2020年10月15日(木)から11月1日(日)に博品館劇場で上演されるミュージカル『アルジャーノンに花束を』に、アリス・キリアン役で出演する水夏希さんにインタビューしました。上、下に分けてお届けします。ミュージカル『アルジャーノンに花束を』は、ダニエル・キイス原作の同名小説を、脚本・作詞・演出を荻田浩一さん、音楽を斉藤恒芳さんが手掛けた日本発のミュージカルで、2006年の初演から何度も上演されています。前回上演された2017年は、キャストを一新し、水さんも初出演しました。32歳になっても幼児なみの知能しかないパン屋の店員チャーリィ・ゴードン(矢田悠祐さん)は、大学の研究チームの手術により天才になります。その研究者のひとりで、チャーリィに寄り添う女性が、水さんが演じるアリス・キリアンです。前回の公演を経て、再演ではどんな風に演じていきたいかなどについて伺いました。
――水さんは、2017年の『アルジャーノンに花束を』に出演されて、アニス・キリアン役を演じました。前回の公演を終えてどんな印象が残っていますか?
『アルジャーノンに花束を』の物語は知っていましたが、正直そんなに好きな世界ではなかったのですが、作品に関わってみてすごく好きになりましたし、矢田君の変貌ぶりが素晴らしくて、前回の稽古初日の本読みの時には「大丈夫かな」と思ったくらい本当に新進の若手だったのが、初日までの間にものすごい変貌をとげ、さらに初日から千秋楽までに、どんどん変わっていったので、本当にチャーリィに重なるようなところがありました。彼にとっては初主役で、当時27歳でしたが、私も初主役が27歳で周りの方たちにとても助けられたので「主役の身の回りの世話は全部私がやります!」みたいな勢いで(笑)、チャーリィの世話を焼いていました。とても印象深い作品になっていて、再演させていただいけるのは、いろんな意味ですごくありがたいです。
――作品の内容としては、どういう風に思いましたか?
いろんな風にとらえる方がいらっしゃって、「あんな悲しい物語はない」とか、逆に「すごく感動した」、「大好き」という方もいらっしゃるので、人それぞれなんですよね。アリスの目線からみると、最後にチャーリィが「また賢くなりたい、楽しかった気がする」と言ってくれる。もちろん、その時はチャーリィの知能が元に戻っていますから、本当にそう思っているかどうかは分からないんですが、そういう言葉を残してくれたことに、温かみを覚えて、自分の人生の中で一番大事な時期を過ごしたことを感謝すると共に、自分に問いかけるような。何がよくていけないのか、何が善意で悪意か、慮る、忖度など、いろんなことを改めて問いかけてくる、とても印象深い作品だなと思います。
――今回、改めてこの作品を観てもらうにあたって、どういう面を見て欲しいと思いますか?
今、まだまだ続くこのコロナ禍の中で、現実から目を逸らして、明るく楽しく気楽に、(苦しいことは)スルーして生きたいという方も、たくさんいらっしゃると思います。私も「スルーしよう、これは大変なことじゃない、乗り越えよう」と思いながらも、どこかに鬱憤を晴らせない、発散できないものを抱えていて、楽しく毎日過ごしている中でも、時々ふっと「これっていつまでなんだろう」とか「こんなことしてていいのかな」とか、そういう思いに陥る時もあったんですが、そういう自分が普段フォーカスしていないような、埋もれてしまっている気分を、泣いて浄化させるということの手助けにはなるのかな、と思います。私たちはみんなチャーリィを中心に、周りでチャーリィを見守って、2時間過ごしているので、チャーリィが最後に知能の頂点から急降下していく時間たるや、悲しくてしょうがないんですよね。ただ悲しいのではなく、自分たちのせいでこんなことになってしまった。人の人生をもてあそぶではありませんけど、利用して自分たちの実験を優先させた、というような罪悪感や葛藤。後半は色んなものが渦巻きますが、最後はそういうものをチャーリィが全部笑顔でさらっていってくれますので、温かいというかすっきりと浄化できる作品になればいいなと思います。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、前回公演の際に障がい者施設を見学しその後も施設を訪問するなどする中で学んできたことや、今回の公演で加わった新曲などについて伺ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。10月13日(月)掲載予定のインタビュー「下」では、水夏希さんがこの作品で演じるアリスという女性についてのほか、コロナによる自粛期間からこれまでについて、2020年11月に出演するタンゴの公演などについても伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■前回公演の時に障がい者施設を見学。私はその後、何回かその施設に行って…
