持ってやっているわけでもない。そんなこと誰もしないんですけど、目的が変わってしまうというか。それが実際に劇中でブルースに起こっていくので。“なにかのためにやっていたのに、自分の論理に固執するようになっていく”という。「誰でもあるよね?」っていうような光景を、お客さまが目の当たりにすると、実際の生活の中でも、きっとなにか役に立つんじゃないかな? って思うんですよ。
――たしかに、台本を読んで思ったのは、人は正しい行いをしたいという欲求を持っていて…。
そうですね。誰でもそう。
――でも、自分の思う正義を他人に押し付けたときに摩擦がおきる。目の前の人にとっての正義は、自分の信じる正義とは違う可能性があるから、というのを改めて感じました。
そうなんですよ。特になにに直面するかって、日本もイギリスも島国ですけど、やっぱり、ある程度ヨーロッパ圏の人たちの考え方って、ある多様性に基づいているじゃないですか。ある正義とか真っ当な社会性みたいなものが、本当の意味での多様性とか社会の悪意みたいなものに出会ったときに、完全に行き止まりになってしまう、ということだと思うんですよね、このお話は。
■「多様性が大事だ」って言ってみてますが…
――物語の中にはレイシズムも盛り込まれています。でも日本人にはちょっとそれが気付きにくい描写もあって。
そうですね、盛り込まれてます。日本は欧米ほど多人種社会ではないので気が付きにくい描写かもしれませけど、多様性という言葉は、もう今は全世界的なキーワードになっていると思います。誰もが多様性なんてあった方がいいと思いながら、その逆を行ってしまうんですね。人間そういうものだということなんですけど。
――自分とは異なる考え方、価値観を、まるっとそのまま“そういうものなんだ”と素直に受け入れられる度量があるかというと、これがなかなか…(笑)。
(笑)。そういう意味ではやっぱり、演劇のなにが素晴らしいかって、決して答えを出さないところなので。自分は「多様性を認められるし、多様性の中で生きていける」と信じているブルースが、その多様性に打ちのめされる! という光景を観るのは、とても刺激的なんじゃないのかなと思うし、現代的なんじゃないのかなと思うし。なにより、今の僕自身にとって、そういう体験はすごく大事だなと思いながらやっています(笑)。常日頃からね、自分で「多様性が大事だ」って言ってますけどね。「お前ホンットに分かってるか?!」っていう(笑)。
でもそれって、僕たちみんなが持っている部分で。そうではない「じゃあ、多様性ってどこまでなにを、みんなでどう考えていけるかな」っていう場に、劇場がなればいいんだと思うので。とても象徴的なお話です。
――そうですね。その意味ではいわゆるワンシュチュエーション、診察室という密室で展開する会話劇ではあるんですけど、ひるがえって本当に私たちの日常、世間で起きていることが凝縮されたお話ですね。
本当にそうですね。この作家さん(Joe Penhall)は本当にそういうことが巧いですよ。同じ作家の『いま、ここにある武器』(2016年)という作品がシアター風姿花伝で掛かりましたけど、あれなんか兵器のお話でしょ。で、これ(『BLUE/ORANGE』)は精神病の話でしょ。一見すごく専門的な話なのかなと思いきや、行われることがもう、あまりにもありふれた日常の会話で、核心の円周をズーッと歩くんですね。で、気がついたら、すごい議論に巻き込まれていた、というような。
――わかります。議論という名の蟻地獄に沈んでいくようなイメージがあります。
あぁ!そうそう。だから酔っちゃう感覚って、なんか僕も分かる気がします。さらに、最終的に多様性について、安易な答えを出さないということが、すごく誠実だと思います。
――答をひとつに絞ってしまった時点で、排除ということにも…。
だから、やっぱり3人とも確実に“要る”人物として立ち上げていくことになるでしょう。
■小川絵梨子さんの新訳は、目玉です
――初演に続いて千葉さんも成河さんもいらっしゃいますが、役が変わって、さらに翻訳も変えられますね。
そうです、小川絵梨子さんに新訳をしていただいて、これはもう目玉です。本当に翻訳ひとつで海外の戯曲はガラッと見え方が変わるので。だからもう別の作品だと思ってます。
――初演とはまた違う切り口の、新しい作品が生まれるのですね。
そうだと思います。なによりも、お客さまのガイド役になるようなブルースが、千葉さんが演ったときと僕が演るのでは年齢設定が全然変わってくるので。
――より台本の年齢に近くなりますね。クリストファーは明確に24歳とありましたが、ブルースは二十代と書かれていて。
近くなりますね。台本上も、そっちに戻すというか。(ブルースは)二十代という感じですね。で、千葉さんが演られたときは、ちょっとそれを変えて、なにかこう、ある年齢に差し掛かった医師の哀愁みたいなものを演られていたのですが、すごくそれはそれで素敵でした。
今、もうすごく目に浮かぶんですよ! 僕が演劇について多様性だなんだって偉そうに言ってるときに、千葉さんが「お前なにがわかってんだ?」みたいな(笑)。今度そうなるわけですよ! 僕なんかこのまんまだ、みたいな気もするし(笑)。ただね、僕たちくらいの世代の人間って、やっぱりそういうことを言わなきゃ駄目だし、言ってたたかれて「なにもわかってなかった」みたいな過程を過ごしたいなと思っているので。なんか、すごく千葉さんと、そういう役回りを演れるのは、僕はすごく楽しみです。
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは4月23日(火)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
人間性に訴えるお芝居は本当に成河さんの得意分野だなぁと思いながら毎週通っています(既に7回)。何度見ても気づきがあるし、飽きないし、お客さんを退屈させないコミカルだったりアクティブな演出の数々も魅力だと思います。深く考えながら見るもよし、日々のストレスの気晴らしに見るもよし、本当に素晴らしい舞台です。成河さんのお芝居を観るたびにお芝居の魅力にのめり込んでいます。
今週末…とうとう観に行くのですが
とても楽しみです。
回を重ねれば重ねるほど、見方も視点も変わりそうな演劇なので、いまからワクワクしております。
私はこの劇を見てどんな答えを出すのか…
記事を読んで、自分の中に問いかけるような作品なんだなと思いました。安楽にただ与えられたものを受動的に受け取るのではなく、どれだけ自分も作品の中に入っていけるか…楽しみです。
この記事を読みたくて登録しました。
面白そうな芝居ですが、一回ではよく分からないかも(複数回 チケット取ってますので)
たぶん観るごとに 色々感じ方が違うかも。
楽しみです。
自分の価値観や考え方が揺さぶられるかもしれない、とても刺激的な舞台のようですね。インタビューを読んでますます観劇が楽しみになりました。
成河さんの舞台は、1人芝居と、「スリル・ミー」を観ました。
役のふり幅が凄いと思います。「髑髏城の七人」のゲキ×シネと、「BLUE/ORANGE」
「エリザベート」「ジーザス・クライスト=スーパースター」をこれから観ます。楽しみです。
レイシズムや多様性……インタビューの内容からとても考えさせられました。小川さんの新訳もとても楽しみです。
普段成河さんが仰っていることと、BLUE/ORANGEの内容が重なる部分が多い作品なんだなというのがすごくよく分かるインタビュー記事でした。
正義や多様性についてのお話はとても興味深かったです。舞台(向こう側)の話ではなく自分にも大いに関係ある話だと思い、改めてBLUE/ORANGEの観劇が楽しみになりました。