ロンドンの精神病院での、ある24時間。1人の精神病患者と2人の医師で織り成される濃密な会話劇『BLUE/ORANGE』が、2019年3月29日(金)~4月28日(日)東京・DDD青山クロスシアターで上演されます。若き研修医、ブルースを演じる成河さんに、作品について、演劇を取り巻く状況についてお話をうかがいました。
――今作ではクリストファー役で章平さんが参加されます。
いやぁ、楽しみですよねー!(笑)。僕が一番楽しみかもしれない(笑)。いや、ホントに迷っていたんです。中嶋しゅうさんという方の人を集める力、企画力というものが優れていらっしゃったので。そこにおんぶにだっこで頼ってましたから。千葉さんも含めて三人で「いつかまた必ず再演しよう」っていう話をしていました。
――そのお話は、初演直後から?
もうずっとです。初演終わった瞬間から必ず演ろうと。でも、すぐじゃなくて、いろいろ挟みながらいつか演ろうねって。でも一昨年、しゅうさんが亡くなられてしまったので、ちょっと宙に浮いた状態になってしまって。最初はやっぱり、やるのならしゅうさんの役のロバートに、どなたか入っていただければって思ってたんですけど。だから、こうなるとは思っていなかったですよ。
――章平さんのご出演が決まったのは、つい最近のお話なのでしょうか?
去年『Take Me Out 2018』を観に行ったときに、そこで、章平くんに「この人スッゲー!」みたいに雷に打たれまして。そのときまで、本当にそれ(『BLUE/ORANGE』)が上演可能かどうかもわかってなかったし、どの役を演るとも決まっていなかったので、千葉さんのとこに行って「章平くん知ってますか?」みたいなことを言って、シーエイティプロデュースの江口さんと千葉さんと話したときに「こういう布陣だったらありかもね」となって、実際に上演が決まったんです。
――では、章平さんが見つかって、この配役になったのですね。それまではいろいろ模索されて。
そうです、そうです。どうなるかわからなかったです、本当に。もしかしたら、元々の役で演ったかもしれないですし、上演自体がなかった可能性もあります。
――今回に関して言えば、章平さんはある意味救世主ですね!
本当ですよ! 僕が演じるブルースの年齢が戯曲に戻ることも含めて。…戻るって言ってるけど、僕37歳ですけどね(笑)。(台本では)本当は二十代なので、千葉さんが演るよりは戻るでしょう(笑)。それと、(章平さんの)大柄でタフガイなビジュアルと、周りが物怖じしてしまうような存在感というのは、クリストファーには実はピッタリで、小柄な僕と真逆だったりするので。もちろん戯曲の解釈に正解はないから、なんでも自由ですけど、それがすごく戯曲のもともとの設定には合っていくのかなというのがありますね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、成河さんが演じるブルースの上司のロバート医師役を演じつつ演出も担当する千葉哲也さんの演出についてや、翻訳劇の言葉の選び方について、また、1月まで出演していた『Thrill Me』などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■(初演とは)本当に別のものになる。関係性で創る芝居。だからガラッと変わると思います
■向こうの文化を紹介するために演りたい訳じゃない。僕たちにとって大事で面白いお話
■『Thrill Me』は、早い者勝ちじゃなくて抽選で当日券を出していた。抽選は平等の王道
■『BLUE/ORANGE』、冷やかしに来てください。冷やかしで来る人が居なくなったら大変
<舞台『BLUE/ORANGE』>
【東京公演】2019年3月29日(金)~4月28日(日) DDD青山クロスシアター
http://www.ddd-hall.com/
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
出演:成河、千葉哲也、章平
<公式サイト>
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- 2019年以前の有料会員登録のきっかけ 2020年8月18日
- 「この芝居ヤバイっしょ!」と声を大にして言いたい、舞台『BLUE/ORANGE』ルポ 2019年4月16日
- 「本質に立ち返るべき。参加型じゃない演劇って何?」、成河インタビュー(下) 2019年3月24日
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- 「ファンクラブに入っていたかも」『COLOR』浦井健治・小山ゆうな対談(下) 2022年9月2日
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは4月23日(火)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
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■千葉さんは「戯曲の解釈がこうだからこうでなければならない」ということを絶対しない
――今見えている範囲で、初演との違いはありますか?
