「虐待から救ってくれたら、その人が犯罪者でも恩人」、谷田歩インタビュー(下)

谷田歩さん=撮影・NORI

アルベール・カミュ“不条理三部作”のひとつ『カリギュラ』。菅田将暉さんの主演で、2019年11月9日(土)より開幕します。カリギュラの忠臣、エリコン役の谷田歩さんのインタビュー後半です。役の心情について、お話いただきました。

谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

――お稽古は、立ち稽古に入られたところですか?

1週間ぐらい経ちました。

――立ち稽古になっていかがですか?

面白いです! もしかしたらつまんないかもと思ったんですよ、僕。『カリギュラ』(2007年)を、映像で観ましたけど、難しい作品だから意味が分からないんですよね。絵的にきらびやかなものを見せようとしたんだなというのは印象に残りましたけど、でも、こんな大事なテーマが、人間としてのテーマが入っている作品だとは、そのときは気が付きませんでした。だから今回、脚本を読んでも分からなかったし、みんなで本読みして、稽古して、栗山さんのアドバイスを聞いて、やっとなんか最近になって「これ面白いかも」って思えてきて俄然、燃えてきましたね。

――その面白さとは?

さっきもちょっと言いましたけど、やっぱりカリギュラの愛の形ですよね。それについて行く僕のエリコンとか、秋山さんのセゾニアとか。それに対抗している、間違ってるって言う橋本くんのケレアとか。真宙のシピオンなんかは、自分の父親を殺されているにも関わらず、カリギュラのことが好きなのか、嫌いなのか。殺せるのか、殺せないのか。なんかそういうところが、ものすごいスリリングで、見ていて危ういですよ。

――突然豹変してしまったカリギュラに対するエリコンの忠誠心の源は、なんなのでしょう?

いや、だって自分が子供の頃に、例えば実の両親からすごい虐待されてる時に、自分の担任の先生だったりが救ってくれたりしたら、その担任の先生が、もし犯罪者であっても、自分にとっては一生恩人じゃないですか。そんな感じだと思いますよ。

――今語っていただいたような、エリコンの心情に関しては、作品中で触れられているのでしょうか?

触れられてますね、ちょっと。

――カリギュラが彼を救い出した。

救い出してくれたんじゃないですか。だからもうエリコンなんて、極限に“「美徳の調べ」を鞭の下で踊った” っていうぐらいだから。美徳というものを知ったのは、自分が鞭で打たれながら「これが人生」っていう人だったから。例えばもう、救いがあった「ジョーカー」(『ジョーカー』2019年 Warner Bros.)みたいな感じですよね。かっこつけすぎですけどね(笑)。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、「普通の状態で観ないほうがいいと思います」などのお話が出たインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■普通に考えて、自分の父親を殺されたとしたら、殺した奴は憎いじゃないですか。でも…

■普通の状態で観ないほうがいいと思います

■共感はできないかなあ…。「俺は違うけど、気持ちは分かる」みたいな感じです

■とにかく菅田君のカリギュラがすごい。役が本当に合ってるんですよ、容姿と、言葉と

<『カリギュラ』>
【東京公演】2019年11月9日(土)~11月24日(日) 新国立劇場 中劇場
【福岡公演】2019年11月29日(金)~12月1日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【兵庫公演】2019年12月5日(木)~12月8日(日) 神戸国際会館こくさいホール
【宮城公演】2019年12月13日(金)~12月15日(日) 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール

特設サイト
https://caligula.jp/

<関連リンク>
『カリギュラ』公式 HP
https://horipro-stage.jp/stage/caligula2019/
J.CLIP
http://www.j-clip.co.jp/actor/tanida-ayumi/
谷田歩 Twitter
https://twitter.com/tani3rd

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谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