■てんてこ舞い。私が大山(真志)君の役をやって「私、大山です!」みたいな(笑)
■私とフェイ(青野紗穂さん)が歌う新曲が2曲。新メンバーも3人入って新しい風が
■台詞でそう見えるのではなく、芝居の流れからお客様が自然に入り込んでいけるように
<ミュージカル『アルジャーノンに花束を』>
【東京公演】2020年10月15日(木)~11月1日(日) 博品館劇場
公式サイト
https://music-g-h.com/stage/algernon/
<関連リンク>
水夏希オフィシャルサイト
http://aqua2013.co.jp
水夏希オフィシャルFC AQUA STAFFのブログ
https://ameblo.jp/aquastaff2013/
水夏希オフィシャルFC AQUA Twitter
https://twitter.com/aquastaff2013
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※ここから有料会員限定部分です。
■前回公演の時に障がい者施設を見学。私はその後、何回かその施設に行って…
――人の考えることや行動によって、いろんなことが起こっていく、その要素が凝縮されている物語だと思いますが、チャーリィの成長と退化という意味でも、人生がすごく凝縮された時間だと思います。その中で、今までになかった思考とか、「この考え方が面白いな」とか、今までに触れたことのない世界などはありましたか?
そうですね……。「善意の質」というのは考えるようになりました。私も作品をやっていて、チャーリィが可愛いと思うのを上から目線で哀れんでいるとか、かわいそうだなと思っている部分があるからなのか、純粋に対等に立って親切に手助けしてあげたいと思うのか。健常者の障がい者に対する距離感みたいなものは、すごく考えさせられます。前回の公演の時に、港区の障がい者施設に見学に行ったんです。施設の方に案内してもらって、少し一緒に作業したりもしました。子供の頃に、学校に障がい者の方のクラスがあったので、慣れていなくはないつもりだったんですが、実際大人になって、面と向かう時に、話したり、何か手伝うにしても、「何か不快な部分に触れてしまって、すごく傷つけてしまったら、どうしよう」と不安になってしまったのが、すごく印象的でした。人に対する思いやりが、本当に思いやりなのか、自分のエゴでやっているのか、そういうことをすごく考えました。
――矢田さんとは、そういうことについて話しましたか?
そういえば、その時にどう思ったのかは話していないですね。私はその後、何回かその施設に行ったりしていて、今後も交流を続けられたらいいなと思っているんですが、コロナでイベントもできなくなってしまって。でも、まだ彼らと連絡は取り合っています。そういうところで、仕事として「助けてあげたい」とか「自分ができることを」と思っているスタッフの方と接することによって、役作りにもすごく役に立つな、と思います。
――その後もつながっているのは、すごいですね。それまでの生活になかったことが加わったんですものね。
そうですね。今のこのコロナ禍の間も、ずっと、職員の皆さんが、毎日彼らと会って、接して、一緒に仕事をしてらっしゃるんだなと思うと、自分の目先の問題にとらわれない、別の視野を持つ手助けにはなります。
――最初に感じた「不安」という気持ちは、どういう風に展開していきましたか。
その後3回くらい行ったのかな。新しく入った方や、今日は来ていないという方もいらっしゃったんですが、最初の時もいらした方が何人もいらしていたから、「この人はこういう表現をする人なんだ」ということが分かってきたら不安ではなくなりました。「分からない」ということが不安なのかなと思いますよね。
■てんてこ舞い。私が大山(真志)君の役をやって「私、大山です!」みたいな(笑)
――そういう体験を経て、アリスという役が見えてきたとか、違うものが見えたり、ということはありますか?