本当に別のものになると思います。なにより千葉さんが、関係性でお芝居を創られる方なので。千葉さんは「戯曲の解釈がこうだからこうでなければならない」ということを絶対しないんです。戯曲の解釈をねじ曲げてでも、生きた関係性を取る方なので、役者としては本当にそれはありがたいことですし、すごく大変な作業ですけどね。
――戯曲での通過点も着地点もあるわけですが、そこに演者のリアルな関係性で肉付けされていく。
関係性ですね、本当に。僕と章平くんでどうなるのか、僕と千葉さんでどうなるのか、千葉さんと章平くんでどうなるのか。だからガラッと変わると思いますよ。だから(初演を観ている方も)油断しないで欲しいです(笑)。あと、やっぱり時代も違いますから、もしかしたら9年経って、日本もそういう多様性を信じて、それに押しつぶされていくみたいなものって、よりリアルに感じられる社会になっていると思うので。
――日本人が9年前に多様性を意識していたかというと、いまよりは少なかったのかもしれません。
そう、もちろんいらっしゃったでしょうけども、これだけSNSも身近になって、オリンピックもあって、どうなるの? みたいなときに、排他主義になるのか、せめてなにか頑張ってみるのかといったときに、すごく有効で役に立つお話な筈なんですよ、絶対に。
――排他の方向にいってしまうと、必然的に視野も選択肢も狭くなってしまいますし…。
本当にそうですね。あるいは世界って、実はこのぐらい、この程度のものなのかもしれないけど、ということを1回キチッとみんなで認識するとかっていうことですね。すごく理想主義で夢見すぎて、それがひっくり返ることの方が怖かったりするので。こういうような本当の多様性の怖さとか、社会の悪意みたいなことをしっかり、みんなでしっかり胸に刻みながら、バランスをとっていくってことができたら良いんじゃないかな。
■向こうの文化を紹介するために演りたい訳じゃない。僕たちにとって大事で面白いお話
――そうですね。偏りすぎるとバランスを取ることが難しくなるので。常に「いまの価値観は、実はひっくり返るかもしれませんよ?」って思いながら。
本当ですよ。それがやっぱり、このロバートの立場とブルースの立場で、どちらにも肩入れできるように、どちらにも哀愁を感じられるように描かれているので、それがキチッと僕たちが出せれば、「あ、やっぱこっちだよね」っていうことにはならない、というか。
――誰かひとりだけに偏重しないように。
「分かる、わかるぞっ!」っていうようなものになると。
――台本を読むと、ブルースの言っていることは「うん、人としてそうだ」と感じる一方、ロバートが出てきて「無理だから。ベッド数が足りないから」って言われると「そうだよね、無理だよね」となるし(笑)。さらに最後までいくと、精神を病んでいるクリストファーが、実は一番世の真理を見極めている…? みたいな。
そうですね。本当に(笑)。クリストファーが鍵を握っているので、そこは。そう思わせるような仕掛けがいっぱいありますね。そういう風にお客さまに見える瞬間があると思いますよ。本当に楽しくものを考えられる場所なんだと思うので。なによりのエンターテインメントだと僕は思うんですけどね。いや、メチャクチャ笑えますよ、これ! ちゃんとやるとね、Joe Penhallさんの台本は、本当によく書けているので、とても笑いに満ちたお芝居になると思います。
――翻訳劇なので、原語の場所で演ってこそ、笑えるニュアンスも盛り込まれていると思いますが、翻訳では日本人の笑いが誘えるような工夫もされるのでしょうか。