※ここから有料会員限定部分です。

■普通に考えて、自分の父親を殺されたとしたら、殺した奴は憎いじゃないですか。でも…

――では、今は暴君となったカリギュラの周りに残っているシピオンやセゾニアも、それぞれに理由があって。

うん。そうですね、きっと。多分ケレアなんて、つまんない奴なんですよ。まっとうなことしか言わないから。でも、ケレアは重要な役職にいる人で、その人なりの筋が1本通っているから本当はかっこいいんですよ。カリギュラも筋は通っているんですけど、その筋の通り方が、なんかちょっと、人とは違う筋なんですよね。斜めからざくざく入ってくるみたいな。

――カリギュラは人とは違う…。「カリギュラは独裁者かそれとも革命者か…」というフライヤーのキャッチを連想したのですが、独裁者はわかるけど、革命者? と思ったんです。

僕も思いました。何でしょう、これ。革命者…。

――革命って、古いものを打ち破って刷新する、従来の概念をひっくり返す、みたいなイメージがあるんですが…。

なんかね、1個1個の言葉が深いんです。それはお客さまが想像してくれればいいなと思うんですけど、例えば、普通に考えて自分の父親を殺されたとしたら、殺した奴は憎いじゃないですか。でも、カリギュラにとっては、良かれと思って殺してるんですよね。そういうのとか、なんかアートなんですよ。あと僕は息子がいるんですけど、もし息子を殺されたら、なにがなんでも殺した奴に復讐します。でも、それにも、カリギュラの中になにかの理屈というか美徳があるんですよね。だから、一生懸命それを考えるんだけど、でももしカリギュラが自分の息子を殺したとして、そのまっとうな理由を付けようとしたら、なんだろう、例えば…「そんなにお前が息子のことを愛してるんだったら、息子を神にしてやる」っていう理由で殺したのかな、とか。でも「それだったら、いいです」って言えるような人も、中にはいたんじゃないですか、っていう。すごい世界ですよ。近親相姦もあるし。

谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

普通の状態で観ないほうがいいと思います

――そうですね。

だから、普通の状態で観ないほうがいいと思います、これ。なんかちょっと、ぶっ飛んだ状態…そういう状態で観たら、「あっ!」と思うかもしれないですね(笑)。

――お仕事モードで理性ガチガチ状態よりは、意識がふわふわした状態で、といいますか。

だから、台詞を追うことはしないで、パッと起こった事象について「は~っ…」と思って観たら、面白い芝居なんじゃないかなって思いますね。

――ある意味斬新な、芝居の楽しみ方としてはとても贅沢なことかもしれません。

『カリギュラ』がもう斬新なんですよ。カミュの『カリギュラ』が。

――アルベール・カミュの作品は、「不条理」と形容されますが、演じられていかがですか?

そうですね、ずっと…僕みたいな一般人からしたら、ずっと不条理なんで。ずっと面白いですよ。なんか、ニヤッてするところがいっぱいあります。

――ニヤッとするところ。

芝居でも、台詞でも、全体のストーリーでも。なんかニヤッてできますよ。ファニーだったり、ちょっとエロだったり、ギャグだったり。いろんなニヤリですよ。

――ある種、かなり独特の世界観なんですね。

そうですね。

谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

■共感はできないかなあ…。「俺は違うけど、気持ちは分かる」みたいな感じです

――でも、共感するところもあったり?

う~ん…共感はできないかなあ…。「俺は違うけど、気持ちは分かる」みたいな感じです。

――「自分はやらないけど、でもそういう考えになる気持ちも分からなくはない」みたいな。

だから今回、この作品に出会ってすごいよかったなと思うのは、よく犯罪者って、精神鑑定とかかけられるじゃないですか。精神鑑定ってなんだろうなって思うんです。だって、人を殺す時の精神なんて、尋常じゃなくて、だから全員精神鑑定かけたら、絶対引っかかりますよね。本物のサイコパス見つける鑑定じゃないな、と思いますけどね。

――カリギュラはサイコパスですか?