やはり描かれていない部分がたくさんありますので、そこを埋めるのには、とても役に立ちます。今回は、再演ということで、全体の流れも分かっていますし、シーンとして、ここはこの段階だとか、チャーリィとの関係が、みたいなことも分かっていますから。私は台詞もそんなに多くありませんので、やらなければならない基本的な覚えることに対しては、そんなに負担がありません。だから、他のことに意識を向けられることは、再演の良さだと思います。もう3年前ですが、ざっと稽古すれば思い出しました。矢田君は台詞がとても多いですが、「結構覚えていました」と言っていました。当時、オギちゃん(荻田浩一さん)と、歌唱指導の福井小百合ちゃんに、めちゃくちゃ絞られていたから、染み込んでいるんです(笑)。そういう意味では本当に、それ以外の細かいことに、初演で初役でやる時よりも、いろんなことに神経を配ることができます。でも、まだ稽古にキャストが全員そろっていないんです。
――まだ別の公演の本番中の方もいますものね。
もうてんてこ舞いで(笑)。代役と代役と代役、みたいになって、「あなた、誰!?」って。私が大山(真志)君の役をやったりして、「私、大山です!」みたいな(笑)。まだ作品に入り込むという段階ではないんですが、早く芝居の稽古をしたいなと思っています。
■私とフェイ(青野紗穂さん)が歌う新曲が2曲。新メンバーも3人入って新しい風が
――改めて取り組む、次のステップとして、何か今考えていることなどは?
音楽もすごく難しいですし、前回はこの世界観を調べたりするのにてんてこ舞いだったんです。表面的なところをさらっとつないだだけでしたので、その一個一個を人間らしくリアリティを持って深めていきたい思いはすごくあります。この3年間でいろんな作品に出演して、いろんなアプローチの仕方も経験してきました。その上で、こういう繊細な作品に出会い、その経験を生かせたらいいなと思います。
――「音楽が難しい」とおっしゃっていましたが、いい曲ですよね。
でも、めちゃくちゃ難しいんです(笑)。去年、『カリソメノカタビラ~奇説デオン・ド・ボーモン~』で、同じ作曲家の斉藤さんとご一緒したのですが、「もうあんな曲書けない。若かったからなぁ」とおっしゃっていて。でも、新曲が2曲あるんですよ。
――そうなんですか!? 誰が歌う曲ですか?
私とフェイ(青野紗穂)が歌う曲です。4回目にしてリニューアルというかマイナーチェンジがあるんです。それと、前回は天王洲 銀河劇場で、今回は銀座 博品館劇場なので、劇場のサイズが全然違いますし、装置も全く変わります。そういう意味で、オギちゃんがステージングしていても、「やっぱりここはこうなるんだな」という部分と、全然違うステージングになっていたりもします。メンバーも4人、新しく入っていますし、よく知っている物語ですが、新しい風が吹いているなと思います。
■台詞でそう見えるのではなく、芝居の流れからお客様が自然に入り込んでいけるように
――特に、突きつめたい部分はありますか?
チャーリィとの関係性ですよね。研究者と被験者というドライな関係性から、彼が私に対してすごくのめり込んでくることを、どこまで自分が受け止めて、どこまで足を踏み入れて、どこからまた遠ざけて、ドライな関係に戻っていって、最後はどういう結末で、私はチャーリィとの人生を終えるのか。その過程を丁寧に演じたいです。台詞の中に、物語の展開が「つじつま合わせで不自然だよ」という台詞があるんですが、そうならないように、「あり得るな」となるように作り上げたい。やはり、リアリティですよね。台詞でそう見えるのではなくて、芝居の流れの中からお客様が自然に入り込んでいけるようなシーンができたら、と思っています。
※水夏希さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは11月12日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
作品に、仕事に、そして人と関わることに、まっすぐに誠実に向き合う姿。
インタビューから垣間見る水さんの人柄がとても素敵だなと思います。
善意の質という言葉に、私もはっと気づかされました。良かれと思ったことも、相手を傷つけてしますことがある。相手の立場や、いろんな角度から考えることってとても大切ですよね。
水さんのアリスキニアン先生。
前回も拝見しましたが、素晴らしかったので、今回も楽しみにしています。