ある社会的な問題で発言して笑いが起こるというようなことは難しいでしょうけど、でもそれって言葉だけの話じゃなくて、演者の関係性で笑えたりすることもたくさんあったりするので、そういうときに極力邪魔にならない翻訳を選ぶことを(小川)絵梨子さんは選択なさるでしょうし、どうしても戯曲にある、この社会的な単語を入れていかなきゃいけない、とかということにはこだわらない思うので。むしろ生きた上演台本をあげてくれるんじゃないのかなっていう期待がすごくあります。本当にこういう翻訳劇って、向こうの文化を紹介するために演りたい訳じゃないので、すごく扱いが難しいです。
――向こうの文化を紹介するために演るわけじゃなく、あくまでも、今この2019年の日本で演るんだよ、というのがメインで。
そうですね、私たちの問題、私たちのお話っていうのは、大前提に据えられたらいいなと。それはもう、千葉さんも間違いなく思われていると思うので。僕たちにとって、大事で役に立つ面白いお話。僕たち誰にとっても、日本に暮らす誰にとっても、であると思います。
■『Thrill Me』は、早い者勝ちじゃなくて抽選で当日券を出していた。抽選は平等の王道
――1月までご出演されていた『Thrill Me』は大好評でした。
すごくホリプロさんも熱意を持って努力されたと思いますし、観客のすそ野を広げるために、抽選で当日券を出したり。早い者勝ちじゃなくて、抽選。これはもう平等の王道としてですね。でもその当日券に、公演の千穐楽に近づくにつれて150人、200人と並んでくださるとてもありがたい現象が起こる。でも一方で、150人、200人群がっている場所に、たとえ抽選とはいえ、(通りすがりの)道歩いている人が「俺も行ってみよう」とは、思わないですよね。
――逆にこう、状況のすさまじさに腰が引けてしまうかもしれません。
でも人間そういうものなので。どうやってすそ野を広げて、いろんな人に観てもらう機会を作るかというのは…。
――『BLUE/ORANGE』もそうですが、『Thrill Me』も、小劇場でこそ観たいお芝居なので、箱を大きくするというのも…。
やっぱりロングランにはこだわるべきですよね。最低でも1ヵ月、それだけでも興行として成立させるのはとても難しいですし、こういう場所での1ヵ月って、現状だと料金がこういうことになってしまうんですけど。それでもやっぱり多くやらないと、もったいないなというのはあります。本当はね、2ヵ月、3ヵ月とかっていうのを基本にできれば。
――プレビューも、もうすこし長くできるといいですね。
ねー。やっぱり劇場が主体となって演劇を創るようになったら、そういうことが可能なんでしょうけどね。いま、ちょっとずつちょっとずつ変わろうとしているので、妨げないようにはと思っていますけど。
――『Thrill Me』に参加されて、今、成河さんの心に残っている、作品から得られたものはなんでしょう?
興行の打ち方を無視して俳優はできないと思ってるというか、僕自身がやっぱりそういう性質(たち)なので。どうやって、いま、演劇を応援してくれている人たちと一緒になって、演劇の文化を耕して行けるのかということですね。
――演劇を応援してくれている人たちというのは、演劇関係者ではなく?
お客さまですね。演劇を応援してくださっているお客さまと一緒になって、その人たちの力を借りて、みんなで演劇の文化をちょっとずつ耕して行くにはどうしたらいいのか、という問題意識が、『Thrill Me』を通してとてもクリアになりました。何故かというと、本当にお客さまの熱意であったりとか、なにか能動的な意志を感じたので。日本で本当にお芝居が大切で応援してきて、これからも応援しようとしてくださっている演劇ファンの方たちの熱意というものに、すごく刺激を受けたので、この人たちと一緒に、どうやって演劇文化を耕していけるかですね、これから二十年後、三十年後。
――今までエンターテインメントを催す側というのは、お客さまに対して、与える一方向だったものを、お客さまも巻き込んでしまって、双方向に、一緒にという風に?