…だと思いますよ。だって “愛のために殺す” んだもの。だからカリギュラこそ、そういう精神鑑定に引っかからないと思いますね。正しいと思ってますもん。快楽のために、とかじゃないし、憎いから、でもないし。だからといって、好きだから、とかでもないのかもしれない。相手のためを思ってやってるんですよ。「お前のために」って。

――そこですね!

そうなんですよ。だからよく分かんないですよ。よく分かんないけど、でも面白い。「詩」だと思って観るのが、一番いいと思いますよ。

――力を抜いて、色々考え過ぎずに。

言葉とかを分かりたいんだったら、前勉強とかしてもいいと思いますけど。でもそれもなくてもいいと思いますよ。

谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

■とにかく菅田君のカリギュラがすごい。役が本当に合ってるんですよ、容姿と、言葉と

――まっさらな状態で。

いや、もうとにかく、菅田君のカリギュラがすごいんで!合ってるんで! だから彼は「みんなに合ってるって言われるんですよ」って言うから、もう言うの止めたんですけど。でもすごく “カリギュラ” ですよ、うん。

――昨年出演された『マクガワン・トリロジー』も、谷田さんの演じる役の身近に、何人もの人の命を奪う人間が居るという設定でしたが、事象だけみると同じ「殺人」でも、お話を伺うと意味合いが全然違いますね。

そうですね。マクガワンとは違います。アイツは自分が殺していくことによって、自分自身が壊れていくから。カリギュラは壊れないので、「殺す」っていうことは、カリギュラにとって「愛」なので。

――そうですね。

マクガワンにとっての殺しは「快楽」でしょう、きっと。「快楽」とか、「ムカつく」とかいうことだけで殺しちゃうけど、でも「なにも感じない」っていう。でも感じてきちゃったじゃないですか。

――そうですね。だんだんと…。

だんだん自分が傷つくことによってね。傷ついちゃって弱くなって、“自分が間違っていたんじゃないか?” と疑問を抱くじゃないですか。

――でもカリギュラはそういうコースを一切辿らない。

ないですね。なんなら殺されてもいいからと思っている。

――ケレアの暗殺計画が露見しても。

そうです。ていうか、こんなことやったら誰か殺すでしょう、ってことはわかった上で。

――わかった上でやってるんですね。

『トロイ戦争は起こらない』じゃないけど、どこかの国の代表がどこかの国の代表と喧嘩をして、戦争するじゃないですか。その戦争で何人死んでんだよ、って話ですよね。カリギュラが言うんですが、「今日から “ペスト” になる」って。国内だけで、そういう殺人が行われている人数と、戦争で死ぬ人数とどっちが多いと思う? って。それをしていないだけ、俺って暴君じゃないよね、良い王様だよね、って。その通りじゃないですか、多分。そういうことだと思いますよ。

――深い…。見えているもの以上の奥行きが感じられると言いますか。

ね、深い闇があるんですよ。だから菅田くん演じるカリギュラの闇から目が離せないですよ。

――それでは最後に、作品をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

さっきも言いましたけど、前勉強とかなしに、ほんとに楽な気持ちで、でも日常とはちょっとかけ離れてるものを観るんだよ、っていう覚悟はして観に来て欲しいですね。

――ありがとうございました!

谷田歩さん=撮影・NORI

谷田歩さん=撮影・NORI

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“「虐待から救ってくれたら、その人が犯罪者でも恩人」、谷田歩インタビュー(下)” への 1 件のフィードバック

  1. coo より:

    谷田さんのインタビューを掲載してくださりありがとうございます。
    カリギュラ に真直ぐすぎるほどの忠誠を誓うエリコンを演じる谷田さん。カリギュラについて「優しいんですよ。」と語る言葉にはエリコンを通した主君カリギュラへの愛を感じました。インタビュー(上)(下)通して語られた「愛」というワード。一見この戯曲のイメージからは想像がつかないワードですが、実際舞台を観劇して、まさにそこに心を動かされました。

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