ねぇもう、ホントそういう(一方的に与える)時代じゃないですよね。そういう、本当に演劇の本質に立ち返るべき時なんだろうと思うので。参加型、参加型っていうことをよくウリにしますけど、参加型じゃない演劇ってなんなの? ということの議論なので。
――ある作品の初日に、その作品の演出家さんから「お客さまが入って、それでやっとお芝居が完成するんです」という印象的な言葉をうかがったことがあります。
やっぱり僕でさえ(お芝居の)半分はお客さまが創ると思いますから、お客さまがもっと能動的であって欲しいし、口を出して良いんですよ。やっぱり日本人ってとても良い意味で謙虚ですし、飛び出たことをしないんですけど、演劇文化のために、もっともっと全然お客さまが口を出して良くて。演劇だけに限らずですけどね。もっといろんな口を出して良いし、いろんな有り余った力をぶつけてくれて構わないと思うんですよね。
――たとえば、それが個人的な「こんなのを、このぐらいの値段で観たいのよ!」みたいなものでも?
もちろん、もちろん。もちろんそうですよ。それでいいんだと思います。逆に「こんなのヤメて!」とかね。(興行側に)振り回される必要はなくて。やっぱり演劇を創るのはお客さまだと思うので。お客さまが観たいものを興行側は考える訳で。観たいものを、ドンドンドンドン発信していったら良いんですよね。
■『BLUE/ORANGE』、冷やかしに来てください。冷やかしで来る人が居なくなったら大変
――最後に『BLUE/ORANGE』をご覧になるお客さまへのメッセージをお願いします。
いろいろストーリーを読むと、精神病の話で、すごいなんか真面目でシリアスな、難しい専門用語のお話かなと思われるかもしれないんですけど。…みなさん最近はアメリカドラマとか、すごい見慣れているじゃないですか。それで、これ実は意外と演劇的な飛躍とかが無いお芝居なんです。急に歌い出したり、急に照明が変わって別の場所になったりとかってことがまったく起こらないので、演劇を見慣れない人でも、アメリカのドラマとか好きな人絶対好きですよ!(笑)。っていうか、逆にスッゲーわかると思います。
――意外に取っつきやすいお芝居ということですね。
メチャクチャ取っつきやすいと思います。もっと難解で複雑なアメリカのドラマ、一杯あるでしょ(笑)。それみんなすごい好きで観てるでしょ。「よくこんなややこしい話みんな見てるな!」とか、次々と登場人物変わるわ、出てきた次の週には死んじゃうわ、主人公変わるわ、みたいな、よっぽどややこしいでしょ(笑)。でもそういう複雑さを楽しめるような目は養われてきているので、だから演劇的な飛躍が少ない分、間口が実はすごく広い作品なんです。なので、そういうものを観るつもりで、ちょっと冷やかしに是非来てほしいなと。
――冷やかしですか!?(笑)。
冷やかしに来て良いんですよ! お芝居なんだから(笑)。 たしかに冷やかせない金額なんだけど、そこはちょっと、ゆっくりみんなで考えて行きましょうよ! だけど、基本的には冷やかしで来て良いんですよ。冷やかしで来る人が居なくなったら大変なことになると思うので、冷やかしに来てください。で、ドレスコードもないですし、僕ら精神科の先生たちも、みんな平服でお迎えするので。初演は、まだしも白衣とか着てたんですけど、もういまそういう時代じゃないですからね。精神科医の現状としてもね。なので、平服でお越しください(笑)。
――ありがとうございました!
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは4月23日(火)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
BLUE/ORANGE観ました。
3人の台詞の応酬が凄かったです。
濃密でスリリングな時間でした!
それぞれの関係性や真実に色々と考えを巡らせて、どっと疲れたけれど心地いい疲れです。なんか凄い演劇観たなー!という充実感を味わえました。
観てから記事を改めて読み返すと腑に落ちることがたくさんありました。
とても読み応えのある記事でした。新翻訳について言及されていますが、言語と文化は切り離せないと常々思っているので、そのあたりがどう扱われ上演されるのかとても楽しみです。成河さんのお写真がとても素敵でした。